第二話 謎の世界、失われる色!
初めての戦いを終えて翌日、土曜日。天晴は宝城家を訪れていた。門の前に立つ。
「でかい家だな…」
宝城家は学校の体育館よりも更に大きそうに見えた。俺の通う学校の体育館は全校生徒約400名が入っても余裕があるくらいの大きさだ。更に大きい…となると頭がクラクラしてくる。
夢見たいな家だよなぁ…と思いながらズボンのポケットに手を突っ込む。"あの絵の具"が入っている。手で掴むとその感触だけ嫌に現実味を纏っていた。
夢じゃないんだよな…昨日のこと。
インターホンを押そうとすると勝手に門が開く。中には宝城が立っていた。
「そろそろだと思っていました。陽向くん、ご足労いただきありがとうございます。さ、お入りください。陰山さんと…紫のあの子も揃っています」
「お邪魔します」
我ながらあまり元気な声じゃなかった。興奮していたからなのか不安だからなのか昨日はあまり眠れなかった。
宝城家へと足を踏み入れていく。
今日、宝城家へ集まったのは他でもない昨日の戦いのことについて話すためだった。
紫の少女…十六夜とは俺が連絡先を交換し、宝城家へ来るように促した。
結局、snsのニックネームも十六夜だから本名わかんないんだよな…。本名なのかもしれないけど、流石に違う気がする。
宝城に家の中を案内されながら考える。
あんなことになったし、多分、これからも戦うことになる気がするし…できたら名前くらい知りたいけど…ま、今日わかるか。
「あまり元気が無さそうですね」
不意に言われドキッとする。
「そ、そうか?」
「顔も声もいつもの陽向くんと違いますから」
「…学校でもそうだけど、宝城って人のことよく見てるよな。まぁちょっと昨日は眠れなくてさ」
「わかります。私もそうでした」
「不安で?」
「どうでしょうか…」
宝城の顔を見ると何か決断したみたいな強い目をしていた。不安だから…とかではないのかな?宝城はしっかりしてるし…別の理由かな?とか俺が考えてると、彼女は歩みを止めた。
「こちらです」
応接室…というのだろうか、そこに通された。中には、陰山さんとあの少女、十六夜がいた。2人は別々のソファに座っている。
「遅かったな赤き戦士アッパレよ」
十六夜が言う。snsの名前をアッパレにしていたからか、それで覚えたみたいだ。
「一応言っておくけど、テンセイが正しい読みだからね」
陰山さんが訂正してくれてるけど十六夜は聞いていない。まぁ、呼び方が違うからって俺は俺だし。気にしない。
「さて、少し前までは私専属のお手伝いさんがいたのですが辞めてしまいまして…あまりおもてなしは出来ませんがご容赦を」
「そんなこと気にしないって」
俺がそう言うと宝城は少し微笑み、続けた。
「本題に入りましょう。あの世界は、生き物はなんだったのか…そしてこの絵の具のようなものはなんなのか」
宝城が金色の絵の具をかざす。下部には8の数字が刻印されていた。
op
「まず、皆突然あの世界に移動していたというのは共通事項のようですね」
昨日の出来事についてそれぞれが答え、宝城がまとめた。陰山さんと宝城も突然捩れに巻き込まれたようだ。
「で、わたしと宝城さんはすぐに出会った」
陰山さんが続ける。
姿を現した時、二人が割と落ち着いていたのはすぐに出会っていたからだったみたいだ。俺も十六夜ちゃんと会ってからは少し冷静になれたし、誰かいるってのは安心するよな。
「それでね、透明な影みたいなヤツらと戦って移動してるうちに陽向くんたちを見つけたの」
そう言いながら陰山さんは十六夜のほうを見る。
「えーっと…そろそろ…あなたの名前を教えてくれない?」
十六夜はため息をつき、答える。
「十六夜…」
陰山さんは困ったような笑顔になった。陰山さんも本名とは思ってないみたいだ。
「十六夜さんは最初はどう戦ったのですか?」
宝城が諦めたみたいに十六夜呼びをすると十六夜は満面の笑みになった。
「絵の具を拾い、すぐさま蓋を捻った。見ればわかるからな。すると未明刀が現れ変身出来た。そのあとは知っての通りだ」
饒舌に語る。
未明刀っていうのは多分、武器の刀のことを言ってるんだろう。ウキウキしているように見えた。
…俺も槍に名前をつけたほうがいいのか?
アッパレの槍、赤槍、槍レッド。どれもしっくりこない。槍のことを考えているうちに、青い炎の敵を思い出した。
「…そういえばあのあんまり強くなかった透明な奴らじゃない、青い炎みたいなやつがいたじゃんか。ソイツとは十六夜ちゃんが最初に戦ってたよな?そこら辺教えてもらってもいいか?」
問いかける。
明確に強かったあの敵のことは知っておきたかった。敵のボス?なんかアイツのことをやっつけたら帰れたし、重要なことな気がする。
十六夜の顔が少し曇った。
「あれは…人から出てきた」
溜めてから答えた。え?
