第五話 咲き誇れ、気高き花!
前回の戦いから数日後。宝城家。
玲花は両親と話していた。
「残りの高校生活。気は緩めないようにな。そうしたら、大学の最初で躓くかもしれない。今までと変わらない意識を持っておきなさい。」
父が言う。私は静かに頷いた。
「そうね。宝城家の一人娘としての意識も今まで以上に持つのよ。こんなことを直接言うのもなんだけど、あなたは…私たちは恵まれた立場にいる。その分、努力を怠ってはいけない。」
母が続けた。繰り返し、私は静かに頷く。
人を導ける人間になりなさい。
と私は幼少期から言われ続けていた。そのために、勉学、人間関係。様々なことに力を入れて来た。手を抜いたつもりは一切ない。
「わかっています。お父さま、お母さま。最後までやり切るつもりです。」
私がそう言うと、両親は満足そうな表情をした。
自室に戻り、ベッドに横になる。少し、考えていることがあった。
戦いのことだ。
人を導ける人間になりなさい。
その言葉に応えようと努力しているつもりだ。しかし、最近戦いのなかでは導かれているという感覚があった。
陽向くんのあの性格、陰山さんの仕切り、十六夜さんの戦闘への積極性。自分は何ができているのだろうか。
…わからない。モヤモヤとした気持ちが消えない。少し、在り方を変えるべきか。そう考えていると、携帯が鳴った。陽向くんからだった。SNSを開く。
『時間ある?今日は陰山さんもバイト入ってなくて暇で、たまたま十六夜ちゃんを公園で見かけたから少し話し合わない?』
丁度いいと思った。自分の立ち位置を明確にするのにいい機会だ。
『いいですよ。どこに行けばいいですか?』
と返信し出かける支度をする。
少し、自分に甘かったかもしれない。宝城家の一人娘として責任感のある行動を取らないと。防寒用のコートを着る。いつもより重みを感じた。
OP
公園に集まった。幸い、今日は比較的暖かく、外にいるのは苦ではなかった。空気は冷たかった。公園のテーブルに座り話し合うこととなった。
「でさ、この前の敵なんだけど…アイツが親玉なのかな?」
陽向くんがいきなり話題を出す。確かに、あの煙のような敵は今までとは違った。意思があるように見えたし、明確に目的を持って行動しているようだった。
「一つ上の存在であるとは思います。親玉かどうかはわかりませんね。目的があるようでしたがはっきりと口にしていたわけではありませんし」
冷静に所見を語る。皆、考え込んでいる。
「倒すべきだということは明確だ。親玉かどうかは問題ではない」
十六夜さんの発言。一理ある。
それにしても、戦いに乗り気すぎる。以前の戦いの時も乗り気な素振りを見せていた。戦いを楽しんでいるのだろうか…。十六夜さんの顔を見つめてみるが何もわからない。
「そうだよなー。倒さなきゃいけないのは間違いないよなー」
陽向くんはわざとらしいくらいに困ったような声で同意する。そういえばこの前、十六夜さんから刀を向けられていたように見えたがあれはなんだったのか。
「その通りだアッパレ」
と十六夜さんが陽向くんに返答する。
…わだかまりがあるようには見えない。見間違いだったのか?
と、陰山さんが全く口を開いていないことに気づいた。目をやると疲れたような顔をしている。
「陰山さんどうかされました?」
はっとする彼女。
「えっ?どうもしないよ!やだなぁ」
単にぼーっとしていただけか。戦闘の時は的確な指示を出すが普段はこんな感じなのだろうか。
だが好機だった。導ける人間として立場を示すには丁度いい。
「少し…状況を整理しましょうか。」
淡々と言った。
「明確に、人から色を奪おうとする存在がいる。これは確定です。それがどういう目的なのかはわからない。叫ぶだけの怪人やこの前の怪人を倒す…もしくは撃退すると色が戻り、私たちは現実に戻れる」
皆、私を見つめている。場を掌握している感触がある。ただ、陰山さんが不安そうな焦っているような顔をしていた。気にせず続ける。
「敵に関してはこんなところでしょうか。あとは…この絵の具について」
ポケットから取り出す。以前、宝城家に集まった時にこれの話をしたかったが流れていたので話す必要があると思っていた。
