第十二話 漆黒の夜、揺らめく星!
人間関係というのは疲れる。お互いに思うことがあって、やりたいことがあって、同じようにはなれない。かと言って否定したりだとか、自分のことばかり肯定するのは良くないなと思う。難しいな…。
最近、そんな風なことをよく考えるようになった。
陰山木葉は街を散歩していた。大学の講義も無く、バイトのシフトも無い。素晴らしい晴天で外出には最適な日だった。
割とインドア派ではあるが、モヤモヤしたりすると外に出たくなる性分だった。
公園。木陰のベンチに腰掛ける。伸びをして一息つく。子供達が遊んでいるのが見える。
その光景をボーッと眺めながら戦いのことを考えていた。
戦う力を持った人が一気に倍になった。気苦労も倍になった気がする。
天晴や玲花がどうにか纏めようとしているが、上手くいくとは思えない。彼らのやろうとしていることを否定するつもりはないが、どうしても自分はあの天然鈴が苦手だった。あの距離感の詰め方や人との関わり方。そして、明るすぎる性格。明るさでは天晴が同じ…ではない。何か、本質的なところで天晴と鈴の明るさには相違点がある…と思う。
「どうしたらいいんだろ…わたし、みんなより年上なのに」
このままではいけない。ということはわかっている。だが、どうすればいいのかわからない。この前、天晴も玲花も打つ手が無い…といった感じだった。消極的な自分に出来ることは無いだろう、きっと。
などと考えていると十六夜のことも考え始めていた。続けて、写野真士、墨名夜星のことも。
「もー、疲れちゃうな…」
そう呟いて空を見上げた。雲一つない青空。そういえば、青い絵の具持ってる人っていないな。執印さんは水色?シアンカラーだし。今後現れるのだろうか?もしそうなら空みたいに綺麗で爽やかな人だったらいいな。
「アンタ、緑の人だろ」
「うひゃ」
急に声をかけられて変な声を出してしまった。一体、誰だ?声の持ち主に顔を向けると知った顔だった。
「あっ!君は…墨名夜星くん…だよね?」
「おう。アンタは確か…陰山木葉だったよな」
顔を合わせるのはカラオケボックスの一件以来だった。小柄で可愛らしい顔立ち。本人に言ったら怒るだろうけど、一見、女の子と見間違うくらいだ。
未だにこの子のことはよくわかっていない。まぁ残りの三人のこともよくわかっていないのだが…。
「偶然だけどさ、せっかく会ったんだし、少し話してくれよ…前はあんま話せなかったし」
夜星がそう言って隣に腰掛けて来た。
チャンスだ…。
もしかしたら、上手くいってみんなが纏まるきっかけになるかもしれない。
そうだ、頑張らないとわたし!
op
「おれさ、カッコよくなりたいんだよな」
改めて自己紹介をした後、夜星は急にそう言い放った。
カッコよく?どういうことだろう。
「夜星くんはどうしてそうなりたいの?」
ストレートに疑問を投げかける。この子は確か中学3年生だったか。思春期真っ只中で斜に構えているかと思いきや割と素直そうだし、こちらも素直に話してしまおうと思った。
「おれ、なんかわかんねぇけど、周りから可愛い可愛いって言われんだよ。それが嫌でさ、カッコよくなって、カッコいいって言われるようになりたいんだよな」
…よかった可愛いって言わなくて。というかカッコよくなりたい理由が思ったより可愛いものだった。本当に15歳か?
