74.懐かしい来客
「ファンタスティック!」
ある朝、街に来客。
この第一声で、即座に誰か分かった。
怪盗フォイルだ。
俺が報告を受けたのは屋敷での朝食時。
一緒に朝食を食べていたムイをつんつんと突いていた時だ。
ムイは触り心地がとてもいいから、一度触るとなかなか止まらない。
日に日にどんどんぷにぷに感が増している気さえする。
……話が逸れた。
まあともかく朝食時にハイラから報告があった。
マントで全身を隠している者が代表に合わせて欲しいと門にやってきていると。
そのマントを脱いで欲しいといっても、代表を呼んでほしいの一点張りだとか。
それを聞いて俺は街の門に急行。
俺を視界に入れた瞬間その者はマントを脱ぎ棄て、大きく叫んだ。
その第一声で正体に気付いた……という流れだな。
ともかく、ハイラに問題はない、と伝え、警戒に当たっていたエルフとエンジェルたちを解散させ、俺はフォイルを街の中に招き入れた。
そして今、歩きながらフォイルから話を聞いている。
久しぶりだな……フォイル。
リネイアとシエルが脚代わりに使って以来か……元気にしていたか?
「ええ、もちろん。とてもファンタスティックに過ごさせていただいておりました」
相も変わらず大仰な身振り。
役者とか向いていそうだ。
それは良かった。
にしても今回は前回みたいに
そんな感じで雑談しながら、来訪の目的を聞く。
それで、今日は何でレースピアの街に?
「レースピア?」
ああ……フォイルが前来た時はまだ名前が決まってなかった頃だったか。
つい最近名前が決まったんだ。
「おお……それはおめでとうございます! レースピア……ふふ、とても美しい名前です。後ほど何か、記念品でも贈らせていただきますね」
別に気を遣わなくても構わない……が。
気持ちは嬉しいよ、ありがとう。
「ふふ、遠慮なさらずに。これは純粋な祝賀の念ですので」
と、和やかに会話しつつ、話を戻す。
「……それで、なぜ今回レースピアの街に来たのかでですが……申し訳ありません。期待させてしまって何なのですが、あまり大した理由はないんです」
いや、別にそんな劇的な理由を期待してはいなかったけど……どういうことだ?
「いくつか理由がありまして、それが折り重なった結果、今回の訪問を決意したのです」
? その理由って?
「まず一つは……様子を見ることですね」
様子? 何の?
俺はそう思い、フォイルに疑問をぶつける。
「それはもちろん住人の、ですよ」
この街の住人の様子なら前回来た時に見ていかなかったか?
「ああ、すみません。言葉が足りませんでした。”新たに増えた”住人の、です」
ふむ?
そのままフォイルに話を聞くと。
どうやら、今現在も裂け目から入ってきてレースピアの街にやって来ている移住者たち。
彼らが口をそろえて言う、世界の果てに自分たちが排斥されない、しかもとても豊かなまさに楽園のような町がある……という噂。
これを流しているのはフォイルらしい。
「例えば大道芸人として潜入したり……不当に囚われた異種族たちを解放したりと。そう言った時に噂を流したのです。住人が前よりかなり増えているところを見ると……ふふ、大成功……のようですね?」
まあそうだな。
その噂を信じて多くが集まったんだから大成功と言える。
それで……自分が流した噂だから、責任を持って様子を見に来たというわけか。
「ええ、その通り。ファンタスティックです!」
どこが?
……まあいい。
様子を見る限り、フォイルは上機嫌だ。
新たな住人たちの様子はお気に召したということだろう。
……それで、来た理由はいくつかあるって言ってたよな? 残りは?
「残りは……ふふ、代表様にお願いがありまして」
お願い? 俺が聞けるもので良ければ聞くが……。
「ありがとうございます。では一つ目なのですが」
複数あるんだ……。
「この怪盗フォイルもそろそろ一つ所に落ち着ける場所が欲しく……この街に居場所を作らせていただけませんか?」
それはつまり……この街に住みたいと?
