93.フィノウの歓迎会
「これは……素晴らしいです!」
「食べる手が止まりません」
「手でもってかぶりつく……斬新です」
「お手軽に食べられてサイコー」
「この……揚げた芋? 最高っす! 毎食これが良いっす!」
毎食はやめてお……いや、精霊ならカロリー問題とかないのか? ……いやまあとにかく毎食はやめておいた方がいいと思う。
「分かったっす!」
急遽始まったバーガーパーティ……ではなくフィノウの歓迎会。
歓迎会の名目で始まったが、皆、匂いにつられて興味津々だったバーガーとポテトに真っ先にかぶりついて感想を述べてくる。
いや、感想言ってくれるのは嬉しいんだがフィノウが気を悪くしないか……?
そう心配してフィノウの方を横目で見ると、フィノウもわき目を振らずにバーガーとポテトを食べていた。
モグモグという擬音が聞こえてくるかのようだ。
心配いらなかったな。
そうして皆がある程度お腹を満たしたところで、俺から改めてフィノウを紹介……しようと思ったら、先んじてフィノウの方から俺のもとへやって来る。
なるほど、自分から皆に紹介して欲しいと頼みに来たのか……
「失礼、代表。もう一度シャーベットを作ってもらっても?」
全然違った。
どうやらフィノウはバーガーとポテトでお腹を満たしたら、またデザートの気分になったらしく……先ほど味わったシャーベットをもう一度食したくなったそうだ。
いや気持ちは分かるけど。
……まあいい。
一応歓迎会? の主役だしな。
いやまあ歓迎会っていうか……皆、歓迎会にかこつけて飲み食いしてるだけだけど。
ともかく、俺は再びリンゴを搾った果汁をフィノウに凍らせてもらい、それを削ってシャーベットを作る。
そうやってガリガリと削っていると、周りに人が集まり始めた。
「これは? ……シャーベットと言うのですね。あなたが?」
「ほぇ~すご~い。こんな氷作れるなんて~……んっ! つめた~い! けどおいし~!」
「うっ! 頭キーンとしたぁっ……!」
「ゆっくり食べろと言われたでしょう? 初めまして、お名前を聞いても?」
「別の味でも作れるんですか? ぜひお願いします!」
そして皆に話しかけられ穏やかに談笑するフィノウ。
こっちが心配する必要全くなかったみたいだな。
「こんなに美味しい氷作れるなんてほんとすご~い」
「はい、素晴らしいです」
「大したものだねー」
そんな感じで和気藹々と話していたと思うと。
「おっと、嬉しいけどその辺にしておいた方がいい……」
顔をほのかに赤らめたフィノウが急にそんなことを言い出す。
褒められすぎて恥ずかしくなったのかな? と俺がそう思うと。
ドロォ……。
と。
溶けた。
フィノウが。
え?
……うわうわうわうわ! 大丈夫か!?
俺は大慌てでフィノウに駆け寄る。
溶けたフィノウはなんというか、デフォルメされたスライムみたいなそんな姿になってしまっていた。
ぽよんっぽよんっ!
親近感を感じたのか、寄ってきたムイが近くで跳ねだした。
いやこれどうすれば……。
そう俺が焦っていると。
「だ……代表……失礼、シャーベットを頂いても……?」
いや食べてる場合じゃないだろ。
フィノウはシャーベットを食べさせて欲しいと言ってきた。
どれだけ気に入ったんだ。
「いや……違うんだ……」
? 違うのか?
「うん……シャーベットを味わいたいという気持ちは……あるけど……」
あるんかい。
「元に戻るためにも必要だから……」
はぁ……そうなのか? まあそういうことなら……。
俺はシャーベットを……どうやって食べるんだ? とりあえず口? に放り込んで……。
「シャリシャリ……うっ! 頭が……!」
そんな姿になってもキーンとはするのか……。
そんなことを思いながら見守っていると。
「ふぅ……ありがとう、見苦しい姿を見せてしまったね」
フィノウの姿は元に戻った。
うん。
戻ったのは良かったけど……一体どうしたんだ?
