75.発表会前半
美術館を作ることを決めて一週間ほど。
レースピアの街、初の美術館……レースピア美術館は無事完成した。
まあ、無事完成はしたんだが……思いのほか時間がかかった。
美術館だからかなり大きな建物だが、建築のスペシャリストハイコボルトたちならもっと早く作れたはず。
なのに一週間時間がかかったのは……まあ、フォイルのせいだな。
美術館を作る際のフォイルの気合、というかテンションはすさまじいもので……外装から内装までここはこうした方がいい、ここはそう、順路を考えたらここの壁は無い方がいい……と、いろいろと注文を付けて来た。
なまじハイコボルトたちがその要求にすべて応えられる優秀さを持っていたばかりに、フォイルにもさらに熱が入ったようだ。
まあそんなわけで美術館は完成したんだが、その内部に展示されているものは今はまだフォイルが持ち込んだ宝物だけだ。
絵画や彫像など、それなりの量があったんだが……流石に美術館の大きさに対しては少ない。
結構スカスカだ。
フォイルはその現状をよしとしなかったらしく……。
「それではこれより発表会を開始する!」
――――わぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!!
俺の開会宣言に歓声が上がる。
そう。
フォイルは有言実行した。
美術館を作り始めた当初で、収める品が規模に対して少なくなることを悟ったフォイルは自ら企画を作り、俺に提出。
急ピッチで準備を進め、発表会の開催にこぎつけた。
発表会は、美術館が出来るまでの間に、有志が自分の芸術を形にし。
それを持参してもらって発表する会だ。
ちなみに個人参加でも団体参加でもOK。
任意だからあまり集まらないかとも思ったが……結構な人数が集まった。
これなら俺が参加する必要もなかったか?
俺が思ったより大掛かりな会になってしまったな。
まあ、芸術は心を豊かにするし、興味のある者が多いのはいいことだろう。
そういうわけで早速開始。
段取りよく進めないと今日中に終わらないかもしれないからな。
『それではこれより発表を開始していきます! 開始前に伝えていた通り……この発表会で優秀と認められた作品は、美術館の絶好ポイントに飾られることになります!』
―――わぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!
『それでは早速行きましょう! エントリーナンバー1! ハイコボルトたちのチーム、クンクン! 品は果ての森の木で作られたレースピアの模型です!』
発表会の司会を務めているのはフォイル。
第七地層で見つかった拡音石を器用に使い、会場全体に声を届けている。
……っていうか今、街の模型って言ったか?
いきなりすごいのが出てきたな……。
周囲から少し高くなっている簡易的なステージに、ハイコボルトたちが上がってくる。
その手には小さいとはいえかなり大きな模型。
直径にして……五メートルくらいあるんじゃないか? それを慎重に運びながらステージの上へ。
『さすがはハイコボルトの作です! とても精緻な造り! 皆様方もどうぞ近くによってご鑑賞なさってください!』
そう言ってフォイルが観客に声を掛けるが……ふむ?
ステージは少し高くなってるし、近づいても少し見づらいんじゃないか?
俺がそんなことを考えていると。
ズズズ……と、ステージ上に置かれている模型が傾きだす。
どうやら模型の下のステージ床の観客たちから見て、奥側が持ち上がっているようだ。
見ていると模型は観客たちに向かって斜めになり、ステージ下からでも見やすくなっていた。
凄いな。
ルシュたちがステージを用意していたのは見たがこんな仕掛けまで作っていたのか。
「実にファンタスティックでしょう? 提案したのは私ですが……とてもファンタスティックな仕掛けですよ」
観客たちがステージ上の模型に注目している隙を縫って、フォイルが俺のもとへ近づいてきてそう言ってくる。
「あのサイズの模型を傾けるだけでなく、万一にも落ちないようにしっかりとした固定も行っています。あの手際……それ自体が一つの芸術と言っても過言ではありません」
ベタ褒めだな。
気持ちはわかる。
ルシュたちの技術は素晴らしいからな。
「ええ。まさに……おっと。もっと語りたいところですが、そろそろ司会に戻らなければ。それでは、代表殿もお楽しみください」
ああ。
『さて、皆々様思う存分ご覧になったでしょうか! とてもファンタスティックなレースピアの模型! 皆様の評価を聞かせていただきましょう! お願いします!』
そのフォイルの声の後。
ぱちぱちぱちぱちぱち………っ!!!
