第七話 高貴なる花、咲き誇る場所!
ファミレス。時刻は15時過ぎ。お昼時を過ぎた店内は少し閑散としていた。ボックス席に座る宝城玲花。向かいの席には…陰山木葉が座っていた。
「ごめんね、急に呼び出したりして」
口を開いたのは木葉だった。
「少し気になったことがあって」
木葉の口調は優しかった。
「気になること…ですか」
一体、何のことだろうか。彼女も役割に関して意見があるのだろうか。
以前の戦いから1週間。その間に一度戦いがあり、玲花主体での戦闘を行い、無事に色を失った人間を救い出した。天晴とは…ロクに口を聞けなかった。学校でも顔を合わせるがそれだけだ。
「宝城さん…悩んでることある?」
木葉の問いに驚いた。まさか、気付かれるとは…。
「さぁ…どうでしょうか。」
はっきりとしない物言い。ドリンクバーから取ってきたレモンティーを口にする。焦っているのかあまり味がわからない。最近、疲れているような感覚があるのも関係しているのか。
「きっと、宝城さんは弱いところとか人に見せないんだよね」
木葉は続ける。
「わたし、宝城さんに適任じゃないって言われて…凄く悔しかった。けど、少し安心もしたの。」
…何を言い出すんだろうこの人は。一体、どういうつもりなのだろうか。
「そう…ですか」
適当な相槌。視線を窓の外に向ける。
「うん。正直なところ、あんまりああいうまとめ役みたいなのって得意じゃなくて」
わかってます。とは言わなかった。
「宝城さんがまとめてくれるってなって助かった…って思ったの…悔しいけど」
「…それは良かったです。私は助けになったわけですね。」
沈黙。
玲花が口を開く。
「すみません陰山さん。なぜ、私を呼び出したのか、それを教えてください」
単刀直入に聞いた。疑問でしかなかった。
木葉はコーヒーに口をつけ、一息ついて口を開いた。
「わたしたち似てると思って」
OP
「え?」
声が出てしまった。
私と陰山さんが似ている?一体、どこが似ているというのだろうか。理解に苦しむ…。
木葉が慌てたような表情をして言葉を紡ぐ。
「ご、ごめん!どこが?って思ったよね。ちゃんと説明するから」
息を整える木葉。
納得いく説明などできるのだろうか?
「こう…抱え込みすぎちゃう…1人で悩んじゃうっていうか…」
言語化に必死な木葉。
この人に…私の何がわかるのだろう。こんな考え方したくはないが、背負っているものが違う。明確に立つ場所が違うというのに。
「陰山さんは、私の何をわかっているのでしょうか。」
木葉がひきつった顔をする。
ダメだ、口に出してしまった。
「ごめんなさい。嫌な言い方でしたね。」
謝罪。取り繕うような感じになってしまったが仕方がない。
「ううん。いいの。だって、初めて会ってからそんなに経ってないし、いきなり訳知り顔で話されたら嫌な気分になるよね」
微笑みながら話す木葉。
この人の話し方は苦手だ。人に寄り添おうとしている感じが滲み出している。必死さのようなものを感じてしまう。人を導けるような人間ではない。
「えっと…そう思った理由の続きなんだけど」
目を見て話してくる。いつもなら目を合わせるのだが、今日は出来なかった。ティーカップに口をつける。
「戦いの責任をさ、自分一人で背負おうとしてるでしょ。」
何も言えない。意外と人をよく見ているんだなこの人は、と思った。
「自分がやらなきゃ…ってなってるよね。わたしもそうだったんだ」
覚悟が違う。貴方と一緒にしないでほしい。
「わたしが仕切ろうとした時があったでしょ?あれ、自分が一番年上だし、陽向くんや十六夜ちゃんがあんな感じで、宝城さんのこともあまりよくわからなかった。だから、ああしたの。」
そういうことだったのか。玲花は納得した。実際、あの時点で木葉をよく知らなかったが、無理をしていそうだというのは何となく察していた。
「でも、すぐしんどくなっちゃって。凄く疲れた。で、宝城さんが仕切ってくれて助かったの。」
…何の話かわからなくなってきた。
「話が散らかってきていませんか」
木葉の目を見て言う。彼女の肩が少し揺れた。と、目が力強くなったのを感じた。
「前に爆発から陽向くんと十六夜ちゃんをバリアで守ったことあったでしょ」
「ええ、ありましたね。間一髪間に合いました。」
「あの時は言わなかったけど…ヒビ入ってたよねバリアに」
「…」
「あの時の宝城さん、完全に上手くいったって顔してたけど、危なかったんだよね本当は…息が荒かったし…」
そこまで気づいていたのか…。
「宝城さんさ…無理をしてない?自分から目を逸らしてない?」
何?どういうこと?私は…自分のことを見ている。わかっている。宝城家の一人娘として、人を導ける人間として振る舞おうとしている。
またティーカップに口をつける。テーブルに置く時、少し音が立った。手が…震えている?息も少し荒くなっている気がする。
呼吸を整える。