「でさ、絵の具をゲットして戦えるようになって、カッコいいの第一歩を踏み出せた感が出てきて結構やる気なんだよね。誰かを助けられてるし、それってカッコいいと思うだろ?」
「うん。そうだね。そうやって戦えるのはカッコいいと思うよ」
個人的な目的があるとは言え、誰かを助けることに意義を見出せてるのならきっと良い子なのだろう。戦う理由を知れたのは大きい。この調子で色々と深掘りしていこう。どうにかして天然さんを理解するヒントを手に入れたい。
「ちなみにさ、夜星くんはどうやって他の3人と出会ったの?写野さん、執印さん…天然さんと」
カラオケボックスの一件ではお互いの情報交換といった感じで、経緯みたいなことは話せなかった。聞くなら今だ。
「んー、なんていうか…あの世界に初めて飛ばされた先でたまたま…だったかな」
「あっ、じゃあわたし達と同じなんだね」
「なんだ、同じなのかアンタたちも」
「みたいだね!その後は…どうやって現実で出会ったの?わたし達はたまたま知り合い同士がいたから簡単に合流できたんだけど…」
これはかなり疑問だった。自分と天晴、玲花と天晴…公園で出会ったという天晴と十六夜など、偶然連絡手段があったために合流できたが、夜星たちに連絡手段は無いように思えたからだ。
「ん?えーっと…どうしたっけな…。あっ!そうそう、2回目の戦いが終わった時に鈴がさ、あたしのお気に入りのカフェに集合!って言ってさ。それで集まれたんだよ」
「えっ、そんな簡単に?」
「あー、確かに言われてみたらすげぇ簡単に集まれたなぁ…なんかさ、鈴って引き寄せられるっていうかさ、なんていうか一緒にいたくなるんだよな」
夜星の言うことには一理ある。自分は苦手だが人を引き寄せる魅力…のようなものは感じられる。それにしても簡単に行き過ぎだと思うが。
ふと、夜星の顔を見ると少し赤くなっていた。
もしかして…
「夜星くんはさ…」
「えっ?なんだよ」
「ううん、ごめんなんでもない。それより会ってどうしたの?」
鈴のことが好きなのか?と聞くつもりだったがやめておいた。思春期男子にそんなことを聞くのは酷だろう。
「まぁ言われた通りのカフェに集まって色々話あったんだ。敵はなんなのかーとか、この絵の具って?とか」
自分たちと似たような感じだ。
「そんでさ、鈴が言ったんだ。この絵の具はいろんな人を守るための力だと思うって。そのために頑張りたいと思うんだけど、力を貸してくれってさ」
夜星達の中心は鈴だ。そんな感じがする。
「そっか、そんなこと言ってたんだ。凄いね天然さんって」
「だろ⁉︎しかも可愛くってさ優しくてさ…おれ、そういう鈴のこと好きなんだ!」
そう言って夜星は顔を真っ赤にした。勢いで凄いカミングアウトをするなこの子は…まぁなんとなく察しはついていたが。
「ふふっ、そっか天然さんのこと好きなんだ」
「や、やめろよ…言い直すなよ…」
「ごめんごめん。大丈夫。秘密にしておくから」
そう言うと夜星は安心したような表情になった。
さて、わかったことがある。少なくとも執印國明と墨名夜星の2人は天然鈴に好意を抱いているということ。前者のきっかけはわからないが、間違いはないと思う。
あとは…写野真士だが、彼のことは一旦保留しておこう。
「天然さんはきっとみんなに好かれるんだろうね」
みんな、の中に自分は含んでいない。だが話を聞いた限りではそういう印象を抱かざるを得ない。少しズルいなと思う。
「ああ!でもさ、國明のやつがすげぇベッタリだからちょっと嫌な感じなんだ。真士さんは時々だけど鈴にすげぇ優しい感じになるし…みんなの鈴って感じなんだよ。それがなんかちょっと…」
少し危ないような気がしてきた。実際のところ天晴もあっさり打ち解けてしまった。天晴本人の性格もあるだろうが、それだけが理由とは考えられない。
「…なんかメッチャ喋っちまった。アンタ凄いな。大人って感じするよ、真士さんとは別の感じで」
やった。
「一応成人してるからね。そうそう、そろそろアンタはやめて欲しいな。陰山木葉っていうの、知ってるでしょ?」
「あっ…ゴメン…」
ギクっとした顔をして夜星は少し焦っているようだった。少し意地悪な言い方をしてしまったか。
「ゴメン…けど…なんて呼んだらいいかわかんなくて…」
そういうことか…。
「そっか、こっちこそごめんね。ちょっと嫌な言い方しちゃった。んーと、そうだなぁ…あっそうだ。じゃあさ、わたしはもう夜星くんって名前で呼んじゃってるし木葉さんって呼ぶのはどう?」
あまり名前で呼ばれることは無いが、お詫びという体で名前呼びを提案してみる。さぁどうするの?
