78.美術館見学ツアー
「ようこそおいで下さいました。当美術館へ」
俺の前でそう言いながら、優美なお辞儀を見せるのはフォイル。
美術館の展示配置が完了したとの誘いを受け、俺は早速誘いをかけてきたフォイルと共に美術館を訪れた。
そして訪れるや否や、フォイルは美術館の入口へ歩を進め、俺に対して今の挨拶を行ってきたというわけだ。
いや、うん。
見事な礼だが……当美術館って。
いつから館長に就任したんだ?
俺はそう疑問を口に出す。
と。
「ふふ、よいではありませんか、細かいことは」
フォイルはそう返して来た。
いや、細かくはないが……まあ、いいか。
今現在ウチで一番芸術関係の知識があるものは誰かっていったら、間違いなくフォイルだろうしな。
それで……見たところ扉も閉まっているし、人の気配も無さそうだが……?
そう。
誘われたはいいものの、美術館は明らかに閉館していますよ、といった装い。
これはどういうことだ?
「ええ、本日美術館は代表様の貸し切りとなっております。どうぞごゆっくりご覧ください」
なんと。
話を聞くと、どうやら一般開放する前に、貸し切りで観賞させてくれると。
美術館のアイデアを出し建造したことへの礼と、時間や周囲を気にすることなく没頭して欲しいというフォイルからの気遣いのようだ。
そういうことであれば……と、フォイルに礼を言い、俺はその厚意をありがたく受け取ることにする。
というわけで早速俺は美術館の中へ。
レースピア美術館貸切展覧ツアーに出発する。
レースピア美術館は、入ったらまず受付がある。
一応来場者とかを記録するそれっぽい場所だ。
休憩用の椅子なんかも置いてありそれなりに広い。
ここは雰囲気で作った。いずれパンフレットとかも置きたい。
「ふふ、館長として歓迎いたします。ようこそ当美術館へ」
いつの間にかフォイルが受け付けっぽく作った場所の中に立って、再び歓迎の台詞を言っている。
もしかしてめちゃくちゃ気に入ってるのか? 館長の立場。
「はい。それはもう」
俺も結構テンション上がってるが、フォイルもかなりだな。
そんなやりとりをしながら受付を通り過ぎ次へ。
次にあるのはレースピア美術館最大面積の大ホール。
入ったそこで、まず俺の目に入ったのは四つ。
一つは……レースピア街旗。
俺が作り発表会で最優秀に選ばれた作品。
ホールの真ん中に一番目立つように展示してある。
そしてそれを挟むように二つ。
俺の銅像とミスリル像が展示されている。
ルシュとハイラが作ったものだ。
……見ようによっては、二つの像が旗を掲げているようにも見える。
そして最後に、その手前にレースピアの街模型が展示されている。
ハイコボルトのチームが作った作品だ。
奥から旗、像、模型とあり、こっちも見ようによっては俺の像が街を見下ろしているようにも……。
いや凄いな。
いろんな「見ようによればそう見える」解釈が出来る絶妙なバランスだ。
感心で俺の作品と像が一緒に飾ってあることへの羞恥心が吹っ飛んで行った。
「……どうでしょうか? ここの展示は最も時間をかけて調整したのです」
そうフォイルが俺に声を掛けてくる。
いや……凄い。
こういうのには疎いからこんな安っぽいことしか言えないが……素晴らしいバランスだと思う。
俺は心からの本音を口にする。
「ふふ、お褒めの言葉、ありがとうございます。代表様のお言葉……とても嬉しく思います」
腰を九十度折りたたんだ綺麗なお辞儀。
頭を上げた後、フォイルはそのまま続ける。
「そして……疎い、詳しい、などあまり気になされる必要はありませんよ。芸術というのはその作品を感じた時の心の震え。それが最も大事なものだと私は思います。確かに知識があればその震えは感じやすくなります。が、しかし、知識がないと震えを感じられない、などということはないのですから」
くすりと笑いながらそう言ってくれるフォイル。
なるほど……心の震えか……。
そういうのであれば、確かに俺の心は震えた。
この最初の展示を見た瞬間に。
……ありがとうフォイル。
このままもっと見させてもらう。
「ええ、もちろん。今日は貸し切りです。どうぞ心行くまでご覧ください」
そう言ってくれるフォイルの言葉に甘え、展覧ツアーを続行させてもらう。
このホール、入った瞬間まず、旗、像、模型が目に入ったが、展示されているのはそれだけではない。
周囲を見回せばほかにもさまざまな作品が展示されている。
剣、馬具がケースに収められ展示されていて、壁には絵画の展示。
発表会で見たオブジェに、ゴーレムも勇ましいポーズで展示されている。
ふと顔を上げれば、糸で服も吊って展示してあった。
旗を中心として発表会で発表されたものがさまざまに展示されている。
……にしても、これは……もしかして……。
「……お気づきになられましたか」
ああ、これ、発表会でそれぞれの種族の代表が発表した物全部ここにあるだろ?
