第二十六話 過去は振り切れ、斧は振れ!
「助け…られなかった…」
駅前。壁に縋りながら才二はそう呟いていた。舞はそれを見つめながら声をかける。
「才二…今回はどうしようもなかったわ。あまり自分を責めてはダメ」
甘やかしているわけではない。才二一人が思い悩むことではない。それだけのことだ。
「でも…もしかしたら、上手くやれたかもしれない!助けられたかも…しれないのに!」
嗚咽のような声が聞こえる。声も…震えていた。きっと、また泣いているのだろう。周りの視線が集まっているような気がする。
「才二、こっちを向きなさい」
無理矢理、才二の顔を掴みこちらに向けさせる。頬を思い切り手で挟むような形になった。
「な…なんですか?」
目は腫れ、鼻水が少し垂れている。全く、すぐこんな顔になる。頼りないリーダー様だ。
「あのね、出来なかったってウジウジするのはいいけど、程々にしなさい。いつまで経っても進展しないわ。切り替えるの」
彼の瞳を真っ直ぐ見つめそう伝える。
「大体、連れ去られた人が死んだと決まったわけではないわ。もしかしたら、喋る怪物になるのかもしれない。なら、倒せば救えるはず。悲観的に考えてはダメ」
と言いつつも全て憶測でしかない。彼を落ち着かせるための方便でしかなかった。
「はい…わかり…ました…」
理解した。という言葉。だが、取り敢えず言っているだけ、だということを私は知っている。彼の内面は荒んだままだということなど分かりきっていた。
「何か食べましょ。食べる気にならないかもしれないけど…気が紛れるかもしれないわ」
私の提案に才二はしゃくり声を上げながら頷く。…が歩きはじめようとはしない。
「ほら、行くわよ」
彼は私が手を握ると、ゆっくり足を動かし始めた。
さて、さっきの戦いで妙な様子だった執印國明と写野真士のことも気になるが…彼らは成人だ、どうにかなるだろう。
写野真士は、淹煎から送られてきた位置情報を頼りにヤツの家へと向かっていた。歩みはいつもより速い気がする。なんでもいい、気を紛らわせたい。それだけを考えていた。
アパートにたどり着く。ここが…淹煎の家か。大学の時とは違う住居だ。小綺麗な感じのアパート。二階建てで…七号室は…二階か。
階段を一段飛ばしで駆け上る。急いだところで何か変わるわけでもない。
目的の部屋は登ってすぐだった。インターホンを叩くみたいに押す。
『真士だろ?開いてるから入ってこいよ』
それだけ言ってブツっと音は途切れた。ドアノブに手をかける。なんだか、重く感じる。ゆっくりと引くと、中で淹煎が立って待っていた。
「よぉ、真士」
「そこまで来てるなら開けて出迎えてくれてもいいんじゃないか?」
嫌味っぽく言う。だが、淹煎は少しも気にしていないようだった。
「入りな」
その言葉を合図に俺は家の中に入る。
部屋まで行くと…殺風景な部屋だった。あまりにも生活感のない部屋。学生の頃も一人暮らしだったが…こんな部屋ではなかった。
「なんだ?変なところでもあるか?」
淹煎は不敵な笑みを浮かべて聞いてくる。
「いや、別に」
ふと、ゴミ箱が目に入った。
中身の残ったタバコの箱が…捨てられていた。
OP
「ま、座れよ」
淹煎に促され、部屋の壁際のソファに座る。少しだけ沈む。淹煎はテーブルを挟んだ向かいのベッドの上に座った。
「この前はさ、結構前置きしたけど…」
淹煎は頭を掻きながらそう言った。目は伏して、床を見ているようだった。
「前置きしたけど…なんだ?」
「今回は直球で行くわ」
ヤツは目線を合わせてきた。少し心臓が跳ねる。今のコイツに…遊びはない。
「前も少し言ったけど…天然鈴に紗姫ちゃん重ねてんだろ?」
その言葉を聞いた瞬間、俺は立ち上がっていた!テーブルを乗り越え、淹煎の胸ぐらを掴み、無理矢理立ち上がらせる!