「人から⁉︎あの世界に他に人がいたのか⁉︎」
俺は叫んだ。今日一大きな声が出た。
「その人はどうなったんだよ⁉︎」
捲し立てるように聞く。助かったのか?それとも…今もあの変な世界に取り残されたままなのか!?
「わからない…」
十六夜は少し間を空けてから答えた。嘘ではないのだろう。本当にわからない。
静寂。間をおいて陰山さんが口を開く。
「わたし達もあんなのが身体から出てくるのかな…」
酷く不安そうな声。十六夜はそれを聞き深刻そうな顔をする。それを見た陰山さんは取り繕うみたいに言葉を続けた。
「なんて…!まだわからないよね⁉︎もしかしたら見間違いかもしれないし」
笑ってみせた。十六夜を気遣うみたいに。
「気持ちはわかります。わからないことだらけですから」
宝城がフォローした。表情は重苦しいものだった。
「十六夜さん。あの怪物に関しては貴方が一番情報を持っているはずです。教えて貰えますか」
優しく宝城が問う。
十六夜が頷き、口を開こうとしたその瞬間。
捩れた。
応接室の色が空間が捩れる。
「まただ」
俺は呟く。
昨日と同じ謎の空間。
違うことを挙げるとすれば、4人が最初から揃っていること、皆、立っていること。
「条件がわからないですね。何故また飛ばされたのか」
宝城は落ち着いて言う。焦っているようには見えない。凄えな…。
「予感がする…戦いの時なのだ」
十六夜が被せ気味に言う。
「見て!」
陰山さんが指差す方向を見ると人が倒れていた。
かなり遠いが…女性か?
「大丈夫ですか!?」
俺は走り出した。また怪物が現れるかもしれない、助けないと!
だが十六夜にすぐさま肩を掴み止められた。
「なんだよ!?」
振り向くと十六夜は首を振っていた。
どういうことだよ?まさか…死んでる?
視線を戻すと、その人から濃い緑のオーラのようなものが出てきた。
「え…緑?」
陰山さんが震える声で呟いた。自分と同じ色だからだろう。
濃い緑のオーラは段々と形を持ち始める。倒れている女性は透明になっていく。足の先から膝、腹部、顔までもが…。輪郭だけが朧げに残っている。
「こういうことなんだ…十六夜ちゃんが言っていたのは」
驚きながら陰山さんが言い、十六夜は頷く。
「アイツ倒したら…あの人は救えるのか?」
誰に聞くわけでもなく、俺は呟いた。
「昨日の敵を倒した時…。倒れていた人間から出た色が人間の方に飛んでいった…」
十六夜が答えてくれた。確かに、言われてみれば青い何かが飛んでいった。敵を倒した後、十六夜が上を見てたのは飛んでく色を見てたのか…。
「色が戻った…ということですか?」
宝城の問いに十六夜は俯きながら答える。
「そこまではわからない…」
叫び声が響く。緑色のタコのような怪人が立っていた。そして透明の影が次々と現れる。細胞が分裂するみたいに。
「とにかくやろう!」
俺は叫んだ。力の限り叫んだ。正直、恐怖心でどうにかなりそうだったが叫ぶしかない。考えている暇は無かった。ポケットから絵の具を取り出す。今はその感触が頼もしく感じられた。
「うん」
「わかっています」
「勿論だ」
3人も絵の具を取り出し上部を捻る。先端に光が灯り、それぞれの武器が現れた!
「彩色顕媄だ」
十六夜が言った。
「えっ何が?」
思わず俺は聞く。
「掛け声」
短い返答。
そういや、昨日そんなこと言ったなぁと思った。
「今から戦います。掛け声はあったほうがいいかもしれません」
意外にも宝城は乗り気だ。
「わたしも賛成!」
陰山さんも乗り気だ!
「よっしゃ、じゃああの人を助けに!!」
「「「「彩色顕媄!!!!」」」」
絵の具を武器に装填しボタンを押した!
槍の先、弓の先、杖の先、刀の先から赤緑金紫の奔流が走りそれぞれを包む!
赤、緑、金、紫…4人の戦士がそこに現れた。
「行くぞ!アッパレになッ!」
ヤケクソ気味に叫ぶ。
また十六夜は誰よりも早く駆けていった。
「いや、危ないって!」
俺は十六夜を追いかける。昨日も同じことしたな…。
「自由すぎます!」
宝城もそう言って着いてきた。
「ちょ、ちょっと皆!?」
陰山さんの声は遠かった。多分追いかけてこなかったんだろう。一瞬、振り返ると自分の武器である弓を見つめ、構えていた。
十六夜は誰よりも早かった。紫電の如く素早く透明の影を斬り伏せていく!
