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エレオノーレ

日曜日案の定更新出来なかったんで本当は昨日更新する筈だったんですがまた昼寝して(ry

暗黒微(ry

 エレオノーレは〝神術〟を使えない。それは彼女に原因はなく、精霊側に問題があった。

 〝神術〟とは、己の魂から〝命力(みちから)〟を精製し、それを精霊に渡し、言霊をもって行う力の形を願い、発動するものである。

 エレオノーレは〝命力〟を精製する事は出来る。だが、精製した〝命力〟を精霊が受け取らないのだ。

 何故かは今でも分からない。渡そうとしても困惑を浮かべられるか、無いものとして扱われるかのどちらか。

 精製した〝命力〟は他の者と比べても何ら変わりは無い。親兄弟やエルフの長老、彼女に生きる術を教えた先代にはそう言われている。最終的には彼女を役立たずと嘲る他のエルフ達もその事にだけは終始首を捻っていた。

 だが、この世にたった二つ。彼女だけが使え、彼女しか恩恵を受けられない〝神術〟があった。

 それは精霊を介さない。故に〝神術〟と呼ぶにはおこがましい技。

 先代はそれに名を付けた。それは彼女だけが持つ、恐らく世界でたった一つの属性であり、火も熾せず、風を操る事も出来ず、水を揺らめかせる事も出来ない彼女だけが使えるそれを、術の特徴から先代はこう名付けた。

―――〝命術(めいじゅつ)〟と





◆     ◆     ◆     ◆     ◆     ◆     ◆




 エレオノーレは咆哮し、右拳を後ろに流しながら己が力を行使する。

「あああぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

 自身の魂を削り、〝命力〟を生み出す。魂を削るという事は、胸の内側が無くなる様な喪失感と言われているが〝命術〟の特徴なのかエレオノーレはその喪失感を得た事はない。

 久しく使っていなかったその力は幸いにして感覚が鈍っているようなことはなかった。自身の思うがままに最適な量を全身に行き渡らせる。

 エレオノーレの全身から仄かな白の燐光が漏れ出す。〝命術〟を使った際の特徴だ。身の内に留め切れぬ〝命力〟が微々たる量ではあるが外に漏れ出しているのだ。

 他の人間が〝神術〟を行使する際は〝命力〟を精霊に渡す為、全身に行き渡らせるということはない。

 だがエレオノーレは〝命力〟を全身に行き渡らせて始めて己が願う力の形となる。

 それが(もたら)す力は今まで判明しているもので二つしかない。だが、その二つはエレオノーレの危難を幾度と無く救ってきた。

「―――ぁッ!」

 エレオノーレは力の声を発し、固く握り締めた右拳で眼前の壁を殴り砕いた。

「―――!」

 アルフォンスはその光景にただ絶句するしかなかった。

 その壁の主な構成は岩石であり、泥はその隙間を埋めたものでしかない。故に崩すには素手では無理であり、何かしらの掘削する道具が必要だ。

 しかし、エレオノーレは泥で塗り固められているとは言え、岩石が入り混じるその壁を素手で殴り、砕いたのである。

 〝命術〟が齎す二つの力の内の一つ、身体強化の恩恵である。〝命力〟を全身に行き渡らせ、骨肉を活性強化する事で人知を超えた筋力や、鋼鉄に足跡を残す飛竜の踏み付けを受けても平気な程の強靭さを発揮する事が出来る。

 活性強化は視覚や聴覚と言った五感にも作用される。平時でも闇を見渡せるエレオノーレだが、活性強化すると一寸先も見えぬ暗闇の中でも常時昼間のような視力を確保出来る。

 砕いた壁の先へと侵入したエレオノーレの視界に、囚われているリンゼの姿が鮮明に見えた。

 彼女の頭以外の身体の部分に最初に情報を聞き、祠に転がる骨で見当をつけていた通りの魔物が取り付いている。ローパーだ。

 本来ならローパーの色は透明で、その中心には人間でいう脳の部分に当たる桃色の核が浮いているのが見える。だが今はリンゼに取り付いている全てが赤く濁っていた。

 リンゼの血肉を溶かし、その身の内に取り込んでいるのだ。ローパーに取り付かれた者がどうなるかはエレオノーレは良く知っている。

 動く。

 ローパーと対峙する際は遠隔攻撃出来る〝神術〟が一番効果的と言われている。何故ならば、ローパーの身体は強酸で構成されており、武器を使った近接攻撃では核を切り裂き、叩き潰す事は出来ても返り血ならぬ返り酸を浴びるためだ。

