19話 祝福
「おお!! 村長! みんな!」
「ば、バウルさん……わ、私は……何て酷いことをあなた方に……。バウル……さんですよね?」
「ママー!!」「パパー!!」
「ミラ!! ……ミラよね?」「ロッタ……!?」
森の中で見違えるほど成長+鍛えられた追放者たちの姿に、村人たちは狼狽えるしかなかった。
働けずに言ってしまえば足手まといだから追放した人々が、腰の曲がった老人だったはずが今では素手で木材を軽々と組み立てられるほどに筋骨隆々、歩けなかった子供たちはまるで猿のように機敏に動き回り、そして仕事を手伝い生活をしていた。
「キース、ではなくてカイラだったな! これはどういうことなんだ!?」
「まぁ、森の中で暮らしていけば、理由もわかると思うぜ」
村長は村を代表してバウル達に謝罪をした。
すべての責任は自分にあると地面に頭をこすりつけて謝罪をしたが、バウル達は温かく村人たちを向かい入れる。それ以降、その話をする者はいなかった……
「見たこともない果実! うまーーーー!!」
「肉が、肉がこんなに――――!!」
「温泉サイコーーーーー!!」
「過ごしやすい部屋にふかふかの寝床ーーーーーー!!!」
「水が使い放題ーーーーーーーー!!!」
村人たちの悲鳴が森に木霊する。
さらに、アルテは魔紋を利用したいくつもの道具を作り出し、さらに森の村の生活の質は向上していく。これにはファーンもマギウスも舌を巻いていた。
森での生活の恩恵を受けた村人たちの疲れはすっかり取り払われ、多くの労働力が手に入ったことになる。
人が居れば食糧も必要になる。より一層の森の開拓が必要となる。
しかし、森は広大。いくら広げても森全体から見ればちんけなことだし、森の恵みは尽きるはずもない。その恩恵を受けるこの村は、外の世界とは隔絶した豊かな場所になっていく。
「そういえば商人ギルドから食料品の提供をお願いされていたね」
「ああ、そういやそうだな。俺らの分と並行して町へ売りに行く食糧加工もしていかないとな……」
「お二人は町へあまり行かれないほうがいいと思います」
「そうだな、あの奴隷貴族がお前らをとらえる算段をしていそうだからな」
「でも、飢える町の人たちは放ってはおけないし……」
「俺の方で少し手配してみよう。ファーン殿、ギルドとの連絡手段を使わせてもらえないか?」
「ファーンでいいですよ、私もマギウスと。さすがは黒い羽根、連絡手段を知っておられましたか」
ファーンは懐から笛を取り出し吹く。音はしないが、ウォルが耳をぴくぴくと動かしている。
しばらくすると空から一匹の鷹がファーンの腕にとまる。
「ギルドにいる協力者との連絡はこの子がしてくれています。
黒い羽根への連絡も頼んでおきます」
「助かる。まぁ、ギルドも噛んだほうがいいだろうからな。
表立ってはギルドからの食料提供の形にすればいい、運ぶ人員はこっちでだす形で」
「しかし、抜けた者にこんなに寛容でしたっけ? 私の知る限り黒い羽根は身内に絶対のつながりがあって外に出た者には厳しかったような……」
「ボスの方針でな、アルテの支援は引き続きするそうだ。
それだけボスはアルテに期待しているんだろう」
「……期待には応えないとなアルテ」
「そうだねカイラ、町の人々が徴収なんて受けても困らないように、こちらから食糧を提供していこう!」
森の入り口から町までの運搬は黒い羽根が、町での食料取引はギルドが仕切ることになり、利益はギルドの口座へと振り込まれていく。
また、町で必要な商品も同じ仕組みで森へと運ばれてくる。
こうして森の村はさらに快適な生活を手に入れていく。
そして、アルテとカイラは気がついていなかった。自分たちが、あまりに巨大な利益をたたき出していることに。
「ギルドの方へ商業ギルドが二人に投資をお願いしているようです」
「投資?」
「食糧やいろいろな製品の取り扱いが多すぎて、商業ギルドの原資が減ってしまって、逆にギルドの口座に動かないお金が莫大になってきているのが理由ですね。日常品くらいしか購入してませんから……
しかし、すさまじい額ですね……」
「いくらぐらいになっているの?」
「お二人合わせて2億5千万ゼニーくらいになっています」
「ん?」
「二億五千万」
「二億?」
「五千万」
「ふぅ、落ち着こう。アルテ。俺には2憶五千万と聞こえたけど……」
「僕にもそう聞えたよ。凄い額なんだよね?」
「おかげで首都のギルドより資産のあるギルドになってしまって、胃が痛いと父からも投資するようお勧めされています」
「なんなら黒い羽根に投資してくれてもいいってボスも言ってるぜ。
いろいろと二人に必要なことに適正に運用するってな」
「どう思うカイラ?」
「い、いや、もう、考えられん。そんな金額想像もつかん……」
「だったら、定期的に商業ギルド、冒険者ギルド、黒い羽根に投資していきます。
商品の利益から皆さんへの手数料を引いた後、3割づつ。1割は口座に送ってもらって」
「ほう……アルテ殿は商業にも明るいのですね」
「なんとなくね、それぞれ投資にメリットがありそうなので。村長もそれでいいですか?」
「いや、何度も言うがわしは村長ではもうない。アルテ殿とカイラ殿に全てお任せいたします」
村長をはじめ、あとから来た村人たちも森の洗礼を受けて今では10歳は若返ったような印象だ。
皆よく働き、よく食べ、よく寝る。
ファーンとマギウスは仕事の合間に希望者に戦い方などの訓練もしてくれた。
自分たちの村は自分たちで守りたいという村人たちの強い意志を感じる。
「アルテ殿、実はこの村に移住させたいものがいるのですが……」
「村長、どういうこと?」
村長はアルテたちに村長と呼ばれることは諦めていた。
「いや、隣村にいる親戚や、むしろ隣村の人々もうちほどでは無いのですが酷い有様で、たぶんそろそろ限界になると思いまして。我らで村の拡張も出来て余裕も生まれてきました。
もしもアルテ殿が許していただけるなら……」
「もちろんいいよ。つらい目にあっているような人は、問題が無ければ受け入れるよ」
「ありがとうございます。それではカイラと共に説明に行って参ります」
「カイラが居ればウォルも連れていけるね」
「お借りいたします」
カイラはいつの間にかアルテと同じようにウォルと意思疎通できる中になってきた。
すでに森の村では料理長の立場を不動としていたカイラが作った絶品保存食を乗せて、周囲の村々を回る村長一行。
こうして村の人口は着実に増えていく。
しかし、これは貴族が支配する村がひとつ、またひとつと消えていくことを意味していることを、アルテたちは深く捉えていなかった……




