88.ルールブック作りとサイコロ
ある冬の日。
俺は今日も雪遊びをしようかと外出を試み……断念した。
街に吹雪が訪れていたからだ。
いやあ……激しいな……。
外からごうごうと吹き付ける吹雪の音を聞きながら思う。
ここまでの吹雪に遭うのは転生してから初めてだ。
今までは余り冬は厳しくなかったからな……。
さて、今までは冬が厳しくなかったとはいえ、一応こういう事態も想定して各区画には備えをしている。
だが、それでも実際にその備えを役に立てる状況が来ると心配になってしまう。
大丈夫だろうか……不測の事態とか起きていないだろうか……流石に吹雪の中連絡員は出せないからな……何か起きていても知る手段がない……。
そうやってグルグルと心配を回していると、頭にぽよんと衝撃。
ムイだ。
ムイはそのまま頭の上でぽよぽよと飛び跳ねる。
やるだけの備えはやったんだから、自分と住人を信じてどっしり構えていろ、と、そう伝えてくれている。
はず。
ありがとう、ムイ。
俺はムイに礼を言って気持ちを切り替え、頭の上で跳ねているムイを捕まえる。
そしてバレーのオーバートスの要領でムイを打ち上げつつ今日は何をしようかと考える。
ふむ……外には出られないから雪遊びは出来ないな。まあ中庭に出ればできるけど吹雪の中わざわざやるほどではない。なら屋敷の中で出来ること……。
と、そこまで考えて真っ先に思いついたのがカラオケ。
ぷよんっ!……ぷよんっ!……。
ふむ……カラオケもいいけどこの前やったばかりだしな。せっかくなら他にも娯楽の種類を増やしたい……うーん……あっ、そうだ!
俺の頭にピコンと閃きが走る。
ぷよんっ!……ぷよんっ!……ぷよんっ!……。
今年うちの街には紙が出来た! これを使えば本が書ける。普通の本を書くのも良いがせっかくなら遊べる本……TRPGのシナリオ&ルールブックを作ろう!
そう俺は思い至る。
思い至れば善は急げと自室に向かう……前に。
ぽよんっ! ぶにゅんっ!
考え事をしながら打ち上げ続けていたムイをキャッチ。
ムイは相当楽しかったようでキャッチした俺の手の中で激しく震えている。
掴んでいる俺の手が摩擦でちょっと温かくなるほどだ。
そんな気に入ったのか?
返答はさらに激しいシバリング。
俺に打ち上げられるのがかなりお気に召したらしい。
俺はムイを軽く上に放り投げキャッチするハンドキャッチを行いながら、自室に歩いていく。
よっ……ほっ……。
歩きながらだと結構難しいな……。
慣れない最初のうちは苦戦しながらも、ムイと遊びながら自室に歩いていく。
ちなみに慣れてきたらムイが空中で震えて軌道を変えてくるもんだからキャッチが大変だった。
そして俺は自室にたどり着く。
ふぅ……結構楽しかった。
なんだかんだと熱中してしまった、ムイキャッチ。
ムイもかなり楽しかったようで激しく震えている。
またやってくれとせがんできているな。
そんなムイを撫でぽよりつつ、とりあえず机の上に紙を用意する。
さて……作ろうと言ったが何を作ろうか……。
まっさらな紙を前にして俺は悩む。
TRPGを作ろうとは言っても、俺は正直初心者に毛が生えた程度だ。
そんな俺がいきなりオリジナルを作ろうものなら大事故を起こすだろう。
と言うわけでまずは、俺の中で最もメジャーな、冒涜的な神話をモチーフにしたTRPGを記憶だよりに再現していく。
えぇと……まずはルールから……能力値はいくつあったっけ……それと技能、職業……は、前世のものそのままだと皆が分からないな。技能はまあ、分からないであろうものを魔法か何かに置き換えて……職業は種族に変えてしまって……持ち物系もそんな感じで……あとシナリオはとりあえず有名なスープのヤツを……。
そんな感じで試行錯誤しながらルール&シナリオブックを作っていく。
最初は普通の羽ペン……リネイアたちが作って俺にも分けてくれたヤツ……を使っていたが、途中で創造神器の契約本形態についてくるペンの方に変えた。
試行錯誤する都合上、書き損じが結構出たからだ。
紙はかなりあるとはいえ、皆が頑張って作ってくれているのは知っているから無駄にするのは何となく憚られる。
創造神器のペンなら俺が消そうと思えば消せるからな。
そしてああでもないこうでもないと修正を繰り返しながら……第一版が完成。
よし! 出来た!
