第二十九話 思案の果て、音鳴らす花!
昼過ぎ。駅前のベンチに腰掛ける二人の男。墨名夜星と写野真士。
「なぁ…真士さん。オレ達、どうしたらいいんだろ?」
あれから3日。鈴と別れてからオレはどうしたらいいかわからなくなってた。
「さぁな。出来ることは何も無い…と思う」
真士さんは淡々と答えた。多分、この人もどうしたらいいかわかんないんだと思う。
鈴は、嫌いになってくれていいって言ってた。でも、いきなりそんなこと言われて、嫌いになるなんて出来ない。す、好きって言うとなんか恥ずいけど、少なくとも嫌いなんかじゃなかった。
「鈴は本気であんなこと言ったのかな?」
また質問してしまう。
「どうだろうな。表情は…本気な感じはした。そうじゃ無いと思いたいが、会っていない間にああいう考えになった、のかもしれないな」
変わらず真士さんは淡々と答える。
「不安じゃないの?オレは…不安だし、怖いし…心配なんだ、鈴のこと」
「不安だよ。俺も同じ気持ちだ。でも、鈴に無理矢理確かめるようなことは出来ない。あの子を追い詰めるかもしれない」
わかるけど、無理に確かめないと、とも思う。でも、それだと國明みたいだよな…。
思えば、鈴がどこの大学に通ってるとか、どこに住んでるかとかをオレ達は知らなかった。大事だと思ってたけど、鈴のこと全然知らなかったんだな。
「…國明はどうしてんのかな」
これは質問じゃなくて独り言だった。無意識に口にしていた。
「それが一番わからないな」
真士さんの言う通りだ。あの日、あの後、國明は嘘みたいに大人しくなって、黙り込んだ。人が変わったみたいに…。あれからアイツには会ってない。どこで何してんだろうな…。
「私は…私は…!」
執印國明は自宅にいた。カーテンが閉め切られた六畳の部屋。ベッドの上で彼はのたうち回っていた。
どうしたらいい?鈴様はきっと、もう私が要らない。何故だ。私は…あの人に必要とされるように尽くしてきたはず!必要だと言ってくれていた。なのに、何故こんな!?
息が荒い。身体が、頭が重い。うまく思考が出来ない。
「す、鈴様…」
スマホを開く。連絡を…。
通話のボタンが押せない。彼女と話すのが怖かった。
誰か…誰か私を欲してくれ。
一人、あの人の顔が頭をよぎった。いや、ダメだ。今更、何を求めるというのか。だが…もう…。
画面の消えたスマホをもう一度開く。連絡をする相手は…決まっていた。
「玲花様…」
OP
宝城家の門の内側に立ち、宝城玲花は呟いた。
「何があったというのでしょうか」
先ほど、執印國明から連絡があった。
会って欲しい、と。
最近の彼との関わりの中で自分は嫌われている、という認識があった。にも関わらず会いたい?どういう風の吹き回しか。
正直、会いたくはない。彼の顔を思い出すだけで頭が痛い。それでも会うことを承諾したのは以前の戦いで見た一部始終が記憶に残っていたからだ。
あの時、執印さんは天然さんと再会した。尋常ではない雰囲気だった。戦いが終わった後、どうなったかは知らない。だが、私に会いたいなどと言い出す以上、何かがあったのだろう。
深呼吸。
「上手く話せるでしょうか」
言葉が口に出てしまう。恐らく、私は不安なのだろう。誰か…陽向くんや陰山さんに頼りたいが、今は駄目だという気がした。私一人で話さなくてはいけない。
門の外に気配を感じる。執印さんだろう。ゆっくりと開ける。
見知った人間が立っていた。だが、その人は記憶とは違っていた。酷くやつれ、目は虚ろ。背筋は曲がっていた。服装もかなり乱れている。よれたシャツに皺だらけのズボン。
「執印さん…ですよね?」
思わず聞いてしまっていた。見ればわかることなのに理解ができなかった。
返事はない。虚空を見つめ、ただ呼吸をしている。
「…とにかく中へ」
ここに居ても埒が明かない。私の言葉に彼はゆっくりと歩き出した。
応接間。机を挟み、私と執印さんは椅子にかけた。沈黙が流れ、彼は相変わらず目の焦点が合っていないようだった。
「それで、どういったご用件でしょうか」
無駄な時間を過ごしたくない、それとも彼と二人きりのこの空間に耐えられない、自分がどう思ったのかはわからないが問いかけていた。
…返事はない。
「執印さん。申し訳ありません。何も話さないのであれば、お帰り頂けますか?」
