第二十七話 青に落つ影、照らすは赤!
「…い!ほう…う!…きろ!」
声がする。誰だろう。
「…り…しろ!」
しきりに叫んでいる。うるさい…が少し心地良い。段々と意識がはっきりしてきた。ゆっくりと目を開く。
「宝城!起きたか…」
声の主は陽向くんだった。ここは…どこだったか…そうだ、自室だ。私は椅子にもたれかかるように座っていた。
何をしていたか…あぁ、彼を招き入れ天然鈴さんの行方について話していたのだった。
「あのさ、鈴が戦いに来てたんだ」
陽向くんの言葉に私は驚く。連絡が取れないのではなかったのか。
「無事だったんですね。何か話せたんですか?」
「いや…鈴は急に現れてあのエキストラって奴を倒したんだ。で、すぐに戻されて…」
「そうでしたか…一体、どうしてしまったのでしょうか」
謎だ。彼女はなぜ連絡を取らないのに、戦闘には参加したのか。
「鈴が来てたのに気付いてないってことは…やっぱ気を失ってたんだな」
陽向くんは目を細めて私を見つめる。
「申し訳ございません。また…無理をしていたかもしれません」
先程の戦い、バリアを破られ、私の意識は闇の中へと沈んでいった。いつの間にか戦いは終わり、現実へと戻ってきていたようだ。
「大丈夫…なわけないよな」
目を見開いて私を見つめる彼の声は震えていた。
「どうにも、上手くいきませんね。一人で戦っているわけではないということ、わかっているつもりなのですが」
「なぁ、最近の宝城ってなんか変な気がする」
変か。確かに…前のように助け合って戦えなくなっている実感がある。
「そうかもしれません。自分でもその感覚はあります」
「なんかあったのか…?」
彼の声は一転、落ち着いていた。それを聞き私は頭が冴えてくるような感覚がした。
「…執印さんと少し」
最低限の回答。
「あぁ、この前言ってたやつか」
そう言って彼は深くは追及しなかった。執印國明との件が私をおかしくしている…間違いではないと思う。それに…。
「敵が強くなってきました」
私のその言葉に彼は黙って頷く。同じようなことを思っていたのだろう。
「戦いは厳しくなってきています。どうしても気を張ってしまって…」
言葉を続けようとするが詰まる。だが、事実を言わなければならない。
「前の私に戻っているのかもしれません」
執印國明に言われた言葉が頭の中に響く。
貴方は誰も必要としていない!独りよがりな、酷い人間なんだ!
あの時は多少なりとも反論をした。自分は変われたのだと。だが、勘違いだったのかもしれない。頭が痛くなってきた。
「宝城…俺はそうは思わないよ」
「陽向くん…気遣わなくて大丈夫です」
「変わったよ宝城は。今はちょっと…みんなの為に頑張りすぎてるだけなんだって」
陽向くんは私の目を真っ直ぐに見てそう言った。頭の痛みが少し和らぐ。全く、物は言いようだ、と思った。
「ありがとうございます。そんな風に言ってくれるのは陽向くんくらいかもしれません」
「んなことないって。陰山さんも紫も同じこと言うと思うぜ」
彼は軽く笑った。優しい目、声。以前のような空元気みたいな雰囲気は薄れ、包むような温かい雰囲気を感じさせる。太陽のような。私は自然と表情が緩んでいた。
と、陽向くんのスマホが鳴った。
「もしかして天然さんでしょうか」
「いや、舞さんだ…」
彼はスマホを開くと、表情が変わった。口を強く結ぶ。
「悪い、会ってくる」
彼は素早く外に出る準備を始める。
「…一人にしちゃうけど、ご両親に声かけていこうか?」
「大丈夫ですよ。何かあったのですか?」
「若月くんがちょっとやばいかも」
「…あまり、無理はしないでくださいね。貴方は人に優しすぎる時があります。自分が苦しくならないように気をつけてください」
「大丈夫だよ宝城。心配してくれてありがとな!」
そう言って部屋のドアを開けると立ち止まった。
「ま、俺が暗くなってたらさ励ましてくれよ」
「はい。任せてください」
私の答えに彼は微笑み部屋を後にした。
OP
公園。陽は落ちかけていた。ベンチに座り込む才二とそれを見守る舞が立っていた。