「紗姫の名前を…出すな!」
「悪いけどさ、図星なんだろ?わかりやすいんだよお前」
拳を振り上げる。
「殴れよ。殴っても誰も帰ってこないけどな」
煽るような淹煎の言葉。だが、コイツの目はひたすらに冷めていた。光が無いような瞳。不気味なそれを見ていると怒りが鈍っていく感覚があった。
「お前は…何がしたい?何が…言いたいんだ?」
淹煎から手を離しながら問いかける。
「お前を助けたい」
淹煎は真っ直ぐ…俺の目を見ている。なんだ、助ける?
「助けたい?別に俺は求めてない」
「あぁ、知ってるよ」
「…だったらほっとけ」
「いやだね」
時間の無駄だ。
鈴…いや…そうだ鈴を探しに行こう。
「じゃあな。俺はやることがある」
淹煎の視線を振り払うように俺は玄関へと足を早める。
「俺たちさァ!」
背後から張り上げた声。独り言…には大きすぎる。自分に向けて放たれた言葉だと理解するのに時間は要らなかった。
「なんだ?これ以上無駄話に付き合う暇はない」
一応、立ちどまり振り返って言っておく。突き放すように。
「俺たちさ…友達だよな」
は?何を言い出すんだ。そんなこと…。
思い出す…。
「紗姫ちゃん…結局帰ってこなかったな」
「…」
淹煎の抑揚のない声に俺は何も返さなかった。二人とも座り込み床に目を落としている。
あの頃…俺の部屋。一人暮らしだった俺のところに、紗姫はよく転がり込んできていた。アイツも一人暮らしだったのに。
「まさか…大学辞めちまうとはなぁ」
紗姫はいなくなった。アイツの部屋も…空き部屋になっていた。実家は…知らない。
「ちょっといい子すぎたかもな」
淹煎はずっと同じ声の調子で言葉を続ける。沈黙を恐れているみたいに。
「周りの意見聞きすぎってか…優しいってか」
「…」
俺の反応など気にせず声は続く。
「大丈夫だって言うから…俺は信じてた」
ようやく俺は口を開いた。信じてた。そう。聞こえのいい言葉。そう言って紗姫から目を逸らしていたかもしれない。
「…俺もだよ真士」
変わらない声。
最後にあった紗姫は明るかった。いつも通り…いや、少し普段よりも明るかったかもしれない。違和感はあったはずだ。
『大丈夫だって!みんなも大変みたいだし、私ばっかり困ってるみたいなことは言えないよね!』
笑顔でそう言った。
大丈夫。
そう、思った。
紗姫のゼミで少し揉めごとがあった。プロジェクトの方向性が定まらず、口論が絶えない時期があった。紗姫は、どうにか丸く収めようと必死だった。
彼女は皆を尊重しようとした。
だが、抱えきれなかった。
妙な声が聞こえてきた。なんだ?顔を向けると淹煎から発せられるものだった。目元に手を当て息を荒くしている。頬に何か伝っている。
「淹煎?」
「悪い…何でもない…」
「お前…泣いてたよなあの時」
無意識にそんな言葉が飛び出した。
「…いつの話だよ」
「わかってるだろ」
「本当に辛いヤツを差し置いて俺が泣くわけないだろ」
あぁ。さっきの問いの答えは決まった。いや、最初から決まっていた。
「…助けてくれ淹煎」
絞り出した。突然の俺の要請に淹煎は目を丸くした。沈黙が流れる。
「もちろん」
沈黙を破る彼の口角は僅かに上がっていた。
「俺は…どうしたらいいか…わからない」
ただ、闇雲に探すなんて意味はないとわかっていた。ただ、何かしていたかった。
「だと思ったよ」
そう言って淹煎は立ち上がりこちらに近づく。
「…まぁ、俺も何したらいいかはわかってない。今、出来ることがあるとしたら…」
「なんだ?」
「待つことだ」
待つ?それじゃ意味がない。鈴を見つけなくちゃいけないんだ。
「それじゃダメだ!」
声を荒げていた。何も解決しないじゃないか。
「わかってるよ。でも…無理矢理探して見つけたところでどうするんだ」
淹煎の言葉に俺は何も返せなかった。見つけて…どうする?
