第四話 十六夜紫電参る!
年が明けた。
陽向天晴は一人で初詣に向かっていた。
新年、清々しい気持ちだ。だが少し違和感はある。あの空間、あの絵の具だ。少し身体が重い感じがした。わからないことだらけだが戦うしかない。新年の決意はそれだった。
向かう途中、見覚えのある顔がいた。
濃い紫の髪。鋭い瞳。小柄な体格。
十六夜ちゃん…十六夜紫電!
寒さ対策なのかモコモコの服を着ていたけどすぐに気づいた。
どうすっかな…ま、せっかくだし声かけるか!
おーい、と口にする直前。十六夜ちゃんの元に二人の女の子が近づいていくのが見えた。
「あれ?紫じゃん?何?1人で初詣?」
「一緒に行く人いないの?良かったらどう?」
十六夜ちゃんは顔を伏せていた。無視とかではなくて、なんとなく心ここに在らずというか。
女の子二人は顔を見合わせて
やっぱり、といった風に去っていった。
なんで行かないんだろ?せっかく誘ってくれてんのに。まぁ、俺も人のこと言えない。初詣はしっかり自分と向き合って盛り上げたいって決めてるからだけど…。まずは自分だ。
…えっ、ユカリっていうの!?
OP
女の子二人が去っていくのを見届け、俺は十六夜…もといユカリちゃんのもとへと歩みを進めた。
まさか、こんなタイミングで名前を知れるとはなぁ…。
少しテンションが上がってるのが自分でもわかる。
あと少し、というところでユカリはこちらに気づき驚いたような顔をした。
「明けましておめでとう!」
新年の挨拶!元気よく言う。なんか視線が集まった気がするけど気にしない。
「…明けましておめでとう」
控えめにユカリが返す。
いつもと比べるとだいぶ落ち着いている、というか大人しい。まるで別人みたいだな…って、そんなことより。
「いや、ごめん。さっき見てたんだけどさ。ユカリって呼ばれてたじゃん…それが本名?」
悪気無く聞いた。すると彼女は目を大きく見開き、視線を地面に落とした。
「違う…」
そう言って振り返り、どこかへ駆け出していく…というより逃げていくみたいに走り出した。えっ、どこ行くんだよ!?慌てて追いかける。
裏路地のようなところでユカリは止まった。それに倣い俺も足を止める。二人とも息が上がっていた。
「どうしたんだよ?急に走り出して…。それに違うっていうのは」
そう、さっきユカリは違うって言った。本名じゃなかったのか?そんなわけないよな…。
さっきとは打って変わって、強い口調…いつもの口調で紫は答えはじめた。
「何を言っているアッパレ?忘れたのか、私は十六夜紫電。共に戦う戦士だろう。」
いや…さっき友達っぽい子たちにユカリって言われてたろ…。それは偽名じゃないか?
ユカリの顔を見ると、その目は真剣だった。先ほどの拒絶するような素振りは微塵も感じられなかった。なんだったんだ?
「しかし…アッパレも初詣とはな…。一体、何を祈願するつもりだったのだ?」
強引に話題を変えられている。
「あぁ…まぁ俺は」
そこで止めた。
「いや、そういうことは人に言うことじゃないからな。悪いけど秘密だ。」
これは譲れない。
「そうか」
ユカリがニヤリとした。
何故、と思ったがすぐに分かった。
やられた…。もう名前については聞けない。
さて、どうしようか。これ以上、名前について聞くなんて出来ないし、こんなよくわからない裏路地に来てしまった。素直に戻るか…。
「感じないかアッパレ」
急にユカリが口を開いた。
何を言って…?
いや、そうか。感じる。うまく説明出来ないけど、脳みそがひりつく感覚があった。きっとこれは前兆だ。あの世界に行く前の"捩れ"の前兆。
周りを見渡してみるが、まだ異常は見当たらない。ユカリに目をやると絵の具を取り出していた。淡く光っている。
「見ろアッパレ!多分これは敵の出現を意味する信号だ!」
なんだかテンションが高く見えた。ホントに信号なのかソレ?ユカリは手の絵の具をこちらに向ける。紫色の絵の具。下部には6の数字が刻印されている。
光が強まってきた。捩れが来る!