冷たい言い方。だが、こんな揺さぶりをかけないと答えは返ってこないと思った。
「…すか?」
消え入りそうな声で彼は何か言った。もちろん、何を言っているかは聞き取れなかった。
「もう一度よろしいでしょうか。聞こえません」
淡々と言う。すると、彼はゆっくりと視線をこちらの目に合わせ口を開いた。
「私はなんですか?」
今度は聞き取れた。が、意味は全く理解ができなかった。
「質問の意味がわかりません…どういった答えを求められているのでしょうか」
意図を汲み取ろうとするが不可能だ。あまりにも情報が不足している。
執印國明とは何か?役割が何か?という問いなのか。
貴方はこうです。
などと軽々しく答えるべきではない。しかし、答えはいくら考えようとも見つからない。以前の雷電さんは自分は何かわからなくなっていたようですが…それとはまた別の問題のように感じられる。
陽向くんなら…なんと答えるでしょうか。
考えてみるがそれもわからない。彼に協力を仰ぐべきだろうか。しかし、状況を説明することも出来ないまま、呼び出しても困らせてしまう。第一、陽向くんと執印さんはそれほど関わりが無い。
陰山さん…も駄目ですね。写野さんや墨名さん…。
いや、天然鈴だ。彼女しかいない。しかし、しばらく姿を消していた彼女と再会したのだから執印さんは冷静でいられるはずだ。だが、今はそうではない。彼女と何かあり、それが彼をこんな状態にしてしまった、と考えるのが自然…だろうか。かえって、この場に呼ぶのは悪手かもしれない。
「私はなんなのか教えて欲しいのです」
思考を巡らせていると、同じ問いがきた。仕方ない。答えは決まっていた。
「自分がなんなのか、それは自分にしかわかりません。申し訳ございませんが、私には答えかねます」
私が答えを出すことではない。それこそ、彼を苦しめることになってしまうだろう。
「自分にしかわからない…?そんなわけがありません。私は…私はわかりません!貴方ならわかるはずです。私がなんなのか!一人で立つことのできる貴方なら!」
執印さんは激しく叫んだ。目は見開かれ、息は荒れている。勢いに気圧されながら、ある言葉に心がざわめいていた。
一人で立つことのできる…。
違う。私は…私は変われたはずだ。陽向くんもそう言ってくれていた。少し、頑張りすぎて前のようになっているかもしれない。それでも、変われているはずだ。人は…一人では立てない、とわかっている。
「何故、黙りこむのですか?早く答えてください!」
執印さんは私を急かすように言う。
「何度でも言います。答えは自分にしか…」
頭がヒリつく感覚。予兆だった。執印さんを見るが、彼には来ていないようだった。
「…失礼ですが、戦いの時のようです。話は後にさせていただきます」
逃げるようだが、コレばかりは仕方ない。
「逃げるつもりですか?貴方らしくもありませんね」
「なら、絵の具を確認してみてはいかがですか?」
私の言葉に彼はシアンの絵の具を取り出した。淡く光っている。それを見て大きく舌打ちをした。
空間が捩れる…。
あの世界。誰が来ているのか。執印さん以外の誰か。周りを見渡すと、三人の人影。陽向くん、淘江さん…そして天然さんだった。
「あ、宝城さん。また会ったね」
天然さんが声をかけてきた…なんだろう?雰囲気が違う気がする。目が笑ってない?声もなんとなく淡々と、抑揚がない気がする。こんな人物ではなかったはずだ。
「…天然さんだっけ?調子悪いのか?戦える?」
淘江さんが彼女に声をかける。どうやら、彼も違和感を覚えたようだ。
「えぇ?あたしは普通ですよ。元気です」
そう答えるが、明らかにおかしい。
「鈴…会ってない間になんかあったろ」
陽向くんも気がついたみたいだった。
「天晴まで…。だからコレが普通なんだって!」
必死すら感じた。そこまでして否定する理由がわからない。
まさか…。執印さんがああなったのはコレが理由?あり得なくはない。聞き出す必要があるかもしれない。
と、咆哮のようなものが聞こえた。凄まじく、身体にビリビリと響くのがわかった。
「敵です!戦闘態勢を!」
今は戦わなければならない。音の先には紫の獅子のような怪人がいた。
「さて、やりますか」
変わらず天然さんの声は静かだった。
「「「「彩色顕媄!‼︎!」」」」
金、赤、黄、茶の戦士が姿を現す!