「ああ、ちょっと照れすぎてしまってね」
照れすぎる。
「そう、ボクは雪妖精だから、あまり熱くなると溶けてしまうんだ」
褒められただけで? それはまた難儀と言うか……。
「そうでもないよ。すぐに戻れるからね」
思ったより不思議な生態してるんだな、妖精って……。
歓迎会場は一瞬困惑が広がったものの、フィノウがすぐに元に戻ったからかそのまま何事もなく続いた。
バーガーとシャーベットを味わった後は、なぜかカラオケ大会が始まった。
理由は分からない。
本当になぜかとしか言いようがない。
いつの間にかカラオケゴーレムが持ち込まれ、いつのまにかカラオケをする空気になっていた。
そしてなぜか一番手が俺だった。
えぇ……? せめて主役のフィノウが最初では……?
そう抗議したが、フィノウさんはカラオケと言うものを知らないのでお手本をお願いします、と、言われたら断り切れなかった。
しょうがないので一番手で歌うことにする。
曲は適当だ。
カラオケゴーレムに入っている曲は全部俺が入れた、つまり俺が知っている曲だからな。
と言うわけで歌う。
歌うまでは人前で歌う羞恥心があったが、歌い始めたらもう気にならなくなる。
カラオケの魔力だな。
そして歌い終わり……万雷の拍手。
いや俺の歌声より大きくないか?
ここまで絶賛されると自分の歌が上手かったんじゃないかと錯覚する。
まあ、ともかく歌い終わったのでお手本も見せられただろう。
マイクをフィノウに渡す。
「ふむ、なるほど……よく分からないけど理解できたよ!」
よく分からないのに理解とは?
まあともかく、フィノウはそう豪語してマイクを受け取り、歌い出す。
曲はさっきの俺と同じ曲。
だが……。
「~~♪」
凄い。
俺より明らかに上手い。
歌声が透き通っているとでも言えばいいのか。
よく通る歌声だ。
さらに、歌うだけではなく即興で振り付けまでしている。
その姿はまるでアイドルだ。
そして。
「~~♪ ……ふぅっ!」
パチパチパチパチパチパチッ!!
歌い終わったフィノウに再び万雷の拍手。
皆がフィノウに素晴らしい、いい歌だったなどと声を掛ける。
もちろん俺もだ。
とても美しい歌声だった、フィノウ。
心からそう言う。
と。
「ああ、ありがとう、ありがとう! 代表も! …………ところでもう一度シャーベットを貰っても?」
再び照れすぎでフィノウは溶けた。
皆で急いでシャーベットをフィノウに投与した。
その後もカラオケ大会は続き、大会なのにもかかわらず三巡くらいした。
やっぱり皆、歓迎会の名目で食べて飲んで騒ぎたかっただけじゃないか?
だけどまあ、溜め込んだものを発散する場は必要だし、フィノウにも楽しんでもらえたみたいだからいいか。
というわけで新たな住人、フィノウが街に受け入れられた。
ああ、ちなみにカラオケ大会の優勝者はフィノウだった。
「素晴らしい歌声でした」
「心に染み入ってきましたね」
「あの動きも良かった」
フィノウがまた溶けるほどの絶賛の嵐。
やはり皆、あの透き通るような歌声は優勝だろうと思ったらしい。
さらにちなみに俺は満場一致で殿堂入りだった。
「主様の歌声は主様の歌声と言うだけで価値があります」
「もっと聞かせてください」
「ボクに手本を見せるためと率先して歌ってくれてとても嬉しかった」
これまた絶賛……絶賛? 絶賛ではなくないか? これ?
まあとにかくそんな評価で殿堂入りした。
別にそんな歌が上手いわけでもないんだが……俺は……。
と、ちょっと恥ずかしく思ったが、せっかくの皆からの評価なので受け入れた。
……この評価に見合うように、少しは練習しとこう。
そして俺の冬の間の毎朝の日課に歌練習が入ることになった。




