79.確認とハンバーグ
ぽよんっぽよんっ!
俺の頭の上でムイが跳ねている。
いろいろ忙しくて最近構えてなかったからな。
跳ねているムイをツンツン突く。
ぽよぽよぽよぽよ……!
ムイが激しく震える。
かなり喜んでくれているな。
「うぉふっうぉふっ!」
そうしているとこちらも忘れるな、というようにシロが身を寄せてくる。
もちろん忘れていない。
シロともご無沙汰だったな。
もう片方の手でシロを撫でる。
ぶんぶんぶんぶんっ!
シロの尻尾が激しく振られる。
かなり喜んでくれているな。
さて。
今俺とムイとシロが居るのは屋敷近くの空き地。
なぜここに三人……匹? そろっているかというと。
……まあ、最近ご無沙汰だったムイシロとコミュを取るため、という理由もあるが。
というかそっちがメインだが。
もう一つ理由がある。
そう、創造神器の能力確認のためだ。
ちょっと前。
レースピアの街はフォイルを住人として受け入れた。
そしてフォイル……狐人族が街で一夜を過ごしたことにより、創造神器の新たな能力が解放された……が。
その後は美術館やら発表会やらで新能力を確認する暇がなかった。
なので時間が取れた今、確認しようと空き地にやってきているわけだ。
そういうわけで早速使ってみることに。
当然アナウンスはあったので能力自体は分かっている。
「透明化」だ。
創造神器を出し、透明になれと念じる。
が。
……何も変わらない?
どれだけ念じてみても何も変わらない。
透明になれてないのか? それとも透明になっても自分では普通に見えるのか……?
とりあえず俺はムイとシロの方を見てみる。
二体ともこっちを見ているな。
そのまま回り込むように移動してみる。
ムイとシロはしっかりついてくる。
うぅん? 透明になってなくないか?
と、そう思っていると。
「おや、フェンリル様とムイ殿。こんなところで何を……?」
ルシュがやってきた。
ルシュは俺から見てシロの向こう側からやってきた。
なので俺が目に入らなかったのだろう、と思って、俺はルシュに近づいて挨拶しようとする。
と。
「主様は……居られないのですね。お二方、主様がどこにおられるかご存知でしょうか?」
かなり近づいて明らかに視界に入っているはずなのに、ルシュがそんなことを言い出した。
うぅん? これは……まさか……?
俺は疑問に思い、ルシュの真ん前に立ち、手をぶんぶん振ってみる。
……全く反応がない。
俺のことが見えていないかのようだ。
……創造神器の透明化を解除しようと念じる。
「っっっ!?!?!? あっ……主様っ!? いつのまにっ!?」
ずざざざっ! と、そんな音が聞こえるほど勢いよくルシュが後ずさる。
相当に驚いたようだ。
この反応からしてやっぱり……。
ルシュ、俺はずっとここにいたんだが、見えなかったか?
「え? ずっとここに……? は、はい、まことに不甲斐ない限りですが……主様のお姿を捉えることが出来ませんでした……。身を切ってお詫びを……」
いや重い重い重い重い。
その後。
ルシュを落ち着かせ、実験に付き合ってもらった結果。
いくつかのことが分かった。
まず一つ。
透明になっても、俺は自分の身体が普通に見える。
透明化してないと勘違いした理由だな。
透明になってるかなってないか分かりにくいと思ったものの、実験で何回も透明になったらなんとなく分かるようにはなった。
透明化すると存在感が少し減ったような感覚がある。
次。
俺が触っているものも一緒に透明になる。
俺が身に着けている服は言うに及ばず、ムイとシロを掴んで透明になることも出来た。
まあ離した瞬間透明化解除されたけど。
あとは、音とか匂い。
透明になるだけじゃなく、音や匂いもかなり無音無臭に近くなるらしい。
かなり鼻が鋭いルシュ相手に、近寄っても気付かれないほどだ。
……ちなみに完全に、というわけじゃない。
シロはこのとてつもなく少なくなった匂いをかぎ分けて、先ほど俺の動向を把握していたそうだからだ。
流石だな、シロは。
ルシュも目を輝かせて流石です……! と言っていた。
……ん?
シロは匂いで把握していたとして……ムイは?
……まあいいか。
ムイなら出来てもおかしくないだろ。
と、いろいろと分かったところで……最後に。
ムイに協力してもらう。
かつてムイはふしぎな光で隠れていたフォイルをあぶりだしていた。
あの光が創造神器の透明化にも効くのかどうか試してもらう。
結果は……。
「これは……とても……うすぼんやりとしていますが……見えています、主様」
見えるようになった。
とはいっても、かなり集中しないと見逃すほどにぼんやりとしているようだが。
ムイのふしぎな光は創造神器にも効果を発揮するようだ。
いやぁ……創造神器ですら見破りかけるうちのムイ凄くないか?
