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第三十話 豪華絢爛!12色入り!

あの後、我に返った宝城は二人に謝罪したが、話し続けられる空気ではなく、鈴と執印さんは帰ることになり、俺は二人を駅まで見送った。


そして、宝城を一人にできなかった俺は彼女の部屋に来ていた。

彼女はベッドに座り込んで塞ぎ込んでいる。


「宝城」

言葉が届いてないのか、反応はない。


「ごめん。もっと、俺が色々話せたら良かったんだけど、宝城頼みになっちゃってた。しかも、怒鳴ったりして…ホントごめん…」

俺が怒鳴りつけた時…いやその前から宝城は青ざめていた。いつか、チームの在り方で揉めた時の表情とは違った。


「でも、叩くのはダメだ。それであんな言い方に…けど自分でも間違ってなかったと思う」

変わらず反応は無い。


「宝城?」

近づいてみる。浅い呼吸を短く繰り返す。と、彼女は顔を上げた。大粒の涙がこぼれ、表情は歪んでいた。


「陽向くん…」

宝城は口を開いた。


「…宝城」

「私は…大きな間違いを犯しました…。自分の考えが正しいと、二人に酷いことを言いました。挙句…天然さんに手を上げて…」

そう言って彼女は大声で泣き出してしまった。


「ごめんなさい…ごめんなさい…」

執印さんや鈴に向けて…俺にも謝ってるんだと思う。俺の胸に顔を埋め、しゃくりあげていた。


「私、やっぱり変わってなんかいなかった。一人よがりな人間のままだった!」

自分を責め続ける彼女に俺は声をかけられなかった。


数分ほど、その状態が続いた。宝城は落ち着いたようで、涙は止まっていた。彼女の隣に座る。


「落ち着いた?」

「はい。失礼しました」

「気にすんなよ」

「それは…難しいですね」

「だよな」


沈黙。


「さっきさ。変わってなかったみたいなこと言ってたけどさ」

「はい」

「そんなことはないんじゃね?」

「…」

「でも、やり方はマジ良くなかった。叩くのは絶対ダメだと思う」

「はい」

「今回のは…なんていうか…やり過ぎちゃったよな」

「それが…私です」

「…こんなこと言うのはなんだけど、変わったから全部解決!とはならないじゃん?やっぱり失敗はするし。俺も前、同じ失敗繰り返しちゃったし」

若月くんと話した時のことを思い出す。


「だからさ、そんなに自分のこと責めるなよ」

「やっぱり優しすぎます」

「え?」

「ありがとうございます」

「…どういたしまして」

「二人と…もう一度話さなくてはいけませんね」

宝城の目は少し力を取り戻していた。



あれから二日後。


「あのさ、ちょっと…相談があるんだけどさ」

夜星(おれ)は鈴のことで何したらいいかわかんなくなって、人を頼っていた。相手は…若月だ。公園のテーブルベンチに二人で向かい合わせに座っていた。


「ボクに出来ることなら」

そう言って若月は少し笑った。んー、やっぱ少し苦手なんだよなこいつ。


「鈴がさ…すげぇ変わっちゃったんだ。なんか、自分のこと嫌いになってとか言い出してさ。で…連絡も出来なくて…どうしたらいいかわかんなくて…」

取り敢えず思ってたことを口にする。若月は真剣な顔で、頷きながら話を聞いてた。


「…で、若月ってさ。人は力を合わせられるとかなんとか言ってたじゃん?なんか、コミュニケーション上手そうな気がしてんだけど…こういう時、どしたらいい?」

問うと、若月は少し唸って答え始めた。


「そうですね…。まず、一つ言っておきたいことがあって、ボクは別に得意じゃないんですよね…」

「え、そうなの?じゃあ、なんで団結だとか恥ずかしいこと言ってたワケ?」

「は、恥ずかしい!?」

「あ、悪い」

若月はちょっと、不服そうな顔をした。言い方がよくない、みたいなこと雷電に言われたのに…気をつけないと。


「ま、まぁ話を戻しますよ。天然さんが戻って来たってことは淹煎さんから聞いてます。少し、様子がおかしかったってことも」

知ってるのか。


「…で、どうしたらいいと思う?」


「話し合う…って言いたいですけど、多分それじゃ上手くいかないと思います。墨名さんに、そのまま嫌いになれとも言えないです。あっちから来るのを待つしかない…っていうか」