「才二…アナタ…」
私…舞は彼にかけるべき言葉を見つけられないでいた。何か思いついては口に出そうとしたが、言葉は喉の奥でつかえ、さらに奥の方へと沈んでいく。それを繰り返していた。
最早、彼は泣いていなかった。浅い呼吸を繰り返しながら、ただ、座り続けている。
どれくらいこうしているだろうか。先程、共に食事をした。駅前にあるファミレス。食欲は湧かないかと思いきや才二はいつもと同じくらいの量を食べていた。一旦、落ち着いたように見えたが、退店した辺りから影が落ちるように沈んでいった。
スマホを見る。天晴くんから
すぐに向かいます
と返信が来てから数十分経つが、現れる気配はない。
「才二…そろそろ何か言ってくれてもいいんじゃない。いつまでこうしているつもりなの」
結局、私は待ちきれずに問いただしていた。才二は微動だにしない。聞こえていないのだろうか。彼の前にしゃがみ、視線を合わせようとするが、俯く彼と合うことはなかった。
「いい加減にしなさい」
私は才二の顎を掴むと、無理矢理こちらを向けさせた。潤んだ瞳、頬には微かに濡れた跡がある。
「このままこうしていて、何か解決すると思っているのかしら。そんなに情けない男だったの?」
無理矢理視線を合わせたが、彼は目を逸らした。
「こっちを見なさい」
彼は一瞬、飛び上がりそうになりながらゆっくりとこちらに目線を合わせた。
「いい?目を離さないで。私の話を聞きなさい」
彼が小さく頷いたので一旦、顎から手を離す。
「人を助けられなかったこと、人をまとめきれていないことでアナタが悩んで、苦しむのはわかる。悪いとは言わないわ。確かなアナタの良いところよ」
才二は黙って聞いている。
「でも、何度も言っているわよね。程々にしなさい。立ち止まるのはいい。そこから進めなくなるのはダメよ。今のアナタは立ち止まって、塞ぎ込んでいる」
そう言うと才二は目を伏せた。
「こっちを見なさい」
すぐに目線はこちらに戻る。
「…そのままだと、もう人は救えない、皆をまとめることもできない。それでいいのかしら。諦めてしまった、ということ?若月才二はこれでおしまいなの?」
厳しいことを言っている自覚はある。だが、この子はこうでもしないと立ち直らない。
才二は私の目を見て黙っている。口元は僅かに動いていて、何か言葉を発そうとしているのがわかった。
「言いたいことがあるなら言いなさい」
「まだ…終わりじゃないです…」
真っ直ぐな目で才二はそう言った。声は震えているが、確かな意思を感じられた。
「でも…」
才二は言葉を続けた。
「でも、もう…どうしたらいいかわからないです。助けられなかったのは…やっぱりボクがいつまでもみんなをまとめられなかったからだって…そう思って…」
ダメだ。立ち直る気配がない。打つ手も無くなってきた。夢奈や淹煎に頼りたいが、彼らは沈みきっている相手を無理矢理立たせるようなタイプではない。寄り添うことも大事だが、今の彼は無理矢理にでも立ち直らなければならない。そういう時だ。
「なら諦めると言いなさい」
突き放すような言葉。という自覚はあった。だが敢えて言う。折れるか折れないか、ハッキリしておかなければ無駄な時間を過ごすだけだ。
「…嫌です」
蚊の鳴くような声。
「よく聞こえなかったわ。もう一度ハッキリ言いなさい。なんですって?」
淡々と追い詰めるように言う。才二は座ったまま震えている。
「もう一度、ハッキリ、言いなさい」
「嫌です!」
才二は立ち上がり、絶叫するように言った。その声は力強さと意地を孕んでいた。
「そう。諦めるのは嫌なのね。それならそれなりの態度、行動を見せなさい」
私の返答に才二は顔を伏せた。
「どうしたらいいんですか…」
声が震えているが、僅かに語気が荒い。
「それは自分自身で考えるのよ」
「舞さんは!」
突如、彼は目を見開き、吠えるように叫んだ。一瞬、私は怯む。
「いつもそうだ。ボクは弱いって…わかってますよね!?なのにいつも…ボクが強いみたいな風に言って!ボクの気持ちなんて考えてないんじゃないですか!?」