そんな感じで透明化の実験は終わった。
そして、実験を終えた俺、ムイ、シロの姿は屋敷のキッチンにあった。
実験後、お腹も空いたから何か作ろうと思いやってきたのだ。
ルシュも誘ったんだが……もっと嗅覚を磨いてきます、と言って行ってしまった。
別にシロ並みの嗅覚を目指す必要はないと思うが……。
まあ、そんなわけで早速料理を作っていく。
ムイとシロにも、最近寂しくさせたお詫びに美味しいもの食べて欲しいしな。
さて、何を作るか……。
そう考えた俺の頭に真っ先に浮かんだ食材は……卵。
以前はまだまだ産む量も鶏自体も少なかったので貴重品だったが……今は違う。
鶏はそれなりに増えてもいるし何より卵を産むペースがかなり上がっている。
今では一日十個近く産む鶏もいるほどだ。
前世では一日一個とかじゃなかったっけ?
まあありがたいからいいけど。
感謝を抱きつつ、ありがたく卵を使わせてもらう。
そうして卵を使うことを決め、真っ先に頭に浮かんだもの。
ハンバーグを作ることにする。
まず用意するのは玉ねぎ。
これをみじん切りにしてじっくりと炒める。
よくあめ色になるまで炒めるって言うけど、ちょっと分かりづらいと思う。
いい感じに炒められたと思ったら、フライパンからおろして次へ。
次に用意するのは角兎肉。
そしてこれを叩く。
親の仇かって程叩いてミンチにする。
親の仇なんていたことないけど。
その後ミンチにした肉に炒めた玉ねぎ、卵、牛乳、パン粉、塩、胡椒を投入。
ちなみに牛乳も生産量が上がって大分使えるようになっている。
パン粉は街で作っているパンをゴリゴリに砕いて使う。
……そう言えばマイコニンに頼めばパンの改良も出来るな。
発酵食品のあれやこれやが終わったらやってもらうか。
……思考が逸れた。
材料を全て混ぜ、こねる。
ひたすらにこねる。
兄妹の仇かってくらいこねる。
兄妹の仇なんていたことないけど。
そしてこね終わり成型。
適当に手に取って、丸っこい形に整えていく。
手作りハンバーグの時は好きな大きさで作れるのが利点だ。
俺は自分の分を手の二~三倍あるビッグサイズで成型する。
と。
「うぉふっ! うぉんっうぉんっ!」
グイッグイッ!
ぽよっ! ぽよっ! ぷよよんっ!
成型風景を見ていたムイとシロが抗議? してくる。
なんだなんだ……もしかして自分たちの分も? 自分たちの分もか?
俺がそう聞くとムイは激しく震え、シロは激しくしっぽを振る。
正解のようだ。
シロは大きいから分かるがムイもか?
まあ大きいハンバーグは良い物だしな。
ムイとシロに抗議を受けたので、ハンバーグはすべてとてつもないビッグサイズに成型し直し、いよいよ焼く。
ハンバーグは大体両面五分ずつくらい焼けばいいが……このサイズだとさらに焼かなければ中まで火が通らない。
しっかり様子を見つつ、ときどき菜箸で内部の汁も確認しつつ焼き上げる。
完成だ。
この街で取れた素材で作り上げた……名前を付けるならレースピアバーグとでも名付けようか?
……まあハンバーグで良いか、別に売り出すわけでもないし。
早速実食だ。
俺、ムイ、シロの前にどでかいハンバーグをドカンと置く。
湯気が立ち上ってとても美味しそうだ。
あらかじめ炊いておいたご飯を片手にハンバーグを箸で切り分け口に運ぶ。
……美味い!
噛めば噛むほどに肉汁とともに旨味が飛び出してくる。
卵もしっかりとつなぎの役目をはたしていて、ハンバーグにコクを与えている。
味付けもソースは無く塩と胡椒のみだがそんなこと気にならないほどに旨味が強い。
その美味しさにご飯と一緒にかっ込む手が止まらない。
そう美味を感じているのは俺だけではない。
ムイとシロも激しく体としっぽを振りながら、むしゃむしゃとハンバーグにがっついている。
ああ、ちなみにハンバーグには玉ねぎが入っているが、シロは玉ねぎは大丈夫だ。
最初に食べた時は焦ったが、特に体調を悪くすることもなかった。
異世界の狼だからなのか、それとも異世界の玉ねぎだからなのか……両方か?
まあともかく。
シロもムイもかなり喜んで食べてくれているな。
作った甲斐があった。
そうして。
かなりのサイズだったというのに、俺もムイもシロもすぐにぺろりと完食。
ムイとシロは満足そうに体を揺らしている。
もちろん俺自身も大満足だ。
さて、この後は、満腹感を感じながらゆっくりしよう……と思ったんだが。
……ちらっ……ちらちらっ……。
……キッチンの入口。
恐らくハンバーグの匂いに誘われたのだろう者たちがこちらに視線を投げている。
……うん。
まだ材料はあるしな。
その後。
俺はハンバーグを友の仇か如く焼き続けた。
絶賛の嵐だった。