敵はこちらに突っ込んでくる!身体は大きく2メートルほど…動くたびに地面が揺れる感覚があった。
「ちょっとヤバいかもな…みんな!攻撃貰わないように注意しろよ!」
淘江さんが注意を促す。
「貰う前にやっつけちゃえばいいんですよ」
そう言って天然さんは前に出た!
「おい鈴!危ないって!」
彼女の普段からは考えられない危険な行動に陽向くんは焦ったのか慌てて前に出る。
「ダメです陽向くん!」
「何してんだよ…。宝城さん!キミのバリアで援護頼むぞ!」
淘江さんもそう言って前に出た。
先陣を切った天然さんが敵と戦闘を始めた!敵は大きな爪で彼女を攻撃する…危ない!
バリアを張ろうとするが、敵の動きは素早く、間に合わなかった。地面が割れるのが見えた。天然さんは辛うじて避けたみたいだ。
「やはり、近づかないとタイミングが分かりづらいですね」
そう呟いて私も前に出た。
飛び道具を持たない三人に代わって、私はステッキから放たれる光弾で敵に牽制をしかける。何発かあたるが、気にも止めていない。
そうしている内に、三人は集まり、戦闘を始めた。
「身体を大事にしろ!」
淘江さんは叫びながら天然さんを庇うように戦う。陽向くんもだ。彼女の無茶な戦い方を遮るように。
「邪魔しないで!」
天然さんが叫ぶ。やはり、おかしい。こんな身勝手な人ではない。
碌に連携が取れない三人に、敵はまた爪を振り下ろした。
「いけません!」
バリアを展開する!が、すぐに破られる。敵の攻撃を防ぎきれない!衝撃で三人は吹き飛んだ。
「鈴!落ち着け!どうしたんだよ!?」
「落ち着いてるよ!これが本当なんだよあたしは!」
二人は口論している。
「クソ!危ないぞ!」
敵の追撃に、淘江さんは二人を突き飛ばした!バリアは間に合わず、攻撃は彼に確かに当たっていた。
「淘江さん!」
彼の身体は宙を舞っていた。
「淹煎!」
男性の叫びだった。主は写野さんだった。十数メートル離れたところにいる彼は戦いに参戦しようと雄叫びを上げながら敵に突っ込む!
その間、敵は目標を倒れ込む陽向くんと天然さんに変えていた。またしても腕を振り上げ攻撃の態勢に入る!
「当たって!」
一か八か、私は敵の目を狙って光弾を連射した!目潰しになれば時間を稼げるはず!
当たった!敵は叫ぶが、動きを止めることはなかった。腕が振り下ろされる!
衝撃音と共に動きは途中で止まった。銀色の盾型のバリアが展開され攻撃を防いだのだった。
「蘭幕さん!」
銀色の戦士も戦場から少し離れたところに現れ、陽向くんと天然さんを救った。そこに写野さんが追いつく!
「二人とも立て!決めるぞ!」
写野さんは斧を思い切り振りかぶり攻撃の構えを取っていた。私も…!
『ディープブレイク!!!!!』
『アッパレストライク!』
『フルスイング』
『ロイヤルショット!』
4つの攻撃が敵を襲い、吹き飛ばした!
