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ゆるっと街づくりin異世界~すべての種族が住む街を作れ!?~  作者: 下河スズリン


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54.アラクネと仕立て屋

 醤油の量産、その一歩目を踏み出したあの日から少し経ち。

 その後も酒蔵、第二号工房、第三号工房、マイコニン達の住居まですべて完成を見た。

 第二号、第三号ではそれぞれ味噌と酢を醤油と同じようにマイコニン達に量産して貰おうとしている。


 他にもいろいろ建てようと思ったのだが……マイコニン達ばかり施設を充実させるのはちょっとよろしくないのではないか、そう俺は考えた。


 なので今俺はアラクネのクトネーの元にやってきている。




「仕立て工房の希望……ですか? なるほど……」


 クトネーによるとアラクネが得意なのは服飾関係。

 というわけで、その為の施設を作りその腕をいかんなく発揮してもらおう。

 そう俺は考えたわけだ。


「ふむ、そう言う事であればいろいろ希望がありますわ。聞いていただけますかしら?」


 もちろんだ。

 なんでも言ってくれ。


 そうしてクトネーにいくつか希望を言ってもらって思ったんだが……。


 なんか素朴って言うか……控え目じゃないか?


 クトネーが考える仕立て工房とは、表にいくつかの台が在り、そこに服が積んである。

 そして裏に服を作る為の場所があり、アラクネたちが作業する。


 クトネーの要望から俺が想像したのはこんな感じのシンプルなものだ。

 試着室やマネキンといった類も無し。


 そう言うのは要らないのか?


 と、俺は聞いてみたんだが。


「試着室……マネキン……? なんですの……それは……?」


 どうやら。

 この世界ではそう言った物は一般的では無いらしい。

 クトネーに話を聞いてみると、そもそも新しい服を作る、というのはあまりない事なのだとか。


 それではどうするのかと言うと、まあ端的に言えば古着屋だ。

 使い古した服や入らなくなった服を売り、服屋はそれをある程度直して売りさばく。


 それゆえ服を作る為のスペースなんて基本無いのがこの世界のスタンダードらしい。

 服だって陳列なんてほとんどされておらず、こんもりと台に……あるいは床に積み上げられているだけなのだとか。


 はぁ……なるほどな……。


 俺は久々にワールドショックを受ける。


「はい、ですので新しい服を作ることの出来る仕立て工房、というだけでワタクシどもアラクネにとって素晴らしい環境なのですわ。……ですが、それはそれとして。代表殿がおっしゃった試着室とマネキン……でしたか? とても興味がございますわ」


 一見落ち着きを保ち、しかし目をらんらんと輝かせながらクトネーが近づいてくる。

 その圧に少しビビりながらも別に隠す理由も無いので教える。


「服を実際に着てみて着心地などを確かめるスペース……それに……木の人形に実際に服を着せる事で服を着た自分のイメージをつかみやすくする……なんてことっ……!」


 試着室とマネキンの詳細を聞いたクトネーがふらりとよろめく。


 えぇと……大丈夫か?


「こんなの……こんなの……落ち着けるはずがありませんわっ!!」


 ガバリ、と体勢を戻したクトネーの目は先程以上にギラギラ光っていた。

 いや、てかこれ比喩じゃなく実際に光ってないか?


「素晴らしい……素晴らしいですわッ! 何という斬新な発想ッ! 代表サマ……このクトネー、感服いたしましたわッ!」


 まつげがハッキリ見えるほどの距離まで近づかれテンション高くそんなことを言われる。


 嬉しい……嬉しいけど、ちょっと近い……。


「ハッ……! ワタクシとしたことがっ……! コホンッ……失礼いたしましたわ……」


 そう言って体を離すクトネー。

 その頬は恥ずかしさからかまだ少し赤かった。

 まあ、見ないふりをしつつ提案する。


 それじゃあ仕立て工房には試着室やマネキンも盛り込むって事で構わないか?