「おそらく戦う力です。何故、私たちに与えられたのかはわかりません。わかることといえば…」
3人に絵の具を見せつける。
「下部に数字が刻印されていること。私の金は8です。」
皆、自分の絵の具を取り出す。
陽向くんは10、陰山さんは2、十六夜さんは6の数字がそれぞれ刻印されていた。
「なんでこの数字なのかな?」
陰山さんは疑問を呈する。私もそこが気になっていた。
「わかりません。連番でない以上、1や3なども存在するとは思います。」
考えをそのまま伝える。
「陽向くんが10なので少なくとも他に6つの絵の具が存在するのではないでしょうか」
「あと6人、仲間が増えるかもしれないのか」
陽向くんが言う。
「仲間とは限りませんよ」
不安にさせるようだがこういう考え方もあるということは伝えておきたかった。
「ふむ…お嬢のその考え…あり得るな」
十六夜さんは微笑を浮かべていた。本当になんなのだろうこの子は。
「数字の割り振りには意味があるのかな…何か順番とか」
さらに陰山さんが疑問を呈す。
「私もそのことについて考えていました。ですが、仮説としても弱いものばかりしか考えつかなくて…」
2.6.8.10。共通項は見つからない。偶数?では4は?4人の誕生日を確認してみるも関係ない。そもそも私は5月生まれだ。強さの序列?いや…十六夜さんより自分の方が戦闘力があるとは思えない。
「数字の件は置いておきましょう。」
考えても仕方ない。という結論に至った。
あまり、有益な情報は得られなかった。
さて、本題に入ろう。私は深呼吸し頭を整理した。自分の思いを口にする。
「役割を明確にしませんか?」
陽向くんと十六夜さんはキョトンとした表情をする。陰山さんだけがギョッとしたような顔をしていた。
「陰山さんの戦闘における指示は的確です。感謝しています。ですが、無理をなされているのではないですか?」
視線が陰山さんに集まる。確証は無いが、多分、元来そういうことをする人ではないだろうという予測があった。
「何言ってるの宝城さん。わたしは無理なんかしてないよ」
明るく陰山さんは答える。先ほどの疲れた表情は嘘のようだった。外れたか?だが、その役割は私がやらなければならない。
「陽向くん、十六夜さんはどう思われますか」
意地悪な問いだった。
陽向くんは少し考えて答えはじめた。
「なんていうか…陰山さんらしくはないなってのは思ったかな。でも、すげぇ助かってるしこのままでいいんじゃね!?」
なるほど、らしくない…という認識ではあるのか。今度は十六夜さんに答えを求める。
「静寂なる戦士…指示は的確だ。だが、弓という武器の性質上、指示を出すよりも敵の動き、味方の動きのみを注視した挙動を求めたい」
どういう論理かはわからないが、否定的ではあるようだ。陰山さんに視線を向けると、その表情は曇っていた。
「陰山さん。貴方の指示は素晴らしい。ですが二人から、らしくない、違うことを求めたいと言われています。できれば、一歩引いたサポート役という立場でいてくださると助かるのですが…」
発言の一部だけを抽出した、あまり良いとは言えない。彼女は回答に迷っている。
「…一旦、話を後回しにしましょうか。陽向くん、十六夜さん。次は二人です」
「えっ、俺たちも?」
十六夜は不服そうな顔をする。
「まず、陽向くん。貴方は槍という武器を持っています。リーチがあり立ち回りが重要です。あまり突っ込みすぎないように、あくまで弱い敵を掃討するようお願いします。」
陽向くんは困ったような顔になる。
「うーん、まぁ宝城が言うならそれがいいんだろうな…」
クラスが一緒で私のことをある程度知っているからか割と大人しく聞いてくれた。
「十六夜さん」
私が声をかけるが、彼女は黙っている。
「貴方の戦闘能力はずば抜けています。ですが、あまりにも突っ込みすぎです。陽向くんや陰山さんに掃討を任せ貴方は的確に色のある怪物を狙ってください。」
評価しつつ要望を伝える。
「少し考えよう」
よし、否定はされなかった。あとの問題は…。
「陰山さんはどうでしょうか?指示役は防御も攻撃もこなせる私に任せていただけませんか?