彼が初めて見せる激情に私は言葉を返せなかった。
「だんまりですか…?やっぱり…」
「そうね。そうかもしれない」
突然の私の肯定に才二は息が止まったように見えた。無理もないだろう。
「確かに、私はアナタができる人間だろうと決めつけて言葉を投げかけていた。そう思い込んでいたかもしれない。アナタの気持ちを考えていなかったわ」
才二は黙ったままだ。
と、後方から間隔の短い足音が聞こえた。走っているのだろう。
「すみません!遅くなりました!」
振り返ると陽向天晴が現れた。息は上がり肩で呼吸をしている…かなり急いで来てくれたのだろう。
「謝ることはないわ。ありがとう来てくれて」
「いえ!そんな、お礼を言われるようなことじゃないっすよ!」
溌剌とした表情で彼は答える。
「…陽向さんなんで?」
才二は天晴の姿を見て困惑の声を上げていた。彼に天晴を呼んだことを伝えていない、当然だろう。
「舞さんに呼ばれてさ…なんか…あったんだよな…」
漂う空気感に気が付いたのか、声のトーンが少し下がった。
「実は…」
「待ってください」
私が説明しようとすると、才二は遮ってきた。
「陽向さん、ボクは強い人間だと思いますか?」
若月くんの問いに天晴は戸惑っていた。どういう意味で聞いてるんだ?
「陽向さん」
彼は答えを待っている。視線が突き刺さる。舞さんはその横で黙って彼の顔を見つめていた。
「そうだな…強いと思ってるよ。みんなをまとめよう!って色々と考えて、実際に動いてくれてるじゃん?」
正直に伝える。でも、彼は黙ったままだ。
沈黙に耐えられず、また話し出す。
「ほら、陰山さんのことあったろ?アレもさ若月くんのお陰っていうか、君がいないとあのままだったと思う。ほんと…アッパレな奴!って思うよ!」
…変わらず黙ったまま。そもそも、どういう状況なんだ。説明が無いから何を話せばいいかわからない。と、彼は少し置いてから口を開いた。
「陽向さんも…そう思ってるんですね」
「え?」
「ボクが!強いって!」
彼の突然の叫びに俺は戸惑った。
「舞さんと同じです!違う!ボクは…弱いんです…なのに…なんで強いなんて…」
彼は俯いた。…どうなってんだよ?
「ごめん。なんか…若月くんのことよくわかってないのに強いとか言って…」
前に陰山さんと話したことが頭の中に浮かぶ。
お互いを見ていなかった。
そうだ。俺は若月くんのことを見ていない。正直、かなり付き合いは短い。どういう子なのかわかっていない。ほんの少しの印象で話していた。それじゃダメだ。
…宝城が言ってたな、前の自分に戻ってる。
俺が今、そうかもしれない。若月くんを見ないと。
「俺さ、陰山さんと話したんだ。お互いのこと見てなかった、勝手なイメージ持ってたって。今も…若月くんに勝手なイメージ持ってたみたいだ」
そう言うと彼はハッと顔を上げた。
「いえ…ボクの方こそ…すみません。急にこんなことを言って…」
彼の顔は歪み始めた。
「悪い、何があったか全然わかんないんだけど…若月くんはさ、自分のことを弱いと思ってる…ってわけ?」
話の流れがわからない以上、聞くしかない。
「それは…」
言い淀む。完全にそう思ってるってわけでもないのか。
「ハッキリさせましょう才二。アナタ自身、自分をどう思っているのか」
舞さんが口を開いた。
「舞さん…!あなたは…!」
その言葉に若月くんは彼女を睨みつけた。こんな子だったのか?
「私は一方的にアナタが強いと決めつけていた。認めるわ。リーダーとして、理想を持つ者として、そうあって欲しいと願っていたから」
舞さんの瞳は真っ直ぐに若月くんを見つめていた。彼は少し驚いたような表情で話を聞いている。
「でも、それは理由もなく願っていたわけではないわ。アナタにそう願えるような強さを感じていたからよ」
嘘偽りのない真っ直ぐな言葉…そんな感じがした。
「…でも、舞さんはボクを叱る。ボクが弱いから」
「強くあって欲しい。そう思っていたからよ。ただ…」
舞さんは言葉を止めた。珍しい…どうしたんだ?