「そう…なるよな…」

なんとなく、誰に話しても同じこと言われそうな気がした。木葉さんも多分同じこと言うだろな。


「あ、いたいた」

後ろから声がしたので、振り向くと雷電がいた。


「雷電!?なんでここに!?」

「や、墨名くんが昨日、公園で若月さんに会うって言ってたじゃん。天然さんのこと相談するんだろうから…力になれたらなって」

「そっか…ありがとな」

コイツ、結構良いやつだな。


「あ、ちゃんと話すのは多分初めて…ですよね。雷電紫です。よろしくお願いします」

雷電は若月に自己紹介する。


「はい!若月才二です。ボクのことは若月でも、才二でも好きに呼んでください」


「えっと…じゃあ…才二…くん」

「はい。よろしくお願いします雷電さん」


は?名前呼び?オレのことは墨名くんって呼ぶのに…。っていや、今はそうじゃない鈴のことだ!


雷電はオレの隣に座り、3人で話し始めた。


「話聞いた感じ、無理矢理自分のこと変えようとしてそうだね天然さん」

雷電が言った。そうかも、と思った。いくらなんでも、今までの鈴が全部嘘なんて思えない。


「イメチェン…なんて軽いことじゃないですよね。何か、きっかけとかあるんですか墨名さん」

若月が聞いてくる。いや、それがわからなくて困ってるから相談に来たんだけど。


「わかんねぇよ。いきなり連絡つかなくなって、会えたと思ったら嫌いになっていいとか…自由すぎるだろ…心配してたのにさ」


「…天然さんのことはよくわかってませんけど、彼女なりに悩んだと思いますよ」

若月の言うことはわかる。でも、それなら何か教えてくれたっていいだろ。


「…教えてくれるまで待つしかない…ってことか」

「しか、ってことは無いと思いますけど…心配してたってことは伝えてもいいんじゃないんですか?多分、お互い勘違いがあるのかも」

「…おう」

真士さんは待とうって言ってたけど、やっぱりオレは気持ちくらい伝えたい。提案に乗ることにした。


「これでまた一緒に戦えるといいんだけどな」

そう、鈴と一緒に。


「あ、才二くん。一つ提案があるんだけど…いい?」

急に何か思いついたみたいに雷電が口を開いた。


「なんですか?」

「みんなで一緒に戦おう!って考えてるんでしょ。そしたらさ…みんな揃った時のチーム名!決めとかない?なんとかチーム!みたいなのじゃなくて」

彼女はなんだか興奮してるみたいだった。チーム名?ごちゃ混ぜチームとかでいいんじゃね?とか思う。


「そう…ですね。せっかくなら欲しいですね」


「でしょ!」


「雷電、そういうの子供っぽくね」


「えっ…そう…かな」

オレがそう言うと露骨に落ち込んだ。うっ、そんなつもりなかったのに。


「…いや、ごめん。アリだと思う」

嘘じゃない。正直、今でもそういうのに憧れはある。実際、変身して戦ってるワケだし。


「やっぱり!?だよね!じゃあ考えとくね!」

なんか、はしゃいでるみたいだな。


「じゃ、わたし天然さんに会ってみる」

いきなり凄いことを言い出した。


「えっ、急すぎるだろ!」

「そ、そうですよ」

若月も驚いてるようだった。


「ちょっと気になることあるんだ」

そう言って雷電はスマホを操作し始めた。



「で?それからは会えてないのか?」

淹煎が深刻そうな声で言う。真士(俺)はコイツの家に来ていた。前みたいに俺がソファ、淹煎はベッドに腰掛けている。


「あぁ。もうどうしたらいいかわからん」

鈴に踏み込むのは悪手、という感覚があった。


「嫌いになってくれていい…ねぇ」

淹煎は手を後ろにつき、天井を見上げていた。


「本心で言ってんのか、そうじゃないのかわからないからな。もう一度、会うべきなのか…」

コイツにもわからない。そんなことはわかっていたが、無意識に頼りたくなっていた。


「見守るしかないのか」

そう呟くが、本当にそれでいいのか?

紗姫のことを思い出す。俺はアイツが苦しんでいるのに気がつけなかった。いや、気がつかないフリをしていたのかもしれない。また同じことを繰り返すのか?

