第22話 【攻略】星天の鍵を手に未知の地下遺構へ「王家の間」への道
王都に戻ってきたヨシトたち一行。
久しぶりに訪れた、城の謁見の間を支配するのは、肌を刺すような冷たい緊張感だった。
石造りの高い天井から垂れ下がる燭台の炎が、整然と並ぶ衛兵たちの甲冑を照らし、その光すら息を潜めているかのように揺れている。
だが、以前と決定的に違うのは、玉座に座る国王がヨシトに向ける視線だ。
そこにはヨシトを囲い込もうとする野心ではなく、切実な懇願の色があった。
王の瞳の奥に長年抱えてきた焦燥と、それでも最後に縋ろうとする静かな覚悟が滲んでいる。
「偉大な修理師ヨシトよ、急な呼び立てを許してほしい」
国王は重々しく口を開いた。その声は広間に低く響、柱の影まで届くようだった。
「……ヨシトよ、まずは詫びねばならぬ。どうやら私の知らぬところで、そなたに随分と無礼な振る舞いをしていた者たちがいたようだ」
傍らに控える宮廷魔導師たちは、屈辱を隠そうともせずに顔を背けている。
揃いの深紅のローブが、不快そうに微かに揺れた。
「いいえ、お気になさらず……それよりも陛下、僕への依頼というのは、地下の扉のことだと側近の方々に伺いましたが」
「左様。あの扉の先は広大な地下迷宮となっており、その最奥に王家の宝物庫があるのだ。だが、鍵が壊れて以来、我ら一族ですら何代にもわたり、宝物庫へ至る道は閉ざされたままなのだ」
長い沈黙の重みを帯びた言葉だった。
何代にもという言葉がヨシトの胸にじわりと落ちる。
それがどれほどの年月であるか、この王は誰よりも知っているはずだ。
国王の合図で、侍従が箱を運んできた。
深紅のビロードに覆われた台座の上に、中には銀色に輝く『星天の鍵』が鎮座していた。
かつてヨシトが【リペア】して、この城に戻された神話級の遺物だ。
その表面に刻まれた細かな紋様は、燭台の光を受けて星屑を散らしたように淡く瞬いている。
「そなたの直した鍵はここにある。……だが、これを魔導師団や王宮の家臣団に預けるのはいささか不安なのだ」
その言葉に、魔導師団長が激昂した。
静寂を破る怒声が、石の壁に鋭く弾ける。
「陛下、僭越ながら! このような一介の修理師風情に頼るなど、王宮への冒涜でございます! 」
「黙れ。其方らが魔法で直せなかった鍵の不具合を、彼はたった一人で直した。お前たちでは力不足だ! 理屈の通じぬ深淵に挑むには、其方らの見栄よりも、ヨシトの力が必要なのだと言うのがまだ分からぬか! 」
国王の一喝に、謁見の間は静まり返った。燭台の炎だけが、揺れ続けている。
魔導師団長は口を固く結び、悔しそうにそれ以上の言葉を飲み込んだ。
国王は再びヨシトに向き直る。
「ヨシトよ、宝物庫にある国宝を回収してほしい。引き換えに、望むだけの恩賞を与えると王の名において約束しよう」
ヨシトは黙って国王を見つめた。
正直に言えば、今すぐにでも旅の道へと帰りたい。
風の匂いも、知らない町の賑わいも、どこまでも続く地平線も、今は遠く感じる。
しかし、ヨシトには自分の腕をこれほどまでに信じ、必要としている国王の言葉を、無下に断ることもできなかった。
肩の上でベルが、フイッと興味なさげに視線を逸らす。「好きにすれば」という、彼女なりの合図だ。
「……分かりました。僕にできる範囲でわありますが、宝物庫への道を確かめてきます」
一行はそのまま、王城の最下層へと移動した。
階段を下るにつれ、空気は冷たく重くなっていく。
松明の光が届かない深さまで降りたところで、そこには、魔法を拒絶する巨大な漆黒の魔導扉がそびえ立っていた。
扉から滲み出る威圧感が、肌にまとわりつくようだ。
「『星天の鍵』をこちらへ……よし、行きましょう」
受け取った鍵からは、まるで旧い友人が、再会を喜んでいるかのような懐かしい脈動が伝わってくる。
ヨシトが鍵を回すと、カチリと澄んだ音が響いた。
数世代にわたって沈黙を守り続けてきた扉が、重々しく左右に開いていく。石が石を擦る低い音が、地の底から響くように広がった。
「開いた……!」 「あんなに簡単に……!」
驚愕する魔導師たちを背に、扉の奥からは古代の魔力を含んだ風が吹き抜ける。
それは懐かしいような、恐ろしいような、言葉では表せない温度の風だった。
迷宮という名の通路の先には、王家の宝と真実が眠っている。
「シルバー、ベル。行こう」
ヨシトは覚悟を決め、光の届かない暗闇の中へと一歩を踏み出した。
その先に、どのような秘密が待ち受けているかも知らずに。




