80.調査団の帰還
だんだんと寒くなってきたのを肌で感じて冬の訪れを予感し、今年も収穫が本格的な冬までに間に合えばいいなあと毎年恒例の考え事をし始めた時期。
彼らが帰って来た。
調査団の帰還だ。
「報告いたします、主殿。今回も我々調査団は誰一人欠けることなく帰還しました」
ああ。
良かった。
屋敷の応接室。
他の者には休んでもらいつつ、俺はリーダーのパードから報告を聞いている。
毎度無事に帰ってきてほしいと念押ししているからな。
しっかり全員無事に帰還してくれるのは嬉しい。
「そして今回の調査の結果ですが……まず、新しい住人を発見することはできませんでした」
うん。
これは帰ってきた調査団の姿を見てうすうす感じていた。
前回、前々回みたく目に見えて人数が増えて帰ってきたわけじゃなかったからな、今回は。
もしかしたら数人くらいは居たか? とは思ったものの、やはり居なかったようだな。
気にするな、パード。
今回はもともと新たな住人はそう期待していない調査団だったからな。
俺は少し耳を下げているパードにそう声を掛ける。
言葉通り、今回の調査は”人”は期待してなかった。
いや、あわよくば居るといいなあとは思ったが。
それより、一番の目的は文字通り周辺の調査だ。
「……はい、ありがとうございます、主様。では早速、今回の調査で発見したモノなのですが……」
ああ。
「一番大きい発見は海です」
……海?
「はい、海です」
そっか、海かー……海!?!?
俺は驚き、つい大きな声で聞き返してしまう。
えー……海ってアレだよな、俺の知ってるそれでいいんだよな?
少し混乱しつつも詳しい話をパードに聞く。
調査団は今回、レースピアから見て裂け目の方向を南と置いて、東方向に調査に出発した。
道中もそれなりに新たな地層や新種の植物などを見つけ、それらを調査しながらも東進。
すると、わずかに潮の香りを感じ……疑問に思った調査団がその香りの方向へ進んでみると、海にたどり着いた、というわけらしい。
「海と果ての森がつながっている場所は崖の様になっており、崖沿いを調べましたが崖が低くなっている場所や浜辺などは見つかりませんでした。もっと広く調査できれば見つけられたかもしれませんが……」
いや、構わない。
しっかり期限を守って帰ってきてくれたんだからな。
褒めることはあっても責めることはない。
「もったいないお言葉です」
俺は表面上は冷静さを保って、そうパードと言葉を交わす。
だが……心の中では上がるテンションを抑えきれていなかった。
海! 海だ! 海が見つかった!
……仕方ない。
前世日本人の身としては海産物にテンションが上がるのは当然のことだ。
塩……は岩塩があるからまだいいが、他にも海藻、甲殻類、魚介類。
それらを使った鍋、刺身、寿司!!
これでテンションが上がらない方が嘘だ。
「そして、一応確認しましたが、まごうことなき海水でしたし、海中には魚もいました」
いい報告だ。
それはつまり漁が出来るということ……ん?
……確認? 崖なのに? どうやって?
「ああ、降りて確認しました」
……さすがは異世界だ。
話を聞く限り海は切り立った崖の下にあるのに当然のように降りて確認できるとは。
というか危険な行為は避けるように言ったはず……。
「この程度は危険でも何でもありませんよ」
……そうか。流石だ。
久々に感じたな、ワールドギャップ。
というか俺が前世の価値観引きずりすぎなのか? まあいい。
危険は危険だし、万が一ということもあるからな。
強くは言わないが、あまり積極的にはやらないように。
「主様……そこまで俺たちをご心配していただいているなんて……! はい! 主様のご用命通りにいたします!」
ふんす! と気合を入れ、耳も尻尾もバタバタと激しく振り回しながらパードはそう言った。
いや……そこまで気合いを入れなくてもいいんだが……。
だけどせっかくのやる気? に水を差すのも無粋だしな。
このままでいいか。
……それで、海以外にも何か見つけたものはあるのか?
「はい! 他には……」
と。
その後もいろいろとパードに報告を聞かせてもらった。
毒を解毒する草、食べ過ぎに効く草、強い衝撃が加わったときにのみ鉄並みに硬くなる柔らかい泥、他にも調査団のメンバーですら何かわからなかった植物など。
調査団はいろいろと発見し、サンプルを持ち帰ってきてくれた。
ありがとう。
今回も素晴らしい成果だった。
俺は本心からパードにそう感謝の言葉をかける。
住人は居ないがそれでもいろんなものを持ち帰ってきてくれたし、何より海を見つけてきてくれた。
いまだにテンションが落ち着かない。
今すぐは……冬に入ってしまうから無理だな。
だけど冬が過ぎて春になったら、早速時間を作って海に行くことにしよう。
裂け目までの道みたいに道路も敷いて、軽く港みたいなものも作って……。
崖は、まあ、ラウームたちに頼んだら何とかなるか?
ああでも港を作るなら沖から入って来る者たちへの対策もしないとか……。
いやぁ夢が広がるなあ。
毎年冬が明けるのは楽しみだが……今年は一段と楽しみになったな。
そうして。
報告を終えたパードを伴って俺は玄関ホールへ。
そこではささやかな食事会が開かれている。
食糧はしっかり持って行っていたとはいえ、やはり長く離れていると街の食事が恋しくなっているだろうからな。
皆には用意が出来次第先に食べていていいと言ったのだが……。
誰一人料理に手を付けていない。
「当然です。あちらにいるのが俺でも主様が来られるまでは手を付けませんよ」
俺とともに会場にやってきたパードがそう言い切る。
だが……キリッとしたその顔とは裏腹にその尻尾はぶんぶんと振られている。
会場に漂うおいしそうな匂いをしっかり感じ取っているのだろう。
会場にいる他の者も、もう辛抱たまらなそうだし俺は早速開始の音頭を取った。
皆早く食べたいだろうし手短に。
すると、皆一気に料理を食べだした。
やはりかなり我慢していたみたいだな。
次からは念のためあまり待たせないようにしよう……。
パードも食べてきて構わないぞ。
「……ありがとうございます! 主様のお言葉に甘えましてっ!」
そう言うとパードもささっとテーブルに寄っていく。
やはりかなり食欲を刺激されていたようだ。
尻尾の震えがさらに激しくなっている。
そのまま会場を見渡す限り……一番人気はハンバーグ。
この前作って皆に振る舞うことになったせいか、その美味しさが知れ渡り、ちょっとしたブームになってしまった。
ので、この食事会にも出されている。
調査団の皆は街を出ていて当然ながら食べる機会がなかったので、この食事会がハンバーグとのファーストコンタクトだ。
うんうん、皆ハンバーグに殺到して美味しそうに食べ……泣いてる!?
――久しぶりに帰ってきてこんな美味しいものが食べられるなんて……。
――うぅ……美味しい……。
――また美味しい物が増えてる……これだからレースピアは辞められない……。
俺が驚いているとそんな声が聞こえてくる。
どうやら……かなり……感動してくれているようだ?
ま、まあ、美味しく食べているみたいだしいいだろう。
さて、収穫まではまだ少し時間があるし、調査団の皆にはそれまでゆっくり休んでもらおう。
今回もいっぱい働いてもらったしな。
さて、後は今年最後の収穫が本格的な冬までに間に合うかどうか……まあ何とかなるだろう。
これまでだって何とかなったしな。
ならなかったら……笑って誤魔化すか。
そんなことを考えながら、俺も皆と一緒に食事に舌鼓を打った。




