55.フリストルと馬車
さて、これまでマイコニン、アラクネと……それぞれ施設と住居を作ってきた。
ならば当然次はケンタウロスだ。
「欲しい物? あ、いや、ですか?」
あいさつの時も言ったが、別に話しやすい口調で構わないぞ?
「あざす……どうしても敬語ってやつは苦手で……」
気にしないでくれ、同じ街に住む者同士だしな。
「あーでも! 人前とかだったらきっちりやるから! その辺は気ぃ遣わせてもら……い、ます!」
そうか? まあフリストルがそういうなら……。
「うす! ……それで、欲しい物だったっけ?」
そうそう。
「う~ん……最初のあいさつん時も言ったけど……やっぱ馬車が欲しい。オレらケンタウロスは走ることが大好きだ。走ることが出来てさらには人の役に立てる運送はオレらにとって最高の仕事なんだよ」
……なるほどな。
丁度マナコンクリで道路も作れるようになっていることだ。
それぞれの住居や、仕立て屋、工房、倉庫なんかを道路でつなぎ、物資などをケンタウロスに運んでもらう……我ながらいい案だ。
……ああ、いや、でも。
その場合……ケンタウロスたちが脚を痛めてしまうか?
前世の馬が走る場所も芝とか土、砂とかだしな。
硬い地面は高速で走ると相当負担になるんだろう。
ふむ……だが馬車の走破性を考えると道路は引きたい……。
この世界には魔法があるんだし……衝撃を吸収する蹄鉄とか作れたりしないか?
そう俺が考え込んでいると。
「……代表ー? だいひょー? どうかしたのか?」
フリストルがいぶかしげにこちらをのぞき込んできた。
ああ、悪い。
ちょっといろいろ考えてた。
馬車を作るのはもちろん構わない。
いろいろ施設も増え始めて、物流も作りたかったところだしな。
街の運送はぜひフリストルたちに担ってもらいたい。
「代表……! っああ! もちろん構わねぇ! オレたちに任せてくれ!」
フリストルは俺の言葉に体を震わせながら、胸を叩く。
大きく揺れるそれから目を逸らしつつ、よろしく頼む、と返答する。
それと。
「ん? 思う存分走り回れる場所? そりゃあそんな場所があったら嬉しいけど……」
よし。
それじゃあ作ろう。
「え?」
と、いうわけで。
馬車を作る前にちょちょいと作ってみた。
「うおぉっ……! 広い! しかもすっげぇ走りやすい! すげぇ……すげぇぜ代表!」
「わぁ……気持ちいい」
「さいこーっ!」
「クセになっちゃうぅ~!」
フリストル含むケンタウロスたちが、そんな感想を漏らす。
うんうん、喜んでもらえて良かった。
ケンタウロスたちが走り回っているのは多目的グラウンド。
前世の競馬場を参考に二日で作ったグラウンドだ。
創造神器の力があれば簡単だった。
中央部分を掘り返して固め、その周りを草原がかこっている楕円形のグラウンド。
草地を走りたいものは外周を、土の上を走りたいものは中央を、といった感じで走りたい場所を選ぶことが出来る。
もちろん走るだけじゃなく、遊ぶこともできるようにしたいと思っている。
ちょうどこの前シロと一緒に駆け回って遊べる場所が欲しいなって思ったばかりだったからな。
ケンタウロス族のためにもなるし渡りに船だった。
「いやー本当にすげぇよ代表! ほんと……走りやすくて……ああもうすげぇとしか言えねー!」
フリストルが俺の方に近寄ってきて興奮しながらそうまくしたてる。
別に無理して言葉にする必要はない。
そうやって楽しそうに走り回っている姿を見れば伝わるからな。
「そっ……か? へへっ、それならよかった!」
そう言って輝くような笑顔を見せるフリストル。
だいぶ打ち解けられてきたような気がする。
ああ、それと……。
たまに俺やシロたち……あー、狼たちもここを使わせてもらいたいんだがいいか?
