第11話 【旅立】地位も名誉もいらない僕は「自由な世界」で生きる道を選ぶ
「……ねえ、ヨシト。外を見てみなさい。 昨日まで貴方の事をドブネズミ扱いしていた馬鹿な連中が、今や貴方を 『奇跡の手』なんて呼んで、お祭り騒ぎよ」
ベルが王宮の豪華なソファーの上でゴロゴロと喉を鳴らしながら、窓の外を指差して笑った。
謁見の間で、ボロボロだった先代の玉座を、わずか数分で完璧な【リペア】によって国宝級の芸術品へとヨシトが戻してみせた、その翌日。
ヨシトとベルが滞在する迎賓館の前には、彼を一目見ようとする貴族や、壊れた宝飾品を抱えた王都中の名士たちが長蛇の列を作っていた。
「……困るよ、ベル。僕はただ、静かに工房で修理をしながら、道具をいじっていたいだけなのに」
思いがけない騒ぎに、ヨシトは頭を抱えていた。
そこへ、ノックもそこそこに一人の男がズカズカと踏み込んできた。 かつてのヨシトの元雇い主、『勇者レオン』である。
だが、以前のような威圧感はない。その顔には、必死さと卑屈な笑みが張り付いていた。
「ヨシト! ……いや、ヨシトさん。昨日は失礼した。 すべては馬鹿で世間知らずのミアが勝手にやったことなんだ。オレは止めていたんだよ。 ……なあ、お前はもともと、オレのパーティの専属修理師だっただろう? 」
「……またか、レオン。今度は何の用なの? 」
「お前をオレのSランク勇者パーティ『栄光の輝き』の特別顧問として復帰させてやる。 もちろん、待遇は前の10倍……いや20倍出そう。 だから……今すぐ、オレの聖剣を直してくれ。 あの椅子を直した時のように、ささっと磨いて叩けば、 また斬れるようになるんだろう? 」
レオンは床に這いつくばるような勢いで、ボロボロの聖剣を差し出してきた。
それはもはや修理の依頼ですらない。
自分の地位を守るためだけの縋り付きだった。
「……さっさと断りなさい、ヨシト。 この厚顔無恥なガラクタはうるさいだけの男よ」
ベルが毛を逆立てて威嚇する。
だが、レオンの後ろから、今度は王宮の使いが巻物を広げて現れた。
「ヨシト殿! 国王陛下よりのご伝令です。 貴殿を『王宮筆頭家具修繕官』に任命するとの仰せ! 以後、貴殿の技術は国家の財産として保護されます!」
「な……っ!? この男を王宮が独占するつもりなのか!? ヨシトはオレの……!」
レオンと王宮の使いの者が、ヨシトの意志など無視して、 目の前で口論を始めた。
ヨシトは、その騒音を耳にしながら、じっと自分の掌を見つめた。みんなが欲しがっているのは、僕じゃない。 僕が持っている便利な手だけだ。
「……ごめん。申し訳ないけど、僕は誰の所有物にもなりたくはないんだ!」
ヨシトの静かな声が、室内の喧騒をピシャリと止めた。
「僕は修理師だ。直したいと思ったものを直す。 ……それ以外は、王様でも勇者でも、だれの言うことでも指一本動かさない。 ……ベル、行こう、ここは少し騒がしすぎるよ」
「……決まりね。さあ、窓から逃げるわよ。 一流の職人には、自由で広い世界がお似合いだわ!」
ヨシトは混乱する人々を置き去りにし、ベルと共に王宮の窓から活気あふれる喧騒へと飛び出した。
彼が選んだのは、地位でも名誉でもなく、一人の自由な職人としての道だった。
ヨシトの新しい旅立ちが今始まろうとしていた。
第一章をお読みいただきありがとうございます!
次話からの第二章は、最強の美少女精霊・シルバーが仲間になってしまい、行く先々で壊れた古代兵器や落ちぶれた街をリペアすることに!?
ヨシトの無自覚無双な旅はさらに加速していきます!
第二章もよろしくお願いいたします!