地面を転がっていくが、爆散はしていない。
少し隙ができた今、私は地面に倒れ込む淘江さんの元へ駆け寄った。
「淘江さん!」
側に座り込む。息はあるようだ。
「おぉ…宝城さん。悪ぃ、少し油断したわ…。戦いどうなってる?」
「勝機はありそうです。ここで休んでいてください」
「…無理すんなよ宝城さん」
そう言う彼は無理に笑っているように見えた。
「淘江さんこそ…無理はしないでください」
敵の方へと向き直すと、陽向くん、天然さん、写野さん、そして合流した蘭幕舞さんが敵にトドメを刺そうと突っ込んでいた。決着はついたようだった。
「申し訳ございません淘江さん。天然さんと話があるので離れます」
「あぁ。急がないと現実に戻されるぞ」
私は走って彼女の元へと向かう。敵が爆散し色が抜けていくのが見えた。時間がない。
「天然さん!」
声を張り上げると彼女はこちらを見た。…陽向くんと写野さんと何か話しているようだったが仕方ない。
「執印さんと何があったのですか?」
単刀直入に聞いた。
「別に?あたしは…ありのまま思ったことを伝えただけだよ」
返事は乾いていた。
「鈴…お前…」
写野さんは険しい表情をしている。
「そうだ、宝城さん。淹煎は…!?」
写野さんは焦ったように聞いてきた。
「無事です。戦闘の傷は戻ればある程度癒えるので…命に別状は無いかと…」
「そうか…」
「なぁ鈴。淘江さん、俺たちのことを庇って」
「わかってるよ。後で…謝らないとね」
彼女を見て思った。戻ったら話さなくてはならない。何があったかハッキリさせる必要がある。
「…天然さんアナタ、紫ちゃんと…」
蘭幕さんが何か言いかけたが、最後まで聞こえなかった。
光に包まれる。
宝城家。変わらず、執印さんは向かいのソファに腰掛けていた。
「来なかったのですね」
そう、彼は戦いには来なかった。天然さんに会うために姿を現すと思っていたが…。
「行く必要が…無いんですよ…」
力無い答えが返ってきた。そういうことか。きっと、彼は天然鈴に会うのが怖いのだ。やはり、何かあったとしか思えない。
「執印さん。少し席を外します。お待ちいただけますか?」
返答はない。
「帰らないようにお願いします。貴方にはここに居てもらう必要があるので」
そう言うと一瞬、彼の目に光が灯った…ように見えたが、すぐにそれは失われた。
さぁ、天然さんに話を聞く時だ。必要であれば呼び出す必要もあるだろう。
玲花様が部屋を出てから一時間近く経っただろうか。私はほとんど意識がなかった。ここ数日、ずっとそうだ。思考することが億劫になっている。
いや、思考などしていなかった。思い、考えることなど何もない。鈴様に捨てられ、宝城玲花などに縋っている私は酷く惨めだ。生きている理由すらない。
ため息が出た。宝城玲花と話し、少し落ち着いている自分がいた。何故かはわからない。相変わらず、自分が何かもわからないし、これからどうすればいいかもわからない。戦いも…もういいだろう。鈴様に必要とされない以上、戦う理由は無い。あの人のために戦っていたのだから。
「帰るか」
ここに居ろ。と言われていたが、いつまでもこうしていても本当に意味がない。大体、私はもう戦わないのだ。関係ない。早く立ち去ろう。そして…。
どうする?立ち去ってその後、何をすればいい?何をして生きていく?
思えば、宝城家を辞めた時もこんな思いをしていた気がする。コンビニのバイトでなんとなく食い繋ぎ生きていた。そんな時だ。あの絵の具を手に入れたのは。そして、私は新しい主人を得た。
そうだ。次の人を探そう。また、誰かが現れるはずだ。そうすれば、生きていける。
「何を悩んでいたんだか」
呟き、軽く笑いながら立ち上がる。上手くいくかはわからない。少し身体が震える。だが、信じるしかない。と、手に握ったままの絵の具に気がついた。
「これも…もう必要ないか」
絵の具を机に放り投げる。さぁ、探さなければ次の主人を。部屋から出ようと、ドアノブに手を掛けようとしたその時、扉は開いた。外には宝城玲花と何故か陽向天晴。そして、天然鈴が立っていた。
戦いが終わってすぐ、家に戻ったあたしは淘江さんに謝罪の連絡をしていた。
『ごめんなさい。身体のほうは大丈夫ですか?』
『あれ?連絡先交換してたんだっけ?真士からもらった?』
『気にしなくていいって!俺もまだまだ若いからさ!こっち戻ってきたら筋肉痛みたいな感じになってただけだし、湿布貼れば問題なし!』
『よかったです!今後はご迷惑をおかけしないようにします。本当にごめんなさい』
そんな返信に少し笑みが溢れた。この人も…自然体ってヤツなのかな。と、考えているとさらに返信が来た。
『天然さんこそ大丈夫か?なんか疲れてるみたいだったけど。心の湿布なんてのはないけどしっかり休めよ!』
…。あたしは返信せず、スマホを閉じた。疲れてなんかない。あたしはただ、自然になっただけ。勘違いしないでほしい。
ベッドに横になりふて寝しようとすると、電話がかかってきた。宝城さんからだった。
「…はい。天然です」
『突然ご連絡してしまい申し訳ございません。ただ、少しお話がしたくて』
「何かな」
淡々と答える。そう、これが自然だから。
『今、執印が私の家にいらしています。酷くやつれて、人が変わったような状態なのですが…何かご存知でしょうか』
言葉が詰まった。國明くんがそんなことに?
