第17話 【解読】魔女ベルの本領発揮、力ではなく「知略で解く」太古の錠
リペアにより修復した石橋を渡り、さらに洞窟の奥へと進んだヨシトたち一行。
流れる水の澱みはさらに色濃くなり紫色の粘りは、まるで毛細血管のように不気味な脈動を始めていた。
そんな中をヨシトのランタンの光だけが、その地獄のような光景を照らしている。
だが突然、一行の行く手を阻むように巨大で機械的な『石の門』が現れた。
ゴツゴツと洞窟の岩肌と一体化したその門には、複雑怪奇な太古の幾何学模様が刻まれ、その中心には赤黒く光る魔導宝石が一つ埋め込まれている。
それには、物理的な隙間は一切なく、ただの力押しではびくともしないような、太古の封印術式が幾重にも施されているようだった。
「……主様、お下がり下さい。 これこそが私の出番です。この程度の障害、私が一太刀で……」
自信満々のシルバーの目がキラリと光り、白銀の剣の柄に手をかけ剣気を放とうとする、その時。
「ちょ、ちょ……あんた、ちょっと待ちなさいよ、このバカ脳筋精霊! こんな場所で、そんな野蛮な真似をしてみなさい、この洞窟ごと崩落して、みんな生き埋めになるわよ」
ベルがヨシトの肩の上で、焦ってシルバーを諌める。すると、シルバーの手が止まり、不機嫌そうに翡翠色の瞳を細めた。
「……では、ベル殿には、何か妙案でもあると言うのですか?」
「ふん、あんたとは頭の作りが違うのよ! まあ、見てなさい……ヨシト、降ろして」
ヨシトがベルを門の前に降ろすと、彼女は慣れた手つきで、門に刻まれた術式を肉球でなぞり始めた。
その目には、人の心を見破った時のような、鋭く深い光を宿している。
「これは見た感じだと、ただの扉じゃないわね。 魔力の周波数を特定の刻みで打ち込まないと開かない鍵、太古の共鳴錠よ。 今の時代の魔導師ごときじゃ、一生かかっても解けないでしょうけど……私なら開けられるわ! 」
ベルは門の中央にある宝石に爪を立て、リズミカルにコン、コン、と魔力を叩き込み始めた。
ベルから発せられる魔力が鍵穴の奥まで浸透し、複雑な太古のパズルを解き明かしていく。
「カチ、カチカチッ、カチ……」という、精密機械が噛み合うような機械音にも似た音が洞窟内に反響した。
「……さあ今すぐこの門を、開けなさい!そして 私の力の前に跪きなさい!このケチな門番!」
ベルが最後の一撃を打ち込んだ瞬間、赤黒かった宝石が鮮やかな蒼へと転じ、巨大な石門が音もなく左右へとスーッと滑り開いた。
「すごいよ、ベル! まさかこんなに太古の、見たこともない複雑な封印を解いちゃうなんて。喋るだけじゃなくて、魔法まで使える猫なんだね! 」
「あーら、当然よ。 私を誰だと思ってるの? この程度のただ古臭いだけの術式、大魔女である私の知識の前では裸同然だわ………えっ私今なんて言ったの……大魔女??? ……記憶が……………まあ、いっか??? 行くわよ、ヨシとシルバー! ! 」
ベルはしなやかにヨシトの肩へ飛び乗り、シルバーを横目で一瞥した。
シルバーは悔しそうに口を引き結びながらも、開かれた道の奥から漂う禍々しい気配に、すぐに意識を向けた。
「……主様、この門の奥に何者の邪悪な気配が……。 おそらく水を汚す、不浄な心臓の音が聞こえているようです」
未だにこちらの存在に気づく様子もなく、水底の奥深くでただ深く蠢いている、圧倒的な異形の存在。
その邪悪の正体を確かめるべく、ヨシト達は静まり返る暗闇の奥へと、静かに視線を向けたのだった。