「答えられないだろ?今、連絡も取れない以上、あっちは会いたくないのかもしれない。想像でしかないけど」
一理ある。でも!
「俺は鈴を見つけたい!苦しんでいるなら助けたい!」
「真士」
冷たく、鋭い声だった。俺に向けられる目線は鋭かった。
「わかるよ。気持ちはわかる。でもさ、それって」
そこまで言ってヤツは目線を落とした。躊躇っているかのように。
「なんだ…言えよ」
俺がそう言うと、ヤツは深呼吸し真っ直ぐ俺を見た。
「お前が安心したいだけだろ」
「…!」
そうかもしれない。鈴の気持ちを考えていなかった。
紗姫には会えなかった。だから、会えばどうにかなる、そう思った。
「悪いけどさ、天然鈴ちゃんはお前の彼女じゃない。紗姫ちゃんじゃない。ましてや歳もかなり離れてる。踏み込みすぎるのは…悪手かもしれないだろ」
淹煎は言葉を続ける。
「お前さ…多分、あの子のことちゃんと見れてないんだよ」
返す言葉もなかった。鈴を助けたい。守りたいと思っていた。だが、一番助けたかったのは、守りたかったのは。
俺自身だったのか。
「淹煎…俺は」
「取り敢えずさ…一言だけ送っときな」
「…なんて言えばいい」
「そうだな…待ってる、とかでいいんじゃないか」
「そうか、わかった」
スマホを開く。たった四文字、入力する指は重く、時間がかかった。送信をタップしようとするが押せない。
「戻ってこなかったらどうしたらいい」
「…その時考えるしかないさ。今はただ、あの子から連絡来るのを待とう」
ゆっくりと送信を押した。もう、探しには行かない。そう決意するみたいに。
無色の空間。数人が立っている。
「いやぁ、エキストラ上手くやったね。クヴァレの助けがあったからとは言え凄いよ」
「いえ!もったいないお言葉です」
二人は色を抜かれ倒れた人間の前に立っている。
「それで、この人間はどうされるのですか」
少し離れた場所にいるクヴァレがマスターへと問いかける。静かな声だ。
「それはもちろん仲間にするんだよ。残ってるのは君にエキストラ、それとライトと…ダークくらいだからね」
そう言ってマスターは巨大な絵筆を構えた。横でエキストラは興奮を抑えるように揺れている。
「この人は…えんじ色か、虎みたいな怪物になってたね」
「はい!中々、獰猛そうでした」
「んー、色を見た感じ普段は明るくて周りに気遣いできる人っぽいね。でも、あんまりストレスは溜め込まない…羨ましいな」
「はい?」
「あぁ、気にしなくていいよ。さて、どんな風にしようか、見た目とか…」
倒れた人間はえんじ色一色に染まった。そして、絵筆を倒れる人間に当て、彩色が始まる。塗り潰すかのように。
「新しい怪人ですか」
別の声がした。その声にマスターは振り向かずに答える。
「そうそう。仲間が減っちゃってるからね。キミはもう少し戦うのは待とうか」
「無色は美しいです。早く、色を失くしたいのですが」
「はは、急がなくても大丈夫だよ」
そう言いながらあっという間に彩色は終わりを迎えていた。目が痛くなるような極彩色。手癖でこなすようだった。その怪人は輪郭がぼやけた、虎の怪人といった姿だった。
「できた。じゃ、これから仲間としてよろしくねフェアヴィシェン」
現実。淹煎と話し、一応の答えを得た真士は國明に会いに行こうと決めた。前回の戦いの時、アイツは明らかに異様な状態だった。
「当てはあんのか?」
アパートの階段を足早に降りながら淹煎が聞いてくる。
「…鈴の件で話がある、と言ったらすぐに会えるさ」
國明には悪いがそう言えば簡単に釣れる。そういう認識でいた。
取り敢えず、駅の方に向かいながらスマホ片手に連絡する。
「歩きスマホか?怪我しても知らないぞ」