公園で別れた時は少し落ち込んでたようには見えたけど…そこまで?
「…知らない」
嘘。
『そう…ですか。貴方なら何か知っていると思ったのですが…失礼します』
「待って!」
思わず声が出ていた。だめ、これじゃ不自然。
『どうしました?』
「え、えっと…」
どうしよう。正直、國明くんのことは心配。でも…。
「今から会いに行ってもいい?」
『…構いませんが。よろしいんですか?』
「うん。そこまで國明くんがなってるなら。心配だし」
不自然だ。それでも、会っておこうと思った。これが最後。そう決めた。
「じゃ、今から向かうね」
そう言って電話を切り、宝城さんの家へと向かった。
宝城家の前に辿り着くと、何故か天晴がいた。
「なんでいるの!?」
いつもの調子で喋ってしまった。自然体…自然体。
「鈴…。いや、なんか宝城に来てくれって頼まれてさ」
「…そっか」
沈黙が流れる。すると、門が開き、宝城さんに招き入れられた。
そして、宝城家の応接間の扉を開くと、國明くんがそこにはいた。
「鈴様!」
安堵の表情を浮かべる彼。
「戻ってきてくれたのですね!あぁ、よかった!私はずっとお待ちしておりました。信じていました!」
彼はあたしの足元に跪くようにしてそう言った。
「ちょ、ちょっと待って國明くん。あのね、あたしは話しに来ただけ」
あたしがそう言うと、彼は顔を上げた。その表情はみるみると血の気が引いていった。
「とにかく、皆さん掛けてください。話はそれからです」
宝城さんの言葉にあたし達は椅子へと向かう。國明くんが項垂れて動かないので、天晴が無理矢理抱き起こして椅子に座らせていた。
あたしと國明くんが向かい合うように机を挟んで座る。宝城さんと天晴は机の横に座っていた。
「それでは、何があったのか。話していただいてもよろしいでしょうか」
宝城さんが口火を切った。國明くんの方をチラリと見ると視線を落とし黙り込んでいた。
あたしが話すしかないみたいだ。
「えっと…どこから話せばいいかな。その、あたし、しばらくみんなと連絡取らなかったでしょ?っていうのも疲れちゃったからなんだけど」
「疲れた?戦いにか?」
天晴がそう思うのは当然だった。あたしは上手く隠していたから。
「ううん。なんか、みんなに好きになってもらうの、疲れたなって思ったんだよね」
そう言うと、天晴と宝城さんは目を見開いていた。
「で、なんでだろうって考えたの。そしたら、自分が無理してたんだなって思ったんだ。だから、無理な…不自然な自分はやめて自然になろうって決めたんだ」
「それって、今までの鈴は嘘だったってことなのか?」
「うん」
天晴は信じられないみたいな顔をしてる。
「でもさ!天晴、前に言ってたじゃん。変わってもソイツはソイツって!陰山さんも少し変わってたし、雷電さんも変わったっぽいじゃん?だから前と違っててもあたしはあたし!」
そうだ、彼がそう言ったんだ。
「いや、俺はそういうつもりで言ったんじゃ…」
「陽向天晴ィ!」
突如、國明くんが叫び、天晴に掴み掛かった。
「しゅ、執印さん…何を…」
「貴様!貴様がそんなことを言ったのか!?貴様のせいで鈴様は変わってしまわれたのか!?余計なことを言いやがって!」
國明くんは興奮してるみたいだった。今にも殴りかかりそうだった。
「やめなさい執印さん!」
止めたのは宝城さんだった。立ち上がり彼を睨んでいる。
「陽向くんを責めるのはお門違いです」
「なんですか?貴方にどうこう言われる筋合いはありません」
國明くんは天晴から手を離し、宝城さんを睨みつける。
「勘違いだったら申し訳ありませんが…貴方は天然さんを自分のものにしようとしていませんか。自分が安心できるために」
意外な言葉だった。あたしを庇ってくれてる?
