第16話 【架橋】瓦礫を素材に修復、崩れ去った「完璧な石橋」を架けろ
「キィィィィィッーーー!」
鼓膜を震わせるような、嫌な金属音があたりに大きく響き渡る。
太古の鉄のトロッコは、終着点である洞窟前のプラットホームの車止めに激しく激突して急停止した。
「……死ぬかと思ったわ。 もう、トロッコは懲り懲りだわ。ヨシト、次からはもっとブレーキを重点的にリペアしなさいよね……」
ベルがふらふらとヨシトの肩から降り、湿った地面に足をつく。そこは山頂付近に口を開けた、巨大な天然洞窟の入り口だった。
トロッコのレールはここまでだ。ここから先は、水の流れる音を頼りに洞窟の中へ徒歩で進んで行くしかない。
「ごめんね、ベル。 でも、トロッコも必死に走ってくれたんだ。……それより、見て。ここからでも、もう気づく位に、水の匂いがおかしいんだ」
ヨシトの視線の先には、洞窟の奥から弱々しく流れ出す細い水路があった。
かつては街を潤す清流だったはずだが、今や粘り気を帯び、水面には不気味な紫色の油膜が浮いてしまっている。
ヨシトたち一行はランタンを掲げ、湿った岩肌をなぞりながら慎重に洞窟の中へと入って行く。だが、数百メートルも進まぬうちに、道は唐突に途絶えた。
「……あら。 どうなってるのこれ? 道が途切れちゃってるわ。ここからは、どうすればいいのよ?」
ベルが呆れたように声を上げる。目の前には、底の見えない巨大な縦穴が広がっていた。
かつてはその上を、彫刻が施された石造りの橋が渡してあったようだが、今では中央部が無残に崩落し、両端にわずかな残骸を残すのみの痛々しい姿となっている。
「道具も材料もないこんな場所で、この大穴をどうやって渡ったらいいのかしら? ヨシトのリペアは、材料自体がないと、どうにもならないんでしょ?」
「よく見てよ、ベル……材料なら、そこら中に落ちてるでしょ」
ヨシトは不敵に微笑むと、崩落して穴の縁に引っかかっている石材や、長年堆積した岩の破片を拾い集め始めた。
ヨシトにとっては、石の破片一つ一つがパズルのピースのように見えていた。
どの角とどの角を合わせれば、本来の強度が蘇り、術式が再連結されるのか、彼の頭の中では全てが完璧に組み立てられていたのだ。
「……よし。 ベル、シルバー、少し離れてて。 これで大丈夫だよ……リペアッ!」
ヨシトが膝をつき、橋の土台に手を触れた。
一瞬、洞窟の闇を払うような柔らかな白光が溢れ出す。
バラバラに転がっていた石材が、まるで磁石に吸い寄せられるように空中に舞い、あるべき場所へと収まっていく。
欠けていた石彫刻が復元され、石と石の継ぎ目が、分子レベルで再融合していく。ヨシトの指先がなぞるたび、死んでいた石橋に再び淡い光が灯り始めた。
「……信じられないわ。橋の材料もセメントもなしに、元の石像より綺麗に繋がってるじゃない」
ベルが驚愕する中、数分もしないうちに、奈落の谷の上には一筋の高潔で頑強な石橋が元通りに架け直されていた。
「これで完璧だよ。これでまた、渡れるはずだ」
ヨシトは満足げに頷き、完成した橋の強度を確かめるように一歩を踏み出す。
だが、橋が直りヨシトたちが侵入したことで、洞窟の奥に潜む何者かが、明確な拒絶反応を示し始めた。
「ズズッ…、ズザザザ……、ザザザザ………!」
洞窟のさらに奥から、地響きと共に湿った不気味な音が響いてくる事にヨシトたちは、まだ気づいてはいなかった。




