08.本拠点完成と新たな出会い
コボルトたちは本当にさすがの手際だった。
俺の家と保存庫……二つ合わせて作るのにかかった時間は三日だ。
コボルトたちは木材しかなかったから簡単な家しか作れなかったと申し訳なさそうにしていたが……。
全然簡単なものじゃないと思う。
俺の目の前には立派なログハウスが出来ていた。
コボルトたちには感謝。
これで本格的な拠点づくりの第一歩を踏み出すことが出来た。
まあ、内装や家具などはまだまだこれからだが。
コボルトたちはそちらも作ると言ってくれたのだが、俺が不要だと言ったのだ。
まだコボルトたちの家を作れていないのに、自分だけ家具まで用意するのはさすがに気が引けた。
内装が全然ないのは保存庫もそうだ。
こっちは創造神器で簡単に土を掘り進められる俺がメインで作った。
今のところは階段状にした入口の先に真四角の地下室があるだけという構造だ。
コボルトたちに扉だけはつけてもらったが……。
こっちもそのうち時間が出来たらいろいろ改装していこう。
そして、次に俺たちはコボルトの家を作ろうとしたんだが……。
ここで異変があった。
井戸に。
最初に気づいたのはムイだった。
俺がコボルトたちの家を作るための木材を切り出そうとしたとき。
俺の足にぽよぽよじゃれついてきたのだ。
その後、ついて来いというようにぽよぽよ跳ねたので俺はムイについていく。
すると井戸でそれを見つけた。
ムイと同じ青みがかったぷるぷるとした肉体。
ただムイと違ったのは……その身体は人型だった。
その人型スライム? は俺を見つけると声をかけてくる。
「あ~、こんにちは~。あなたがこの井戸を掘った人~?」
「え? ああ……そうだけど……」
俺が困惑していると、ルシュが駆け寄ってきた。
そして慌て気味にその人型スライム……彼女のことを教えてくれた。
どうやら彼女は水霊種……ウンディーネと呼ばれる種族らしい。
清らかな水がある場所に存在すると言われる種族。
その力は雨すら呼び、荒れ狂う水を鎮めることすらできるという。
だがその姿を見ることは現在ほぼなく、ルシュたちも初めて見るようだ。
ルシュも尻尾を揺らして興奮気味に見える。
「待たせて申し訳ない……それで、えぇっとウンディーネさんはなぜここに?」
「ああ~名乗ってなかったね~私はフィーネって言うの~。よろしく~」
「あ、ああ……俺は築 悠真、よろしく……。それで……」
「私がなんでここにって~? それはね~……」
フィーネが語ったことはこうだ。
ルシュが言った通りウンディーネは昔から清らかな水があるところに住んでいた。
だが最近は清らかな水が世界から減り始め、ウンディーネたちも数を減らしてしまった。
現在数を減らしたウンディーネはそれぞれが自らが住める水場を探して放浪している。
フィーネも例にもれず放浪していたところとてつもなく清らかな水の気配を感じ取った。
そこに来てみれば、ウンディーネにとって楽園とも呼べる水が沸く井戸があった……ということのようだ。
「なるほど……つまりこの井戸に……住みつきたいと?」
「そう~。おねがい~」
ここに住んでくれる種族が増えるのは俺からしたらもろ手を挙げて賛同することだが。
俺やコボルトが日常使いする井戸に住まれるのはな……。
いや、そうか。
「なあ、どうしてもその井戸じゃなきゃダメか? 他の井戸……というか水場があればそこでもいいか?」
そう。
フィーネが住める水場をまた掘ってしまえばいいのだ。
この井戸は創造神器で掘ったもの。
創造神器の力を使えばもう一つ掘ることも十分できるだろう。
「きれ~いな水が沸くならここじゃなくてもいいよ~」
よし。
そう言うことであればさっさと掘ってしまおう。
向こうが住み着きたいと言ってくれているうちに。
創造神器なら簡単に掘れる。
空いているところを見繕ってザックザックと掘る。
井戸にするのではなくウンディーネの住処にするために掘ったので、かなり広めに掘ったのだが。
俺が慣れたこともあってか前回よりも早く掘り終わった。
そして水は問題なく出た。
これはやはり創造神器の能力……環境最適化の力なのだろうか?
