81.収穫と冬備え
収穫の時、来たれり。
俺の心配は例年通り杞憂となり、今年の収穫もバッチリ本格的な冬前に間に合った。
まあでも、結構寒くなっては来ているのでさっさと収穫を進めていく。
今回の収穫の目玉は……果実系。
収穫したのはいつものりんごと、ぶどう、みかん、梨。
りんご以外は前回の収穫では育ってはいたものの、まだまだ収穫できるほどではなかった。
だが、今回かなり一気に育ち、収穫が可能になった。
……りんご初収穫の時はもっと時間がかかった気がしたが……。
まあ収穫できる分にはありがたいからいいか。
ラウームたちに聞いても土に問題はないそうだし。
恐らく土壌がさらにレベルアップしていたんだろう。多分。きっと。
とにかく果実系も多く収穫できた。
そのまま食べてもいいし、ブドウはワインの原料にできるんじゃないか?
ワインの作り方なんて潰して放置しておくくらいしか知らないが、まあマイコニンに頼めば何とかなるか?
またマイコニンに頼むことが増えてしまったな。
それと果実以外にもいつも通りの野菜と米。
前回から採れ始めたキャベツ、白菜、ほうれん草等々もしっかり増えてくれた。
これまたいつも通りの豊作。
本当にありがたいことだ。
創造神器に感謝をささげながら収穫作業を続ける。
そうじて収穫作業はあっさり終わった。
まあ、畑も増やしているとはいえ、人手も増えているからな。
けれど……。
「ここの記録が終わったら次は向こうの倉庫へ、それが終われば次はあちらの倉庫の記録をお願いします!」
「うひー終わんないよぉー」
「ふふ……ファンタスティックな忙しさですね……! 頑張りましょう!」
さらに増えた作物をしっかり記録し管理する側はさらに大変になったようだ。
……まあ、デモンズとエンジェルは増えてないからな。
フォイルが自分もある程度はこういうのが出来るからと手伝ってはいるが、正直焼け石に水だな。
「今はまだギリギリ何とかなっていますが……これからさらに増えるだろうことを思えば何とかしなければマズいですね」
「何とかなってる!? なってるかなあコレ!? シエルちゃんもうとっくにキャパオーバーなんだけど!?」
「あなたならまだやれるでしょう。終わったら向こうの五つもお願いしますね」
「リネイアの鬼ーっ!」
「悪魔です」
「ははは! とてもファンタスティックユニークなお嬢さん方ですね!」
そんな……コント? をしながらも彼女らは手を止めず次から次へ倉庫に運び込まれる作物をしっかり手元の用紙に記入していっている。
うん……次の収穫までにはちょっといろいろ検討するから、今回のところは頑張ってくれ。
「んひーっ!」
と、まあそんなこんなで。
とんでもない忙しさで目を回しながらも、デモンズとエンジェル、そしてフォイルはしっかり収穫量の記録を済ませ、収穫作業を完了することが出来た。
てんてこ舞いだった彼女らには休んでもらいつつ、俺は次の作業に入る。
次にやることは冬備えだ。
「代表殿、頼まれた分はしっかりと作り終えましたぞ」
ああ、ありがとうイアン。
冬備えその一。
雪かき用の道具を作っておくこと。
これは去年もやったことだな。
去年こうやって作って備えておいたお陰でしっかり役に立ったから今年も作っておく。
住人が増えた分しっかりと。
にしても今年は一気に住人が増えたし大変だっただろう。
「ぬ? はははいえいえ! 確かに作る量も増えましたが、ワシらも増えましたしな! なんてことありませんぞ!」
そう言って豪快に笑い飛ばすイアン。
心からそう言ってくれているみたいだな、良かった。
さて、それじゃあ次。
冬備えその二。
連絡網。
冬の間は基本的に外に仕事は無いので、皆には住居の中に籠ってもらうことになる。
雪が降ったときとかは特に。
なので、定期的に連絡を回す仕組みは作っておきたい。
そういうわけで連絡網作り。
まず最初に考え付いたのは……第七地層で掘れるようになった隧音石を使った連絡網。
この石はそれこそ電話の様に、石から石へ音を届けることが出来る石だ。
なので、これを全ての住居に備え付け……ようと思ったが。不可能だった。
単純に数が足りない。
まだ第七地層はそんなに掘れていないし、街の住居もかなり多くなっている。
それにイアンに聞いたところ、安定して音を送れるようにするにはかなり難しい加工がいるらしい。
流石の進化したハイドワーフたちでも一朝一夕では難しいようだ。
なので、残念ながらこの案は今年は見送り……今年は物理的な連絡網を作ることにした。
協力してもらうのは、ケンタウロス、エンジェル、デモンズ。
「任せろ代表さん! アンタの頼みなら俺らケンタウロス、吹雪の中だろうと走り切ってみせるぜ!」
「うえぇー……あんなに頑張ったんだし冬の間はゆっくり休めると思ったのにー」
「シエル。……申し訳ありません代表様。後で言っておきます」
というわけで代表者に来てもらった。
