63.裂け目拠点と料理
「主様、この調子ならばそう遠くなく完成するかと」
おお……良かった。
一時はちょっとどうなる事かと思ったがこれなら何とかなりそうだ。
第一回代表会議を終えた後。
俺は今、裂け目の仮拠点に来ていた。
理由は二つ。
一つは裂け目までの道路が出来上がったこと。
コボルトたちが急ピッチで進めてくれたからな。
ありがたい。
そしてもう一つが……新たな移住者がやってきたことだ。
「それで……どうだったんだ?」
「はい、話を聞きましたがやはり、前回の調査団でもっと人を集めてくると飛び出していった者たち……その者たちに話を聞いてやってきたと」
やっぱりか。
前回の調査団が多くを連れ帰ってきたとき。
一部が振る舞われた食事に感動し、この感動を味わってほしい者がまだいると一部は裂け目から外に行った。
その者達が多くを連れ帰ってくるかもしれないと思ったのもここに拠点を作ろうと考えた理由の一つなんだよな。
どうやらその懸念は当たっていたようで、どうやらその者達は結構な人数に声を掛けたらしい。
その一部が今こうしてきているというわけだ。
新たな移住者はこれからまだどんどんやってくるだろう。
急いで拠点を完成させなければならない。
そう言うわけで俺は今ここに来ているわけだ。
それで……拠点……というか関所か。
建設は順調。
さすがはルシュたちだ。
本来ならもうとっくにできていてもおかしくはないが……俺がいろいろ注文を付けたからその分時間がかかってるな。
注文内容は主に二つ。
一つは執務室を作ること。
これはここで移住者の戸籍を作るためだな。
別にレースピアの街の方で作っても良いがこっちの方が手っ取り早いだろう。
後は念のために仮眠室も併設してくれと頼んだ。
そしてもう一つ。
主にこっちで時間を取られているんだが、戦闘を想定した造りにすることだ。
この関所はいわばうちの街の国境に当たる場所ともいえる。
最悪の場合戦闘が発生することもあるだろう。
無ければいいと願っているが。
そのため、内部に避難通路やいざという時の隠し部屋、隠し倉庫等いろいろ要望を出した。
いざという時はこれらを使って逃げ隠れしてほしい。
そういうわけでいつもより建築に時間がかかっているな。
今までの街の建物では戦闘を想定した造りになんてしていなかったから。
だけど、これもいい経験だとコボルトたちは張り切って作っているようだ。
さて。
関所と同時並行で祭の準備も進めていく。
人がさらに増え始めるのならその人たちにも楽しんでもらいたい。
屋台の規模を増やす。
とはいっても、今のレースピアの街ではそう色んな種類の屋台は出せない。
今のところ考えているのは……。
フライドポテト。
おにぎり。
焼き肉串。
ポトフ。
……まあ今のところはこれくらいか。
それでもこの街で育てた……というか創造神器で育てた野菜たちはとても美味しい。
兎や鹿の肉も美味だしな。
種類や多彩さでは前世のお祭りに見劣りするかもしれないが、味では引けを取らない……と、思う。
ふむ。
実際に作ってみるか。
それでみんなに感想を聞こう。
というわけで俺はキッチンにやってきた。
なぜかいつの間にかムイが俺の肩に乗っているが……これは味見役をするってことか?
「わふっ……」
……ん? しかもシロまで……?
ムイに呼ばれた?
……まったく。
まあいい、それじゃ味見役として手伝ってくれムイもシロも。
まず最初に作るのはフライドポテト。
これは作るのはとても簡単。
というか屋台料理なんて作るのが簡単じゃないとやってられない。
じゃがいもをしっかり洗い、長めに切って油で揚げる。
揚がったイモに塩をかけて完成。
早速試食。
ぷるぷるぷるっ……っ!
「わふっ……わふっわふっ! わふぅっ……っ!」
……好評のようだ。
二体とも夢中で食べている。
どれ、俺も一口……。
口に入れた瞬間感じたのは強い塩味。
そして歯で感じる柔らかな芋の感触と、ホクホクした舌触り。
うん、美味い!