「何を言って…私はただ鈴様のことを見て、思い…」
「ええ。否定はしません。ですが、過剰な干渉は負担になると思いませんか?」
「そ、それは…」
國明くんはよろよろと後退りした。
「お、おい宝城…」
「陽向くん。わかっています。でも、ハッキリさせておくべきだと思うんです」
一呼吸置いて宝城さんは続けた。
「全て悪いとは言いません。ただ、考え直す必要があります」
言い切っていた。
「考え直す…」
「そうです」
「し、しかし、鈴様は変わられた。嫌いになっていいと…私にはできません!」
國明くんは決めかねているようだった。それもそうだろう。
「今、なんと?」
宝城さんは何かに引っかかっているようだった。
「嫌いになっていいと…」
「天然さん、それはどういうつもりで言われたのですか?」
宝城さんの視線はこちらへ移っていた。
「それは…あたしはもう前みたいにできないし。付き合わせるのは悪いかなって…。だから、嫌いになっていいよって」
「それは…!あまりにも無責任ではありませんか!」
「だって!あたしだって辛いんだもん!みんなに好かれて嬉しかった!でも疲れちゃって…!」
宝城さんはこちらに詰め寄ってきた。
「いいですか。執印さんに限らず、貴方を好いていた方がいたのは事実だと思います。在り方はどうあれ、それに嘘はなかったはずです。それを…貴方は嫌いになっていいなどと簡単に切り捨てるのですか!?」
「簡単じゃない!あたしだって!」
嘘じゃない。でも、ああするしかなかった!
「何か思い悩みがあったとは思います。ですが、相手の気持ちを考えていないのではないのですか?実際、執印さんは…!」
「そんなの…!知らない!あたしは…あたしは好きになってなんて言ってない!」
そうだ。そんなこと言ってないんだ。必死に否定してると、不意に宝城さんの目から光が消えた。
「嫌いになっていい。と貴方は言いました。仮に私にその言葉が向けられたとしても、私は貴方を嫌いにはなれないでしょう」
彼女の声は酷く冷たかった。
「ですが、今の言葉を聞き…」
宝城さんは少し、間を開けた。何か、躊躇してるみたいだったけど、ゆっくりと口を開いた。
「私は貴方のことが嫌いになりました」
息ができない。嫌い。嫌いって言われた。
過去の記憶が湧き出してくる。
幼い頃、ちょっと違う意見を言ったらみんなから仲間はずれにされた。
すずちゃんきらーい
やめて、一人にしないで。嫌いに…ならないで!
「おい宝城!鈴泣いてるぞ!?」
「す、鈴様、どうされたというのですか!」
天晴が國明くんが叫んでる。あたし泣いてる?呼吸がうまくできない。
「天然さん、話はまだ終わっていないんです…!」
「これ以上はやめろって!」
もう誰が話してるかわかんない。
やだ、嫌いって言わないで。やだやだやだ!
パチン、と乾いた音がした。突然、意識がハッキリする。
なんだろ。あ、あたしから音がしたんだ。なんで?
頬がじんわりと熱い。
そうだ。宝城さんがあたしのこと叩いたんだ。痛い…。
「貴方のことを嫌いになれない人がいます!貴方だけ…自分だけが辛いと思うなッ!」
視界が揺れる。もうわかんないよ。どうしたらいいの?
「いけません…」
國明くんの声がした。弱々しい声。そして。
「宝城!お前…何やってんだよ!?」
天晴の怒号が聞こえた。視界がハッキリしてくる。宝城さんの腕を天晴が思い切り掴み、詰め寄っていた。
「鈴様…大丈夫ですか?」
「鈴?」
二人の声は酷く優しかった。
まだ、優しくしてくれるんだね。
ありがとう…。
次回ッ!
第三十話 豪華絢爛!12色入り!