「うん…木葉さん。木葉さんって呼ぶよ」
「そっか!オッケー夜星くん!」
夜星の顔に笑顔が戻った。最初の印象以上に素直で繊細な子なのかもしれない。ちょっと可愛いと感じてしまう。
「木葉さんってなんかお姉さんって感じだな。鈴は同じ年上なんだけど…お姉さんとかじゃねぇんだよな…なんていうんだろ」
言葉に詰まる夜星。多分、彼が言語化できない部分、それが答えなのだろう。
その後は他愛もない会話が続いた。もしかしたら、上手く纏まっていくきっかけが掴めたかもしれない。そう思った。
「静寂の戦士」
知っている声だった。気がつくと目の前には十六夜がいた。現実で出会うのはいつぶりだろう。
「あ?誰だこのチンチクリン」
夜星が突っかかる。
「そんなこと言っちゃダメでしょ!あのね、この子は十六夜ちゃんっていうの。紫の絵の具の人」
「あー、話は聞いてるよやたら突っ込んでいくヤツだろ?」
同年代と判断したのか、明らかにわたしの相手をしていた時と態度が違う。やはり…思春期か…。
「ふん、どうとでも言うがいい。この十六夜紫電は他者の評価など気にしない」
相変わらずわからない子だ。未だに対応がわからない…と夜星がキョトンとしているのがわかった。
「夜星くんどうした?」
その問いかけを聞き十六夜が少しピクッとしたのが見えた気がした。
「いや木葉さん…コイツ十六夜って言ったよな?喋り方とかも似せてるっぽいし、映画の主人公の真似してるぜ?偽名だろそれ」
映画のキャラの名前だったのか…。映画はあまり見ないから全然わからなかった。
「おかしなことを言うな。偽名だと?違うな、十六夜紫電こそ真の名だ」
十六夜の目からは真実味のようなものを感じられた。一歩も退がないと言ったふうだ。
「木葉さん…コイツも仲間なんだよな?大丈夫なのかよ」
うん。とは言えない。何もわからないが取り敢えず一緒に戦ってくれるというのが現状だ。と…頭が痺れる感覚があった。
予兆だ。
「大丈夫かどうかはすぐにわかるだろう」
そう言って十六夜は絵の具を取り出す。
「へぇ、見せてもらおうじゃんか」
続けて夜星も絵の具を取り出した。
「ちょ、ちょっと!競い合うものじゃないからね!色を取られた人を助けるんだから!」
木葉の静止は届いたのかわからないまま光に包まれた。
あの世界。予兆を受けるのは最低4人説に図れば、私、陰山木葉と十六夜、墨名夜星…そしてあと1人が現れるはずだが一体誰なのか。
「想像していなかった面子だな。少し不安だが仕方ないか」
声の主は写野真士だった。この人のことは十六夜以上にわからない。多分、歳は変身者の中で最も上だろうし、協調性はあると思うが…。
「陰山さん…だよな」
「えっ、あっはい」
「子ども2人で不安だろうが出来るだけ力になる。あまり気は張らずにな」
「あ…ありがとうございます」
突然、声をかけられ驚いたが安心した。流石に年長者だけあって変に気遣う必要はなさそうだった。
「んだよ真士さん、おれじゃ不安かよ」
「気に障ったか?悪い、そういうつもりじゃなかった」
夜星は不満そうな表情をする。真士はああ言ってくれたが気を張らざるを得なそうだ。
「とにかく、準備はしておこう。いつ戦いが始まるかはわからない」
十六夜の言葉に皆絵の具を構えた。
「「「彩色顕媄‼︎!」」」
木葉、十六夜、夜星の姿が変わる…真士は呆気に取られていた。
「さ、さいしょく?…あぁ鈴がこの前言っていたアレか」
「そーだよ真士さん。こういうのはビシッと決めなきゃダメなんすよ」
「すまんな…彩色顕媄!」
遅れて真士も姿を変えた。
それにしても…夜星の大鎌、真士の斧。大振りの武器で私たちの弓や刀とは全然戦いかたが違ってきそうな雰囲気だった。
「さて、倒れている人を…もしくは敵を探すぞ」
十六夜が先陣を切って歩みを進める。が必要はなかった。
「ご機嫌麗しゅう皆様方。久しくお会いできなかったことをお詫び申し上げます」
聞いたことのない話し方、だが聞き覚えのある声。声の主はレルムだった。背中からは翼のようなものが生えている。
「レルム!?…キャラ変わってないか⁉︎」
「何をおっしゃいますか、ワタクシメは何も変わってなどおりませんよ」
夜星のもっともなツッコミにレルムは丁寧に返答する。いや、あまり戦っていなかった自分ですら変貌ぶりを感じる。何かあったのか?
「あんな奴のことを気にしている暇はない。戦いのときだ」
十六夜の目をやる方を見ると怪物がいた。薄緑色の猿のような怪物だった。
「誰かが連れられてるってことだね。わかった、やろう十六夜ちゃん」
「おいおい、おれ達もいるって忘れないでくださいよ木葉さん」
食い気味に身を乗り出す夜星。そうだ、4人で戦うのだ。
「私の援護をしろ黒の戦士!」
十六夜はいつものように飛び出した!
「は?おれが援護するのは鈴だけなんだよ!」
「ごめん夜星くん!あの子危なっかしいから援護できる?わたしも後ろから援護するから」
「えぇ?」
「夜星、ここは頼む。勝つためだ」
「ちぇっ、真士さんまで…仕方ないな!」
私と真士さんの言葉に渋々だが夜星は援護に回ってくれた。とそこにレルムが現れる!
「では、お二人がお相手をしてくださるのですね」
「まぁそういうことになるな!いけるな陰山さん!」
「はい!」
真士との連携は初めてだ…でも上手くやらないと!