「ただ?無理矢理、ボクを讃えるみたいなことを言う気ですか?」
「ちょ、若月くん、それはいくらなんでも意地悪すぎない?」
こんなこと言うの?イメージと違いすぎる。でも、これも若月くんなんだよな…。
「いいの天晴くん。才二、続けさせてもらうわね」
俺を諌め、舞さんは続けた。
「アナタの弱さから目を背けていた。才二はこんなことを言ってはいけないと、強い人間でいさせようとし過ぎていた」
「…ほら!弱いと思っていたんじゃないですか!そうです!リーダーなんか…人をまとめることなんかできないんです!」
彼の言葉から迷いを感じた。歯切れが悪いっていうか。
「じゃあさ、なんでまとめようって言い出したんだよ」
不意に疑問をぶつけていた。
「そ…それは…!」
あからさまに慌てる若月くん。
「それは?」
「…そうしたほうがいいと思ったからです」
思ったから。俺たちに力を合わせようって提案してきた時、そんな軽い感じじゃなかった気がする。必死さすら感じた。
「ホントに?」
「本当です…」
あまりにも弱々しい声。多分、彼は嘘をついている。予感がした。
「あの時さ、凄ぇ真剣な目してたよ。俺さ、この子ならやってくれるかもしれないって気がしたもん」
「気のせいですよ…」
「あのさ…嘘はやめようぜ」
俺の言葉に彼は押し黙った。図星なのか?
「才二、私からも言うわ。嘘はつかないで」
舞さんが言葉を重ねる。
「ボクは…」
彼は口を開く。
「ボクは…みんなが力を合わせられるチームを作りたいです。そういう風にしたいです。それが良いと、素晴らしいと思います」
震えながら話し続ける。
「けど、そんな理想を言えるような状況じゃないんです。前の戦いで攫われた人を救えなかった。ボクがいつまでも、まとめられずにいたから…もう…できもしないことを言い続けるのは…辛いんです…!」
そう言ってまた、俯いた。多分、全部吐き出したんだろう。
「才二…」
舞さんはかける言葉が見つからないみたいだった。沈黙が流れる。ひたすら、若月くんのすすり泣く声が響く。
「なんつーかさ。一人でやろうとしすぎてない?」
「え?」
若月くんは困惑の声を上げ、俺の方を見る。
「全部、自分が悪いみたいな感じじゃん。別にそんなことないだろ。一人で出来ることなんて限界あるし」
そう言いながら前の宝城を思い出す。なんか、懐かしいな。
「自分で言ってるじゃん。力を合わせられるようにしたいってさ。要はお互いに助け合うみたいなことだろ?なんで、一人で背負おうとするんだ?」
「…ボクはリーダーだし」
「別に、リーダーが人を頼っちゃいけないわけじゃなくね。チームだろ。俺は若月くんのこと、みんなのことチームの一員だって思ってるよ」
彼は黙って聞いている。舞さんもだ。
「だからさ、もっと頼ってくれよ。みんなでさ、良いチーム作っていこうよ。若月くんが言い出したんだろ?」
「でもボクは弱くて!」
「あーもう!弱くたっていいんだって!俺だって弱いとこあるよ。多分、陰山さん、宝城、紫もそう。支え合って力を合わせるんだからさ、一人一人が強くなくたって、みんなで集まれば強い!それじゃダメなの?」
「…ダメじゃないです」
返答はあったけど、納得したって感じじゃなかった。
「…そうね、私は才二一人に背負わせ過ぎていたかもしれないわ」
舞さんは口を開いた。
「舞さん?」
彼女の言葉に若月くんは驚いたようだった。
「ごめんなさい。リーダーである以上、強さを持って欲しかった。それがアナタを苦しめていることはわかっていた。でも、できるはず。そう思い込み過ぎていたわ。違うわよね、アナタの理想を信じるなら、私も共に悩み、苦しむべきだった。アナタを傷つけていた。本当にごめんなさい」
彼女は深々と若月くんに頭を下げた。
「や、やめてくださいよ」