作り終わった俺は伸びをする。
かなり熱中して作ってしまった。
特に職業をいい感じに種族に置き換えていくのが楽しかった。
さて、本自体は出来たが、ここからまだ作る物がある。
作り始めた当初から、そういえば必要だったなこれ……と悟ってはいた物。
そう、サイコロだ。
というわけでTRPGのルール&シナリオブックは作り終わった俺は、TRPG最重要と言ってもいいサイコロを作っていくことにする。
というかサイコロなんて真っ先に作るべきものなのに、ルールを書き始めるまで存在が頭から抜けてたな。
自分で言うのもなんだがかなり浮かれていたみたいだ。
さて、サイコロを作るに当たって。
TRPGで使うのは十面サイコロだが、いきなり十面に挑戦するのも何なので、まずは六面サイコロを作ることにする。
そう考えた俺は早速木をノミで削って六面体にした。
が。
う~ん……なんとなく重心が偏っている気がする……。
出来たサイコロを手に持ってみて俺は思う。
創造神器を使ってしっかり均等な六面体を作ったはずなのにそう感じるのだ。
そうか……木の密度は一律一定ってわけじゃないからどうしても少し偏るのか……?
疑問に思った俺はサイコロを六十回ほど振ってみる。
結果は……。
一:二回
二:一回
三:四回
四:十七回
五:十六回
六:二十回
なにこれ。
流石に偏りすぎだろう。
その結果を見て俺はそう思う。
いや、確かにたった六十回ほどの試行なんだから偏りは出て当然。
当然なんだけど、流石にこれは偏りすぎ。
残念ながら没。
こんなイカサマサイコロ使ってたら良からぬこと考える住民出てきちゃうよ。
イカサマサイコロ略してサマコロは、コロコロ転がす様子を興味深そうに見ていたムイに進呈する。
ぷるぷる震えて喜んでくれた。
ふむ……どうするか……。
俺は考える。
やはりサイコロは均等に目が出てこそだ。
ぱっと思い付いた解決法としては……紙でサイコロを作ること。
前世でもあったペーパーサイコロだ。
だが、これは……ちょっと気が進まない。
俺はTRPGにおけるダイスロールと言うのは音も大事だと思っている。
カラカラとテーブルに硬いサイコロがぶつかる音。
あれこそがサイコロを振っている感を強く演出している、と。
ネットのオンラインダイスでもあの音はしっかり収録されてるしな。
しかし紙だとあの音が鳴らない。
無音……鳴ってもかさかさという音だけだ。
それはちょっと……いや、かなり寂しい。
だからせめて木とは言わないまでも何か硬いものでダイスを作りたいんだが……うーん……。
俺がそう悩んでいると。
ぽよぽよ……。
サマコロをその弾力ある体の反発力を利用して、放り投げて遊んでいたムイが近くに寄ってきた。
かと思うと……。
ずぶずぶ……。
俺がサイコロ用に用意した木材を飲み込んでしまった。
俺が何をするのか、と気になって見ていると、少ししてムイは呑み込んだ木材を吐き出した。
そしてこちらに対し、その木材を押し付けてくる。
ふむ? これでサイコロを作って見ろってことかムイ?
肯定するようにムイはぷるぷると震えている。
……ムイがそう言うなら作ってみるか。
言っては無いけど。
ムイの言? に従い、俺はムイが吐き出した木材を使って再びサイコロを作ってみる。
と。
んん……? これ……偏りが無いような……?
何とさっきは感じた重心の偏りが感じられなかった。
俺はまさか? と思いつつ、再び六十回、今作ったサイコロを振ってみる。
すると。
一:十一回
二:八回
三:十回
四:九回
五:十三回
六:九回
このような結果になった。
偏りは出たがこれは自然な範疇だろう。
重心の偏りを感じなかったことからも俺はそう結論付ける。
どうやらムイが木材を飲み込むことで、木の密度を一定にしてくれたようだ。
……流石だ……! ありがとう、ムイ。
実際にどうやったのかは分からないが、俺はとりあえずムイを持ち上げ、感謝の言葉をかける。
ムイは当然のことだ……。と言うようにぷよぷよと震えている。
これで問題は解決した。
早速他のサイコロも作ろう。
そう考えた俺はムイに感謝しつつ、そのまま八面や十面、色んなサイコロを作る。
どれも六面と同じように偏りなく作れた。
そしてこれで……。
よし! これで第一版TRPG……完全に完成だ!
サイコロを作ったことで、目的としていたTRPGの製作は完全完了。
作り終わったとなれば、次は当然それを使って遊ぶターン。
よし、早速皆に布教して流行らせよう!
作り終わって上がったテンションのまま、俺はそう意気込み部屋を飛び出していった。




