18話 村へ帰る
あまり長く町のそばにいるのも危険なので、村人たちも一息をついたところで再び出発の準備を始める。
相変らず雨足は強く、牢屋のような馬車の環境は厳しい。
「せめて、ウォルの車があれば……」
「それならもうすぐ来ます。お、噂をすれば」
なんとウォルの車をギルドの職員が馬で引いてきてくれた。
「使いを飛ばして居場所を教えておきました。あちらに使える幌も持ってきました」
ギルド職員は車を置くとすぐに町へと戻っていく、ギルドもアルテたちが倒した男たちのことで大騒ぎになっているそうだった。汚れ仕事を請け負っていた部隊で何名かは指名手配もされている。
たぶん握りつぶされるだろうが、あの焼け落ちた男の件でどうなるかはわからないとのことだ。
「……勝手に自滅しただけだけどね……」
「とにかく、早く町を離れましょう」
ファーンは手早く檻に幌をつけていく。
「床は布でも敷きましょうか……」
「あ、ちょっと待って。多分これで……」
アルテは普段持ち歩いている魔石から小さなものを取り出し、火を起こした時に出た炭で床部分に魔紋を描き始める。
「魔紋……? アルテ様は魔道士なのですか!?」
「うーん、そういうわけじゃないんだけど、わかるようになったというか……」
完成した魔紋に魔石を乗せると、魔石内の魔力に反応して魔紋が光りだす。
「温かい……」
雨によって濡れた床がみるみる乾いていくだけではなく、温かい風が幌で包まれた車内を温める。
「たぶん二日ぐらいは温かいはずだよ、さぁここに僕たちの持ってきた皮を引けば随分ましになるよ」
床暖房によって温められた毛皮は最高のクッションとなり、村人たちは極度の疲労から出発してすぐに眠りについていく。
ウォルが引く車にも同じ仕組みを描き、子供や老人はそちらに乗ってもらった。
広場を出て街道を森に向かおうとすると、マギウスが一行を追ってきた。
「すぐ戻ると言っただろう。まったく。アルテ、カイラ……いや、アルテ殿、カイラ殿。
どうか俺を使ってくれないだろうか?」
馬車に飛び乗るなりマギウスはとんでもないことを言いだした。
「い、いきなりどうしたんだ? 組織は?」
「組織は抜けた。もともとその約束だった。さっき話はつけてきた。
……俺の話をさせてもらっていいか?」
「ああ、もちろん」
「俺の名前はマギウス・ドュッセル。元は隣国ガザールの民、そして、闘技場の戦士だった」
砂漠の国ガザール。
国土の三分の一が砂漠の厳しい環境だが、砂漠に沸く燃える水を特産としている豊かな国。
オアシスを中心とする王都は砂漠にありながら水の都と呼ばれるほど優雅な作りをしている。
そして、国営の巨大な闘技場が存在する。
強者が集まり、賭け事によって巨万の富が動く場所。
マギウスはその闘技場で無敗のチャンピョンとして君臨していた。
しかし、別の国の貴族が名を売るために呼び入れた戦士を死に追いやったために無実の罪をでっちあげられ奴隷に落とされてしまった。
そんな彼を救ったのが黒い羽。裏社会の情報屋だった。
奴隷紋への魔力を遮断する特殊な布で奴隷紋を覆い隠すことで、マギウスは死んだものとして世間には公表されていた。
実際には国を渡って用心棒として働いている。
奴隷紋を外すためには莫大な資金がかかる。その資金を貯めることと、受けた恩義を返すためにマギウスは黒い羽根で仕事をしていたのだ。
「そして、アルテ殿に俺は救われた。
ボスは喜んでくれていたよ。そして、出来ることならアルテのそばにいてほしいと……」
「なんで僕の?」
「それはわからないが、ま、その頼みが無くても俺はアルテ殿と共に行くつもりだ」
「頼もしいけど、いいの?」
「もちろんだ! 砂漠の民は約束を守る! 恩義は命に代えても返す!」
「いいね。わかった。これからよろしくね」
がっちりと固い握手を交わす。
こうしてアルテとカイラは村人たちを救出し、ファーン、マギウスという心強い仲間を得ることになる。
馬の速度に合わせ、森へと向かう。
ウォルの車には多くの食料が積まれており、十分ではないが、野営をしながら行軍を続けられた。
そんな中、意外なことが発見される。
「……今日の飯、えらい旨いな!」
「うん、僕もそう思った」
「村の方が作ったのですか?」
「いや、今日は俺が作った」
「カイラが!? 村でも料理なんてやってなかったじゃないか!」
「いや、なんかみんな忙しそうだったし、材料も限られてたから」
「こんな複雑な味わい、だってある物なんて麦と干し肉とかそんなものしか……」
妙にファーンが食いついている。そして食事にも猛烈に食いついてお代りをしたいのかうずうずしてる。
「いや、周り調べたら食えそうな野草もあったし、ああ、あそこのあの実がこれと合うかなーって」
「カイラ……今度から村でも料理しなよ。僕、これなら毎日幸せだよ!」
「あ、ああ、なんかそんなに褒められると嬉しいな。はは」
「うまい……カイラ、おかわりはあるか?」
ずいっとマギウスが器を出してくる。それを見てばばっとファーンも両手で器を突き出してくる。
「ウォン!」
ウォルも鼻で器を押してくる。
「あ、ああまだあるぜ。なんだよみんなー」
カイラもまんざらでもない様子だった。
この日から、カイラの料理人としての道が開けていくのだった……
「なんだか、久しぶりの森だね」
「ここに来て、帰ってくるなんて気持ちになるとは思わなかったぜ」
「本当に死の森の中に……村があるんですか?」
「……にわかには信じがたい……」
「あっちの茂み、俺らが細工したんだけど。あれをどかしたら、驚くぜ」
森の一部に特に厚く草木が生い茂っている場所がある。
そこは村から続く道を覆い隠すためにアルテとカイラが作ったカモフラージュだった。
左右の木々に括られた縄を引くと……
「み、道が……!!」
まっすぐに村へと続く道が現れ、村人やファーン、マギウスの度肝を抜くのであった。
さらに、その道の整備の完成度。
全く魔物の気配がしない事にも驚きっぱなしだ。
「この森で生きている者が、ウォルが付ける銀狼の証を見て近づくはずがないからね」
「……只者ではないと思っていたが……伝説の銀狼……」
「魔獣が知恵を持っているのは知っていたが、人語を理解し、そして我らより進んだ技術を知っているとは……」
アルテの話す銀狼の話にも驚き続けることしかできなかった。
「おお、じーさまたち頑張ったな!」
そして、森の中に広がる。立派な住居に、この日最大の驚きを受けるのであった。