「そうだったとして、何か問題が?上手く行っていた、という結果は覆せません」
「あるよ」
木葉の言葉は力強かった。
「何があるっていうんですか⁉︎」
声が大きくなってしまった。
店内の視線が集まった気がした。ダメだ、落ち着かないと。
「このままだと…きっと疲れちゃう。わたしみたいに」
私は貴方のようにはならない!…口にしかけたが抑える。落ち着け…。
「私は宝城家の一人娘です」
木葉への反論だったのか自分に言い聞かせるためだったのか、どちらかわからないが口にしていた。両方かもしれない。
「わ、私は…私は…」
言葉に詰まった。
恵まれた人間として、人を導ける人間になるために、こうして…。
「わたし、宝城さんによりかかってる」
…急に何の話だろう。
思考が少し吹き飛んだ。
「だからさ、宝城さんもわたしに…他の2人にもよりかかっていいんじゃないかな」
わかってる。そうすれば楽になるって。
「たった4人だから、助け合おうよ。みんなで頑張ろう?」
それが出来たら私は…
玲花は立ち上がっていた。震える手で代金をテーブルに置く。
「ごめんなさい、陰山さん。お暇させていただきます。本当に…ごめんなさい」
足早に店から出た。
木葉が呼ぶ声が聞こえたが聞こえないふりをした。
無意識に走っていた。何処に向かっているのか自分でもわからない。息が苦しい。走ったからなのか、精神的なものなのか。足を止め、呼吸を整える。
「あれ、宝城?」
声の方に振り向くと…天晴がいた。
「…陽向くん」
彼と話すのは公園で別れて以来だった…。
辿り着いていたのは駅前だった。出会って少しの沈黙の後、話がある…と誘われ、少し歩いた先にあるベンチに天晴と座る。人がまばらに歩いている。
顔は見れなかった。視線は地面にむけていた。心は少し落ち着いた。
途端に彼が口を開く。
「この前はごめん」
謝罪だった。
「あんな言い方するつもりなかったんだけど…なんつーかどうしても宝城のやり方に納得出来なくてさ…で、あんな風に…本当、ごめん」
ふと天晴の顔を見ると見たこともない悲しい表情をしていた。
「気にしないでください。反感を買う可能性も…考えていましたから」
淡々と答える。頭の中で木葉に言われたことが渦巻いている。
「うん…でも…ワガママかもしれないけど、やっぱりやり方、少し変えられないかな」
天晴の顔は本気だ。
「俺さ、宝城のことすげぇと思ってる。指示は的確だし、落ち着いてるし。宝城の言うこと…信じられるよ」
その言葉に嘘は無さそうだった。
「それにさ!みんなで頑張るって感じの雰囲気が混じったらもっと俺たち強くなると思うんだ!だからさ!」
素晴らしいまでの感情論。だが、これが陽向天晴のいいところだ。噛み合わないが。
「簡単には…変えられません。」
これが答えだった。急に変わるのは難しい。
「そう…だよな!悪い、なんか押しつけてるみたいだ…。俺、宝城のいいところ無理矢理無くそうとしてた…あーもう、どう言ったらいいんだよォ!?」
天晴の言葉にハッとする。
自分もそうではないか。管理しようとしていた。個人の良さをわかった上で都合よく使おうとしていた。木葉はこのことを言おうとしていたのだ。私自身の良さに関しても。あまりにも独りよがりではないか。
「陽向くん」
「どうした宝城?」
玲花は深く息を吸う。胸の奥から一つ、言葉が湧き上がってきた。しかし、喉でつかえてしまう。ダメだ、口にしなきゃいけない。
「ありがとう」
たった一言、重みがあった。
「よくわかんないけど、どういたしまして!」
軽い返答。天晴らしいと玲花は思った。
「陽向くんのいいところ。私知ってます。」
一呼吸置く。
「私のためにそれを使ってくれませんか」
天晴がニヤリとする。
「アッパレなお願いだな!まぁでも」
でも?
「宝城だけじゃなくて、陰山さんと十六夜ちゃんのためにもな!」
そうだ、その通りだ。…と、あの感覚が襲ってきた。
脳がひりつく!2人は急いで人目のない路地裏に向かった。
「陽向くん」
「どうした宝城?」
「先程も言いましたけど、上手く出来ないかもしれません。私の主義に反しますし、少し…怖いです…だから…」
いざ口にするには勇気が必要だった。拳を強く握ってしまう。
「頼ってもいいですか?」
わずかに震えた声だった。
「何言ってんだよ!チームじゃん?俺たち」
心地よい返答だった。
「アッパレですね」
玲花は笑いながら言った。
「いいね宝城!よっしゃ行くか!」
空間が捩れた。
あの空間。4人立っている。
「宝城さん!」
木葉が叫ぶ。玲花は彼女のほうに身体を向けた。
「陰山さん。私は…私のことを見ていませんでした」
声が震える。弱さを認めるのは…怖い。
「正しい自分を取り繕うために、嘘をついていたかもしれません」
「宝城さん…」
「だから…皆さんと"一緒に"戦わせて欲しいんです」
断る者はいなかった。
「…うん!」
木葉。
「いくらでも!」
天晴。
…十六夜は黙っていた。どうしたのだ?
