第六話 盛り上がれ天晴!
冬休みは終わった。新学期。と言っても高校3年生で、既に大学も決まっている天晴にとっては消化試合のようなもの…なんかじゃ決してなく、楽しく過ごすための限られた時間だった。昼休み、試験をまだ控えている級友たちを盛り上げる。
「皆、大丈夫だって!自分を信じればアッパレな結果が出てくるさ!」
ハイテンションな俺の声が教室に響く。
その言葉に励まされる者、鬱陶しく思う者、様々だった。気持ちを盛り上げよう!それが天晴の人生論のようなものだった。
でも、盛り上げられないものがあった。隣の席の宝城玲花…。この前の戦いで、凄く的確な戦闘指示をしてくれたんだけど、何か引っ掛かる。
陰山さんの表情はかなり暗くなっていたし、こう…みんなでやってる、団結してるみたいなのを感じられなかった。
「なぁ、宝城」
俺が声をかけると宝城はこっちを向いて微笑した。
「どうしました陽向くん」
目が笑っていないような感じがする…。
「この前の…公園でのことなんだけどさ。後でちょっと話したいんだ。いいか?」
少し、宝城の表情が強張った…気がした。気のせいかもしれない。
「構いませんよ。では…放課後にでも」
「ああ、ありがとう!」
俺は思った。今のままじゃダメだ。盛り上げる必要があるって!
OP
放課後。宝城と話すために、俺はこの前の公園へと向かっていた。学内で話したり、一緒に帰ったりすると、戦いの話を聞かれてしまうかもしれないので、別々に向かうことにした。
公園にたどり着く。宝城は…まだ来ていないみたいだな。
この前と同じベンチに座る。
この前の戦いの後、陰山さんのことが心配になってSNSで
『大丈夫ですか?元気なさそうな気がして』
って聞いてみたけど
『ちょっと戦いで疲れちゃったのかな?心配かけてごめんね。わたしは大丈夫だよ』
と回答が返ってきた。そんなわけは無い、と思っていた。あの日、去っていく陰山さんの後ろ姿は凄く寂しそうに見えた。
空気が良くないよな。
俺が導き出した問題はそれだった。解決せねばなるまい!気合い入れていくぞ!
「お待たせしました」
振り返ると宝城がいた。少し息が上がっている。走ってきたのか?
「少し、高橋さんから相談を受けてしまって、遅くなってしまいました。ごめんなさい」
高橋っていうのは、クラスメートの1人だ。宝城はよく人から相談を受けている。
彼女は謝りながらベンチに腰かけた。さて、本題に入らないとな。
「悪いな来てもらって。でも、どうしても話しておきたいことがあったんだ」
宝城の目を真っ直ぐ見て言う。彼女も真っ直ぐこちらの目を見ている。
「話しておきたいことですか?変なこと言いますね陽向くんは」
宝城は笑ってみせた。…なんだ?変なことか?
「もう…この前、ここで話し合ったばかりじゃないですか。役割も明確になりましたし、これ以上に話すことってありますか?」
玲花の顔から笑みが消えた。少し背筋が凍る感覚があった。なんというか…話させてもらえないような空気が感じられる。
…が気圧されるつもりはない!
「ある!なんていうかさ、俺たちチームの雰囲気ってか…空気の話なんだ」
「何か問題がありますか?」
宝城の言葉は凄え冷たく感じた。絶対に折れないような感じがする。
「問題ある!」
強くいった。ここで退いたら何も解決しない。宝城は少しビクッとした。
「空気っていうとうまく説明できないんだけど…とにかく、前と比べて一緒に戦ったりしてる感じっていうか…盛り上がってる感が無い!って思ったんだよ」
とにかく感じていることを伝える。返答はない。
「なんかさ、初めて一緒に戦ったときとかよりも…暗くね?もっとさ、こう、ガンガン行く感じがいいと思うんだよ!」
必死に語る。無意識に声が大きくなってる気がした。
「で、具体的にどうしたいんですか。それを言ってくださらないと、こちらとしても対応も何もできませんが」
淡々とした答えが返ってくる。えぇと…具体的に…?