そう。
不参加だったユウフとニチャは例外だが、それ以外の代表の作品はすべてここに集まっている、これはまさか……。
「このフォイル、代表様のあの街旗にとても感銘を受けました。なのでそれに倣おうと思ったのです。あの街旗を飾ってあるここに、現在街にいるすべての種族の作品を飾ろうと」
なるほど……やっぱりか。
だから……。
「はい。それぞれの種族代表の方の作品をここに展示することにいたしました。……ニチャ殿とユウフ殿の分は……次回以降ということでお目こぼしください」
そう言いながらとても残念そうな顔をするフォイル。
あれだけ気合を入れていたからか……現時点で揃ってないのが悔しいみたいだ。
まあ、そう気にする必要もないさ。
旗と同じだ、これからどんどん発展させていけばいい。
「代表様……! はい! ありがとうございます!」
フォイルに元気が戻った。
ふぅ……良かった……。
「そのためにも、第二回のレースピア発表会はさらにファンタスティックなものにしますね!」
……うん。
まあ、催しものが豪華になる分には良いか。
そんなこんなで大ホールの展示を堪能して次へ。
軽く一時間ぐらい見てたかもしれない。
次はいくつか繋がった小ホール。
ここには先ほどの大ホールにはなかった発表会の作品と、フォイルが持ち込んだ美術品が飾られている。
発表会の作品は全部見ていたから覚えている。
新型サスペンション、複合結界、原寸大人型キノコなど。
評価が高かった作品が展示されているな。
……いやキノコは置いておいていいのか……?
俺はそう思ったが、まあ評価の良かった作品であることには違いないしな。
と、自分を納得させた。
あと、フォイルが持ち込んだ美術品の方だが。
こちらはまっとうに芸術品! って感じだ。
いくつか例を挙げるなら……。
周りの風景から見て明らかに㎞単位でデカいであろう亀が描いてある絵画。
どう見ても氷なのに冷たくもないし溶けるそぶりも見せないグラス。
とても大きく美しくカットされている、虹色に輝く宝石。
うん……どれも凄いな!
「これらは私が心から求め手に入れた品たちですので。こちらは伝説の魔物アクーパを描いた絵画、こちらは氷石を削りだして作られたグラス、こちらはレインダイヤを一級の職人がカットしたもので、こちらは――」
俺が感想を言ったらフォイルが勢い込んでまくし立てて来た。
自分が集めた美術品を披露するのが楽しいようだ。
いや凄く気持ちはわかる。
なのでそのまま話を聞くことにした。
「……はっ! すみません代表様、つい止まらず……」
フォイルが止まったのは大体三十分後。
いや凄かったな。
展示品見ながらフォイルの話聞いてたんだが、俺が見てる展示品の説明にシームレスに切り替わりつつ一切止まらなかったからな。
フォイルの芸術愛の一端を見たな。
「……本当にお恥ずかしい。人と美術品のすばらしさについて語る機会など今までなかったもので……」
そう謝罪してくるフォイルだが……。
謝る必要はない。
楽しかったからな。
「ありがとうございます。そう言っていただけるのであれば嬉しいです」
それに、これからは機会も増えるさ。
「? それはどういう……」
これからこの美術館は一般公開する。
そうしたら芸術に興味があるものといくらでも語り合えるだろう、これからは。
「っ! そうですね! それは本当に……ファンタスティックです!」
そうして。
今回のレースピア美術館貸切展覧ツアーは幕を閉じた。
まだまだ規模が大きいとは言えない美術館だが。
街と同じでこれからもっともっと発展していく。
どこまで立派な美術館になるか楽しみだな。