と、考えていて気がつく。ダメだ、また鈴に紗姫を重ねている。だが、同じ過ちは繰り返したくない。


「天然さんもそうだけど…あの執印?ってヤツも心配だよな。すげぇ入れ込んでたんだろ?」

不意に淹煎が國明の名前を出した。


「あぁ…アイツは…大丈夫じゃない」

確信があった。鈴にああ言われた時、アイツの焦燥っぷりは凄まじいものだった。その後は黙り込み、去っていった。普通の状態ではないことは明白だった。


「…執印は心配しなくていいのか?」

淹煎の疑問は当然だったが、俺とアイツは大して交流が無い。思えば、墨名くんもだ。この前、二人で話したが、ああいう機会は初めてだった。俺たちは鈴ありきの関係でしかなかったんだ。


「心配さ。だが、声をかけられるような仲でもない…」


「誰か、関わりあるヤツいないの?」

淹煎の問いに答えられない。と思った時、一人の人間の顔が浮かんだ。

宝城さん。

いつだったか、鈴に國明は宝城さんの家で働いていた、と聞かされた。


「宝城さんぐらいか…」


「…あー、あの良いとこの生まれっぽい子か」

淹煎はスマホを開いた。


「どうするつもりだ?」


「決まってんだろ。頼るんだよ」




あまり関わりのない人から連絡が来た。雷電紫ちゃん。


『いきなりごめんね。天然さんと話してみたいことがあるの。もし、嫌なら嫌って言って欲しい。でも、あたしと天然さんで似てるとこあるかもって思ったから』


そんな内容。

似てるとこなんてあったっけ?


で、会うことにした。宝城さんの家での一件から、何もわからなくなってた。宝城さんがあんなに怒ったのも…國明くんと天晴がまだ優しくしてくれたこと、そして、あたしはこれからどうしたら良いのか。

雷電さんと会って気分を変えたかったのかもしれない。あまり喋ったことないし、いい気分転換になるかも、みたいな。


指定された場所は運動公園だった。時刻は昼過ぎ。色んな人たちが楽しそうな声を上げて遊んだり、散歩したりしている。

時計台近くのベンチに腰かけた。そろそろ、約束の時間だな。


「お待たせ天然さん」

雷電さんはすぐに現れた。


「ううん。そんなに待ってないよ」

思ってたよりも明るい声が出た。


「隣、座るね」

そう言って雷電さんはあたしの隣に腰掛けた。


「…それで、話って?似てるとこがあるみたいなこと言ってたけど…」

すぐに本題に入った。


「うん。あのね…天然さんは前のわたしのこと覚えてる?」

そんなこと聞いてどうするんだろう?まぁ、でも、聞かれたからには答えよう。


「えっとね…あ、うん。覚えてるよ。凄く…個性的だなって思ってた。話し方はなんかお芝居みたいだったし」

変わった子だな、と思っていた。けど、最近は変わった。なんというか、普通になった?

雷電さんは、あたしの返答に少し照れたような笑いを浮かべて口を開いた。


「だよね。あの時は…自分のこと凄く嫌いで、別の誰かになろうと必死だったんだ。その…十六夜っていうのになろうとして」

彼女は地面に視線を落として話す。恥ずかしいのかな。


「そしたら、自分がなんなのかわかんなくなっちゃった。まぁ、舞さんに現実見せられてメチャクチャ嫌な思いしたりしたのもあるんだけど…」

そんなことあったんだ。


「でね、天晴が今までの自分も、十六夜も全部一緒なんだよって言ってくれて…自分を決めつけないで済むようになった…っていうか」

なんか、聞いたことがある。

あ、そうだ。天晴の

変わってもソイツはソイツ

ってそういうことだったのか。


「ふーん。じゃあ、雷電さんにとって天晴は恩人なんだね」

あたしがそう言うと雷電さんは腕を組み、唸り始めた。えっ、何?