俺は掛け値なしにそう感じる。
毎日でも食べたいくらいだ。
……毎日はさすがに健康が心配になるか。
俺はその後も何種類かフライドポテトを作った。
皮なし、皮あり、細く切った物、太く切った物……全部美味かった。
一番美味しいと感じたものを屋台に使おうと思っていたが、全部美味しかったので……屋台ごとに変えることにしよう。
そうすれば皆も選べて嬉しいだろう。
さて、次。
次に作るのはおにぎり。
残念ながら具とかはないシンプルな塩握りだ。
他の焼き肉串とかポトフをおかずに食べて欲しいと思ってる。
炊きあがったご飯を少し冷まし、濡らした手に塩をまぶして取る。
そして手の中で転がすように握って完成。
「わふっ! はぐっはぐっ!」
ぷるぷるぷるん…っ!
これも好評。
美味しく食べてもらえると嬉しいな。
味の感想聞くために他の者にも配るんだから食べ尽くさないでくれよ、といって次へ。
次は焼き肉串。
ポトフも一緒に作るか。
まずポトフ。
じゃがいもと玉ねぎとにんじんを鍋に入れ、煮込む。
後は塩で味付けして完成。
これは作って置いておけば屋台ではよそうだけで済むから一番簡単かもな。
そして焼き肉串。
一口大に切りそろえた肉を串に刺し、火であぶる。
しっかり火が通ったのを確認したら塩を振って完成。
二品とも完成したのでムイとシロに味見させる。
「わふぅっ! わふぅぅぅぅぅ~~~~~~んっ……!」
ぷるるるるるるるるるるるるる……っ!!
うん、大好評だ。
というかムイ震えすぎじゃないか?
残像見えるんだが。
よし、と――。
とりあえず屋台で出そうと思った四品は作った。
ムイとシロもちゃんと残してくれてるし早速皆に配りまわって味の感想聞こう。
ムイとシロも運ぶの手伝ってくれ。
「うぉんっ!」
ぷるっ!
ありがとう。
「素晴らしいです、主様。それ以外の言葉が存在しません」
「すっごく美味しー。お祭りってこれ好き放題食べられるの? 最高過ぎる……」
「特にこのフライドポテトという食べ物……とても気に入りました」
「私はやはりおにぎりが……手軽に美味しく食べられるのはとても良いです」
「ポトフがさいこぉ~」
「やはり焼き肉串ですな。喰っているという感覚を一番味わえますぞい」
他の皆にも大好評だった。
皆口々に美味しいと言ってくれて、祭に対するやる気も高まったようだ。
……いや元から俺が言うことだから……と、結構士気は高かったけれども。
そうして。
次に取り掛かったのは屋台づくり。
とはいってもこれも簡単なやつだ。
前世みたいな見た目の屋台ではなく、運動会なんかにあるような簡易的なテントみたいなもの。
そこに野外調理設備……石で組んだかまどみたいなやつ……とか、テーブルや調理器具なんかを備え付ける。
椅子は備え付けない。
やっぱり祭と言えば食べ歩きだろう。
でも汁ものとかもあるからな。
祭り当日になったらしっかりフードコート……というか落ち着いて食べられる場所は用意する。
俺が屋台の準備をある程度終わらせたところでルシュから報告が入る。
「主様、関所の建設が終わりました。そして……ぞくぞくと住人が来始めています」
おっ……何とかギリギリ間に合ったか、よかった。
それで……移住者たちはどんな感じだ? 敵対的な感じとかは……?
「今のところ敵対的な移住者は来ておりません。皆友好的で……是非噂の街に住まわせて欲しいと。問題を起こすそぶりは全く見えません」
ほっ……それはよかった。
想定はしていたけど……備えなんて使わないことが一番だからな。
それで受け入れは出来ているか?
「はい、関所の方で悪魔族と天使族の方々に戸籍を作ってもらい……出来た者からレースピアの街の宿舎に案内しています。宿舎にも余裕はまだまだありますし問題はないかと」
万事OKってことだな。
問題なく移住者を受け入れる仕組みは出来た。
後は何もしなくても人口は増えていくだろう。
それら全部受け入れるためにも住居やらなんやらもガンガン作っていかないとな。
けれど今は祭りの準備だ。
関所から入ってくる者達もまとめて歓迎するためにも……頑張って準備しよう。
俺はそう決意する。




