第6節:自業自得
「貴様、長張……か!?」
「おっと、下手な動きはするなよ。俺の腕はよく知ってる筈だ。錆びちゃいない」
銃を突きつけたまま、ウォッチは白金を立ち上がらせた。
「貴様は、死んだ筈だ……」
「そう、お前に殺された。だが息子の復讐に、地獄から戻って来たのさ」
ウォッチは軽く笑みを浮かべながら、さりげなく窓際へ移動し始めた。
射線と視点は外さない。
部屋の中央に立つ白金は、ウォッチの持つ銃口の先とウォッチの顔を交互に見比べている。
「息子、だと……?」
「お前の所でセイルテム系新薬を開発した技術者は、俺の息子だ」
白金の頭の中で、線が繋がったようだった。
「貴様が三人目……」
「その通り。馬鹿にはなっていないようだな」
回り込んで窓を背にしたウォッチは、そこでようやく動くのをやめた。
「息子は、お前に殺される直前に連絡をしてきた。奴を殺し、息子の親友で俺の相棒であるクソガキの手足まで吹っ飛ばしてくれたお前を今すぐにでも殺してやりたいが……」
ウォッチは、軽く目を細めた。
「クソガキとミコトちゃんを解放するには、池早の生きた指がいる。奴に二人を解放させるんだ」
「……最後の一人が、貴様だと知っていれば」
怒りに染まった目でウォッチを見る白金に、ウォッチは皮肉を投げる。
「お前は、いつもツメが甘い。だから殺したはずの俺に逆に計画を利用され、今またこうして自分の命と会社の命運を秤に掛ける羽目になった。恨むなら自分を恨む事だ。……解放されれば俺には分かるようになっている。虚偽の申告は自分の命を縮めると、お前なら理解出来るだろう? さっさとやれ」
白金は胸元に手を伸ばすと、ゆっくりと通信機器を取り出して番号を呼び出し、耳に当てた。
「……私だ。二人を解放しろ」
※※※
錠が開く電子音が聞こえた瞬間、トキは立ち上がった。
トキの手助けを受けて立ち上がる間にもドアは開き、その先に冷たい怒りを目に浮かべた池早が立っていた。
「やってくれる」
「三人いると分かってるのに、一人見逃すのが悪いんだろ。ナメるからこういう事になる」
トキは、まるで全て分かっていたかのように、馬鹿にしたように池早を煽った。
「退けよ。出て良いんだろ?」
池早がゆっくりと体をドアの前から退けると、トキはミコトを連れてドアの外へ出た。
「両手の錠も外せ。そうしたら、お前の大事な飼い主を解放するように伝えてやるよ」
「……」
池早は無言で顎をしゃくると、部下らしき男にトキとミコトの両腕を解放させた。
「じゃあな。……制限解放」
クスリの残り時間を消費して手足の能力を強化したトキは、ミコトを抱き上げて駆け出した。
「に、逃げ切れるの?」
「逃げ切るさ。だが、その前に絶対に一悶着がある」
ビルの案内表示に従って出口を目指しているらしいトキは、階段を駆け上がりながら凶悪な笑みを浮かべた。
「奴らは、白金が解放されたら追って来る。足も土地勘もないのに車からは逃げ切れねぇ。ポータルの接続は復活したから、今いる場所だけは後で分かるがな」
ビルの外へ出たトキは、とりあえず逃げれるだけ逃げるつもりなのか、足を止めなかった。
人通りの多い方へと駆ける時の速度に周囲の人々は驚くが、トキは全く構っていない。
「情報はまだ、俺とウォッチの手元にしかねぇ。今どっちも捕まえりゃ奴らは安泰だ。ウォッチとの合流のタイミングで、奴らは絶対に仕掛けて来る」
「どうする気?」
「逃げれないなら迎え撃つだけだ。今が夜なのが微妙だな。手はずを整えるにゃ悪い時間だ」
「……勝てるの?」
「向こうだって準備する時間はねぇ。兵隊の数は大した事ねー筈だ。白金を固める人間外せねぇしな」
トキは路地の影でミコトを下ろすと、腕のパネルを素早く操作した。
「ポータル。ウォッチ。解放。送信」
トキの声で情報は送られた。
「これでウォッチは白金を手放す。今から追いかけっこだ」
「……安全なところに逃げるまで、ウォッチに白金を抑えて貰わないの?」
「そんなちんたら籠城してたら、司法が来るかウォッチの逃げ道が塞がれる。俺らが解放されたって事は、ウォッチはクスリを奴に作らせる気があるって事だ。つまり殺せない。殺せない事がバレるのはマズいだろ。俺たちの狙いを悟られる」
トキは、状況を説明しながらどこか嬉しそうに笑った。
「あのおっさんは、俺に甘ぇ」
そして、トキが現在地を把握したタイミングでウォッチからの返事が来た。
「離脱。Cの港で荷下ろし……合流するぜ。港湾区第三エリアの荷受け場だ。そこにウォッチが来る」
トキは、公共機関を利用する為の入り口を見つけると、ミコトを伴って地下に降りた。
※※※
「解放されたな」
トキからの受信音を聞いたウォッチが言い、太ももに巻いてあった通信機器の画面を叩いた。
ポータル情報送信画面で待機させていた情報を送ると同時に、窓を叩き割る。
「じゃあな、白金。俺たちに今後手を出せば、お前に待っているのは破滅だ。今日のトキらに起こった事は、事務所に仕掛けたカメラなどで全て記録している。この意味が、分からないお前じゃないだろう?」
怒りが深すぎて逆に青ざめた顔で歯を噛みしめる白金は、ウォッチを睨み据えた。
「貴様と、貴様の関係者はどこまでも私の邪魔をする……!」
「先に裏切ったのはお前の方だ。言っただろう。恨むなら、自分を恨め」
ウォッチは、そう言い残して窓から身を投げる。
水中に飛び込んだ後、一度水面に顔を出すと、手早く酸素マスクと水中眼鏡を身に付ける間、ライトが周囲を照らしながら走っていた。
しかしライトがウォッチを見つけた時には、既にウォッチは準備を終えており、さっさと水中に潜って姿を消す。
バスン、バスン、と近くで銃弾が水中に突入する音が聞こえた気がしたが、深く潜って少し離れた場所に待機させているボートへ向かうウォッチに対しては、無意味な音だった。