「や、そうなんだけど…。恩人っていうか…」

「違うの?」

「どんなわたしでも…受け入れてくれた人…大事な仲間…かな」

仲間か。レッドチームはしっかりしてるなと思った。イエローチームは…もう無い。仲間だったかも怪しい。


「って、天晴の話はいいの!あたしが言いたいのは!」

雷電さんは思い出したみたいに叫んだ。


「な、何?」

「あたしと天然さんの似てるとこ!」

あ、そうだ、そんな話だった。


「あのね…天然さんも…別の誰かになろうとしてない?」

雷電さんはあたしの目を見てそう言った。


「何か…聞いたの?」

思わずそんなことを言ってしまう。


「うん。墨名くんから…」

へぇ、夜星くんって雷電さんに相談とかする仲だったんだ。


「わたしね、自分がわかんなくなってた時…学校の友達とうまく話せなくなってたんだ。凄く大好きな友達だったのに」

彼女の目は大きく見開かれている。


「わたし…独りになってた。天晴たちは一緒に戦ってくれてたけど、わたしのほうが距離作ってて…」

何が言いたいんだろう。


「あのね!天然さんも…独りに…なっちゃうかもだよ…」

最後の方は声が小さく、聞き取るのがやっとだった。でも、やけに頭に残った。


今、あたしは独りだ。

宝城さんに叩かれた。天晴と國明くんは心配してくれたけど、あれから連絡は無い。夜星くんと真士さんからも。


いや、学校に友達はいる。別に独りじゃない。


そう思った。でも、大学という新環境で新しい友人はまだできていなかった。これまでの友人も連絡をほとんど取っていない。人と関わるのに疲れてしまった。バイトも最近行っていない。


孤独を実感してきた。みんな離れて…いや、離れているのは自分か。


「そうだね…。でも、もう独りかも…」

無意識にそんな言葉が出た。独りは嫌だな。でも、疲れたのは本当だし。でも、寂しいってのも本当だし。


「独りじゃないよ」

雷電さんが言った。慰めてくれてる?

わたしがいるよ

とか言うのかな。


「わたしがいるよ」

まさか、予想通りの言葉が来るとは思わずあたしは吹き出してしまった。


「な、なんで笑うの!?わたし、本気で…」

「ごめんごめん。なんか、そう言ってくれる人っているんだ…って思ったら安心しちゃった…のかな」

「そうなの?それならまぁ…」

雷電さんは小さなため息をついて、続けた。


「わたし、天然さんがどんな人なのかよくわかんない。最近、みんなから離れようとしてるのもわからない。でもね、それでも一緒にいるのはできると思うんだ」

あたしの目を真っ直ぐに見つめている。


「なんでそうしてくれるの?」

理由が全然わからない。全くというくらい関わりがない、お互いを知らないのに。

あたしの問いに彼女は少し目線を地面に向けながら答え始めた。


「天晴がね…木葉ちゃんが、玲花ちゃんがそうしてくれたから。わたしも誰かにそう出来るようにしたいな…って」

宝城さんまで?そんなことできる人なんだ。

この前のことがあったせいでとても想像ができない。


「そっか…ありがとね雷電さん」

あたしがそう言うと彼女は優しく笑った。天晴の笑顔に似ていた。




「よっ!アンタが執印國明だよな!」

河川敷、川辺。軽薄そうな男が声をかけてきた。ヤツの名前は淘江淹煎。私はヤツに呼び出されここまで来た。


「で、何用で呼んだのですか」

普段だったら絶対に来なかっただろう。だが、私は来ていた。きっと、自分の中で何かが変わった。それが何かはわからない。


「同じ力を持つ戦士として、アンタが心配だったのさ。随分、思い詰めてるって聞いたからな…正直、来てくれると思わなかったが」

お節介なヤツだ。と、後ろに写野真士がいることに気がついた。コイツの差し金か?私のことを心配するような人間には思わないが…。


「結構です。私は助けなど求めていません」

事実を伝える。宝城家での一件から、何故か精神が落ち着いていた。理由がわからない。あれほど誰かを求めていたというのに…。


「ま、そう言うよな…ならなんで来たんだよ?」

淘江からは至極真っ当な問いが投げかけられた。私にもわからない。


「ほんの…気まぐれですよ」

そう答えるしかなかった。


「まぁさ、ちょっと話そうぜ」

そう言って淘江は地面に座った。倣うように写野も座り込む。地べたに座るなど…いや、まぁいいか。多少付き合ってやっても。


「何を話そうと言うのですか?」

話すことなどあるのだろうか。流れる川を眺めながら問う。


「いやさ、アンタはこれからどうする気なのかなって思ってさ」


「これから?」

考えていなかった。宝城家での一件の時、次の主を探そうと思った。だが、その考えは今、頭の中から消えていた。何故だ?


