83.セラピーと楽器
いや、嬉しくはあるんだよ、皆美人だし。
でもちょっと心が追い付いていないっていうか……。
「うぉふ……」
ぽよんっぽよんっ。
翌日。
俺は嬉しさと気恥ずかしさとetc…、整理しきれない感情をシロのお腹に顔を埋めながら口に出していた。
シロは俺を尻尾で包んでくれて、ムイは頭の上でぽよぽよ跳ねている。
一緒に住んでいるムイはまだしもなぜシロが居るかというと、なんか当然のように遊びに来ていたからだ。
季節は冬だが……シロにとってはそんなこと関係ないらしい。
去年は来なかったが、あれはリルの初の妊娠が心配で離れたくなかったからみたいだ。
そのままシロを吸いながら俺はメンタルを回復する。
……この言い方だとなんか傷ついてるみたいだな。
別に傷ついてはいないが、まあとにかくシロに癒される。
頭の上でぽよぽよしているムイもひんやりして気持ちいい。
そうすること十分ほど。
……よしっ! 復活!
シロムイセラピーによって俺は気を取り直すことに成功した。
次からはなあなあじゃなく、自分の意志で受け入れるようにしよう。
憎からず思っていないのは事実だし、次来たらハッキリ言おう。
そう決心した俺はシロから離れ……る前に、感謝を込めてシロを撫でまわしておく。
あとムイも。
なでなでなでなで……。
「うぉふうぉふっ!」
ぷるぷる……!
両者とも激しく体を震わせ満足そうにしてくれている。
ここまで喜んでもらえると、俺は実は撫での達人なんじゃないか? と思ってしまうな。
さて、シロとムイも満足するまで撫で切ったし、今日を始めよう。
というわけでやってきたのは屋敷の空き部屋の一室。
シロとムイも一緒だ。
ムイはともかくシロはかなり大きいが屋敷はそれ以上に大きい。
問題なく闊歩できる。
さて、ここで何をするかというと……楽器作りだ。
言うまでもないがこの世界……娯楽が少ない。
冬で家の中で過ごすことが多くなると、その問題点が浮き彫りになる。
去年はオセロやらなんやら作ったものの、ずっとそればかりだと飽きてしまう。
なので楽器。
楽器を作り、暇をつぶすと同時、音楽の文化を街に持ち込むことが出来る。
一石二鳥だ。
俺は楽器を触ったことなんてあまりないが、それはそれで練習で暇をつぶすことが出来る。
まあさらにもう一つ見据えていることもあるが、それは楽器を作った後で良い。
そういうわけで早速楽器を作っていく。
まず作るのは……定番のギター。
俺はギターの詳しい構造なんて知らないが、まあ試行錯誤することもいい暇つぶしになるからいいだろう。
そうやって軽い気持ちでギターを作り始めた三十分後。
……出来ちゃったな……ギター……。
俺の目の前にはしっかりとした造りのギターが鎮座していた。
いやー……まさか、一発で成功するとは思わなかった。
出来上がったギターを見ながらしみじみと思う。
俺は本当に、それこそ何日も時間をかけて試行錯誤しながら作っていく気満々だった。
それが初回で上手くいったのは……まあ当然創造神器の力だ。
俺はギターを作るにあたって頭の中でぼんやりと、こんな感じか……? と思い浮かべて創造神器のノミで木材を削ったのだが。
ぼんやりとしたイメージなのにもかかわらず俺の手は迷いなく動き、イメージと寸分たがわぬギターが出来上がっていたのだ。
細部の想像も出来てないほどぼんやりとしたイメージだったのに……さすがは創造神器。
そして出来上がったギター本体に弦を張ってギターは完成。
……ああ、弦はあらかじめクトネーに頼んでおいた。
こんな感じの硬い糸が欲しいとリクエストを出したらその通りの糸を納品してくれた。
だから楽器を作ろうと決めたんだが。
まあとにかく出来たので早速音を出してみる。
指……で弾くと痛そうなので、端材からピックを削り出し使用。
ギャァァァ~~ンッ♪
……凄いな。
音が出た。
調子に乗ってその後も弾いてみるが、特に問題は起きないし、音階もしっかり変わる。
クトネーが凄いな、これは。
しっかりした弦を作れるなんて。
そうして、ギターを作れたとなれば、他も作りたくなるのが創作意欲というもの。
そのまま意欲の溢れるままに他の楽器も作っていく。
次に作ったのはベース。
ギターの次はこれだろうという安直な発想から作った。