 皮膚の上ならばともかく、酸が目に入ると視界を奪われる。戦闘中に視界を奪われるのは致命的である。

 弓などの射撃系、投擲ナイフなどの投擲系も核に当てられる腕前があるなら一つの手段とされている。

 その中でエレオノーレは最も悪手とされる行動を選んだ。

 素手である。

 勿論それを選ぶからには理由はある。

 刃による攻撃は一体しか仕留められない。刃が走る軌跡は線であり、その線は途中で曲げられぬためだ。その線の上に複数のローパーの核があれば彼女は刃での攻撃を選んだだろう。

 また、投擲ナイフはエレオノーレが立ち、リンゼが床に倒れているという現状の位置関係では一歩間違えばリンゼの身体にナイフが突き立ってしまう。

 故に素手。

「せいッ!」

 最初の一撃は右手。左から右へと流す、掬い取るように五指を開いた獣の爪のような一撃だ。

 それはリンゼの胸に取り付いたローパーの核を掴み、腕を振り抜いた風圧で強酸の身体を影も形も無くすほどに消し飛ばした。

 掴み取られた衝撃でほぼ半壊しているそれをエレオノーレは握り潰した。どろりとした暗赤色の体液が溢れ出すが、腕を一振りすれば色さえ残さず消える。

 取り付かれていた胸を見れば皮膚は形もなく、筋肉を殆ど溶かして心臓まであと僅かという所であった。心臓が弱弱しく脈打つ動きが薄桃色の肉の上から僅かに見えた。

 事態はエレオノーレが思うより深刻であるようだった。あと数分でも放置すればリンゼは死ぬだろう。

 今リンゼに取り付いて血肉を溶かし、啜っているローパーは四肢に取り付いている四体。迅速にリンゼを救うにはこの四体を早急に排除しなければならない。

 その問いに対する答えはエレオノーレにとって非常に簡単だった。

 リンゼを負担が掛からぬようにしっかりと抱え、エレオノーレはその暗闇からアルフォンスが居る場所へと高速で離脱する。その急な動きにローパーは引き剥がされ、食い意地が張った引き剥がされなかった一匹がエレオノーレによって吹き飛ばされた。

「リンゼ! リンゼ! 返事をして下さい!」

「は、ぁ……えるの、こえ……」

 呼び掛ければ僅かに返事が返ってくる。だがその視界は虚ろでエレオノーレの姿を映していない。

「あかるくてくらい……でもえるがみえた……えるぅ……たすけて……」

 光で目を焼かれたらしい。一時的な物だ。暫くすれば治るだろう。―――生きていればだが。

 だが死なせるつもりはない。己の目の前では。

「持ってきて良かった……!」

 アイテムポーチに忍ばせたそれは万が一を意識して持ってきた彼女の店にある最高の薬。

 そんじょそこらの薬とはわけが違う。希少な材料しか使われていないそれは人事不省の傷すら癒し、天命すら覆す程の効能を持つ。

 死人すら蘇ると言われるそれは先代から伝えられ、エレオノーレだけが作る事を許された。

 その薬の名は、死返(まかるかえし)。一つしかないそれをリンゼの為に使う。

 この薬は作る度に形が安定しないと言われる。今エレオノーレが持っているのは丸薬状だ。それを口に含み、噛み砕いてリンゼに口移しで飲ませる。

 ぐっと舌で押し込み、口内を探って余す事無く、一片も残さずに喉奥へ押し込んだ。

「押さえておいて下さい。これだけの傷を癒すとなればきっとその代償の痛みは半端じゃない」

 銀の糸を引く口元を手の甲で拭いながらアルフォンスに言う。

 ローパーに取り付かれていた四肢はもう手遅れと言われる程の有様だった。手足共通して指は形もなく、残った部分も骨が見えている。溶けた肉の断面からは血が噴出して地面をぬかるみのようにしていた。

 先代の言葉を信じるならばこの有様でも死返であれば治せる。生きたいと心が訴え、魂が拍動を続けているならば! 

「リンゼは獣人です。力も並大抵なものじゃない。全力で押さえないと貴方が死にますよ」

「ちょ、それなら遠くへ行ったほうが」

「いえ、それだと今度はリンゼが痛みで発狂して頭を打ち付けるかして狂い死にする可能性があります。押さえ付けて少しでもそれを逃がしてやらないと。なんでもいいんです。素手でも〝神術〟でも使って押さえて下さい」

「……分かった。力にはあんまり自信がないけどやってみる」

「よろしくお願いします。―――私はアレの相手をします」

 暗闇の奥で蠢くもの。今は闇に隠れてエレオノーレにしか見えないそれを見て彼女は何年ぶりかの戦意を漲らせた

次回の更新日は(昼寝しなければ)四月八日です。

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