第3話 【逆転】勇者の聖剣が壊れる中、僕は大陸一の「富豪を救う」
「……おい、ミア! なんだこの剣の切れ味は。研ぎが甘いんじゃないか! ? さっきから一撃で首を落とせるはずの魔物が、ピンピンしてるぞ!」
王都から北へ数日。
Sランクパーティ『栄光の輝き』は、いつも通りの魔物討伐遠征を行っていた。
だが、リーダーである勇者レオンは、手にした聖剣の違和感に苛立ち、怒声を上げた。
「そんなこと言われても!! 私の【高速錬成】で、そんなにビューティフルに刃を研ぎ澄ませたのよ、切れないわけなくない!?」
ミアが必死に詠唱を重ね、剣に青白い魔法の光を纏わせる。
しかし、レオンが目の前の大型オークを力任せに斬りつけた瞬間……。
「ガギィーーーン!」
不快な金属音が響き、レオンの腕に強烈なしびれが走った。
「………っ! ? 硬い、硬すぎる! なんでこんなに刃が食い込まないんだよ!」
「魔法は完璧よ! だって剣の刃はピカピカで美しいでしょ! あなたの腕の方が悪いのよ……たたぶん?! 」
彼らは致命的な勘違いをしていた。
ヨシトの【リペア】とは、単に表面を研ぐことではない。
武器に宿る概念的な摩耗そのものを消去し、素材の結合を常に理想的な状態に維持し続ける神業だったのだ。
サン・ヨシト・ルシフェールという修理師を失った聖剣は、一振りごとにその内側から寿命を削り、修復不能な崩壊へと向かっていた。
「……チッ、聖剣のクセに役に立たない鈍ら剣だな! 帰ったら町の工房の奴らに直させるしかないか! 」
苛立ちに任せ、レオンは愛剣が発する微かな悲鳴を無視して、再び力任せにオークへと斬りかかった。
一方その頃。
王都を遠く離れた街道の茶屋で、ヨシトはベルに呆れ果てていた。
「……ねえ、ベル。導くって、まずは何をするのかと思えば……。この特製ドラゴン肉ステーキに、極上のホーンミルクって。これだけで僕の数日分の食費が飛んだんだけど」
「黙って食べなさい。まずは栄養よ、ヨシト。一流の職人は、一流の食事から作られるのよ」
ベルはヨシトが注文させられた高級なオーク肉の串焼きも、さも当然のように横から奪って食べている。
「お金、もうこれだけしかないんだけど……、今夜僕たちが泊まる宿代も危ういよ」
「ふん。なら、さっさと稼げばいいじゃない。ちょうどいいわ、あそこに上等な獲物が来たわよ。ヨシト、あれを見なさい」
ベルが視線を向けた先には、一台の豪華な装飾を施した馬車が停まっていた。
だが、後輪の軸が不自然に歪み、馬車の主である気品ある老紳士が、従者たちと共に困り果てた顔で立ち尽くしている。
「……僕に、直せるのかな? 」
「貴方ほどの力で直せないと思ってるの? 自信を持ちなさい! さあ行って、一流にはそれ相応の対価が必要なんだから」
ヨシトは苦笑しながら、馬車へと歩み寄った。
「……あの、お困りですか? 宜しければ、僕が直しましょうか」
老紳士は、泥のついた服を着たヨシトの姿を見て、最初は明らかな不信感を露わにした。
だが、ヨシトが馬車の車軸にそっと手を触れた瞬間、周囲の空気が一変した。
(……ベルを救いたいと思ったあの時から、指先がずっと熱い。物質の中身が、僕に語りかけてくるみたいだ)
ヨシトが軽く目を閉じると、脳裏にあの無機質な響きが過った。
《……個体識別を確認。対象:媒体の駆動軸》
《損耗率を検知。――再定義を開始します》
「……【リペア】! ! 」
ヨシトの叫びと同時に、再び視界が真っ白な光に包まれる。
光というよりは、あまりに膨大な熱量がヨシトの腕から馬車へと流れ込み、周囲の風景を塗りつぶしたかのようだった。
時計の針を無理やり戻すような、硬質で透き通った音が街道に響き渡る。
歪んでいた鉄の軸が、眩い輝きの中で生き物のように蠢き、瞬く間に新品以上の完成度を取り戻していく。
「な、なんだ……! ? 魔法か? いや、それにしては詠唱も魔法陣も……」
老紳士が、腰を抜かさんばかりに驚いて叫ぶ。
ヨシトは右腕に残る痺れるような熱い感覚を誤魔化すように無造作に汚れを払い、驚愕する老紳士を後にした。
(よし、これで今夜の宿代くらいは貰えるかな……)
だが、ヨシトはまだ気づいていない。
彼が「これくらいなら」と無造作に放ったその力が、この国の経済を牛耳る伝説の商会長であるこの老人の人生をも【リペア】し始めてしまっている事に……。 (つづく)
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