俺は正直ベースとギターの違いが分かっていなかったのだが、創造神器さんがなんかいい感じに作ってくれた。
太鼓。
ギター、ベースと来てドラムを作ろうと思っていたのだが、木材を使っていたため急遽太鼓に。
かなり大きく円柱状に切り出した木材の中を削り取り、二頭鹿の大きな皮をしっかり貼り付ける。
ドォン! と試しに叩いてみたら、腹の奥まで響くようないい音が鳴る立派な太鼓が出来た。
木琴。
木材を用意しているからとこれまた安直な発想。
問題なく完成。
同じ木から削り出した板を並べているだけなのになぜ違う音が鳴るのか……その答えは創造神器さんのみが知る。
バイオリン。
果ての森の木木材はかなり質がいいらしいし、すごく良いバイオリンが作れるのでは? と、そう思い至って作った。
完成はしたが、弾くのはかなり難しかった。
綺麗な音を出そうとすれば相当練習しないとダメかもしれない。
ビブラスラップ。
完全にノリだけで作った。
シンプルだから作りやすいしな。
カァァァァーーーン……ッ! と、いい音が鳴った。
ピアノ。
かなりの大物だが、楽器と言ったらやっぱりこれは外せないだろう。
例によって例のごとく詳しい構造なんて知らない。
ので、創造神器さんに祈りを捧げ、どうかお願いしますと心の中で声を掛ける。
まあ、ピアノは大きくて複雑だしな、最悪出来なくてもしょうがな――出来た。
ふぅ……。
一通り思いついた楽器を作り終え、俺は一息つく。
他にも思いつく楽器は色々あるものの、まだ冬は長い。
ゆっくり作っていけばいいだろう。
にしても、本当に驚かされるな、創造神器には。
楽器の構造なんてほぼ知らない俺のような素人の曖昧なイメージからでもしっかり音の出る立派な楽器を作れるなんて。
一番驚いたのはやっぱりピアノだな。
今日作った楽器の中で一番大きく、内部構造を全く知らない楽器。
流石に出来ないだろうと思ったのに、当然のように完成したもんな。
やはりすさまじい。創造神器は。
「うぉんっ」
ぽよよっ!
俺が一息ついたことを察したのか、少し離れた部屋の隅に転がっていたシロとムイが寄って来る。
邪魔にならないよう大人しくしていてくれたんだな。
ありがとう。
俺は礼を言うが、二体とも気にするな、と体を震わせている。
そして寄ってきたムイとシロは俺が作った楽器に興味を示しているな。
もしかして弾いてみたいのか?
俺がそう聞くと二体とも肯定する。
うーん、弾いてみたいのか……でもこれ俺用っていうか人間用に作ったやつだしな……シロはまあ、床置きして爪で弾くタイプのギターでも作ればいいとして……ムイは一体どうすれば……。
俺がそう考えていると。
ギュィィィィィーーンッ! ジャカジャカジャカジャカジャンッ♪
ムイが身体から触手を出してめちゃくちゃ流暢にギターを弾き始めた。
……俺より上手く。
いや、うん。
そう言えばムイは触手出せたな。
基本ぽよんぽよん跳ねてるから忘れてた。
そのままムイは身体を激しく揺らしながら、ギターを弾く触手をスピードアップしていき……。
ギャァァァァァァァーーーーーンッ!!
最後に思い切りかき鳴らして止まった。
ぱちぱちぱち……。
俺は思わず拍手する。
ムイは得意げにぷるぷる震えて嬉しそうだ。
「ウォウッ! クゥ~ン」
ムイが気持ちよくかき鳴らしている光景を見て羨ましくなったからか、シロが俺の服を引っ張って催促してくる。
分かった分かった……今作るから。
再び創造神器さんにお願いして、シロ用の大きく、床に設置して、爪で弾けるタイプのギターを作る。
すると。
ギャイィンッ! ギャインギャインギャインッ!
「ウォンッウォンッ!」
シロはとてもノリノリでギターを弾き始めた。
同じくノリノリのムイとセッションさえしている。
同じギター同士でセッションっていうのかは知らないが。
ぷるぷるっ!
「ウォンッ!」
ムイとシロが俺に向かって震えて吠える。
どうやら一緒にセッションしたいみたいだな。
……断る理由は無い。
俺は一人と二匹で思う存分セッションを楽しんだ。
そうしたら。
「その……代表様。代表様が楽しげなのは良いことなのですが、夜はせめて防音結界を張っていただけると」
屋敷の皆にやんわりといさめられた。
うん。
申し訳ない。




