第28話 【沈黙】王宮魔導師たちの敗北、運び出した「山のような財宝」の価値
地下遺構の出口へと続く急な回廊に、規則正しい「ズシン、ズシン」という地響きが鳴り響いていた。
その音の主は、ポチである。
かつて大魔女であるベルのペットモンスターだったゴーレムは、今、とんでもない量の財宝を運んでいた。
人間数十人でようやく動かせるほどの、巨大な鉄の長持。
それが四つ、五つと太い鎖でつながれ、ポチの背と両腕に積み上げられている。
総重量は数トンを超えているはずだが、ポチはまったく気にする様子もない。
ズシン、ズシンと足音を響かせながら、山のような財宝を地上へ運んでいく。
そのすぐ側を、ベルは不機嫌そうに歩いていた。
尻尾は相変わらず激しく左右に揺れ、時折パチリと火花が散る。
その視線が隣を歩くヨシトに向けられるたび、ヨシトはあからさまに視線を逸らし、口を真一文字に結んで歩いた。
ここで下手に声をかければ、また火炎魔法を飛ばされる。
ルシフェールという一族の末裔であることがバレた今、ヨシトにできるのは、黙って歩くことだけだった。
だが、出口から差し込む地上の光が近づくにつれ、ベルの表情が少しずつ変わっていった。
ポチの背に積まれた長持の隙間から、黄金の輝きが漏れている。
一国を買い取れるほどの価値がありそうな調度品や、魔力結晶。
それを目にしたベルの目が、少しずつ輝きを増していく。
「……ふん。まあ、あんたの一族への恨みがこれっぽっちで消えるわけじゃないけれど」
ベルが、独り言のように小さく呟いた。
「これだけのお宝があれば、私の再起もそう遠くはなさそうね。ボロボロの黒猫ちゃんから始まった再出発にしては、上出来と言えるかしら」
先ほどまでの殺気は、すっかり消えていた。
ベルはポチの肩にひらりと飛び乗ると、高く積み上げられた財宝の山に満足そうに腰を下ろした。
どうやら、これだけの財宝を目にすれば、怒りも少しは収まるらしい。
ヨシトは小さく、誰にも気づかれないように溜息をついた。
そして、ようやく前を向いて歩き出す。
やがて一行は、遺構の巨大な石扉を抜けた。
眩しい日の光が降り注ぐ地上へ、ようやく帰還したのである。
そこには、遠巻きに遺跡を囲んでいた王の親衛隊と、彼らを率いるこの国の王の姿があった。
「おお……! あれは……!」
王が声を震わせ、椅子から立ち上がった。
視線の先には、ポチと、その背に積まれた大量の財宝がある。
騎士たちが何十人かかっても持ち帰れなかった財宝を、たった一体のゴーレムが平然と運んできたのだ。
王の側近や親衛隊たちが、驚きのあまり槍を落とす音が、そこかしこで響いた。
だが、誰よりも驚いていたのは、後方に控えていた王宮魔導士たちだった。
「な……馬鹿な。あの量は……何だ? ! 」
魔導士の一人が、顔を真っ青にして絶句する。
彼らは、ヨシトを「魔力を持たぬ無能」と嘲笑し、この遺跡を攻略不可能な呪われた地と断じていた。
自分たちが魔法を使っても、扉一枚開けられなかった場所。
そこから、ただの修理屋だと思っていたヨシトが、見たこともない巨大なゴーレムを従えて帰ってきたのだ。
「修理屋ごときが……! 何かの間違いだ! 幻覚か、それとも禁忌の術を……!」
必死に現実を否定しようと、魔導士たちは声を荒らげる。
だが、ポチが王の前で、轟音と共に財宝の山を下ろした。
「ドォォォォーーーン……! ! 」
大地が震え、舞い上がった埃が黄金の光を受けて輝く。
魔導士たちは何も言えなかった。
自分たちが開けられなかった遺跡から、ヨシトは大量の財宝を持ち帰ってきた。
その事実を前にして、歯噛みするしかなかった。
「見事だ、ヨシト! よくぞ、我が国の宝を取り戻してくれた! 」
王の歓喜の声が平原に響き渡る。
ベルは財宝の上に座ったまま、悔しそうな顔をしている魔導士たちを見下ろした。
そして、この上なく満足そうな笑みを浮かべると、ゴロゴロと喉を鳴らした。
こうして、不可能と言われた地下遺構の攻略は、一人の修理屋と一匹の猫、そして剣の精霊と忠実な番犬の手によって完遂されたのである。