「ええ……! それはもちろん! こちらからお願いしたいですわ!」


 よし。

 それじゃあそういうことで。




 そんな感じでクトネーたちからの聞き取りを終え、十日後。

 俺たちの前には立派な木造の工房が出来ていた。


 いやぁ……立派な仕立て屋が出来たな。


 建築中から分かっていたが、やはり完成した姿を見るとそんな感想が無意識にもれる。

 俺の隣に居るクトネーは感激からぶるぶると震えている。


「素ッッッ晴らしいですわッッッ!」


 震えが止まったかと思ったらそんな大音量が響いた。


「これがワタクシたちの城……願い求めた楽園……ああ……素晴らしいですわぁ……」


 かと思ったら急にトリップし始めたな。

 しっかりしてくれ。

 これから内部の最終確認をしてもらいたいんだ。


「ハッ! も、もちろん分かっておりますわ。お任せ下さいませ……」


 まだテンション冷めやらぬようだが……気持ちはわかる。

 俺はクトネーとともに仕立て工房の中に入った。




 中はかなり広い。

 アラクネがそれなりに大きめの種族だからというのもあるが……特に下半身。

 蜘蛛だからな。

 それ以上に俺が提案して大きくしたんだ。


 最初クトネーはかなりささやかな規模での提案をして来ていた。

 まだこの街に来たばかりだからな。

 遠慮の気持ちがあったんだろう。

 だが俺が遠慮する必要は無いし、土地はまだ余ってるからかなり大きく作って良いとそう言ったのだ。


 その結果仕立て工房はかなり大きくなった。

 最初のクトネーの提案では、普通の一軒家二つ分くらいのサイズだったのが、五倍くらいのサイズになっている。

 まあ一階建てではあるけれどな。

 これで複数階建てだったら流石のルシュ達でももっと時間がかかる。


 さて、入って真っ先に目についたのはいくつも備え付けられた棚と……マネキンだ。

 今は何も着てはいないが、それぞれ腕を伸ばしていたり、足を前に出していたり……ポーズをとっている。


 このマネキンは俺が作ったものだ。

 ルシュ含めハイコボルトたちは建築で忙しかったからな。

 俺も暇だったって訳じゃないが、ルシュ達よりは余裕があった。

 なので作った。

 創造神器ならイメージした通りに木が削れるから、作ってて楽しかった。


 こだわりはその可動域だな。

 マネキンであるからにはいろんなポーズを取らせたい。

 なので関節部はかなり気合を入れて作り……腕を後ろに回しながら足を真上に蹴り上げる、なんてポーズすら取れるように作った。

 正直自信作だ。


「これが代表サマがおっしゃっていたマネキンですのね……なるほど……こう動いて……服を着せられる……素晴らしい発想ですわ……」


 マネキンに近付きその可動部を弄りながらクトネーがそう声を漏らす。

 まあアイデアは前世から持って来たものだが、マネキン自体は頑張って作ったものだからな。

 嬉しい。


「これはワタクシどもも負けないような服を作らなければなりませんわね……!」


 どうやら俺のマネキンはクトネーの創作意欲をかき立てたようだ。

 めらめらとクトネーの背後で炎が燃えているような光景を幻視する。


 気合が入ったところで次だ。

 マネキンや棚が多くあるここは売り場部分。

 そして売り場の端にはアレが備え付けてある。

 そう、試着室だ。


 試着室はたらした布で区切られた小さい部屋。

 まあ小さいとは言っても、大きめの種族の事も考えてそれなりにスペースはあるが。

 たらしてある布はアラクネたちに作って貰った。

 例え設備が無くとも、普通の布くらいなら作れるから任せて欲しい、とそう言って来たからだな。


 そして布をどけた内部。

 そこには俺がいた。


 ……冗談だ。

 より正確には左右反転した俺がいた。

 そう、鏡だ。


 実は今回の調査団が帰って来た時。

 持って帰って来たのは新たな住人だけではなかった。

 ハイエルフたちが新しい植物を、そしてハイドワーフたちが砂を持ち帰ってきていたのだ。


 ハイドワーフたちに話を聞いたところ、果ての森への入口となっている裂け目。

 そこからそれなりに近い場所に砂地があったそうだ。

 森の中に砂地? と聞いた俺は思ったが、見つけた時はハイドワーフたちもそう思ったらしい。


 だがまあその砂はとてもさらさらしていて、もしかしたら何かに使えるかもとハイドワーフたちは判断。

 他にめぼしい鉱物などは見つからなかったこともあり、見つけた砂を多く持ち帰ってきた。


 そして持ち帰られたその砂を見て俺はピンときた。

 砂を高温で熱したらガラスが作れる。

 そうすれば窓が作れるようになるだろう。

 それにうちには魔法銀、ミスリルがある。

 これと組み合わせれば……鏡が作れるんじゃないか!?