予感は当たっていた。気がつくとあの世界に来ていた。4回目だが、まだ慣れない。
後ろからため息が聞こえた。陰山さんだった。
隣には宝城もいる。
「さて、ここに来た以上、やるべきことは明白です。」
宝城はピシャリと言う。
まぁ…正論だな。
「お嬢の言う通りだ。人か…敵を探さねば」
ユカリが言った。乗り気だった。
それを見た宝城は少し怪訝そうな顔をする。
「あ、そうそう実は…」
と言いかけて止めた。ユカリが視線をこちらに向け、絵の具をギュッと握りしめている。
「どうしたの陽向くん」
陰山さんに問われる。そりゃそうだ。うーん、どう誤魔化そう…。
「えぇと…そう!実はこの世界に来る前の予兆みたいなことがあることに気づいたんですよ!」
うまく誤魔化す。後で伝えるつもりだったけど。
「な、十六夜ちゃん」
とわざとらしく言ってみる。ユカリは目線をどこかに向けていた。何故かわからないけど、取り敢えず名前の件には触れない方が良さそうだ。今はまだ。
先ほどの予兆のことを伝え、捜索にあたった。今回は俺と宝城。陰山さんとユカリ…十六夜の組み合わせだった。
「陰山さんは予兆に気づかなかったようですね」
捜索のため歩きながら宝城が言う。
「ああ。なんでなんだろうな。宝城も気がついたのに」
「わかりませんね。ただ、以前までは私も予兆に気がついていませんでした。もしかしたら個人差があるのかもしれません。単に偶然かもしれませんが」
「そうねぇ」
と…人影が倒れていることに気が付いた。今度は男性。
近づくと色は無くなっていなかった。呼吸もしており、眠っているだけのようだった。
「…色が抜けるような前兆もありませんね。」
男性の首元に手を当てながら宝城は冷静に言う。その通りだった。何も起こらない?だけど、男性は起きる気配が全くない。意識が奪われているような。触れてみると少し冷たい。冬だからだったのか、別の要因があるのか…。一つ言えるのは生気らしいものは全く感じられなかった。
「念の為、変身はしておきましょう」
そうだな。と言って俺たちは変身した。
「「彩色顕媄‼︎」」
宝城が陰山さんとユカリに合図をするためステッキでビームを上空に放つ。金色の光が空間の中で輝く。
「あの透明な敵が現れるかもしれません。警戒は怠らないようにしましょう」
「わかった。任せてくれ」
周りを見渡そうとすると人影が見えた。一人だった。陰山さんとユカリが別々に行動している?いや、考えにくい。大体、二人行動しようって言い出したのは陰山さんじゃないか。人影はズンズン近づいてくる。
人ではなかった。煙を形にしたようなオブジェが身体に散りばめられた…怪物だった。
ドギツイカラーリングをしている。色んな色をしているが、鮮やかとは思えなかった。無理矢理彩色したような。汚れのようにも感じられた。
「おいおい、先越されちゃったかァ」
喋った。俺たちは息を呑んだ。これまでに倒した怪物とは雰囲気が違った。
「お前らさァ。余計なことすんなよなァ。色、いらないって思うだろォ?疲れるし、たくさんあって邪魔だろ?」
こちらに敵意を向けているのは明白だった。
「消えろよ」
襲いかかって来た。拳を思いっきり振りかぶってくるのを咄嗟に槍で受ける。重い一撃だ!