「考えてなかったのか」


「…別に貴方には関係のないことでしょう」


「そうだなぁ…でも関係ないこともない。例えば、戦いのこととか。もう戦わないのか?」

淘江はこちらに視線を送っていたが敢えて目は合わせなかった。いや、合わせられなかったのかもしれない。


「そうですね。戦う理由は無くなってしまいましたから」

そう。天然鈴に不要とされた以上、もう続ける必要はなかった。


「理由ね…最初からそれってあったのか?」

淘江のその問いにハッとする。あの人に初めて必要だと言われる前…私は理由もなく戦っていた。いや、あったはずだ。きっと、何か…。


「確かに…國明、お前は最初から鈴のために戦ってたワケじゃなかったよな」

写野が気がついたように口を開いた。そういえば、コイツとは一緒に戦い続けていたな。あと、墨名夜星も。私が彼女のために戦う前から…完全に忘れていた。


「…答える必要がありません」

嘘だ。答えられないというのが本当のところだ。モヤがかかったみたいに思い出せない。


「そうか…無理に答えなくていいよ。まぁでも、別の理由があったなら良かった」

淘江は軽く笑った。コイツは…なんなんだ。人を見透かしているような物言いをする。


「んじゃ、真士、俺たちは退くか」

そう言って淘江は立ち上がる。


「こ、このタイミングでか?」

困惑しながら写野も立ち上がった。コイツらを鬱陶しく思う気持ちはあったが、理解できないタイミングだった。


「おーい、宝城さん来てくれ」

淘江が声を張り上げた。まさか、宝城玲花を呼んだのか?


上の堤防の方から宝城玲花は姿を現した。ゆっくりと降りてくる。


「玲花様…」


「執印さん…」

私は立ち上がり、彼女と数秒見つめあっていた。


「この前は申し訳ございませんでした。天然さんにもそうですが、酷く礼を失した行動を取ってしまったこと深くお詫びいたします」

そう言って彼女は深く頭を下げた。


「いえ…もういいのです」

本音だった。本来なら、私は彼女の顔を見た瞬間に怒号を飛ばしていただろう。しかし、そんな感情は湧き上がらず平静を保っていた。


「…玲花様、顔を上げてください」

私がそう伝えても彼女は姿勢を変えなかった。


「宝城さん。國明もこう言ってる。一度、顔を上げよう」

写野が近づきそう言うと、彼女はゆっくりと顔を上げた。眉間に皺がより、唇を噛み締めていた。

少しの沈黙。お互い、それに写野と淘江も何か話そうとする気配はない。この男二人は何がしたいんだ?とにかく、こうしていても埒があかないので私は一つ、彼女に質問を投げかけることにした。


「聞いておきたいことがあります」


「はい、なんでしょうか」

彼女の声に抑揚は無かった。


「あの時…なぜ天然鈴さんに声を荒げ、挙句の果てには手まで上げたのですか?なんのために」

私には宝城玲花がそこまでする理由がわからなかった。何一つとして。


「…これは本心です。嘘偽りない私の言葉として受け取ってください」

彼女はゆっくりと話し始めた。


「私は貴方があまりにも天然さんに依存していると考えていました。結果、間違いではなかったと思います。理由は存じ上げませんが、何かきっかけがあったのかと思います」


きっかけか。よく覚えている。あの人は私が必要だと言ってくれた。欲しい言葉だった。嬉しかった。


「理由はどうあれ、その依存が天然さんを苦しめているのではないか。そう考えました。かなり悪化していたようですし、ですから、私は貴方を正そうとあのようなことを言いました」


過剰な干渉は負担、考え直す。まぁ間違いでは無い。と思う。


「ただ天然さんから、嫌いになってくれていい、と言われた…と」


そう言われた瞬間を思い出そうとするが曖昧だった。かなり衝撃を受けたのは辛うじて覚えている。


「私はそれを聞き…あまりにも無責任だと、そう思いました。形はどうあれ、大事に思ってくれる人を突き放すようなことは…」


…なんだ?私のために…あんなことを?


「私は…自分が被害者でしかない、というような振る舞いをする天然さんが許せませんでした。私の思い込みかもしれません。ただ、そう思い、あのようなことを…」


「玲花様…なら貴方はもしや…私のために…」

心臓の鼓動が早まっていた。


「言い訳でしかありません。ただ、あの時、私は酷く取り乱していた貴方の姿を思い、手を出してしまいました。許される行為ではありませんでした…」


何か、心が軽くなった。必要だとか言われたわけではないというのに。何故だ?