「やめないわ。必要なこと。アナタはリーダー。でも、その前に対等なチームの一員だもの」
「対等な…」
若月くんは少し考え込んでいるようだった。
「…どうする?」
若月くんに問う。彼は間を置いてから口を開いた。
「ボクは、やっぱりみんなで力を合わせたいです。ブルーとかそんなの関係なくみんなで」
少し、力強く感じる声だった。
「私は構わないわ。まず、新しい第一歩として」
舞さんは顔を上げ応える。
「陽向さんはどうですか」
若月くんは不安げな声で聞いてきた。そんなの答えは決まってる。
「やってこうじゃん!俺、力になるよ!」
答えると彼は柔らかい表情になった。
「じゃあ、その第一歩ってことで」
俺は手を出す。
「…この場合何チームになるんですか?」
若月くんが疑問を呈してきた。
「えっ?あ〜、なんだろ…とりあえず、チーム名は保留で…そうだな…」
「一旦は12戦士とかで良いんじゃないかしら」
舞さんが提案してきた。
「だいぶ仮ですけど…そうっすね!チーム名はまたみんなで!考えましょう!」
俺、若月くん舞さんは手を重ねあった。
息を吸う。
「まずは3人!やっていこう!」
「「「おー」」」
重ねた手を一斉に上げる。
…レッドチームで円陣を組んだ時みたいな高いテンションでは無かった。
まぁ…少しずつチームになっていこう。時間かかるかもしんないけど。
その日はお開きになった。日は完全に暮れていた。舞さんは若月くんを送っていくと言い、俺は二人と別れた。
帰り道、少し考える。みんなでチームに!とか言ったけど、問題は山積みだ。連絡が取れない鈴のこと、荒れまくってる執印さん、その彼と何かあったっぽい宝城、マスターの存在、そして何よりも…。
「攫われちゃった人…」
あの人はどうなったのだろう。フェアヴィシェンとかいうやつは新入りと言われていた。喋る敵の正体が人間、ということを思うと攫われた人があの新入りになった可能性はある。
「頑張らないとな…」
なんて考えている内に家に着いた。
「ただいまー」
玄関に入ると、丁度父親がいた。
「おかえり、最近よく出かけてるらしいな天晴。大学生になったからって羽目外してんじゃないのか?」
「いや、違うって!ちょっと…知り合いと相談してたんだよ」
「ほー、知り合いとね。ま、程々にな。母さんには心配かけるなよ」
「わかってるよ、18だぜ俺?」
「まだガキンチョだろーが。ほら、さっさと風呂入れ」
食事も済ませ、布団に入る。なんか、今日は結構疲れたな。頭がなんとなく重い感じがした。今後のことを考えるとさらに重くなった。
スマホを開く。SNSの鈴の連絡先を開く。既読はついているが返信はない。まぁ…そうだよな。明日、バイトがある。従業員の人たちに聞いてみるか。
翌日、大学の講義を終えバイトに行った俺は
鈴のことを聞く前に店長から別のことを聞かれた。
「なぁ陽向くん、山海から何か聞いてないか?無断欠勤するようなヤツじゃないんだよ。連絡もつかないし」
一つ、予感があった。以前の戦いで攫われた人…もしかしたら!
「天然さんはしばらく休ませて欲しいって連絡があったんだけど…山海からは無くてな」
そうか、鈴は連絡入れてたのか…いやそれより!
「山海さん、いつからいないんですか?」
「シフトのこともあるから…最後に出勤したのは一昨日か」
鈴と最後に会った日か…。あの次の日、つまり昨日の一度目の戦いで拐われた人…アレが山海さんだったのか?
あ。
アイツは…フェアヴィシェンは途中から関西弁で話していた。嫌な汗が全身から噴き出る。
「どうした陽向くん」
「いや、なんでもないです」
「…?そうか、取り敢えず山海のこと何かわかったら教えてくれ」
「はい!」
仕事を始めるも、全く集中出来なかった。陰山さんがいれば少し話せたかもしれないけど、今日は休みだ。動悸が止まらない、具合が悪くなってきた。
!
