68.醤油第一号完成
「よし……早速……味わわせてくれ……」
俺はテーブルに両肘を着き、組んだ両手に顎を乗せながらそう口にした。
さて。
なぜ俺がこんな真似をしているのかというと……。
クトネーとアラクネたちがとんでもなくやる気を出したので、その場を後にした俺は、すぐにある者と出会った。
「いひひ……代表……探したよ……」
ニチャだ。
ニチャ? 探したって何かあったのか?
俺がそう聞くと……。
「うん……とはいっても大変なことじゃないよ……いや代表にとっては大変かもだけど……」
……俺にとっては大変?
それはまさか……。
「実は醤油の量産その第一号が出来上がって――」
ついにか!!!!!!
「わぁっ!? ……や……やっぱり食い付いた……」
ああ……驚かせてすまない。
ついテンションが上がってしまった。
だけど、これは俺にとってそれだけ嬉しいことなんだ。
早速案内――もいらないな。
第一工房か?
「うん……そう……」
よし!
それじゃあ早速行こう!
俺はそう言うと、創造神器の蹄鉄をすぐさま装備。
ニチャを担ぐ。
「ん? え? 代表様? これは……?」
そんなニチャの困惑の声が俺の耳に届くが、醤油に支配された俺の脳には意味ある言葉とは認識されなかった。
俺は一歩目からトップスピードに乗り走り出す。
「……にぎゃぁぁぁぁ~~~~~……!」
そんな声を響かせながら俺は第一工房へ向かって爆走した。
そして。
第一工房に着いた俺はグロッキーになっていたニチャに平謝りしながらも場を用意してもらい着席。
こうして美食家気取りで醤油を出すように要求している……というわけだ。
……いや、正直自分でも何やってるんだ? 俺? と、思わなくもない。
だがもしかしたら醤油がこれから安定して手に入るかもしれないという期待が身体中を駆け回り正直テンションを制御しきれていない。
これはしょうがない。
数年単位で食べてなくて、もしかしたらもう食べられないかもしれない。
そんな醤油を作り出すことが出来たかもしれない。
これでテンションが上がらない日本人はいないだろう。
そんなことを考えていると、俺の目の前に小皿が運ばれてきた。
中には黒い液体が注がれてる。
……匂いを嗅ぐ。
懐かしい匂いが俺の鼻に届く。
独特な芳醇な香り。
間違いない。
醤油だ。
俺は恐る恐る指に少し醤油をつけ、そして……舐める。
……美味い!
瞬間、俺の口に慣れ親しんだあの味が広がる。
甘くてしょっぱいあの味。
ああ……間違いなく醤油だ、これは……。
つい感動で身体が震えてしまう。
「いひひ……その反応で分かるけど……どうだった? 代表様? しっかり出来てた?」
ああ、もちろん。
完璧だ。
「ひひ……それなら良かった……」
ニチャがほっとしたように頬を緩める。
「いやぁ……あれだけいいモノを貰ってたんだからしっかりやらなきゃって……ほんとプレッシャーだったよ……」
……なるほど。
醤油の量産にあたり、俺は原型になる醤油を創造神器で作ってニチャに渡していた。
……今思えば自分が食べる分くらい創造神器で確保すればよかったな。
やることが多かったから頭から抜けてた。
まあいい、少し味わえる時期が前後しただけだ。
ともかくそれで渡していたモノが出来が良かったため、それをもとに量産するニチャたちにプレッシャーがかかっていたようだな。
だがニチャたちはそのプレッシャーにも負けずに醤油の量産を成功させてくれた。
ありがとう。
「こっちこそ……貴重な機会だったよぉ……えへへ……もっと欲しかったぐら――」
それなら!!
「うわぁっ!? また食い付いてきたぁ……今度はどうしたのぉ……?」
ああ。
醤油以外にもまだまだ作ってもらいたいものがあるんだ。
味噌、納豆、酢、料理酒、エトセトラエトセトラ……。
「料理酒……? まあお酒?……は予想してたけど残りは……? ……まあ、いいよぉ……何かは分からないけどこのマイコニンに任せてぇ……」
ニチャがそう快く請け負ってくれる。
ということで早速醤油と同じように、味噌、みりん、納豆、酢、料理酒を創造神器のぶんじで作成。
ついでに日本酒も。
そしてそれをそれぞれ建築してもらっていた第二~第七工房で量産してもらう。
これで醤油と同じく味噌等も量産でき……食糧事情をさらに改善することが可能。
さらに俺はいつでも慣れ親しんだ味を食べることが出来る、まさにウィンウィンだな。
さて、量産にはまたしばらく時間がかかるだろうし、他にやることをやっておこう。
醤油が手に入った今やることと言えば……。
そう。
料理だ。
というわけで、俺はニチャに貰った量産第一号の醤油を持って屋敷のキッチンに帰ってきた。
早速醤油を使った品を作っていきたいと思う。
一緒に作っていくアシスタントはこちら。
ムイだ。
……いつの間にか俺の傍でプルプル震えている。
俺が料理の試作をしようとすると高確率でどこからか現れるんだよな。
まあ別にいいけど。
最初に作っていくのは肉じゃが。
まずは野菜……じゃがいも、玉ねぎ、にんじんをムイに押し付ける。
そうするとムイが皮をむいて一口大にした状態で出してくれる。
……まあ冗談だ。
スライムクッキングは確かに便利だが、自分でやらないと腕も落ちるしな。
手伝っては貰いつつも、自分で皮をむき野菜を切る。
そうしたら鍋を火にかけ、玉ねぎを炒める。
俺は玉ねぎは柔らかい方が好みなのでしっかり火を通していく。
……ああ、ムイも玉ねぎは柔らかい方が好みか?