気がつくと宝城玲花は震えながら泣いていた。その姿は…幼く見えた。


「悪いな宝城さん。無茶させて」

淘江が彼女に近寄る。


「いいんです。ちゃんと話したいと言ったのは私ですから」


「…執印さ、宝城さんはアンタのこと見てくれてた。それはわかったろ?」

淘江が言った。あぁ、よくわかった。私は…都合の良い言葉を求めているだけだった。宝城玲花は私を見ていた。必要、という言葉以上のものを私は受けていたのだ。


「玲花様」

私の声に反応し彼女は目線をこちらに向ける。


「私は…勘違いしていたようです。愚か…と言うべきなんでしょうね」

視界が開けていくような感覚がある。


「貴方のしたことは間違いだと思います。人に手をあげることを是としたくはありません。ただ…」

深呼吸。


「申し訳ございませんでした。責任の一端は私にもあります」


「執印さん…」


と、宝城玲花が身じろぎした…。


「どうした宝城さん!?…予兆か?」

写野の問いかけに彼女はゆっくりと頷く。

戦いか…最初に戦っていた理由は思い出せない。だが、戦わないという理由は今、無くなっていた。ポケットに手を突っ込む。


…無い!そうだ…宝城家に置いてきてしまったのだ。


「執印さん」

宝城玲花が何かを差し出してきた。掌には…シアンの絵の具があった。


「これは…!」

「置いたままだったので…持ってきてしまいました。必要かどうかわからなかったのですが…」

答えは決まっていた。


「いえ、必要でしたよ。ありがとうございます」

絵の具を受け取る。淡く光り出した。


「後から向かいます。待っていてください」

誰のためでもない。ただ、自分が戦うために。


僅かに、彼女が微笑んだ気がした。空間が捩れ、辺りは無色無音の世界になる。宝城玲花の姿は消えていた。


「國明…戦うのか」

「えぇ。私がそうしたいからです」

聞こえはいいが、単にすることがこれくらいしかない。だが、理由はそれだけでいい。


「よーし、んじゃ行くか!あんま待たせるとよくないからな!」

淘江の声に私たちは絵の具を捻った。光に包まれる!




あの世界。戦いはすでに始まっていた。敵は…あの、クヴァレだ。

戦っているのは…玲花様、陽向天晴、若月才二、墨名夜星だった。


「お!増援か!」

陽向の大きな声が響く。


「行きましょうか二人とも!」

私の号令に写野と淘江は絵の具を構えた!


「「「彩色顕媄!!!」」」

シアン、マゼンタ、茶の戦士が姿を現す!


即座に3人で、先発隊の元へと向かう…!


が、敵に阻まれた。深い青のセミのような怪人。色を抜かれた人がいる!


「取り敢えず、コイツを倒さないとな!」

淘江が敵との距離を詰める!

瞬間、敵は鳴き出した!ミンミンと大きな声は衝撃波のようなものを生み、私たちは吹き飛ばされた!


「近づけない!」

写野が体勢を立て直しながら言う。


「壁が必要ですね」

私は武器である大剣を盾に敵に近づいた!


「後ろから来てください!」

私の合図に、写野と淘江は背後から着いてくる。衝撃波はどうにか防げている。


私はそのまま全力で突っ込み、体当たりした!敵はよろめき、声は止まった。


「今です!」

私の背後から二人は飛び出し攻撃を放った!


『ディープブレイク!』

『インパクトドリップ!』

同時攻撃!敵は吹き飛び爆散した。色が解放されて、私たちのほぼ真後ろに飛んでいく。

視線を向けると、そこには倒れている人間。そして人影があった。


紫と…黄色の戦士…天然鈴!


「色戻ったよー!」

雷電紫は叫ぶ。玲花様たちに向けてだろう。


「取り敢えず、救出完了…っと」

淘江がそんなことを言っていると、何かがこちらに飛んできた。


玲花様たちだった。四人の戦士はクヴァレに吹き飛ばされてきたのだった。


「やべぇ…やっぱアイツ強え」

墨名がうつ伏せのまま呻く。


「まだ、負けたわけじゃありませんよ…弱気になっては!」

若月が奮い立たせるように言う。


「わかってるよ!んな、カッコ悪くねぇよおれ!」

墨名の反論。コイツは相変わらずだな。


「執印さん…」

玲花様が声をかけてきた。


「私は戦えます。心配などいりませんよ」

そう言いつつも後方の天然鈴が気がかりだった。


「みんな!」

新しい声が聞こえてきた。声の方を見ると、陰山木葉、蘭幕舞、そして、白の戦士、確か昼飯夢奈…が現れていた。


「…あれ?全員揃った?」

陽向がそんなことを言った。


赤、緑、金、紫、黄、マゼンタ、シアン、黒、青、白、茶、銀。

十二色の戦士たちが揃っていた。


「これなら…勝てますかね」

若月が言った。


「どうでしょうね…」

私は全員揃ったからといって勝てる気はしていなかった。心は揃っていない。自分が言うことではないが、わだかまりは消えていないのは事実だ。


「おー!めっちゃいるじゃん!カラフル〜」

聞き覚えのある声…まさか!