そのまま後ろに吹き飛ばされてしまった。
「陽向くん!」
宝城が叫ぶ。しかし、慌てず敵の方を向き杖から光弾を放つ。あまり効いていないようだった。
「そこの倒れてるやつ渡せよォ。くっ付き損ねたんだよォ」
「何をする気か分かりませんがお断りします」
そう言って宝城は連続で光弾を放つ。
「あんま強くねぇな」
怪物は平気そうだ。マズい!早く戦いに戻らないと。
…緑の閃光が敵を撃ち抜いた。敵が吹っ飛び転がっていく。
「陰山さん!」
俺は叫んでいた。
陰山さんと十六夜がこちらに駆けつけてくる。
「あれが怪物?」
陰山さんの問い。
「でも…今そこに倒れている人は色が残ってるよね」
「そうなんです。なんかよくわかんなくて…」
俺たちは玲花と倒れている人のところへ向かう。
「初めてのケース…。まぁでも、この人は守らなきゃ」
陰山さんの言う通りだった
「とにかく、四人で陣形を。宝城さんはバリアを使えるから、倒れてる人と一緒に後ろの方へ。陽向くんと十六夜ちゃんは敵と距離を詰めて戦う…いける?」
「当然!いけますよ!」
すぐに応える。
が、十六夜は少し黙っていた。どうした?いつもならすぐ応えるのに。カチャカチャと金属音がする。何かと思えば十六夜の持つ未明刀からだった。弱々しい音だった。
「無論だ」
一呼吸置いてから答えた。音は止まった。
「アイツは今までのと比べたら結構強そうだ…しかも喋るし。気をつけた方がいいかもしれない」
俺はできるだけ落ち着いて情報を伝える。
怪物は体勢を立て直しこちらに向かって来ていた。後ろにはあの透明な影がついて来ている。いつの間に…。
「強そう…というのを聞くと距離を詰めるならかなり警戒しないとね…」
陰山さんはそう言って考え込んだ。
実際、俺は簡単に吹き飛ばされてしまった。宝城の攻撃も、あれだけやってもあまり効いていなかった。陰山さんの矢も不意打ちだったのに、あまり効いていた感じはない。
「私が行こう。」
少しの間。
「この十六夜紫電が、ヤツを屠る。」
決意表明のようだ。十六夜が前に出る。
「わかった。十六夜ちゃんはスピードで撹乱、影達は私と宝城さんで蹴散らす…陽向くんは十六夜ちゃんの援護を」
陰山さんは眉間に手をあてながら指示を出す。凄ぇ考えてくれてんだな…俺も頑張らないと…!
「アッパレ!着いてこい!」
十六夜が駆け出す。
「よっしゃ任せろ!」
俺も続く。
「そうやって合わせなきゃいけねぇのがダリぃだろォ!?」
敵が叫ぶ。
影達もこちらへ向かって来た。
宝城の光線、陰山さんの矢が何度も飛来し、敵を消し飛ばす。残ったものを十六夜が斬り伏せ、天晴もそれに倣う。
「なんかいつもより動きのキレがいいな!十六夜ちゃん!」
「当たり前だ。十六夜紫電だぞ私は」
「アッパレだな!」
いつものヤツ。十六夜はそれを聞いて微笑み
更に素早く動く。俺はその姿を見て"あの映画の十六夜"を重ねていた。
敵に近づいていく、距離は確かに縮まっていく。
「来るな!」
叫ぶ敵に狙いを定めて俺と十六夜は目の前まで辿り着いた。
大きく拳を振りかざす敵!当たるとマズい!咄嗟に十六夜を庇おうとするが必要無かった。
『十六夜流剣技 電光石火』
敵は倒れていた。納刀する十六夜。一瞬で敵を斬り伏せたのだった。まるで斬っていないようだった。居合ってヤツか?
すごい…。
「アッパレだなユカリちゃん。」
俺は駆け寄り、無意識にユカリと言ってしまう。言うつもりはなかった。
目の前に刀の先が向けられていた。
えっ?
「やめて…」
目は伏せていた。初詣に誘われた時、名前を確認した時みたいだった。距離をとるようなあの雰囲気。
何か動くのが視界の端に入った。
敵が起き上がる…!
「倒せてなかったのか!?」
「しぶといな…トドメを!」
緑の閃光が敵に向かって走った!
しかし、敵はそれをかわした。
「思ったよりやるなァ…。一旦、退かせてもらうぜ…次は覚悟しとけ」
敵は色を失い消えていった…。
光に包まれる。
裏路地に戻っていた。
十六夜の方に目をやると、彼女は絵の具を手に見つめていた。
距離を詰める。
「なぁ、さっきの近づくなって一体…」
聞かずにはいられなかった。
「十六夜紫電は孤高の戦士だ」
絵の具を見つめながら答え、来た道とは逆の方向へ去っていく。
「なんだよ…」
全く理解ができない。一緒に戦ってたじゃんか。
ふと思い出す。
「あっ、そうだ初詣に来たんだった!」
俺は来た道を戻り出した。十六夜から距離をとるように…。目を背けるみたいに。祈れば、忘れられるような気がした。
次回ッ!
第五話 咲き誇れ、気高き花!