「はい。外に行くことも多いでしょうが。街にいる間は街に貢献させていただきますし……外に出ている間もうわさを流したりと、街に利益のある行動をとります。お願いできないでしょうか?」
ふむ。
俺としては全然かまわないと思っている。
フォイルには色々助けてもらったしな。
けど……。
街に移住したいって……十分大した理由じゃないか?
今回来た理由は大したことないって言ってたのに。
「ふふ、これでも怪盗なので。怪盗の言葉は真に受けない方がファンタスティックかと」
そう言って朗らかに笑うフォイル。
……全く。
そんな顔されたら文句も言えないな。
というわけで早速フォイルの家を建築。
しようと思ったのだが。
「外に行くことも多いですし、わざわざ作っていただくのも心苦しいです。良ければ代表様の家に住まわせてください」
フォイルはそう言ってきた。
いや、確かにこの屋敷は広いし、まだまだ部屋も余ってるがそれでも流石に……。
「ふふ、寝首を書かれることをご心配しているのですね?」
え、いやそんなことは全然心配して――
「ですがご安心を。代表様にはあらゆる契約を遵守させる魔法が使えるとお聞きしました」
いや魔法じゃなく創造神器――というかどこでその情報を?
「怪盗ですので。その契約で「私は代表様に危害を加えられない」とでも約すれば代表様も安心できるでしょう」
いや、そこを気にしているわけじゃ――
「それでは早速始めましょう。時間はとてもファンタスティックなものですから」
……俺は押し切られた。
やっぱり押しに弱いな……俺は……。
手の空いている者にフォイル用の部屋を整えるように頼みながら俺は自戒する。
フォイルはとてもニコニコと笑っている。
「ふふ、代表様にお手間をかけるのは申し訳ないですからね」
うん、まあ……いいか。
確かに新しく家を建てる手間が省けたのは事実だしな。
「そうでしょう? その代わりと言っては何なのですが……」
うん?
「ご提案したいことがございまして。代表様……この街に宝を納める蔵、宝物庫を作るおつもりはございませんか?」
あー、やけに押してくると思ったらこの提案をする為か……。
宝物庫って……うちに?
「ええ」
でもそんなうちの街に宝と呼べるようなものなんて……。
「ご安心ください、無ければ作ればいい。それに……私が所有している物もそこに入れましょう」
フォイルが持っている物って……盗んだものじゃないだろうな?
「いえ、すべて正当に手に入れた物です。怪盗としての矜持に誓います」
ふむ、まあ、新しい家を建築しないで済んだのは確かだし、貴重品を納める場所も……まあ必要か? 前世のゲームとかでもある程度大きい街とかにはそういうのあったしな。
じゃあ……作ろうか。
「よろしいのですか?」
ああ、構わない……けど、ちょっとこっちからも提案があるんだが。
「何でしょう?」
ああ、宝物庫じゃなくて……美術館にしないか?
「ビジュツカン……とは?」
ああ、そういうの無かったかこの世界?
俺はフォイルに美術館の説明をする。
「なるほど……芸術品を展示し広く観覧の戸を開く……。貴族たちがやっている観賞会をあらゆる民が行えるようにしたようなものですか……」
そう……だけど。
やっぱり貴族とかいるのかこの世界。
「代表様……それは……」
フォイルが顔を伏せ、俺に近づいてくる。
表情が見えなくてちょっと怖い。
そ、それは……?
「……ファンタスティックです!!!!!」
顔をガバッ! と上げ至近距離で叫んでくるフォイル。
俺はその勢いについ押されてしまう。
「素晴らしいアイデアです! この世界に名だたる芸術品たちを納め、それを広く見聞の機会を解放する! すべての来訪者が芸術のすばらしさを感じることが出来る! 本当に……ファンタスティックです!!!」
あ、ああ……ありがとう。
それで……いいか? フォイルの宝も見聞させるってことだけど。
「もちろんかまいません! 断る理由がありませんよ! ふふっ! はーっはっはっはっ!」
どうやらかなりテンションが上がっているらしい。
高笑いまでし始めた。
うん。
それじゃあ許可ももらったことだし……。
作ろう! 美術館!