「いやー、こんだけ居ると壮観だね。クヴァレもそう思わない?」

マスターだ。クヴァレと共にこちらに近づいてきている!


「正念場…かもね」

蘭幕舞は盾を構えて敵を睨む。クヴァレのみならまだしもマスターまでいるとなると、武器を握る力は強くなる。


「あのさクヴァレ!試してみない?彼らがどれくらい戦えるのか!」

クヴァレを見つめながら言ったマスターはこちらに目線を向けた。


「果たして…彼らは共に戦えるのかな?」

遠目だが、嫌な感覚がした。


「ねぇみんな!今、言うことじゃないかもしれないけど…いい?」

雷電が急に声を上げた。


「わたしたちの名前、決めよう!みんなのチーム名!」


「えっ、今かよ!?」

墨名は困惑している。それもそうだ。タイミングが意味不明だ。


「おー!いいじゃんいいじゃん!聞かせてよどんな名前か」

マスターが煽るように言った。クソ…馬鹿にしているのか?


「止まりなクヴァレ。最後になるかもしれないから…聞いてあげようよ」

マスターの言葉にクヴァレは歩みを止める。


「…!いくつか案があるんだけど…」

雷電は焦りながら話し出した。


「今、いいかなって思うのは!」

興奮気味に言った。


「『超彩色フルカラーズ』ってどう!?」

…なんだそのヘンテコな名前は!?


「あっ!えと、一応、仮ね!仮だから!」

慌て気味に雷電は予防線を張る。


「フルカラーズ…!全員揃ったし…いい感じじゃね!?」

陽向の能天気な声。


「良いね!紫ちゃんらしいかも」

陰山。


「十二人いること…わかりやすくて良いと思います!」

若月。


「仮ですからね。まだ一考の余地はあります」

空気を読めていないかもしれないが私は釘を刺す。


「かもねー。でも、今はフルカラーズで行こうよ!」

昼飯夢奈が言った。まぁいい。今は全員で戦う時なのだ。


後ろの方から声がした。小さな声。いつの間にか玲花様は後方の天然鈴のもとへ向かっていた。


申し訳ございませんでした


ううん。もういいよ


しかし、私は…


あのね…多分もう、どうにもできないと思う。でも


でも?


一緒には…戦えるよね?


他の皆は気がついているのだろうか?名前に気を取られているのではないか?

少なくとも、私はこの会話を覚えておかなければならない。二人のこの結末を。



「おーい!もう決まった!?」

マスターは飽きてきたのか催促してきた。


「おう!待たせたなマスター!」

陽向がズイっと前に出た。


「いいのか紫?俺が仕切って」

「うん!天晴、声大きいし!」

「よし!任せとけ!行こうみんな!」

陽向が大きく息を吸った。


「よく聞いとけよマスター!俺たちは!」

その声を聞き、私も息を吸い込む!


『超彩色フルカラーズ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎』




天晴は…叫んだ。精一杯。


十二人の声は一つだった。心はわからない。でも、今は目の前の敵を倒すために力を…一つに!



「あはははは!最高!いいよ!じゃあお手並み拝見だ!行きなクヴァレ!」

マスターの言葉にクヴァレは突っ込んできた!八本の触手をうねらせている!


「みなさん!私と陰山さんで牽制を仕掛けます!墨名さん、雷電さんは迎撃の備えを!触手の動きを見て切り落としてください!」

宝城の指示が飛んでくる。


「蘭幕さんは防御体勢を!他の皆さんは敵の動きに注意してください!」

俺はクヴァレに視線を向けた。巨体がこちらに近づいてくる!宝城と陰山さんの射撃が放たれるが気にも留めてないみたいだ!


「形だけ整えて…まとまれているのか?」

敵はそんなことを言いながら、触手を伸ばしてきた!


『ムーンハント!』

『十六夜流剣技 落雷!』

二人の斬撃!触手を二本切り落としたが、まだ六本残ったそれらが二人を狙った!


が、それは弾かれた。舞さんの盾型のバリアが防いだ。


「身体がお留守だぜ!」

淹煎さんが敵の懐に潜り込む!