俺はフリストルにそう声をかける。
すると。
「そんなもん、オレたちに許可取る必要ないぜ代表! オレたちはここを独占する気なんてねーし、そもそもここは代表の街だ。 勝手に好きに使ってくれ!」
間髪入れずにそう返ってきた。
……いや凄いな。
一瞬たりとも迷わずにそう言ってくるとは……豪快というかなんというか。
だがまあありがたい。
創造神器の蹄鉄を使ってシロたちとかけっこして遊ぶ時はここを使わせてもらおう。
よし。
それじゃあグラウンドも作ったことだしいよいよ馬車づくりだ。
とはいっても高性能な馬車を作る気は今はない。
今のところは人は運ばず荷物だけを運ぶ予定だ。
だから人を運べるような馬車の開発はまたおいおいだな。
今はシンプルかつ頑丈に作っていく。
イメージとしては……デカい荷車。
板状に組んだ木材の両端に大きい車輪を付ける。
そしてそこにケンタウロスが引く用、兼自立させるためのスタンドとして持ち手を付けて完成だ。
サスペンションや屋根といったものは今回は付けていない。
今のところ繊細に運ばなければならない物はないし、雨が降ったら荷物を覆えばいいからだ。
というわけで今回のシンプル馬車は一日と立たずに出来上がった。
木の車輪をきっちり真円に近づけるのに多少時間を喰った程度か。
完成したので早速試してみる。
「う~ん……悪かねぇと思うけど……やっぱところどころ引っかかったりしちまうしあんまり速度は出せねぇかな。さっきのグラウンド? みてぇにしっかりならされてるところ通んなら別だけど」
そう語るのは馬車の試運転に付き合ってもらったフリストル。
自分たちが引くものなのだから……と、自分から立候補してくれた。
語った問題点はこちらとしても把握している。
整備されていない道では速度など出せようはずもない。
というわけで次はこっち。
「おっ! おぉ~! すげぇなこの道! まっ平らで馬車引いてても何も考えずにぶっ飛ばせる!」
そう興奮しながらフリストルが馬車を引いているのは、俺の屋敷近くのマナコンクリの道路だ。
マナコンクリの実験がてら少しだけ引いたやつ。
横から見ている限りでも馬車はほとんど揺れることなく引かれている。
あんなにシンプルな馬車なのに人が乗せられるんじゃないか? ってぐらいだ。
「ん~……けど……」
フリストルが言い淀む。
構わない、言ってくれ。
俺は迷っている様子のフリストルにそう声をかける。
「あ~……ちょっと言いづれぇけど……ちょっと道が固すぎる。オレは大丈夫だけど……他の皆だと足痛めっかも……」
やっぱりか。
俺は得心する。
やはり俺が心配していた通り、ケンタウロスも硬いコンクリの上だとかなり足に負担がかかるらしい。
だが問題はない。
念のために作っておいた。
フリストル、これを着けてもらえるか?
「? なんだこれ? 別にいいけど着けるってどこに?」
……この世界蹄鉄ないのか?
いやまあいい、了承は取れたしフリストルの蹄全てに蹄鉄を取り着ける。
「はぁ……何だコレ? 特に変わった感じはしねぇけど……」
それなら違和感なく着けられるように作れているってことだな。
良かった。
それじゃあそれ着けたまま道路を走ってみてくれ。
「ん? ああ……いいけど……」
そう言うとフリストルはいぶかしげにしながらも、再び荷車を引き道路を走る。
すると。
「おいおいおいおい、何だコレ!? すっげぇ……走りやすい! しかもぜんっぜんっ……反動がこねぇ! いつまでも走り続けることが出来そうだ!」
いぶかしげな表情から一転、興奮をあらわにしながら走るフリストル。
うんうん。
しっかり出来ているようだ。
フリストルに着けてもらった蹄鉄は俺が作った名付けて衝撃吸収蹄鉄。
踏み込んだ足から伝わる衝撃を吸収し、負担を軽減。
さらには吸収した衝撃はこまめに放出し、疑似的な脚力増加も見込める逸品だ。
俺が蹄鉄を作って、衝撃を吸収するような作りにするにはどうしたらいいかと悩んでいたら、フィーネとラウームが通りがかり解決してくれた。
仕組みとしては蹄鉄の中を空洞にし、そこに水魔法を土魔法を用いて作った衝撃吸収粘土を充填。
後は漏れないようにしっかり塞げば完成だ。
蹄鉄はミスリルで作ることで魔力も漏れづらくなり長持ちする。
と、まああっさり出来たように見えるがそれなりに試行錯誤した。
なんせ最初にできたやつは衝撃を溜め込むだけ溜め込んで暴発。
テストしていたラウームがかなり高くまで吹っ飛ばされる始末だったからな。
俺は大焦りしたが着地はフィーネが水のクッションを作り何とかした。
ラウームはこれはこれで楽しいっすと言っていたが危険なので没。
そこからこまめに衝撃を放出できるように(フィーネとラウームが)調整し、完成した物が今フリストルが着けているものだ。
量産は今やってもらっている。
まあ、ケンタウロスも今はあまり多くもないしすぐ全員分出来上がるだろう。
「いやーすげえ! これがあればオレたちはどんな道でも走れるぜ!」
走り回って多少落ち着いたらしいフリストルが戻ってきた。
それなら良かった。
作った甲斐がある。
そのうち全員分用意して、道路も敷くからそうしたら……。
「ああ! 分かってる! その時が来たらオレたちがこの街の運送を引き受ける! なんだって運んでやるよ!」
それは頼もしい。
よろしく頼む。
「ああ! こっちこそこれからもよろしく頼む、代表!」
こうして、まだまだやることは山積みだが……この街は真の意味で新たな三種族を迎え入れることが出来たのだった。