頭をフル回転させる。俺がしたいのはみんなで盛り上がって戦うことだ。そのほうが多分うまく行くと思ってる。陰山さんの後ろ姿が頭をよぎる。ああいうのはダメだ。
「みんなが笑顔でいられるようにしてほしい」
それが要求だった。いや、自分でやるつもりでいた。
宝城はため息をついた。
「笑顔でいられるように…ですね?わかりました、ではどうやって?要求だけされて放り投げられても困ってしまいます」
マズい…何も言い返せない。
「大体、この前の戦いでみなさん私のやり方に賛成されていましたよね。実際のところうまくいったわけですし。今更、後出しで雰囲気がどうのと言われても、前回の結果がある以上、それは大した問題ではないかと思いますが…どうでしょうか」
つらつらと宝城の口から言葉が出てくる。
そうかも、そうかもしれないけど!俺は…。
「次の戦いの時はどうするんだ?」
問いかけていた。
「急になんですか…。勿論、前回と同じように行きます。そうすればうまく行きますよ」
真っ直ぐな言葉だった。折れそうにはない。
「なあ、宝城ってそんなに冷たいヤツだったか?」
思っていたことがある。
「クラスだとさ、すげえ周りのこと見てて、相談とか乗ったりしてて、いいヤツだなって思ってたんだよ」
本音だった。だから最近の宝城に対して違和感を覚えていた。彼女は口を開く。
「私は役割を果たしているだけです。その時、その場所によって見え方が違うのは当然のことですよ」
「でも!あまりにも違いすぎるだろ!いつもみたいにできないのか!?」
声は大きくなる。自分でも感情的になっているのがわかった。
「何処でも同じように振る舞えるほど簡単ではないんです」
答えは返ってくるが、ダメだ埒が明かない。頭が痛くなってきた…。
いや違う。痛いんじゃない。
予兆だった。俺と宝城はほぼ同時に絵の具を取り出す。淡く光っている。
「そこまで言うのであれば一度、試してみてください。陽向くん、貴方のやり方というのを見せて頂きます」
彼女の口調は強かった。
「わかった!よく見といてくれよ!」
強く応える。
光に包まれた。
あの空間。陰山さんと十六夜ちゃんの姿もあった。前回以来、2人とは会っていなかった。陰山さんの表情は暗…くない?
「陰山さん」
取り敢えず声をかける。
「どうしたの陽向くん?」
前の姿は嘘のようだった。いつものように微笑みながら陰山さんは応えてくれた。俺の考えすぎだったのか?
と、彼女は宝城の存在に気がつくと萎縮したように見えた。
「じゃ、じゃあ今回はどうする宝城さん?」
慌てたように陰山さんが宝城に聞く。
「いえ…今回は陽向くんに色々と一任します。私は大人しくしていましょう。」
宝城の答えに驚く陰山さんはこちらに目線をやった。
「ま、そういうことなんです!ちょっと俺風にやらせてください!えーっと」
二人組の組み合わせを考えようとすると十六夜ちゃんが口を開いた。
「捜索の必要はない」
どういうことだ?と十六夜ちゃんの目線の先を見るとあの喋る怪人がいた。あの煙のオブジェクトを纏った怪人。傷は癒えているようだ。よりによってアイツが!
「会いたかったぜェ?カラフルヤローども」
ニヤリと笑う。
「よっしゃみんな行くぞ!」
俺の掛け声に合わせて皆が構える。
「「「「彩色顕媄‼︎‼︎」」」」
姿が変わっていく。赤、緑、金、紫の4人の戦士がその姿を現した。
「さァ、リベンジさせて貰うぜ!」
煙の怪人が叫ぶ。
「来ォい!セルズ!」
怪人の周りから透明な影達が現れ始めた!
「よし!まずは透明なのを蹴散らすぞ!」
槍を構えて俺は走り出した!十六夜ちゃんが着いてくる。
「えっ…わたしたちは?」
陰山さんが何か呟いたが聞こえていなかった。
「陽向くん!わたしたちはサポートするよ!」
陰山さんの声にハッとする。
「お願いします!」
そう答えて十六夜ちゃんと共に走る!
「宝城さん…陽向くんと十六夜ちゃんの動きを見てバリアとかお願い。」
木葉が玲花に頼む。
「いいですよ。どういう算段なんですかね陽向くんは」
杖を構えた。
前線に突っ込み影達を屠っていく俺と十六夜ちゃん。戦いの中で俺たちの息は少しだけ合ってきていた。
「いいぞ十六夜ちゃん!流石だ!」
「アッパレも中々やる!」
あの怪人の方に目をやると姿がなかった。文字通り煙のように姿を消していた。
叫び声が聞こえた。振り返ると陰山さんと宝城の元に怪人はいた。いつの間に!?
「マズいぞアッパレ!」
十六夜ちゃんは珍しく焦った顔をする。
「わかってる!急いで戻ろう!」
走り出そうとした時、影達が数を増やした。妨害しようっていうのか!?
「くそ!邪魔すんなよ!」
「仕方あるまい…伏せろアッパレ!」
十六夜の言葉に俺は即座に伏せた。
『十六夜流剣技 雷鳴轟轟!』
その場で横一回転しながら刀を振り切る。なんと斬撃が飛び、影達を一掃した!
