第6話 【後悔】ビッグになった僕を見て勇者が「戻ってくれ」と叫ぶ
「あの……ゼペットさん、この道を通らずに、少し回り道をしていきませんか……なんだか気まずいな……」
王都の中心部を通る目抜き通り。ヨシトは豪華な馬車の窓から外を覗き、今にも泣きそうな声を上げていた。
ゼペットが用意した最高の工房へ向かう道中、運悪く馬車が差し掛かったのは、かつてのヨシトの雇い主、Sランクパーティ『栄光の輝き』の拠点の前だった。
「……あら、いいんじゃない。自分たちが捨てた人間が大出世した姿を、わざわざ見せつけてあげるなんて、最高の舞台装置だわ」
ヨシトの肩で、ベルがなんとも愉しげに尻尾を振っている。
「ベル、茶化さないでよ……。僕はただ、静かに……普通に暮らしていきたいだけなんだ」
「あなたが静かに、なんて無理な相談ね。見てみなさい、あそこにいるのが多分、元お仲間たちじゃない? まるでお通夜の帰りみたいな顔をしているけど……どうしたのかしらね? 」
ベルが指し示した先には、拠点から出てきたばかりの『レオン』と『ミア』の姿があった。数日前、あれほど傲慢にヨシトを追い出した彼らだが、その表情には今は余裕のかけらもない。
レオンの腰にある聖剣の鞘からは、何やら不吉な異音が漏れ、ミアの魔法衣はあちこちが綻び、泥に汚れたままだ。
「レオン! だから言ったじゃない、魔法の研磨じゃ芯まで熱が通っちゃって、すぐに刃が脆くなるのよ!」
「うるさい! お前の魔法が三流なんだろうが!……くそ、ギルドの奴ら、この聖剣を見て二級品なんて抜かしやがって……! 」
二人が路上で激しい口論を繰り広げているその横を、ゼペットの豪華な馬車が、わざとらしくスピードを落として通り過ぎる。
「あら……あれって、ヨシトじゃない? 」
足を止めたのは魔導士のミアだった。馬車の窓から、隠れるように、二人を見ている『元雑用係』の姿を見つけた彼女は、驚愕に目を見開いた。
「レオン、見て! あそこにヨシトがいるわ!なんで……なんでアイツが、ゴールドバーグ商会の黒塗りの馬車に乗ってるのよ! ? 」
「何……!? 馬鹿な、見間違いだろう。あんな薄汚れたドブネズミ野郎が……っ! ? 」
レオンが顔を上げた瞬間、馬車の窓が開いた。
そこに現れたのは、ヨシトではなく、冷徹なまでの威厳を纏った老紳士ゼペット・ゴールドバーグだった。
「おや……そこにいるのは『栄光の輝き』の諸君かな? 君たちの噂はずいぶんと聞いているよ。それはそうと私の馬車に何か用かね」
「ゼ、ゼペット会長……! ? いえ、その……あの、今、中にいたのは……」
レオンが狼狽し、言葉を詰まらせる。大陸一の商会長は、レオンの腰にある異音の鳴り始めた聖剣をチラリと見て、鼻で笑った。
「ああ、私の大事な賓客のことかな。ヨシト殿には現在、我が商会の最高顧問としてお越しいただいている。世界で唯一、私の時間を買い戻せる……真の天才としてね」
「賓客……? 最高顧問……? ヨシトが……? 」
レオンの顔が、怒りと戸惑いで真っ赤に染まる。
その横で、ミアは信じられないものを見る目で馬車を見つめていた。
ヨシトはただ、気まずそうにフードを深く被り直すことしかできない。
「……行こうか、ヨシト殿。こんな場所で時間を無駄にするのは、商人にとって最大の損失だ」
「は、はい……わかりました、ゼペットさん」
馬車が再び動き出す。
背後で「待て! ヨシト! 戻ってこい! 」というレオンの叫び声が聞こえた気がしたが、それはすぐに、馬車の滑らかな走行音にかき消された。
「……よし、これで今夜のスープの味も一段と美味しくなるわね」
ベルは満足げにゴロゴロと喉を鳴らし、ヨシトの首元に顔を埋めた。
過去の旧友との王都での再会。それは、ヨシトが『ただの修理師』から『伝説の修理師』へと、周囲に認識され始める劇的な幕開けとなるのであった。