『フルボディナックル!』

全力の一撃!という勢いだった。敵は後退りした。


『ディープブレイク!』

隙を見逃さず、写野さんが斧を振る!触手がまた一本切り落とされる!


「無茶するな淹煎!」

写野さんは叫ぶ。なんと、淘江さんの色は薄くなっていた。


「今は無茶するタイミングさ…夢奈!」

淘江さんの叫び!


「オッケー!」

昼飯さんは鞭で一気に敵の身体を触手ごと絡め取った!動きを止めた!


「十秒も持たないから!」

その声を聞き、俺は走り出した!横には若月くん、執印さん、鈴が並んでいた!さらに、紫と墨名くんも合流する!


「よし!同時攻撃だ!」 

返事は無かったが、伝わった感覚があった。


『アッパレストライク!』

『蒼穿!』

『スレイブスラッシュ!』

『イエローホームラン!』

『フルムーンハント!』

『紫電ノ剣技 十六夜!』


更に!

『サイレントアロー!』

『ゴールドショット!』

『シルバースロー!』

陰山さん、宝城、舞さんの攻撃も放たれた!


攻撃と同時に昼飯さんの鞭は解かれ、クヴァレは吹き飛び、転がっていった!


「やったか!?」

「油断はダメです!」

楽観的な俺に若月くんが突っ込む。

クヴァレはゆっくりと立ち上がった…!


「バカな…こんな寄せ集めの奴らに…!」

まだ戦えるのかアイツ!


「おれはまだ行けるぞ」

墨名くんが強い口調で言い放った。


「見て!」

紫が何か気がついたようだった。

敵の…クヴァレの身体から少しずつ色が抜けているのが見える。あの現象は!?


「あーあ、ダメだねクヴァレ」

いつの間にかマスターはクヴァレの横に立っていた。


「マスター?何を言って?」

「負けだよキミの」

マスターはそう言い、こちらに身体を向けた。


「素晴らしい!超彩色フルカラーズの諸君!力を合わせ、クヴァレを倒すなんて…感動したよ!」

な、何言ってるんだアイツは?


「これからは…こっちもやり方を変えようかな。君たちの力がどこまで通用するのか…ボクに見せてくれ!」

そう言って、マスターは上空に飛び上がった。


「またねフルカラーズ!そして…クヴァレ」


「そんな…マスター…!」

縋るような声を出したクヴァレは爆散し、多くの色が解放されていった。爆炎の中から人影が現れる。アイツも人間なのか…?


光に包まれる…。




河川敷。私と、玲花様、写野、淘江は現実に戻ってきていた。


「おい、淹煎…大丈夫か?」

「たりめーだろ。自分の限界はわかってんよ」

そう言う淘江はふらつきながら写野に支えて貰っていた。


「とにかく、あの強えヤツは倒したし。今日は…お開きで…」

淘江は明らかに消耗していた。


「わり、真士…家まで送ってくんね?」

「バカかお前は…無茶してるじゃないか」

「そう言うなよ…あのタイミングでないと隙作れなかったぜ?」

「感謝してるよ…。なんか、昔もこうやってお前を介抱した気が…」

「あー、酔い潰れた時だな」

「変わらないなお前」


二人は去っていく。

私と玲花様だけが残された。


「…天然さんとは何を?」

聞いておきたかった。二人はどうしたのか。


「…関係は戻せるかわかりません。ただ、共に戦うことはできると…確認しあいました」


「そうですか…」

この結末でよかったのだろうか。他にもやりようはあった気がする。が、何も思いつかなかった。人は…難しいな。


「執印さん?」

玲花様は私が考え込んでいるのに気がついたようだった。


「…ご心配なく。私は大丈夫です」

少しの沈黙。


「玲花様」

「執印さん」

玲花様は私の目をじっと見つめていた。


「こんなことを言うのもなんですが…それでは前と変わりません。共に戦う仲間として、様はやめましょう」

正論だろう。だが、なんと呼ぼうか。


「呼び方を迷っているのですか?好きなように呼んでくれて構いませんよ」

そうか…なら…。


「玲花さん」

「はい」

「私は天然さんともう一度、話してみようと思います。これからは仲間として…関われるかはわかりませんが…」

「はい」

玲花さんは弱々しい笑みを浮かべた。


結局、まだ最初に戦っていた理由は思い出せない。それでも、戦おう。これからは自分の意思で、フルカラーズとして。



次回ッ!

第三十一話 金銀いるなら銅もいる!

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