予兆が来た。こんな時に…。
「行くしかないか」
空間が捩れる。
あの世界。才二の目の前には既に敵が居た。周りには陽向さん、舞さん、陰山さんがいる。
「おー、こんないきなり出会うことあるんや」
輪郭のぼやけた極彩色の虎の怪人。
「山海さん…?」
陽向さんが問いかける。
「あ?何言うてんのや。オレはフェアヴィシェンやで」
山海?誰のことだろう。
「早よ変身せんと危ないで」
そう言って爪を振り下ろしてきた!間一髪、免れる!
「オレ優しいやろ?わざわざ忠告してやってん」
「言われなくても変身するさ!」
陽向さんが叫ぶ!
「やりましょう!みんなで!」
ボクは叫んだ。自分の理想を叶えるために。
「ああ!みんなで!」
「「「「彩色顕媄!!!!」」」」
赤、青、銀、緑の戦士が姿を現す!
「さ、始めよか」
敵はニタニタしている。
「行きましょう!」
そう高らかに声を上げ、敵に立ち向かった。
「オッケー!」
陽向さんがボクに合わせ、槍を構えながら敵へと突っ込む!
「なんも考えんと突っ込んでくるのは褒められんなぁ」
敵はダルそうな声で腕を振り上げ、大きな爪を振り下ろさんと構える!
「させない!」
背後から陰山さんの矢が放たれ、敵の腕を弾く!隙が生まれた!
『蒼穿!』
『アッパレストライク!』
合図は要らなかった、ボクと陽向さんの同時攻撃が敵に命中した。
咆哮を上げる敵、やったか!?
「な〜んてな」
敵は声と同時に太い腕を振り下ろしてきた!
が、それがボクらに当たることはなかった。舞さんの盾から発せられるバリアが攻撃を防いでいた。
「鬱陶しいなぁ〜。なんやねんこの盾みたいなん」
そう愚痴る敵に陽向さんが急に問いかけた。
「山海さん…じゃないんですか?」
一体、誰のことだ?
「あん?オレはフェアヴィシェンって前に言ったやろ。一回で覚えんかい」
敵は目を細め、眉を寄せてそんなことを言う。
「才二、天晴くん!下がりなさい!」
舞さんの声にボクらは敵と一旦、距離を取る。
「お?逃げるんか?」
フェアヴィシェンはニヤニヤしている。敗北は無い…とでも思ってるのか?
「取り敢えず、お前らの攻撃じゃオレのことは倒せんで。あの、斧持ったオッサン連れてくるんやな」
ボクらでは倒せないのか?一発の重み、という観点では確かに写野さんの斧のほうが上だけど…。
「4人同時でも耐えられるのかな?」
その言葉を発したのは陰山さんだった。
確かに、ボクと陽向さんだけじゃダメなだけだ。陰山さんと舞さんの力も加われば…!
「4人同時なら、とか考えとるんか?あかんあかん、揃って当てるなんて無茶なことせんほうがええで」
考えは読まれていた…。でも、やってみるしか無い!
その時、フェアヴィシェンの後ろに二つの斬撃が見えた!
「う!なんや…!?」
敵は前のめりに倒れる。斬撃を放った主は…雷電さんと墨名くんだった。
「やったね墨名くん」
「たりめーだろ。…あ、拐われた人ならオレたちが助けたからな!」
こちらに気がついた墨名くんは誇示するようにそう言い放った。どうやら、別の場所で戦っていたようだ。
いや、ボーッとしてる場合じゃない。敵はまだ倒せていない!
意識を敵に向けると起きあがろうとしていた。
「墨名くん!」
「紫!」
ボクと陽向さんは叫んでいた。
「援護を!」
陰山さんが咄嗟に弓を構える。その後ろで舞さんは盾を投げる構えに入った。
が、必要なかった。敵は光の柱に包まれた。
「おっと…マスターが帰って来いって言ってるみたいやわ。ほな」
敵は姿を消していく…。
「おーい!そっちに鈴はいないのか!?」
墨名くんが大声で聞いてきた。ボクは首を横に振った。
光に包まれる…。
次回ッ!
第二十八話 マジで見つけた新たな鈴の音!