俺がそう考えていると。
「ふわぁ~……!凄い……凄いですぅ~~……!住ませて……ここに住ませてくださいぃぃ~~……!」
フィーネが……かなり昂っていた。
理由を聞いてみると……。
この新たに掘ったフィーネ用の水中住居?は先ほどの井戸より居心地がいいらしい。
ふむ。
ここを掘った時俺はフィーネの住処にすることを考えて掘っていた。
そして最初の井戸は俺とコボルトたちの飲み水を確保出来たらいいなと思って掘っていた。
ということは、まさか……創造神器で掘ると俺が想像していた種族にとって最適な環境が作られる、のか?
それが環境最適化の力……?
だとしたらすさまじい。
それはいろいろな種族にとってどこよりも居心地のいい……楽園とも呼べる場所が作れるということだ。
っと、今は彼女にこたえなければ。
「もちろんかまわない。俺はここにすべての種族が集まる街を作ろうと思っているんだ。むしろこっちから頼みたいくらい、なんだが……。ここはまだ出来たばかりで余裕があまりない。それでもいいなら……」
「もちろんいいよ~!この水があれば他には何もいらないから~!」
そうは言っても。
せっかくだから満足して住んでもらいたいと俺は思う。
その内余裕が出来たらいろいろと、便宜も図りたい。
「それで、一つ聞きたいんだが……ウンディーネって何ができるんだ?」
フィーネは詳しく教えてくれた。
ウンディーネは水の精霊。
水にかかわることをいろいろできるそうだ。
例えば……水の浄化。
俺は飲用の井戸に住み着かれるのは困ると思ったが、むしろウンディーネがいる水場というのは何よりも安心して飲める水らしい。
さらには汚れた水もある程度ならば魔法で浄化できるとか。
にしてもやっぱりあるんだな……魔法。
参考のために見せてもらったが凄かった。
土の汚れが混入した水が浄化の魔法できらきらと光る真水になったのだ。
水の中の土は塊になり下に落ちていた。
さて、それを聞いて思いついたことがある。
トイレのことだ。
どんどん種族を増やしていくのであれば下水の問題は避けて通れない。
浄化の魔法……こんなものがあるのであればその問題もどうにかできるかもしれない。
というわけで聞いてみる。
「え?う~ん……例えば浄化の魔方陣を刻んでそこを通る水をきれいにする~とかはできると思うけど~。数が増えたら私一人では難しいかな~」
なるほど。
つまりもっと多くのウンディーネに来てもらう必要がある……ということか。
「まあでも心配しなくても~。こんなに住み心地のいい水場があるならウンディーネなら気づくと思うし~。ほっといてもどんどん集まってくるんじゃないかな~?」
それは朗報だ。
街を発展させているうちに集まってくれるのであればとても助かる。
さて、あまり先のことばかり考えて今をおろそかにするのもよろしくない。
俺はルシュたちに少し大きめの小屋を組んでもらい、そこをトイレにすることにする。
そこに川から水を引いてきて、浄化の魔方陣を刻む。
そうすれば衛生的な公衆トイレが出来ると考えたのだ。
さきほどフィーネが見せてくれた時、水中の汚れは一カ所にまとまって落ちていた。
魔方陣を刻むなら水中の汚れも特定の一カ所に集めることが出来るんじゃないか?とフィーネに聞いた。
答えはできる、とのことだった。
俺は公衆トイレの外に汚れをため込む場所を作り、匂い防止のために灰をまいておく。
現代のトイレに慣れていると少し抵抗があるが、今だとこれが限界だしな。
それに肥料に使えるかもしれないし……今はこれで良しとしよう。
さて、そうと決まれば川から水を引いてこよう。
創造神器を使えばそう手間はかからない。
ルシュたちには住居を作るのが遅れることを謝っておく。
衛生は大事とはいえ……家を後回しにするのは不安だろう。
だがコボルトのみんなは気にしないでくれと言ってくれた。
本当にありがたい……。
公衆トイレを作り終わったらみんなの家を急ピッチで完成させると約束した。




