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AIお仕事日誌 ~高校二年生になってください~  作者: せんちゃん


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第19話 広告が主役になってます

クリスマスの熱気が去り、オフィスには早くも年末特有の慌ただしさが漂い始めていた。朝霧ひまりのSNSアカウントは、フォロワーが一万人を突破した余勢を駆って、数多くの企業からタイアップ案件のオファーが舞い込み続けていた。

本来、ひまりは「普通の高校二年生のリアルな日常」を切り取るアカウントだったはずだ。しかし、あまりにも案件が殺到した結果、最近のタイムラインはどう見てもインフルエンサーの商業用アカウントの様相を呈していた。

月曜日は新作のコスメ、水曜日はコンビニのコラボスイーツ、金曜日は冬用のスキンケアクリーム。ひまりの日常を描くはずのスペースが、次々と送られてくる商品の紹介で埋め尽くされていく。

俺は自分のデスクで、頭を抱えながらモニターを見つめていた。画面の中のひまりは、満面の笑みで新しいリップクリームを頬に当てている。だが、その背後にあるはずの教室の風景や、日常の空気感が、宣伝する商品の圧倒的な存在感にかき消されていた。

おい雨宮、お前のところのひまりちゃん、完全にビューティー系のインフルエンサーになっちまってるぞ。

隣の席から、神谷が呆れたような顔で声をかけてきた。神谷の担当する男子高校生アカウントも、筋トレ用のプロテインやスポーツドリンクの案件を抱えていたが、まだ日常の延長線上として見せることができていた。しかし、ひまりのコスメやアパレルの案件は、どうひいき目に見ても「広告が主役」になってしまっていた。

分かってるよ。でも、クライアントからの要望が細かいんだ。商品のロゴは必ず画面の三割を占めるようにとか、使用感が伝わるアップの写真を入れろとか、指定が厳しすぎて日常のストーリーに組み込む隙間がないんだよ。

俺が頭をかきむしっていると、いつものように背後から部長が忍び寄ってきた。その視線がモニターを捉えた瞬間、オフィスの空気が一段と引き締まった。

……これはひどいな。

部長の低い声が響いた。

まるでテレビショッピングのワンシーンだ。朝霧ひまりという少女の物語のなかに、企業の商品が溶け込んでいるのではなく、商品を紹介するためにひまりという人形が使われている。これではフォロワーはすぐに違和感を覚え、離れていくぞ。主客転倒だ。

美咲も資料を持ってやってきて、深刻そうな表情でうなずいた。

部長の言う通りよ。昨日のコスメの投稿、コメント欄を少し見てみなさい。『最近PR多くない?』『なんかステマっぽくて残念』という声がちらほら出始めているわ。せっかく築き上げてきた信頼関係が、商業主義に飲み込まれて壊れかけているのよ。

俺は冷や汗を流しながら、コメント欄を確認した。そこには、確かにファンたちの微かな戸惑いの声が書き込まれていた。ひまりの日常を愛してくれていたフォロワーたちは、過剰な広告の匂いに敏感に反応していたのだ。

じゃあ、どうすればいいんですか。案件をすべて断るわけにはいかないでしょう。

美咲は腕を組み、冷静に言った。

断る必要はないわ。要は、見せ方の問題よ。広告であることを隠すのではなく、むしろひまりの日常の悩みや、友達とのやり取りのなかに自然に商品を溶け込ませるのよ。例えば、肌荒れに悩むひまりに、結衣がそのコスメをこっそり教えてくれるというミニストーリーを挟むとかね。

なるほど……。商品が主役ではなく、あくまでひまりたちの友情や日常を解決するための『小道具』として使うわけですね。

そうだ。主役はあくまでひまりだ。企業の商品はその物語を引き立てるスパイスに過ぎない。広告を主役にするな。物語に広告を従わせろ。

部長のその言葉は、俺の頭の中にあった霧をすっきりと晴らしてくれた。

俺はすぐに方針を切り替え、新しいプロンプトの作成に取りかかった。次の投稿は、冬の乾燥肌に悩むひまりが、図書委員の結衣から「これ、おすすめだよ」と小さなハンドクリームを貸してもらうという日常の一コマだ。もちろん、そのハンドクリームはクライアントの指定する商品だが、画面の主役はあくまで二人の微笑ましいやり取りである。

画像生成の難易度は相変わらず高かった。二人の自然な距離感、図書室の静かな空気、そして手元にある商品のパッケージが自然に見える角度。何度も試行錯誤を繰り返し、ようやく完璧な一枚が出力された。

放課後の静かな図書室。夕日の差し込む窓際で、結衣にハンドクリームを塗ってもらい、「うわ、いい匂い!」と嬉しそうに笑うひまり。商品のロゴはさりげなく写り込んでいるが、そこにいやらしさは一切ない。

俺は慎重に文章を整えた。

最近寒すぎて手がカサカサになってたら、図書委員の結衣がこっそりお気に入りのハンドクリーム貸してくれた。いい匂いだし、一気にしっとりして感動。結衣、ありがとう! PR。

投稿ボタンを押す。数分後、コメント欄の様子を確認した。

結衣ちゃん優しい! 二人の仲良しエピソード癒される。

そのハンドクリーム、私も気になってたやつだ。ひまりちゃんが使ってるなら買おうかな。

PRだけど、ちゃんと二人のお話になっててすごく自然で好き。

不安だったコメント欄には、広告に対する不満ではなく、ひまりと結衣の関係性を称賛する温かい言葉が並んでいた。

見事な軌道修正だった。美咲が満足そうにうなずき、部長も小さく首肯した。神谷も、やるじゃねえかと親指を立ててくれた。

広告が主役になってしまうという危機を乗り越えたことで、俺たちは改めて「キャラクターを動かすことの本質」を学んだ。どんなに大きな商業的圧力がかかろうとも、そこに確かな日常のドラマと人間関係が息づいていれば、フォロワーはそれを愛してくれる。

窓のないオフィスで、俺たちは今日も架空の少女の日常を守り抜いた。年末の忙しさはまだまだ続くが、今の俺なら、どんな難しい案件が来ようとも完璧に物語の一部として昇華できる自信があった。さて、次は年末年始の帰省や初詣のエピソードの準備に取りかかろう。俺の頭の中では、すでに新しい設定のページが鮮やかに描き出されていた。

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