既にいつもの調子に戻っている淹煎。少し眉間に皺がよりそうだったが、少し、口角が上がる自分がいた。
「だからお前は俺の親か」
っと…すぐに國明から連絡が来た。どうやら、丁度駅前にいるようだ。鈴のバイト先から戻ってきたのか。
「淹煎、このまま駅前に行く」
俺の提案にヤツは軽く
おう
とだけ返してきた。
執印國明は駅前のベンチにて座り込んでいた。祈るように手を組み、頭を下げている。まるで許しを乞うような姿だった。
「鈴様…なぜ…なぜ答えてくれないのですか」
同じ言葉を繰り返している気がする。いつか…いつか答えが返ってくるのではないかと思っていた。
先程、写野真士からの連絡も良い内容なのか、そうでないのか見当がつかない。だが、この際どちらでもいい。なんでも良いから、教えてくれ。
「國明」
来た。写野真士だ。
「写野!…鈴様は!?」
写野の肩を掴み問いただす。彼の表情はいつもの落ち着いたものだった。まさか…。
「連絡がついたのか?」
写野の目を見る…が逸らされる。あぁ…。
「そうか」
答えは待たなかった。きっと、そういうことなのだろう。
「いいか、國明。鈴のことは待とう」
…何を言っているんだ。
「バカなことをいうな!何かあったのかもしれない…すぐに見つけ出さないと!」
叫ぶ私に写野はスマホの画面を見せつけてきた。
「なんだ…これがどうした」
写野と鈴様のトーク画面。こんなものがなんだというのだろうか。
「さっき、既読がついた。返信はないが…。取り敢えず、スマホを触れる状態ではあるはずだということだ」
「だから何もしないというのか!?納得できるか!私は探すぞ!」
写野を押し飛ばすように私は走り出した。当てはなかった。
「行っちまったな」
淹煎のその言葉に真士は何も返さなかった。國明を止めることはできないだろう。
「仕方ない、好きにさせとくしかないな」
「あぁ…」
と、脳がヒリつく感覚が来た。戦いだ!
「淹煎!」
「ん?…あぁ、戦いか。悪い、俺は来てない」
「そうか」
「後から行くよ」
「いや…今回は待っててくれ」
考えがあった。
「いいけど…そりゃまたなんで?」
「鈴がいるかもしれない。もしいたら…話したいんだ。二人で」
待つと言っておきながらこんなことを言うのはおかしいかもしれない。だが、待っている、ということを直接伝えたかった。
「大丈夫か?」
淹煎は少し、目を細めて問う。
「あぁ、信じてくれ」
「おう、わかった」
すんなりと承諾してくれた。やはりコイツは…俺の友だ。
空間が捩れた。
あの世界。俺の他にいるのは、陽向くん、宝城さん、夢奈という女性だった。
「ちゃんと挨拶できてませんでしたよね!わたし、昼飯夢奈でーす!よろしくお願いしますね」
「俺は…写野真士。よろしくな昼飯さん」
簡単に自己紹介を済ませた。
「あ、写野さん。鈴とは連絡取れたんですか?」
陽向くんはいつもの表情で聞いてくる。
「いや、まだだ。だが、急かさないことにした」
「そうっすか…何もないといいんすけど」
そう言って彼は目を伏せた。心配ではあるのだろう。
「お二人とも!敵です!戦闘準備を!」
宝城さんの言葉に、彼女の目線の先は向き直る。エキストラがいた。
「おーっと。まだ人間見つけてないのにお前らに会っちまったか。ま、俺の腕なら問題ないかな」
前回のことで調子づいてるのか?今回も同じようには行かせない!
「よし、皆行くぞ!」
柄にもなく叫んでいた。俺の言葉に皆、絵の具を構えた!
「「「「彩色顕媄!!!!」」」」
マゼンタ、赤、金、白の戦士が姿を現した!
同時にエキストラの周りに湧き出したセルズたちに俺たちは突っ込んだ!
「援護は任せてください!」
「おー!宝城さん頼れる!よろしくね!」
宝城さんは後衛として残った。俺、陽向くん、昼飯さんは真っ直ぐ進む!