 というわけで、作ってみたら出来た。

 さすがは創造神器だ。

 変化させた金槌で完成形をイメージしながら作ったらあっさり完成した。


 そしてそれを見たハイドワーフたちは鍛冶魂に火がついたらしく、自分達も作ってみせると意気込んだ。

 その結果がこれだ。


 俺は他の試着室も覗いてみるが、どの試着室にある鏡も完璧だ。

 一切曇ることなく真ん前に立った俺を映し出している。


 やはり流石だな、イアンたちは。

 たった十日ほどで手本があったとはいえ全く知らなかったものをこれだけのクオリティで作り上げるなんて。


 そう興奮しているのは俺だけではない。


「これは……素晴らしいですわッ! 代表サマにお聞きはしていましたが……本当にこんな! 自らの姿を自らで見る……そんなことが出来るモノがあるだなんてッ!」


 クトネーは大興奮し、鏡の前で様々なポーズを決めている。

 まるで踊っているかのようだ。


 本人にその気はないだろうが、絵になるな……。

 ダンスとか教えたら凄く上手くなりそう。


 そんなことを考える俺だが気を取り直す。


 おっと。

 今は仕立て屋の最終確認だからな。

 次に行こう。


 いまだポーズを決め続けているクトネーに声をかける。


「ハッ!? も……申し訳ありませんわ。素敵なものばかりで興奮を抑えきれず……」


 構わない。

 俺だって最初に自分の屋敷の探検したときはワクワクしっぱなしだったしな。

 とても、気持ちは、分かる。


「は……はぁ……。とても実感がこもってらっしゃいますのね……。とにかく、ありがとうございますわ」


 そう言いながら裾を持ち上げ優雅にカーテシーをしてくるクトネー。

 やはり絵になる。


 さて、仕立て屋の表、服の展示部分は見終わった。

 後は裏、アラクネたちが服を作る工房。

 そこで最後だ。




 と、いうわけで早速裏に入る。

 一応裏に続く扉には大きく手のひらのマークを彫っているものの、間違って入る者もいそうだな。

 文字で示せればいいんだが、街には文字の読めない者も結構いるからな……。

 どうしようか……学校建てるか? 読み書き計算なんかを学べる。

 ……後で余裕が出来た時に検討しよう、今は最終確認優先だ。


 そう思考を切り替えて、工房部分に入る。

 まず目についたのは木で組まれた大きな仕掛け。

 クトネーが真っ先に出した希望。

 巨大な機織り機だ。


「はうぁッ……はうぅあぁ~~~~~~……」


 興奮のあまり人語も追いつけなくなったらしい。

 クトネーはそんな声を漏らしながらふらふらと機織り機に近づきほおずりし始めた。


 初めて会った時には何事にも動じない優雅なお嬢様って印象だったが……、意外とすぐ優雅さが投げ捨てられるな?


 そんなことを考えながらクトネーを眺めている俺に声をかけてくる者がいる。


「あれだけ喜んでもらえると作った甲斐がありますね」


 ルシュだ。

 そう、この巨大な機織り機はルシュたちハイコボルトの謹製だ。

 ルシュは最終チェックをしていたのだろう。

 右手には小さいハンマーを持っている。


「主様。機織り機も工房自体にも問題はございません。今すぐにも使える状態です。ご不安がおありでしたらどうぞ主様たち自身でも確認を――」


 そうルシュが俺に話しかけてきた時。


「今スグに使えるッ!?本当ですのッ!?」


 ルシュの言葉を叩き切ってクトネーがルシュに詰め寄った。


 いや、凄い速さだったな……残像が見えたぞ……。


 俺と同じようにルシュが少し気圧されながらもクトネーに答える。


「え、ええ……。使おうと思えば今からでも……」


「ならば……こうしてはいられませんわッ! 早速使わせていただきますわねッ!」


 そう言うとクトネーはこちらの返事も待たず、機織り機に自身の蜘蛛部分から出た糸をセットし……いやちょっとセンシティブかコレ? 見ないようにしよう。


「ふふ……とても情熱がお有りの方のようですね……」


 ルシュが苦笑している。

 俺も同じだが……だがあの情熱でいろいろな服をこれから生み出してもらえると思うと期待の方が大きい。


 仕立て屋の最終確認はまあ全部終わってるし大丈夫だろう。

 俺は邪魔をしないようにその場を後にする。


 の、前に。

 最後に声をかけておく。


 気合を入れるのはいいが、ほどほどにな。

 疲れたらちゃんと休むんだぞ。


「分かってますわぁぁぁぁぁぁ~~~~~ッ!!」


 分かってなさそう。


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