……ぷるぷる……。
そんな会話……会話? を挟みながら玉ねぎがあめ色になったところで他の野菜と角兎の肉を投入。
玉ねぎほどではないが火を通し……水を注ぐ。
そして水を注ぎ終えたら沸騰するまで待ち、沸騰したら灰汁を取る。
ん? ムイ、どうしたんだ?
俺がお玉で灰汁を取っていると、ムイがプルプルと震え鍋に近づけてくれとアピール。
その通りにすると……。
ムイは鍋の中に身体を伸ばし、浮いている灰汁を吸い取り始めた。
おお……灰汁だけを選んで吸い取るなんてそんな器用なことまでできたんだな……。
流石だ。
ムイのおかげで綺麗に灰汁を取り除くことが出来た。
さっき自分でやらないと腕が落ちるって言ったばかりだが、まあ、ムイの厚意を無下にするのも心苦しいので。
そして灰汁を取り終わったら、醤油と砂糖をいい感じに入れて煮込む。
煮込むのを待っている間にせっかくだから、もう一品作る。
再び玉ねぎを薄く切り、今度は二頭鹿の肉と一緒に炒める。
火が通ったら、再び水、醤油、砂糖。
こっちは肉じゃがほどの量は入れず煮詰めていく。
そうして煮込みと煮詰めが終わったら完成だ。
初めての肉じゃがと初めての鹿丼。
早速実食……しようと思ったら。
煮込んでいる間にいい匂いを漂わせすぎたのか、キッチンにそれなりに人が集まってきていた。
とても興味深そうな目でこちらを見ている。
まあ。
こんなこともあろうかとかなり多めに作ってあるからな。
やってきた皆の分もよそっていく。
肉じゃがをそれぞれ器に移し、鹿丼はあらかじめ炊いておいたほかほかのご飯の上にON。
それを全員分用意し……今度こそ実食。
一口目。
肉じゃがをパクリ。
うん、美味い!
肉じゃがなんて何年ぶりに食べただろう。
ホクホクのじゃがいも、にんじん、くたくたの玉ねぎ。
それに噛めば噛むほど旨味が溢れてくる兎肉。
それらを醤油と砂糖がまとめ上げ……美味しいという感想しか出てこない。
その感動のままに次は鹿丼をパクリ。
こちらも美味い!
煮詰めた故、肉じゃがより濃い味。
それをご飯と一緒にかっ込む。
鹿肉の食べ応えもあって、止まらない味だ。
と、好評なのは俺だけではないようで。
「これは……!! 素晴らしいです主様……!! こんな料理食べたことがありませn……!!」
「私もです! 長く生きていますがこんな味は初めてで……! 食べる手が止まりません!」
「ま……まさか一心不乱に食べ進めろと契約で縛られているのでは……!?」
「そんなわけないじゃん。……まあでも気持ちはわかるよ! これホント美味しい!」
……ぷるぷるぷるぷるぷるっ!!
うん。
大好評だ。
みんな目がキラキラ輝いているし、食べる手が全く止まらない。
そうして夢中で食べ進め……。
……ごちそうさまでした。
皆すぐによそった分を食べ終わった。
俺は満足感に包まれているが皆も同じようだ。
瞳を閉じて美味しさを反芻している者もいる。
さて……多めに作ったゆえ、肉じゃがと鹿丼はまだ余っている。
せっかくだからお裾分けに行こう。
作りすぎちゃって……というやつだ。
そう考えた俺が、器に料理をよそっていると、美味しさに浸っていた皆が手伝ってくれる。
「お手伝いします、主様」
「この美味しさはもっと多くに広めるべきです、代表様」
「私はもっと食べたい気持ちはあるけど~……これからも食べられるんでしょ? なら今はいいや」
「この味を知れば皆さらにレースピアへの愛着が増すはずです」
ありがとう。
もちろん、この料理に使う調味料、醤油ももう量産に入っている。
これからもいつでも食べられるはずだ。
俺はそう言って、醤油のすばらしさを広めるべく、皆で料理を配りに行った。
そして。
配りに行った結果。
みんな醤油の美味しさが骨身にしみたのか、マイコニンたちに熱い視線を送るようになった。
マイコニンにさらなるプレッシャーが襲い掛かる。
うん。
うーん。
ごめん、軽率だったかも。
いろいろ差し入れはするから頑張ってほしい。
俺はニチャたちにそう告げた。




