20話 進言
周囲の村人たちを吸収しながら森の村は着実に大きくなっていく。
すでに街と呼んでも差し支えない規模だ。
少しづつアルテが最初に落ちた崖に向かって村を拡張していき、とうとう崖部分まで到達する。
「このあたりだとグールとかゾンビも現れる可能性があるので、計画通りしっかりと防壁を作ります」
ファーンが村人たちに指示を出している。
ファーンとマギウスはそれぞれの知識を生かして村の開発、それに村人の訓練、食糧確保などいろいろな場所で指導者的な立場でアルテを支えてくれている。
森を切り開いた農場では様々な作物を生産している。
長年落ち葉が降り積もり脈々と受け継がれた大地は、素晴らしい恵みを野菜や果物の形で人々に与えてくれた。
森の中で自生していたキノコ類も、今では人の手によって栽培されている。
狩猟に関しては、広大な森の中を魔物から避けるように流動しているようで、取りすぎによる枯渇の心配は少ない。
ただ、生活圏の拡大に伴い、ウォルのつける銀狼の印の合間を魔物などが侵入してくる事案が出てきた。森を抜ける街道でゴブリンなどの目撃例が増えていた。
それに伴い、街の周囲にはしっかりとした防御壁と堀、それに見張り台、鳴子など工夫がされるようになっている。
アルテは最近魔紋の研究とそれを利用した魔道具作りに没頭している。
最近のヒット作は太陽の力を蓄えて、暗くなると光る魔道具や、熱へと変換して調理などに使える魔道具、魔石を用いない自然に溢れる魔力を利用したものを盛んに研究していた。
これは現存の魔道具とは大きく異なり、魔石という魔物を倒すか、ダンジョン奥深くに存在する貴重な物を消費しないという点で、画期的、革命的と言ってもいい物だ。
魔力は魔石から得るものという固定概念を持っていないアルテならではの考えだった。
参考までに、奴隷紋などは人間の体内にある魔力を利用している。
「どうだろこれ、風を貯めておいて、好きな時に風が起こせる装置!」
「ああ、洗濯物干すのにも使えそうだな。ただ常に風があるところがないと常用しづらいんじゃないか?」
「崖のところなら常に風吹いているからそこで溜めれば……」
「……なぁ、冷気とかは溜められないのか? もし可能なら食材の保存に使えると思うんだけど」
「なるほど……やってみる!」
こうして冷蔵庫が生まれた。
森の中には鍾乳洞もあり、中には氷が自然にできていたりもする不思議スポットもあり、このアイテムのおかげで町の生活は、主に食生活が一段階レベルが上がった。
このように様々なアイテムを発明して町での生活に生かしていくのであった。
また、それらのアイテムはギルドを通じて商業ギルドへともたらされ、すさまじい衝撃を与える。
今までごく一部の秘伝とされていた魔紋が新しく開発されている事実は、おいそれと広めていい物はないからだ。
アルテたちのあずかり知らないところでたくさんの人の胃に穴が開きそうになっていた。
そして、アルテたちの街に、急報が届くことになる。
「アルテ様!!」
「もー、様はやめてってば……」
「も、申し訳ございませんが、それどころではありません!
ギルドから急の知らせで、我らに国家反逆罪の嫌疑がかけられ、討伐隊が編成された模様です」
「あー、やっぱりそうなったかぁ……まぁ、貴族と事を構えたからねぇ……」
「どうするんだ旦那?」
「とりあえず、森の入り口からの街道を封鎖する。ウォルに銀狼の印を破棄してもらって、街道左右の木々を切り倒してしまおう」
「じゃぁ、ちょっくら行ってくる」
「カイラ、ウォル頼むよ」
「ウォン!!」
すぐにカイラが村人を何名か連れて作業に入る。
討伐隊が結成されて森につくまでは1週間と言ったところ、鷹による連絡は二日で来ることを考えればあまり時間がない。
「理想は討伐隊が町へと着けない事なんだけどね」
直接対峙して危害を加えてしまえば、アルテたちが正式に反逆者になってしまう。
「森の中に暮らしているとは思ってないだろうから、ごまかせるといいんだけど……」
アルテの予想は当たることになる。
森からと思われる素材を大量に持ってくる以上、森のそばに生活をしているだろうと考えた討伐隊は、広範囲の捜索を行うも、その生活の後を見つけることは出来ない。
森を探索しようにも魔物が存在する森をいたずらに刺激することは躊躇われる。
物資の運送などでも自分たちの足跡は残さないようにしていた黒い羽根のメンバーのおかげで、町への道も発見されることは無かった。
結局、長期間にわたる討伐隊の散策においてもアルテの痕跡は発見できず、一部ゴブリンなどの魔物を刺激して被害が出たことを皮切りに撤退することになる。
この討伐隊の話は、日頃から貴族の横暴に苦しんでいた住人たちの間において、逆にアルテを英雄視させることになり、黒い羽根を通じて街から森への移住希望者が出るようになる。
「時間稼ぎは出来ても、いずれは問題になるよなぁ……」
「バルトジークの腰巾着が調子に乗りやがって……」
「アルテ殿、いっそ町を味方につけましょう。いままでギルドから提供していた物資、すべてアルテ殿が提供していたことを公表するのです。すでに一部ではそういう噂も出ていますので、町全体がアルテ殿を支持すればいかに貴族でもそう簡単には……」
「それは甘いぜファーン。逆にこの飢饉がアルテによって起こされ、恩着せがましく蓄えていた食糧を分けているだけだって言われかねねぇ」
「悪辣な……しかし、住人もそんな話は信じないでしょう!?」
「そうだな、信じたくはないが、アルテは気味が悪い存在と考えてる人間もいる。
ポットでの新人のはずがとんでもない戦果をあげ、そして煙のように消えた。
探索すれども気配はない、まるで森がよこした死の使者なのでは……って言う噂も確かにある」
「出て行けば、間違いなく殺される」
「出て行かなければ、もっと大規模な捜索が行われるだろうね」
「もしくは、適当な村を人質に取るかもしれないな、出てこねば村人を殺す。ってな」
「……そんな愚劣な手段……取らないと言い切れないほど、腐っているからな今の貴族どもは……」
ファーンは悔しそうに握りこぶしをふるわせている。
「アルテ様、いっそ、国を興しませんか?」
「村長? 何を言っているんだ?」
カイラも思わず呆れてしまう提案。しかし、村長の顔はいたって真面目だ。
「アルテ様……いや、アルテ・ライトディア陛下!
今こそライトディア帝国の正当な後継者としてこの地に国を興しましょう!!」