拍手の音が響く。
そう、今回の発表会の形式は観客による投票制。
だが、参加者がかなり多くなった時点で、紙なんかを使った投票はまず無理だろうということで、拍手の大きさで決めることにした。
拍手の音量は耳のいいハイエルフたちが判定してくれることになっている。
にしても初っ端からかなり大きな拍手だったな。
まあ気持ちはわかる。
レースピアの模型は素晴らしい出来だったし、それに自分たちの住む街の全体を見る機会なんて新鮮だからな。
『ご投票ありがとうございます! 実にファンタスティックな結果でした! チーム、クンクン! おめでとうございます! ……さて、発表会はまだまだこれからです! 次はエントリーナンバー2! 個人参加、ルシュ! 品は、代表像です!』
……ん? 今なんて言った?
ルシュ? いやルシュが出てるのは良い。
別に誰だって芸術に興味を持つことくらいあるだろう。
けど作ったのが? 代表像?
……それ、もしかして……俺の像か?
頭にはてなを浮かべ、まさかな……と思いつつ様子を見守っていると、ルシュがステージ上に上がってきた。
かなり大きな銅像を抱えていて、それをどすん! とステージ上に置く。
その銅像の姿は……切れ長の力強い瞳にスッとした鼻。
さらには片腕を前に突きだした気取ったポーズ。
……うん。違うだろう。
確かになんか? ちょっと? ほんの少しだけ? 俺っぽいが……あんなカッコよくないし、あんなポーズなんて取ったこともない。
おそらくどこか別の街か何かの有名な代表の姿なんだろうそうに違いない。
よかったよかっ――
『ルシュ殿制作のこちらの像! レースピアの街代表――キズキ様の原寸大銅像となっております! どうぞ近くによってご覧ください!』
げほッ!!!!
俺の儚い期待もむなしく、フォイルによってこの銅像のモデルは俺だと断言される。
いやいや、いやいやいやいや……。
ない。流石に無いってこれは。
……いや、ルシュの芸術に文句を付けてるわけじゃないんだが。
でも流石にこれは……。
「主様! どうでしょうかこの像の出来は!」
観客の皆が銅像の周りに我先にと群がりながら鑑賞しているとき。
俺のもとにルシュがやってきた。
……いやさらっと言ったけど何あの群がりよう? さっきの街の模型の時あんなことになってなくなかった? いや、今はともかく……。
あールシュ……あの銅像は……その、本当に俺をモデルに……?
「はい!!!」
……いい返事……。
「我ながら主様のすばらしさ、偉大さを良く表現できたと自負しております特に目、鼻、口のバランスなどは苦労しましたが今の私にできる最高の技で主様の魅力を及ばずながら再現できたと思っております他にも――」
いや待った待った待った待った!
「はい?」
うん、いやまあ……うん。
ルシュの言葉は嬉しいんだけど……ルシュには俺がこう見えて……?
「いいえ」
え? そうなの?
……い、いやまあそれならよかっ……
「主様はこの銅像よりもはるかに魅力的です! その魅力を再現しきれぬ私をお許しください!」
あ、ああ……はるかに? そうなの……。
……くぅっ! だめだ! 顔が赤くなる!
こう真っ直ぐなまなざしでそんなこと言われると……恥ずかしい!
いや、恥ずかしいけど嬉しい! いや嬉しいけど恥ずかしい!
嬉し恥ずかしすぎて変な汗かいてる!
……ほんと恥ずかしいけど……でもこれは言っとかなきゃな……。
ルシュ。
「はい!」
ありがとう。
作ってもらえてとても嬉しい。
素晴らしい像だ。
「……っ! はい! ありがとうございます、主様!」
そう言ってルシュは満面の笑顔を浮かべた。
そして。
ルシュ作の俺の銅像の評価だが。
『それでは皆々様! 拍手をお願いいたします!』
――ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちっっっっっ!!!!!!!!
バカ受けだった。
何でだ。
そうして発表会は続いていく……。




