58.フェンリルたちとコボルトたちの戸籍
リネイアの提案から一夜明け。
俺は今フェンリル区画に来ていた。
戸籍?
「はい、戸籍です」
前日。
そう提案を受けた俺はリネイアにさっそく理由を聞いてみる。
いやまあ戸籍が大事なのは俺もなんとなくわかってるけどな。
「新たに住人を多く受け入れ、この街の住人はおそらく三百に届こうか、といったところになっているかと思われます。これから人口がさらに増えていくことも考えますと、早く作った方がよいと考え提案いたしました」
「そうそうー。まあ言うまでもないと思うけどあると便利だよねー。誰がどこに住んでいるかとか誰と誰が家族関係だとかすぐ分かるからね。紙も十分生産出来てきてるし、今のタイミングでやっておくのはいいんじゃないかなー」
リネイアが答え、シエルも補足してくれる。
……なるほど。
確かに俺もそのうち戸籍とか作った方がいいかな、とは思っていたが、紙が無かったこととか他にやることもあったとかで後回しにしていた。
これ以上住人が増えてからだと、今よりさらに最初の戸籍づくりの労力が増えるし……人手が必要だったから調査団も街に居るタイミングだ。
……ああ。
それもあるから今提案したのか?
紙が出来て、人口も一気に増え始めてきて、仮拠点の警備をしている一部以外は街に居る。
確かにいいタイミングだ。
……よし。
決めた。
リネイアの提案を受け入れよう。
「……ありがとうございます!」
リネイアは礼を言いつつ、ほっと胸をなでおろしているようだ。
緊張していたのか?
「ふふー。補佐になって最初の提案。とちったらどうしよーとかって心配してたんでしょー? かわいー」
「……そんなことはありません。というかあなたも同じ補佐なのですから、代表様に有益な提案をしたらどうなのですか?」
「あははーこわーい。まああたしは有益さは仕事で示すからー」
「……まあ、あなたはなんだかんだと能力は高いですからね。こほんっ! では主様、お供しますので早速明日から戸籍づくりに入りましょう」
ああ、分かった。
と、そういうことになった。
そんなわけで俺は今、リネイアとシエルを引き連れ、フェンリルたちの区画に来ているわけだ。
それと、なぜ最初にここに来たかというと。
戸籍を作る際、俺は街に住み着いた順に作ろうと考えた。
まあ厳密には無理だけど、シロ→コボルト→ウンディーネ→エルフ→ドワーフ……みたいな感じに。
だからまずはフェンリル区画に来たわけだ。
……ああ、ちなみに。
一番最初に住み着いたのは俺とムイだが……その分は屋敷を出る前にもう作ってある。
ムイは俺の屋敷に住んでるからな。
まあムイのは正直戸籍と呼べる代物じゃないけど……。
俺のを抜粋するとこんな感じ。
名前:築 悠真
種族:人間
性別:男
生年月日:-二十三年、五月二十日
家族構成:無し
生年月日はこっちで適当に決めた。
……いや、しょうがないんだ、これは。
なぜかというと、この異世界……暦が統一されてないんだ。
どうやら、一ヵ月がおよそ三十日、一年が十二カ月、そこまでは統一されているものの……肝心の呼び方や一ヵ月の内訳はばらばらだ。
同じ月でも狼の月、という者もいれば、マイニス、と答える者もいた。
呼び方はまだいいが、内訳は本当に意味が分からない。
なんで五日しかない月と五十日ある月があるんだ。
このせいで、同じ日に日付を聞いたというのに、一人は十三の日と答え、一人は四十二日と答える、そんな事態すら起きた。
暦も同じだ。
種族によって数字も呼び方もバラバラ。
なので申し訳ないが代表権限で統一させてもらった。
俺がこの地にやってきたのを一年目とおき、月と日もそれぞれ前世のものに合わせる。
これで分かりやすくなるだろう。
……ふぅ、話が逸れたな。
まあそんな感じで生年月日はこっちで決めることにさせてもらった。
そういうわけで次はムイだ。
ムイの戸籍抜粋はこんな感じ。
名前:ムイ
種族:スライム
性別:不明
生年月日:不明
家族構成:不明
……見事に不明ばっかだな。
改めて思い知らされる。
隠れた者をあぶりだす光を放てたり、飲み込んだものを好きなタイミングで吐き出すことが出来たり、本当に何なんだろうな、ムイは。
気になってスライムってこういうものなのか? って色んな人に聞いてみたけど、全員にいやそんなスライム知らないって返されたし。
……まあいいか。
分からなくてもこれまで仲良くやってこれたしな。
これからも仲良くやって行けるだろう。
今考えることはシロたちの戸籍だ。
そうやって意識を切り替えた俺にシロが走り寄ってくる。
「うぉふっうぉふっ!」
おお……よしよし……。
俺は覆い被さるようにじゃれてくるシロを撫でまくる。
最近忙しかったからあまり触れ合えてなかったな。
よーしよしよしよし……!