きっと貴方より私の方が適任だと思いますが」
陰山さんは言葉に詰まっていた。
と、絵の具が淡く光りだした。
戦いの予兆だ。脳がひりつく感覚もある。
「丁度いいです。一度、今のフォーメーションでやってみましょう。考えもまとまるはずです」
景色が捩れる。
あの世界に来ていた。四人とも揃っている。
「早速、変身しておきましょう。前の喋る敵が現れるかもしれません。」
即座に口を開き、雰囲気を制圧する。
皆、黙って変身していた。
少し、やりすぎたか?とさえ思ったが仕方ない。戦いがうまく行けば皆、納得するだろう。
陰山さんの二人組案は正しいと感じていたので、また二手に別れた。今回は十六夜さんとだ。管理下に置いておきたい…と言うのが理由だった。
「お嬢、どうしたというのだ」
十六夜さんの問い。…そういうことを聞くのか。
「少し…チームの在り方について考えていました。役割が明確になっていれば強さも増すと思いまして」
嘘。考えていたのは自分の在り方だった。
「十六夜さんはチームについてどう考えているのですか?」
これは純粋に疑問だった。手など取り合わなそうな雰囲気なのに完全孤立はしようとしない。
「…居場所」
何を言っているんだこの子は?そういう話ではないのだが…。
十六夜さんの足が止まった。視線の先には…怪物がいた。黄色の…なんだろう打ち上げ花火のような派手な造形をした怪物だった。ステッキから放たれる光線で素早く合図をする。
と同時に透明な影が怪物の周りから湧き出してきた。
「十六夜さん。一旦、私が援護するので影を迎撃してください。2人が来るまでは時間稼ぎです」
十六夜は頷く。言うことは聞いてくれるようだ。
「一つ付け加えておきます。前回の喋る敵が現れる可能性があります。そのことを頭に入れておくように」
「わかった」
影達が突っ込んでくる。十六夜さんは少し前に出て影たちを迎え撃つ。私は光弾を撃ちつつバリアで彼女を守る。隙はない。
と、突然花火の怪物がこちらへ突っ込んできた。マズい。
「十六夜さん!一旦退いて!」
素早く私のほうに戻ってくる。敵の攻撃方法がわからない以上纏めてバリアを張れる範囲にいたほうがいいと考えたのだ。
そこに緑の閃光。敵の動きが止まる。陰山さんの攻撃だった。
合流する。
「大丈夫2人とも?」
陰山さんが問いかける。今の狙撃は助かった。だが…。
「陰山さん。攻撃する前に何かしら合図なり声をかけるなりしてください。場合によってはまた十六夜さんを誤射することになりますから」
陰山さんの顔から血の気が引いた。悪いが、主導権は握らせてもらう。
隣にいた陽向くんは少し曇った表情になったが、気にしてはいけない。勝つためだ。
「十六夜さん、陽向くん、前線を頼みます。陰山さんは2人の行動を見て援護」
淡々と指示を出す。
と、花火の怪物は手から炎を放ってきた!
「散って!」
陽向くんと十六夜さんはばらける。私と陰山さん側に来る炎はバリアで防いだ。炎に巻き込まれ透明な影たちは全滅しかかっていた。
前線2人が影を減らしながら花火の怪物に近づいていく。怪物の手からは炎の弾を放たれている。
「陰山さん、敵の手を狙ってください」
返事はなかった。
彼女は虚ろな顔をしていた。先ほどの指摘を気にしているのか小さな声でごめんなさいと繰り返している。
「陰山さん!」
叫ぶと彼女は顔を上げた。弓を構える。が、少し震えている。
「2人は一旦距離を取って!」
指示通り離れる前線2人。
「今!」
木葉の矢が敵の手を破壊する。攻撃の手段を奪った!
「トドメをお願いします!」
玲花は叫んだ!陽向くんと十六夜さんの同時攻撃!
『アッパレストライク!』
『十六夜流剣技 雷光!』
突きと素早い剣技が敵を仕留めた。
敵が強く光る。
爆発…いつもよりも大きかった。
2人は飲み込まれた。
「陽向くん!十六夜ちゃん!」
陰山さんの悲痛な叫びが響く。
「宝城さん!」
責めるような彼女の目。
「よく見てください」
私は爆発の寸前、バリアを張っていた。2人が互いに近づいていたためまとめて守れたのだ。が、完全には間に合わず2人の衣装は少し焦げ、バリアには亀裂が入っていた。
「私の方が適任です。次も皆を導けます」
内心、危なかった…とは思っていたが、それを悟られてはいけない。呼吸が少し乱れていた。
陰山さんは何も言わなかった。
光に包まれる。
公園。冷たい空気。気温よりも4人に流れるそれが冷たかった。
「どうでした?」
毅然とした口調で私は三人に問いかけた。
「…まぁやりやすかった…」
陽向くんが言う。
「最後の判断は素晴らしかった。助かったお嬢」
十六夜さんは賞賛してくれている。
一方で、陰山さんは黙っていた。
「陰山さん?」
声をかける。陰山さんは少し時間を置いてから、ゆっくりと口を開いた。
「宝城さん…あなたにお願いする…わたしよりもずっと…強いから…わたしは皆が支えてくれないと支えられそうにない…」
絵の具を握りしめながらそう言って陰山さんは立ち上がり、去っていった。これで役割は明確になった。
「では、解散としましょう。」
私は立ち上がり家路についた。
確かな手応えを感じていた。高貴なる者として、人を導ける。
「なぁ十六夜ちゃん。これってどうなんかな?」
天晴は疑問だった。戦いやすいのは事実だった。でも、これでいいのか?
「あまり…いい傾向ではない…と思われる」
十六夜は答える。
「アッパレじゃ…ないな…」
去っていく宝城の姿は花のようだった。孤独に咲いているようだった。
次回ッ
第六話 盛り上がれ天晴!




