59.エルフたちとドワーフたちの戸籍
「……主様、確認できました。現在街に居るコボルトたちはこれですべてです」
ああ、ありがとう、ルシュ。
あの後。
ルシュに秘書にしてくれと頼まれて押し切られたこと以外は、特に何事もなく俺たちはコボルト・ハイコボルトたちの戸籍を作ることが出来た。
まあ裂け目の仮拠点の警備に行っている者たちは抜けているが、いってもそちらは数もそう多くないしな。
次に仮拠点に出向いたときに作ればいいだろう。
「では……主様。一旦これで失礼いたしますが、もし何かあればすぐにご用命ください。秘書として……秘書として! どんなことでもお手伝いします!」
尻尾をぶんぶんと振りながらそう俺に声をかけてくるルシュ。
秘書になれたのが相当嬉しいようだ。
「とてもやる気にあふれていますね……! 分かります、一緒に頑張りましょう」
「いや、確かにやる気ではあるけどあれは……まあいいか。別にこっちが困る事でもないし。よろしくー」
リネイアとシエルもそう言っている。
……まあ分からなくもない。
秘書ってクールでカッコいいイメージがある。
分刻みのスケジュールを淡々と伝えてくる……みたいな。
……ん? ルシュは俺の秘書なんだから、もしそうなったら分刻みのスケジュールで動かなきゃならなくなるのか? 俺?
……考えないようにしよう。
とにかく、ルシュにその時はよろしく頼むと挨拶し次へ。
次に俺がやってきたのはウンディーネ区画。
街にやってきた順で言うなら次はフィーネだからな。
だがフィーネは留守。
他の精霊族たちと集まっているらしい。
残っていたハイウンディーネが教えてくれた。
ん~?
一応戸籍を作ることは連絡したんじゃ?
「はい、ウンディーネ区画には天使族が伝令に行ったはずですが」
「ちょっとちょっとー疑ってるのー? 私じゃないんだし連絡サボったりなんてしないよー」
「……そうですね、シエルがおかしいだけで、普通天使族と言えば、生真面目、正直の代名詞ですから。伝令はしっかりこなすでしょう」
「ひどーっ、悪魔らしくないのはそっちもでしょー?」
ぶーぶー文句を言っているシエルを華麗に無視し、リネイアはこちらに向き直る。
「それで……どうしますか、代表様。フィーネさんの元に向かいますか? それとも……」
んー……そうだな。
何かあったのかもしれないが、こっちに連絡も無いってことは大したことでもないんだろう。
後にまわすか。
どうせ次のエルフとドワーフの戸籍作り終わったら、精霊族たちの方に行くしな。
「かしこまりました、ではそのように。……いつまでも文句を言っていないで行きますよ」
そう言うとリネイアはシエルの首根っこをつかみ引きずっていく。
「いえっ!? ちょっ待っ……! 行く! 自分で行くってばーっ!」
そう言いながら引きずられていくシエル。
ふむ、俺にも少しあの二人の関係が分かってきたが……。
もしかしてリネイア、シエルはどれだけ雑に扱ってもいいと思ってる?
……俺もそのカテゴリに入らないよう気を付けよう。
と、いうわけでエルフ区画。
「お待ちしておりました、連絡があった戸籍の件ですね?」
ハイラが俺の前で礼をする。
ああ、そうだ。
構わないか?
「代表様の提案に反対するものなどこの街には居りませんよ。それでは少しずつ呼び出しますね」
そうやってコボルト区画の時と同じ、少数ずつ呼び出しては戸籍を作っていく。
コボルトたちほどの数もいない。
すぐに終わるだろう。
リネイアたちの手際もいいしな。
そうやって手早く作られたハイラの戸籍抜粋はこれ。
名前:ハイラ
種族:クイーンエルフ
性別:女
生年月日:-百九十三年、六月二日
家族構成:妹、父、母、祖父、祖母。曾祖父、曾祖母、高祖父、高祖母……。
前言撤回。
全然手早くはなかった。
原因は……うん、家族構成。
生年月日はまあ想像してた。
エルフなんだから寿命が長いのかもって。
実際合ってたが……それによって大量の親族関係を記さなきゃならなくなるのはちょっと想像していなかったな。
その後もこれだけ親類関係が多いのはハイラだけかと淡い希望を抱いていたが……。
まあそんなわけなかった。
ハイラが一番多いのには変わりないものの、エルフ全員、親類関係が多かった。
思ってた倍の時間がかかったな。
まあこれ以上増える前でよかったと思おう。
そしてエルフの戸籍を作り終わり、次に向かおうとした俺はハイラに呼び止められた。
……なんだか既視感。
「代表様。補佐……秘書としての契約を結ぶ者を探しているとお聞きしました。ぜひ私も秘書にならせていただきたいのですが……よろしいでしょうか?」
やはり。
ルシュと同じパターン。
しかも別に探してないし。
あー……それはデマだな。別に探してないからだいじょ――
「代表様。よろしいでしょうか?」
いや、だから――
「代表様、よろしいでしょうか?」
い――
「よろしいでしょうか?」
……俺は押し切られた。
いや、しょうがないんだこれは!