「真っ直ぐ突っ込んでくるとは間抜けだぜ!」
エキストラは両手のスポイトから弾丸を連射する!
「ばらけましょう!」
陽向くんの声に俺たちは三方向に別れた!
迫り来るセルズ達を蹴散らしながらエキストラとの距離を詰める!
「ちっ…だが一人狙えば!」
エキストラは昼飯さんに狙いを定めた!
…が、弾丸は届くことはなかった。
「今回は敵にバリアを貼ります!長くは持ちません!」
宝城さんはエキストラの周りにドーム状のバリアを展開していた!バリアには少しずつ亀裂が入っていく!俺たちは一気に距離を詰めた!
「うおお!マスター!た、助けてください!」
エキストラが叫ぶ!助けなど入る前に…倒す!俺たちは同時にヤツの元へとたどり着いた!
『ディープブレイク!』
『アッパレストライク!』
『ドリームロンド!』
三人同時攻撃と共にバリアが解かれる!
…それがエキストラに届くことはなかった。
気がつくと俺は宙を舞っていた。何かに…弾かれた。一体、なんだ?
「随分危なかったな。エキストラ先輩」
うつ伏せに地面に叩きつけられた俺はその声を聞いた。知らない声。誰だ…ゆっくりと顔を上げる。
「なんか…大したことのない敵じゃないか」
そこに居たのは極彩色の虎の怪人だった。何故だか輪郭はボヤけている。
見たことのない喋る怪人。まさか、前に攫われた人間か!?
「た、助かったぞ新入り」
当然…エキストラは倒せていなかった。
「じゃ、先輩。ここは自分がやるんで、見ててくださいよ」
虎の怪人はそう言って一歩前に出た。
「自分はフェアヴィシェン。よろしく」
雑に名乗った敵は少しずつ俺へと歩みを進めた。タイマンのつもりか?
そこに、黄金の光弾が走りフェアヴィシェンに着弾した。宝城さんか!
「弱いな」
まるで効いていないようだった。
銃声が鳴り始めた。エキストラは陽向くんに狙いを定め、攻撃を始めたようだった。宝城さんがバリアを貼り守っている。
「よそ見してる暇あるのか?」
フェアヴィシェンは目前まで迫っていた!巨大な腕を振り下ろさんと構えていた。
咄嗟に斧を盾代わり構える!
「そっちこそ!」
昼飯さんの声がすると、敵の腕に鞭が巻きつけられた!動きが止まる!
「二人ともわたしのこと忘れてたでしょ。油断大敵!」
「…鬱陶しいな」
敵は腕を引き、昼飯さんを引き寄せようとしたが、わずかに動くだけで止まった。
「舐めないでよね!ほら、写野さん!」
そうだ!今が好機だ!斧を構え思い切り振り抜いた!
『ディープブレイク!』
斧の一撃がフェアヴィシェンに直撃した!
が、奴は倒れない、爆散する気配もない…随分タフな奴だ!
「やるじゃないか」
敵は縛られていない方の腕を振り下ろしてきた!斧で受ける!
鈍い金属音、その一撃に膝をつく。
「写野さん!」
昼飯さんの叫び。
「鞭のやつも大した力ではない。このままお前を倒せそうだ」
もう一撃が振り下ろされる。
「危ねぇ!」
陽向くんの声が耳に入ると俺は飛び出してきた彼に抱きかかえられるように助けられていた。二人で転がるように距離を取る。自分がいた場所にはフェアヴィシェンの太い腕が振り下ろされ、地面は少し割れていた。
「大丈夫ですか写野さん!」
「あぁ…助かった。エキストラは?」
「宝城が隙を見てまたバリアで閉じ込めてくれたんです。今のうちにあの虎を!」
俺と陽向くんはフェアヴィシェンの方に向き直る。
「ちっ…エキストラ先輩ダメやんか」
虎は吐き捨てるように言った。…ん?何故急に訛った?