緑のタコが触手を伸ばし十六夜を拘束した。
「無茶するな!」
俺と宝城は急いで駆け寄る!その最中、宝城は杖を構えた!
「食らいなさい!」
金色の光線が触手へと放たれる!
が間に透明の影が割って入り不発。
「邪魔を…!」
「俺が行く!」
俺は突っ込む、だがまだ距離はある。走り続ける間にも十六夜は首を絞められていた。
途切れそうな喘ぎが聞こえる。
マズい!
そう思った瞬間、緑の光が触手を貫き、十六夜は地面へ叩きつけられる!
「陰山さん!」
天晴は後方を見る!木葉は次の矢を放っていた。的確に敵を射抜く弾道。
上手い!
と思った瞬間、その矢は十六夜の背中に突き刺さった。軌道上に躍り出たのだった。空気が止まる。
「十六夜さん!」
宝城が叫んだ。
しかし少女は矢を引き抜き走り出した。
俺は慌てて追いかけ透明な影に邪魔されながらも進み続ける。
「わ、わたしも!」
陰山さんも十六夜の元へと急ぐみたいに走り出した。
と、十六夜はタコを素通りした。さらに奥へ走る。
「どこ行くんだよ!?」
俺は問いながらもタコとの戦闘を始めた。
撃ち抜かれた触手はいつの間にか再生していた。腕や足を縛られる。
呻きながら抵抗するが身動きは取れない。ヤベェ…意識が…。
「陽向くん!」
宝城の杖から光線が放たれ触手は破壊され、地面に叩きつけられた俺は一気に息を吸った。
「っ!助かった宝城!」
「距離は詰めましたトドメを!」
2人は構えた。
『アッパレストライク!』
槍を全力で突き出す!
「ロイヤルショット!」
玲花の杖から強力な光弾が放たれる!
敵は吹き飛び爆散した。
緑色の光が飛び出していく。
「勝ったのか…」
俺は息が上がっていた。マジで苦しい。
「正直、かなり危なかったですよ今回は」
宝城が言葉を返す。確かに…さっきは死ぬかと思った。
「十六夜ちゃんは!?」
追いついた陰山さんの言葉で俺と宝城は少女のことを思い出した。
倒れていた女性の隣に座り抱き抱えていた。
女性は色を失ったままだ。
「守ろうとしたのか…?」
メチャクチャな子だと思ってたけど、案外そうでもないのかな。
すると、先ほどの緑の光が女性に吸い込まれていった!
「戻った…」
宝城は言う。
足の先から色が戻っていく。輪郭もハッキリと、確かな存在が感じられ戻っていく。
「よかった」
少女は女性を見つめながら微笑み呟いた。
光に包まれた。意識が遠のく。
気がつくと応接室だった。
時計の針に目をやると時間が経っていない…。
「十六夜ちゃん!」
陰山さんが叫びながら少女に駆け寄る。
「ごめんね、怪我はどんな…」
言いかけて止まった。先ほど矢が刺さった場所は少し赤くなっている程度で済んでいた。
「どうやら…変身している時の傷はある程度治るようだ。」
少女は驚いた顔をしながらそう言った。
「…あの人は助かったのか?」
天晴は疑問だった。大丈夫だとは言い切れない。
「大丈夫」
少女が答えた。その目には迷いなどは感じられなかった。
「あの人も…光に包まれてた。私たちと同じだ」
そうか…よかった。
「では昨日、十六夜さんが目撃した方も助かっているはずですね。憶測でしかありませんが、そう信じたいものです」
宝城が続けた。
「ああ…そうだな!」
信じるしかなかった。
「それにしても」
宝城は何か言いたげだった。
「少し…足並みを揃えたほうが良さそうですね。戦い方があまりにも自由すぎます。前回も今回も、運良く勝てたとしか言いようがありません」
沈黙が流れる。
「だけど今日はアッパレだったろ!あの人も助けられたし!ちょっとずつ合わせていこう!」
「いえ、ちょっとずつではいけません。早急に合わせられるようにしなくては…。戦いにも慣れなくてはなりません。今回、私は焦ってバリアの存在を忘れていました。皆さんにご迷惑をおかけしたと言っても過言ではありません」
「…いや気にしすぎだよ宝城。俺だって突っ込んで行っただけだし、真面目すぎるんじゃねーの?」
「何を言っているのだ二人とも。戦いには勝てている。これ以上求めるものはないと思うが?」
まとまりが無い3人。
騒いでいたら陰山さんが何か呟いていた。ちゃんとは聞き取れなかった。
「わたしがおねえさんだもんね…」
場面は変わりあの異世界
誰か立っている。
周辺から色が失われ透明になっていく。
「綺麗だ」
次回ッ!第3話 木葉舞い上がる!