えー……フリストル、気持ちは嬉しいが流石に天候が吹雪だったら危ないから諦めてくれ。シエルは済まない、けれど大事なことだから頑張ってほしい。リネイア、シエルは頑張ってくれたのは事実だからお手柔らかに。
三人にそれぞれ声を掛け、連絡網についての詳細を相談する。
「なるほど、三種族でそれぞれローテーションを組んで街中に連絡を……いいアイデアかと思います」
「こっちもー。それだとあたし個人の負担は少なそうだしー」
「んー俺らだけで十分だ!……って言いたいとこだけど。もし万が一があったらやべぇし、代表さんも善意で言ってくれてるみてぇだしな。こっちも異論はねぇ」
……ふぅ。
良かった、皆快く賛同してくれたな。
それじゃあ、早速試してみるか。
そう決めた俺は早速連絡網の試運転をしてみる。
寒さがまだ本格化していないうちに。
今回、俺の屋敷から連絡員にそれぞれ出発してもらい、各住居や施設に連絡。
受け取った者はその連絡内容を屋敷に伝えに来てもらう。
ちょっと大がかりだが必要なことだしな。
街の皆には協力してもらった。
そしてその結果。
「えー連絡の内容は、明日から吹雪が厳しくなるようなので絶対に家から出ないように、です」
「え? 今日からじゃなかった?」
「ん? 出ないようにじゃなくて頑丈な建物に避難してって……」
……うん。
試運転しておいてよかったな。
大半の住人にはしっかり連絡できていたものの、ところどころ漏れがあった。
原因を調べてみると……どうやら伝えたつもりで、時間や行動が抜け落ちたりしていたようだ。
「吹雪が来るから家の中にいるように」とか、「明日から吹雪が来るから危ない」とか。
その結果、足りない部分を受け取った側が補完し、食い違いが出た、ということのようだ。
とりあえず、連絡は正確性を重視してもらうことにして……それでもやっぱり口頭だと情報が抜け落ちてしまうことはあるだろう。
どうするか……せっかく紙を作ったんだし連絡は書いて送るか?
「良い案かと思われますが、紙に書く手間がかなり多いのと、文字を読める者もそう多くはないと思われるので少々難しいかと」
俺が悩んでいると隣に控えていたリネイアがそう助言してくれる。
ああ、そうなるか……。
前世の価値観で文字なんて読めて当然だと無意識で思っていたが、当然読めないものもいるか。
う~ん識字率の上昇も課題か……?
……今は良い。
とにかくいい案が思いつかないので、連絡員たちに連絡はくれぐれも正確性を第一にしてくれとお願いしておこう。
これで一応連絡網作りも終わり。
冬備えその三。
防寒対策。
「代表さま。言われた通りお作りしましたわ。それぞれの種族に合わせた防寒着、手袋、帽子、暖かさを逃がさないシーツやカーペットに至るまで。代表さまのご期待にお応えできたでしょうか?」
その手に様々な防寒着を抱え、そう言ってくるのはクトネー。
そう、今年はアラクネを街に迎え入れたからな。
頼んでさまざまな防寒具を用意してもらった。
ああ、バッチリだ。
期待通り……いやそれ以上だった。
「ありがとうございますわ……もったいなきお言葉です」
そう言って優雅に礼をしてくるクトネー。
いや、本当に流石だ。
俺が頼んだのは住人の防寒着だけだったのに、手袋帽子、さらにはシーツやカーペットまで。
制作速度とんでもないな。
「ふふ、いえ。最高の設備と素材があれば、どこまで寒さを防げる服が出来るのか、とアラクネ魂が疼いてしまい。気付いたときには完成しておりましたわ」
クトネーにのめり込み癖があるのは分かっていたが種族全体でそんな感じなのか……。
まあこっちとしてはありがたいが。
ところで、その手に持っている大量の防寒着は?
「これですか? もちろん代表様の防寒着ですわ」
……はい? ……数十着くらいあるように見えるんですが……?
「ええ、五十着ほど作りましたもの。皆で」
皆で。
「はい、防寒着の製作途中で論争が起きましたの。代表さまにもっとも似合う防寒着はどのようなものか、と」
……はあ。……それで……?
「私たちは仕事をこなしながらも口頭で、最も似合うのはこういう防寒着だ、いやこの方向性だといろいろ主張していましたの。すると……いつの間にか手元に自身が主張していたものと全く同じ防寒着が出来ていましたの」
何で。
「不思議ですわよねぇ……」
そう言って頬に手を当てしれっと不思議そうにするクトネー。
いや、まあ、仕事はしっかりこなしているから特に文句もつけられないんだが。
「そういうわけでどれが一番似合うか確かめるために持ってきましたのよ」
大胆に端折られたな。
いやまあ大筋は理解できたが。
ってことはつまり……。
「ええ! 代表様にすべて試していただきたく!!」
そう言ってクトネーは目を輝かせ俺にすり寄って来る。
しっかり仕事を果たしてくれたクトネーを強く否定することは出来ず……。
その日俺はなんちゃってファッションショーを開くことになった。
……まあ、防寒着は用意できたしいいか……。
とまあ、そんな感じで。
ちょっとしたトラブルはあったものの、問題なく冬への備えは出来た。
これで今年もなんとかなるだろう。