だって断ろうとするたびにハイラがどんどんこっちに近づいてきて……あんな整ってる顔を、まつげが触れ合いそうな距離まで近づけられたら断れないって!
そんな感じで心乱され、秘書がまた一人増えた。
補佐役が増えてくれるのは嬉しいが、みんな圧強くないか?
そんなことを考えながら俺は次の区画へ。
次に来たのはドワーフ区画。
カンッ! カンッ! と鉄を叩いてるだろう音が聞こえてくる。
「おっ、代表殿。戸籍の件ですな? もちろん協力いたし――え? 秘書? いやあ……ワシも忙しい身でして、たまにならまだしもずっとはさすがに」
……ふぅ。
良かった、ちょっと安心した。
ドワーフ区画にやってきた俺はさっそく代表のイアンに協力を要請。
と、同時に秘書勧誘にお祈り返答をもらいほっと一安心。
いや、すまない、ちょっと乱心していた。
気にしないでくれ。
それより戸籍だがイアンから早速作っていっていいか?
「もちろんかまいませんぞい」
二つ返事で了承してくれるイアン。
早速戸籍を作り上げ……それを抜粋したものがこちら。
名前:イアン
種族:キングドワーフ
性別:男
生年月日:-二十年、十月十一日
家族構成:父
……最初に思ったこと。
若くないか?! イアン?!
俺は驚く。
いやこれは驚くわ。
イアンの人相はたくさんのひげを蓄え、目元以外顔があまり見えていないステレオタイプなドワーフといった感じ。
それに喋り方も相まって、俺は三十……いや四十くらいかな? と思っていた。
鍛冶の腕だって相当なものだったしな。
それが……二十代、しかも前半!
俺の驚愕は相当なものだった。
そして驚いたのは俺だけではない。
その口から生年を聞いたリネイアも耳を疑っていたし、シエルもいやいやまたまたー、みたいな顔をしていた。
本当だと聞いて口をあんぐり開けていたけど。
しかもその後……イアンだけではなく他のドワーフたちにも驚かされた。
若いのはイアンだけかと思っていたら……ドワーフの八割が二十代以下だった。
残りの二割も三十代だったうえに、十代前半のドワーフすらいた。
いやーほんと驚いたな。
聞くところによるとドワーフは十になる前からヒゲがどんどん生えてくる種族らしい。
ヒゲがないドワーフなんてそれこそ相当幼い子供ぐらいだそうだ。
なるほどな……ワールドショックだ。
教えてくれたイアンに俺は礼と、相当年を取っていると思っていた、すまない、とそう謝っておいた。
イアンはそれだけベテランに見えていたということですな、嬉しいですぞ、と軽く返して来た。
……いややっぱりその余裕っぷりで二十代前半は分からないって。
そう思いながらドワーフたちの戸籍を作り終えた俺はドワーフ区画を後にする。
次はノーム達の戸籍……それが終わったらイフリータとシルフ、こっちは一人ずつしかいないが……それとそっちに居るはずのフィーネに話を通してウンディーネも、四つの精霊族まとめて戸籍を作ろう。
そう考えながらノーム区画へ向かうと何やら騒がしい。
そちらへ行くとそこにいたのはそれぞれの精霊族たちの代表……フィーネ、ラウーム、イグニータ、ユウフ。
他にもそれぞれの精霊族たちが集まっているようだが……。
……ん? それぞれ?
イフリータとシルフは今は一体ずつしかいないはず……。
そう感づいた俺にフィーネが声をかけてくる。
「あ~あるじ~見て見て~新しい子がまた増えたんだよ~」
「自分らもっす、これでさらに頭の力になれるっすよ~!」
「はははは! 俺も一人ではなくなった! これまで以上に熱く燃えることを約束する!」
「はぁ……暑苦しい。代表さん、シルフも増えたからさ、力を借りたいときはいつでも言ってもらって構わないよ」
……精霊族たちが増えていた。
四属性分一気に。
……いや、まあ、いいんだけど……。
毎回どこから湧いて出てきているんだ?