「十六夜ちゃんナイス!急ごう!」
2人で走り出した。つもりだった…彼女は膝をついている。
「どうした!?」
攻撃を受けていたような素振りはなかった。
よく見ると衣装の色が薄まっていた。
「どうやら…あまり気合を入れて攻撃すると消耗するようだ…」
十六夜ちゃんが言う。そんなことあるのかよ…。
「すまないアッパレ…私は…動けん」
「わかった!俺1人でむかう!」
俺は走り出した。
「お前ら先に潰しときゃよォ、残りの2人は後でどうとでもできるよなァ?」
煙の怪人はそう言う。煙のように体を変化させ宝城たちのほうに移動していたのだ。
「宝城さん!離れよう!」
陰山さんが叫んでいる。その言葉に宝城は距離を取る準備をする。
「いや、逃さねェよ?」
怪人の手が伸びていた!あわてる宝城。でも、捕まったのは彼女ではなく陰山さんだった。宝城を庇ったんだ!頭が掴まれた。
「陰山さん!」
宝城が杖を構えるが怪人は陰山さんを盾にする。宝城は撃てなかった。
ヤバい!早く辿り着かないと!
怪人の手に力が入っているのか陰山さんは呻き声を上げる。
「やべェ、1人やっちゃうかも?リベンジ成功だな」
嬉々として怪人が言う。
「離しなさい!」
宝城は叫んだが何もできていなかった。
もう少し…今だ!
俺はそこに槍を突き出す!しかし!
怪人は振り返っていた。槍が陰山さんの腹部に…ヤバい!
「陽向くん!」
誰かが叫んだ。
槍は弾かれた。金色のバリアが防いだのだ。バリアに亀裂が入る。ギリギリだった。
「宝城!」
俺は叫んでいた。
「陽向くん!そのまま詰めて!」
宝城が叫ぶ!
距離が近づいた今、一気に畳み掛けるしかなかった。即座に怪人の脚を突き刺した!
雄叫びを上げる怪人!敵の手から解放された陰山さんを助ける。
「陰山さん!?」
「大丈夫、意識はあるから」
彼女の息は上がっていた。怪人は煙になろうとしていた…逃げられる!
瞬間、閃いた。閉じ込めればいいんだ。
「宝城!コイツにバリア張ってくれ!」
間髪開けずに敵はバリアで包まれた。身動きは取れない!
「長くは持たない、急いで!」
宝城の言葉に俺と陰山さんは息を合わせる。
「おい!ふざけんなだせ!」
暴れる怪人はバリアを破壊しようとする。
「陰山さん、トドメ刺しますよ!」
「うん!」
2人は武器に集中した。力を込め一撃を放つ!
『アッパレブレイク!!』
『サイレントアロー!』
タイミングを合わせてバリアは解除され攻撃が敵に直撃した!
爆発…。
やったのか?
炎が揺らめいている。
宝城はこちらにやってきた。
「随分と危なかったですよ。」
反論はできない。事実だった。
「ホントな!助かったよ宝城」
そう言われた宝城は額に手を当てた。
「けどさ!どうだったよ?肩に力が入らないっていうかさ、悪くはなかったんじゃない?」
結果論かもしれない。でも、前と比べて空気の悪さみたいなのは薄まった気がする。
「やったな、アッパレ。」
十六夜ちゃんがこちらにたどり着いた。だいぶ、疲れてるみたいだな…。
「なぁ十六夜ちゃん…あと陰山さんも…今回の戦いどうだった?」
わざわざ問いかける。
宝城が驚いたような顔をしていた。なんでだ?
陰山さんと十六夜ちゃんは目を見合わせている。少し穏やかな空気を感じられた。
「陽向くん、貴方という人は…」
と宝城が言いかけたところで光の柱が降ってきた。炎が突然消え去った。
「あぁ…ぐぐ…!」
その中で敵の姿が再構築され始めた。色が抜けかけていたのにまた彩色されるかのように。だが、少し苦しそうだった。
「次こそ…次でお前らは終わりだ」
そう言って姿を消した。
4人は光に包まれた。
公園。俺と宝城はベンチに座っていた。
「なぁ…宝城はどうだった?」
問いかける。彼女は考えているようだった。
少し間をおいて口を開く。
「あり得ないですね。結果的にはうまく行きましたが、再現性があるとは思えません。明確な役割分担を用意することよりも良かったとは言えませんね」
厳しい言葉だった。
「でもさ、やっぱりこんくらいのテンションでいた方が皆、楽だと思うんだよ!」
必死に反論する。
「確かに、空気感に関しては良くなった。そこは同意してもいいです」
やった。と思った。
「ですが…正しかったとは言えません。」
鋭い言葉だった。正しいってなんだよ。
「正しけりゃ!なんでもやっていいのかよ!なんでもかんでも正しいとか出来ないだろ!それこそ間違ってるだろ!」
こんな言い方をする必要はなかった。つもりもなかった。言い切った時、宝城の顔が曇っているのを俺は確かに見た。間違っているのは俺だったのかもしれない。
次回ッ
第七話 高貴なる花、咲き誇る場所!