「自分を…見ていない…」
何か呟いていると思いきや。
「構わん。この十六夜紫電がお嬢の支えとなろう」
応えてくれた。
「皆さん…ありがとうございます!」
頭を深々と下げる玲花。
「まただ、探す手間は必要ないようだ」
十六夜の声に顔を上げる。
十六夜の視線の先には銀色の…鎧?を纏ったような怪物がいた。周りには透明な影が出現している。
「よっしゃ!じゃあ、あの色を戻すために!」
天晴が声を出す。
「はい…皆で!」
玲花は応え、それに合わせて皆が絵の具を構え、武器を出現させる。
「「「「彩色顕媄‼︎‼︎」」」」
姿を変える!
「敵の戦い方は分かりません!いったん様子を
…!」
いけない…これでは前と変わらないではないか。
「どうした宝城!?いつもみたいに指示くれよ!」
天晴が叫ぶ。
…そうだ。皆は指示を出すことには何も不満を出さなかった。出し方に不満があったのだ。
「はい!いったん様子を見ます。陽向くんと十六夜さんは前に出ず、あくまで迎撃を考えてください!」
天晴と十六夜は従い、その場で様子を見ている。
「陰山さん、弓で敵に攻撃を仕掛けてください。何か反撃があれば私が防ぎます」
「任せて」
木葉が弓を構え銀色の敵に矢を放つ!
…が鎧が堅牢なのか弾かれてしまった。
「鎧の強度は中々の物のようですね…」
さて、どうするか。
考える暇はなかった。銀色の敵は影を引き連れてこちらに突っ込んできた!
「うお!そんなパターンあるのかよ!」
焦る天晴。
「当たって砕けろの精神か…?とにかく迎え撃たねばならんぞお嬢!」
十六夜は冷静だった。
「わかっています。とにかく影たちをどうにかしましょう。陰山さんいけますか!?」
「うん!やろう!」
2人は杖と弓を構え、影たちに狙いを定めた。光弾と矢が影たちを襲う!数は着実に減る!奥の方に人が倒れているのが見えた。あれが今回の被害者か…?
「手薄になりました!陽向くん、十六夜さんお願いします!」
玲花の声に2人は突っ込んでいく!
「アッパレ、あの技を使う」
「え?あの技?」
「伏せろ!」
「あっ!アレか!」
天晴は素早く身を伏せた!
『十六夜流剣技 雷鳴轟轟!』
周りの影たちを斬り伏せる!
と、隙をついて銀色の鎧は襲いかかってきた!
「やばい!十六夜ちゃん!」
十六夜の息は上がっていた。起き上がった天晴が槍を向けるも間に合わない!
しかし、鎧は体勢を崩した。緑色の閃光が敵にぶち当たった。
「陰山さん…!」
玲花の行動は一手遅れていた。が木葉の咄嗟の攻撃によりことなきを得た。
「…次、関節を狙ってみる」
木葉の言葉にハッとする。確かに…関節部分に鎧はない…。
「喉元…狙えますか?」
「やってみる!」
玲花の問いに木葉は力強く応えた。
「陽向くん!十六夜さん!敵の動きを止めて!」
2人は頷き、敵との距離を一気に詰めた!
決定打にはならないが槍と刀の応酬が敵を襲う!
「陰山さん!」
玲花の合図に木葉は矢を放った!
『サイレントアロー!』
矢は確実に敵の喉元を貫いた!
爆発、銀色の光が飛んでいき、天晴と十六夜の姿は見えなくなる。
爆炎が薄くなり、2人の姿が見えた。バリアに守られている。その奥で、人間に色が戻っていくのが見えた。
「今度は間に合いましたよ」
玲花は1人呟いた。
「やっぱり頼りになるね宝城さんは」
木葉の声。
「陰山さん…申し訳ございませんでした」
「ううん。これからは一緒に頑張ろ?そうしてくれれば、わたしはそれでいいから」
木葉は微笑んだ。玲花の心はスッと軽くなる。
「ありがとう…ございます!」
光に包まれた。
路地裏。
玲花と天晴は向き合っていた。
「やっぱ凄えな宝城は」
天晴の言葉に玲花は少し俯いた。
「いえ…皆さんの力があってこそです」
わかった。指示を出すのは誰かがいなくては成立しない。応えてくれる者がいなくては成立しない。一番見えていなかったのは自分よりも周りだったかもしれない。
「とにかくさ、またよろしくな宝城!」
天晴が笑顔で手を差し出す。
「はい…よろしくお願いします。陽向くん」
少し躊躇いながら玲花は天晴の手を取った。
木葉と十六夜の顔が浮かぶ。彼女たちとも、もう一度…。そう思った。
次回ッ
第八話 RGGV、共闘4色!