「あれ……何も知らずに見たら目を疑うよね。あのお伽噺に語られるフェンリルがあんなに懐いてるんだから」
「ええ。さすがは代表様です」
そして。
ある程度じゃれて気が治まったのかシロは離れる。
いやシロは離れてもシロの子供たちが入れ替わりでじゃれて来たし、リルも次は撫でろと言いたげに少し離れたところで待機しているし、まだ俺の両手は解放されないみたいなんだが。
まあとりあえず撫でながらフェンリルの大黒柱たるシロに用件を伝える。
戸籍を作りたい、と。
返事はウォン。
了承。
別に好きにしていいって感じだったな。
早速ありがたく作らせてもらう。
そう言って十分後。
早速出来上がった。
まあ言ってもシロたちは七体しかいないからな。
それでもこんなに早く終わったのはリネイアとシエルのおかげだ。
子供達とリルを撫でつつ、俺が聞き出したことをすらすらと書き込んでいった。
リネイアはもちろんシエルも迷う様子無くすらすら書き込んでいたな。
リネイアの言う通り、やはり能力が高いのだろう。
完成した戸籍を早速見せてもらうが、ミスは見当たらない。
フェンリルたちの戸籍はシロとリルの生年月日以外は問題なく記載できている。
この二体も生年月日は不明。
ちなみにシロの子供たちの生年月日は、生まれた日が今から何日前かシロが記憶していたので問題なく記載できた。
やはり初めての子供だからか、相当色濃く記憶に残っていたようだ。
まあそういうわけでちゃんと親子関係もしっかり記すことが出来て、とてもまっとうな戸籍が出来上がった。
狼なのに。
そんな感じでさすがはフェンリルなどと考えつつ次へ。
シロたちを撫でまくって疲れがたまっている両手をさすりながら。
そして次に来たのはコボルト区画。
来てすぐ会いに行ったのはルシュだ。
コボルト・ハイコボルトたちの代表だからな。
ルシュは戸籍づくりの提案を二つ返事で了承してくれた。
「連絡は受けておりました。では、作業が完全には止まらないように、今から少人数ずつ一番大きい宿舎にでも集めますね。裂け目の方へ行っているものは……後日でよろしいですか?」
ルシュが手際よく話を進めてくれる。
ああ、もちろんよろしい。
ありがとう、それで頼むルシュ。
「かしこまりました」
ルシュが優雅に一礼し、伝令を出す。
そして俺たちもコボルト区画の一番大きい宿舎に移動したんだが、最初の者たちが来るまで少し時間が空いた。
なので雑談しつつ先にルシュの戸籍を作ってしまう。
名前:ルシュ
種族:コボルトクイーン
性別:女
生年月日:-十七年、四月十日
家族構成:無し
ふむ。
ルシュってかなり若かったんだな……。
ちょっとデリカシーが無いかもしれないがそんなことを思う。
かなりしっかりしてるから勝手に同じくらいかと思ってた。
あと家族構成は……確かルシュは族長の娘だったって聞いたことがあるが……?
「はい、そうですが……もう居ないので」
あー……すまない。
「いえ、かまいません。謝らないでください主殿。負けて命を落とすのは世の常です。割り切っておりますので」
……そうか。
まあルシュがそう言うなら、そういうことで。
「はい。……それより主様にお聞きしたいことがあるのですが」
えっ? 緩急凄くない? いやいいけど……。
「あちらのお二人が契約を交わし主様の補佐になったというのは本当でしょうか……?」
ああ……リネイアとシエルか? そうだな、本人たちからそういう提案があったから契約を結んで俺の補佐というか秘書というか……まあやってもらってる。
「それは……なんとうらやま……こほんっ!」
ルシュ?
「いえ。何でもありません。それより主様。私も主様をお助けしたいと思っている点は同じです。私も補佐役に……主様の秘書に加えていただけませんか?」
え? いや、その気持ちは嬉しいけど、ルシュもいまや相当な数のコボルトのまとめ役になってていろいろ忙しいだろ? だから――
「いえ問題ありませんそれはこちらの補佐役を立てればどうとでもなる話ですしむしろまとめ役をしているからこそその視点から主様をお支えすることが出来ますしそれに迅速にコボルトたちに主様のお考えをお伝えすることだってできます――ので、どうか。お願いいたします」
えっ……あっ……ああ……うん。
俺は押し切られた。