「ごめんなさーい!これ以上、抑えらんない!」
ずっと敵の腕を縛っていた昼飯さんの鞭が解かれた。彼女の方を見ると、衣装の白が暗くなり、跪いているのが見えた。力を使いすぎたのか…。
「さ、邪魔な縛りも無くなったし、一気に片付けたる」
フェアヴィシェンは突っ込んでくる!
「写野さん!」
「わかってる!」
俺と陽向くんは武器を構えた。斧と槍、どちらも近接用の武器だが、陽向くんの方が間合いがある。彼に隙を作ってもらおう。
「俺が隙をつくります!」
陽向くんに対して言葉は要らなかった。以前の武器特性の把握の話は覚えているようだ。
「頼む!」
彼は頷き、こちらに突っ込んでくるフェアヴィシェンに立ち向かうように走り出した。
陽向くんは敵の大振りの一撃を上手く躱し、槍で軌道をずらしながら戦う。隙を探すために俺は距離を詰める。
「行くぜ!必殺技だ!」
彼は叫んだ。予告してどうする!?と一瞬思ったが違う…彼はこちらに目配せした。ブラフだ。敵の注意を自分に向けるためだった。
『アッパレストライク!』
全力の突き!当然、避けられた。
「アホか!わざわざ予告するなんて」
そう言う敵は明らかに体勢を崩していた。今だ!
『フルブレイク!』
敵の頭をかち割るように全力で斧を叩き込んだ!手応えは確かにある!
…が、咄嗟に腕で防御していたようだ。
「やってくれるやんか…。ちと…これは戦えんな…帰らせてもらうで」
フェアヴィシェンは光に包まれ始めた。
「おいおい!お前帰るのかよ!?俺を置いていくのか!?」
エキストラの叫びが響いた。まだバリアに閉じ込められているが、もう少しで破壊できそうだった。
フェアヴィシェンの姿は消えた。
せめて、エキストラは倒さなくては!
「陽向くん行けるか!?」
「もちろんすよ!」
二人で駆け出す!と同時にバリアは破られてしまった。
「…宝城!?」
陽向くんの意識は宝城さんに向かっていた。一瞬、俺も視線を向けると彼女はうつ伏せに倒れていた。
「行け陽向くん!エキストラは俺が!」
二手に別れ、俺は突き進む!
「ふっ…間に合いそうに無いな!また会おうぜ!」
エキストラは煽るような笑みで光に包まれ始めた。くそッ!
その時
『イエローホームラン!』
巨大なハンマーがエキストラの身体を弾き飛ばした!爆散し、爆炎の中からたくさんの色が噴き出していき、人の姿に戻っていく…。
現れたハンマーを持つ人影とは距離があった。だが、誰かわかる。あの声は…!
何してたんだ!?
反射的に口から発しそうになるのを理性で抑える。
違う。今、俺が伝えなきゃいけないことは…
「いつでもいい、待ってるからな!」
叫んだ。届いているかはわからない。ハンマーを持つ人影…鈴はこちらに背を向けた。
今すぐ走り出したい。だが…ダメだ。今は待とう。いつか、話せる時になったら彼女を…天然鈴を受け止めよう。
光に包まれる…。
駅前。
「お疲れさん真士。で…どうだった?」
現実に戻ってきた俺に淹煎は早速問いかけてきた。
「あぁ…会えたよ」
「どうしたんだ?」
「言ったんだ…待ってるって」
「そうか。んじゃ、あとはそうするしかないな」
「あぁ…」
鈴から返信が来ていないかとスマホを開こうとしたが、すぐにポケットにしまった。
「じゃ、今日は解散とするか。出来ることはもうねぇよ」
淹煎は背を向け去っていく。
「淹煎!」
無意識に呼び止めていた。
「なんだよ?」
「俺たち…」
「友達だよ!わかってんだろ?」
振り向きながらのその返答に俺の口角は上がっていた。
ありがとう。
口にはしなかったが、伝わっている。そんな感触があった。
次回ッ!
第二十七話 青に落つ影、照らすは赤!
私生活の方で立て込んでおり、最低週一投稿を守れませんでした。申し訳ございません。
再発防止に努めます。