真士は斧を振り回しながらレルムとの距離を詰める。攻撃は全て躱されているが反撃の一手を与えない動きだった。
わかりやすい!このまま隙を見て矢を放てば攻撃は通る!これなら上手く合わせられる!
木葉は隙を探し始めた…。
夜星は緑の猿へと突き進んでいた。時折、猿は光弾のようなものを投げ、こちらの進行を妨害してくる…が鎌でいなす。
「おい!紫色!お前、進みすぎなんだよ!」
十六夜は止まらない。聞いてないのか?それとも聞こえてないのかどっちだ?
緑の猿と距離を詰めた十六夜は戦闘を開始する。激しい剣戟と猿の爪が火花を散らす。どうやらお互いに目の前の相手に集中しているようだった…隙だらけだ!
「ここだぁ!」
夜星の鎌が猿の脇腹を掠めた!間一髪で避けられてしまった。
「ちっ!気づかれたか」
「貴様…邪魔をするな。あのまま私だけで勝てていたはずだ」
「はー!勘違いするなよ、あくまで木葉さんに頼まれたから来てやってんだよ!お前が心配だからって言うからな」
「…必要ない」
くそっ会話にならない。こんなやつと一緒に戦えるかっての。
考えていると猿はまた光弾を投げつけてきた!鎌を振り回し、光弾を片っ端から弾く。
「やるな黒の戦士」
「こんなん余裕…っておい!」
返答を終える前にまた十六夜はかけだしていく。もう無理だろコイツと合わせるの。
「ちょっとは空気読めよ!」
イラつきながらも十六夜の元へ向かう。きっと鈴も助けてあげて、と言うと思ったから。
またしても刀と爪で激しく戦う十六夜と猿。今度こそ!
『刈月光狩!』
鎌が猿に突き刺さった!
…が致命傷には至らない。
「クソっ!抜けない」
「手がかかるな…」
『十六夜流剣技 雷光!』
十六夜の一閃!敵を横一文字に切り裂く!
雄叫びを上げながら猿は消滅し、色が抜け出していった…。
「んだよ…やるなお前…」
素直に褒めるしかなかった…が十六夜は夜星の言葉を気にすることなく口を開いた。
「私は色を奪われた人を探す。黒の戦士は静寂の戦士たちの元へむかってくれ」
十六夜は色が飛んでいった方に駆けていった。
「アイツとは合わねぇや」
そう呟いて木葉たちの元へと向かう。
辿り着くとそこには木葉、真士…そして遅れて合流したのか天晴の姿があった。
「夜星くん!怪物は⁉︎」
「やっつけたよ木葉さん!」
「おっ凄えな墨名くん!アッパレだぜ!」
木葉の問いに素早く答え、天晴もそれに反応する。
「当たり前だろ赤いの!」
「そっか!悪い!」
そのままレルムとの戦闘に突入する!
「おっと、分が悪いですね…退かせて頂きましょうか」
そう言ってレルムは姿を消した…また逃げられた。
「木葉さん…!」
木葉に声をかけようと思ったが、彼女は別の人間に声をかけていた。
「陽向くん!良かったよ来てくれて…なんていうか安心した」
「えっ、そうですか?かなり遅れて来ちゃってたし、何もできなかったと思いますけど」
「ううん、いてくれるだけでいいんだよ。ありがとう」
天晴と木葉の会話に何かモヤモヤとした感じがした。なんだろうこの気持ち。
「どうした夜星?浮かない顔をしているが」
「別に…真士さんには関係ねぇだろ」
光に包まれた。
公園。現実に戻って来た。
「ふぅ…どうにか助けられたみたいだね」
「あぁ、倒れていたのは男だった…色も戻っていたし、きっと無事だろう」
十六夜は攫われていた人を確認してくれていたようだ。こういう面があるので、完全に信用できないわけではないのが、余計に謎だ。
「夜星くんも!お疲れ様」
隣に座る夜星に声をかけるが反応がない…。何かあったのか?
「夜星くん?」
「聞こえてるよ…ごめん今日は帰る」
そう言って立ち上がると夜星は去っていった。何があったというのだろう。
「十六夜ちゃん何かわかる?」
「さぁな。おおかた、私に手助けされたのが気に食わないとかそういう理由ではないか?」
「そっか…そうなのかな…」
カラオケボックスの時とは違う機嫌の悪さだった。なにか別の理由があるはずだが…。
「まぁ私の強さは証明された。ヤツも突っかかってくることはないだろう。さらばだ静寂の戦士よ」
満足気に十六夜も去っていった。
「何か…マズい気がする…」
暗い夜のような不穏な気配が木葉を襲っていた。
次回ッ
第十三話 混ぜるな危険だ赤、黄色!




