46.帰ってきた者たちと宴
「えー……それじゃあ挨拶はこのくらいで。乾杯!」
「「「「「かんぱーいっ!」」」」」
あの後しばらくして。
俺は歓迎会も兼ねた宴の音頭を取っていた。
リネイアたちがやってきたその日に出かけて行った後。
俺は一応新たな住人が来ると皆に報告はした……、んだが。
本人たちはいなかったし、いつ戻ってくるかもわからなかったので歓迎の準備なんかが宙ぶらりんになっていた。
そしてまあしょうがないのでまずは帰ってくるまで待とう、と言う話になり。
俺は日常に戻った。
その後割とすぐ、別件で宴の準備をしている時にリネイアたちは帰還。
それじゃあちょうどいいと言うことで、その宴に歓迎会も兼ねることにした、というわけだ。
ふぅ。
俺は挨拶を終えて一息つく。
何度やっても、やっぱり人前に立つのは緊張するな。
そう俺が肩の荷を下ろしていると。
「代表様。先日は誠に申し訳ありませんでした。正直、あの時の私は冷静さを欠いておりました」
「本当にね!とんだとばっちりだったよこっちは!」
音頭を取り終えた俺に、開口一番謝りながらリネイアが近寄ってくる。
シエルも一緒だ。
シエルはリネイアに文句を言っているが……まあ本気で言っている様子ではないな。
見たところじゃれあいって感じだ。
リネイアは……結構落ち込んでいるように見えるな。
フォローしておこう。
ああ……気にするな。
確かに冷静さを欠いていたみたいだが……別に謝る必要はない。
住人が増えてくれるのは嬉しいからな。
それで……そっちにいるのが?
俺はそう言って、リネイアとシエルの後ろに控えているそれぞれ十人ほどの集団に目を向ける。
「はい、私の後ろにいるのが連れてきた悪魔族で……」
「あたしの後ろにいるのが天使族だね~」
「「「「「これからよろしくお願いします」」」」」
リネイアとシエルの紹介に一糸乱れぬ礼を見せてくる悪魔族と天使族。
いや……うん。
もちろんよろしくするのは構わないんだが……いきなり移住を決心している様子なのはどういう事だ?
「ああ、それはもちろんここの作物を食べさせたからだねー」
「こんなに美味しいものがあったのかと泣いて喜んでいましたね。……私達も人の事は言えませんが」
「あははー私らも初めて食べた時は泣いたねー。美味しくて美味しくて!」
……そうか。
作物を褒めてくれてありがとう。
それで、その食べさせた作物って言うのはやっぱり……?
「はい、フォイルが持ち出したものです」
やっぱりか。
そう、戻ってきたのはリネイアとシエルだけではない。
フォイルも戻ってきている。
戻ってきた当初、フォイルはとてつもなく顔色が悪かった。
何とか取り繕おうとしていたが全然取り繕えていなかったほどに。
見兼ねた俺はしばらく休んでいくと良い、と言ったんだが、フォイルはあっさり受け入れた。
さすがに見栄を張れるほどの元気がなかったんだろう、とその時の俺はそう思ったんだが、もう一つ、持ち出した作物がなくなったからその分を補充させてもらいたい、という理由もあったんだろう。
ちなみにフォイルは現在宴の隅っこで食事に舌鼓を打っている。
エネルギー補充中のようだ。
邪魔しないでおこう。
よし。
まずは街の皆に紹介しないとな。
新たな移住者を。
というわけで皆に紹介した。
「初めまして、皆様。悪魔族、デモンズのリネイアです。後ろの悪魔族たちの代表を務めております。これからよろしくお願いします。」
「あたしは天使族、エンジェルのシエル。あたしも天使族の代表を……つとめたくないけどつとめてまーす。よろしくー」
二人の挨拶にパチパチと拍手が返ってくる。
反応は上々だな。
……ふぅ。
皆当然のように信じてくれたが、移住する住人がいきなり出かけて行った……とか、普通何言ってるんだ? って反応されるのが当然だからな。
無事紹介できて良かった。
皆、積極的に話しかけに行っているみたいだな。
和やかに談笑している。
これなら悪魔族と天使族の皆もすぐになじめるだろう。
さて、こっちは大丈夫そうだし、もう片方の主役も様子を見に行くか。
そうして俺がやってきたのは、ウンディーネたちが集まっている一角。
そこは……乱痴気騒ぎと言うにふさわしい場所になっていた。
「「「「やったやった~進化やった~」」」」
そう口にしながらウンディーネ……いや、ハイウンディーネたちが小躍りしている。
そう、この宴、もともとはウンディーネたちが進化したことを祝うための宴だった。
急遽リネイアたちが戻ってきたため歓迎会も一緒にやることになったが。
いやぁ。
にしてもとんでもないテンションだな。
「ほんとだね~進化が嬉しいのは分かるけど~。もっと落ち着けばいいのに~」
そんな事を言いながらフィーネが俺の下に来た。
いや、フィーネもあんな感じだっただろ進化した時。
俺は忘れてないぞ。
そう、もう去年の話だが、フィーネも進化を果たした時とんでもなく浮かれた。
周りの全員に好き放題絡みまくって場が混沌としていた。
あれのせいで俺を神と呼んできたハイラとイアンたちの誤解を解くのがさらに大変になり、俺はとても苦労した。
「う゛。そ、そうだっけ~? お、覚えてないな~?」
しらじらしくしらを切るフィーネ。
いやまあいいけどな。
あれも今となっては良い? 思い出だし。
それより、ちょっと現金かもだが、ハイウンディーネに進化したことで出来ることが増えてたりはするのか?
「え? それはもちろん~。クイーンウンディーネのわたしほどじゃないけどみんな強くなったよ~」
そう豪語するフィーネに話を聞くと。
今までは水場から離れすぎれば角兎にすら勝てなかったが……いやまあ、果ての森で最弱とはいえ角兎に勝てない者は結構いるからにすらって言うのはおかしいかもだが。
とにかく。
水場から離れれば角兎にすら勝てなかったが、進化した事で例え離れても勝てるくらいに基本能力が上がり、さらには良い水場……俺が街に作ったような……の近くであれば、二頭鹿どころか三頭鹿にも十分勝ち目がある、と。
そこまで強くなったらしい。
……凄いな。
うちでは基本的にウンディーネは街の中で過ごして貰っている。
水場から離れすぎるなんてことはほぼない。
という事はつまり、三頭鹿も相手できる防衛線力が増えたって事だ。
とてもありがたい。
戦力はいくらあってもいいものだ。
今までは無かったが……街が襲われる事態が訪れるかもしれないんだからな。
さて、その後も話を聞くと。
基本能力が上がったとは言ったが肉体……いや水体? 自体のスペック自体はあまり上がっていないらしい。
顕著に上がったのは魔法の性能。
魔力自体が増えた他、さらに規模の大きい魔法を使う事も出来る様になったらしい。
とはいっても俺は魔法の事は正直まだよく分かってない。
創造神器で魔力を感じ取ることはできるけどな。
なので、魔法の性能が上がったと言われてもピンと来ていなかったのだが……。
「ん~あるじよく分かってなさそう~。……見た方が早いね~」
フィーネはそう言うと、はしゃいでいたハイウンディーネたちを集め何事かを話し始めた。
そしてフィーネの話にハイウンディーネたちは頷きを返し、お互いに手をつなぎ何事かを唱えだす。
ふむ?
俺が首を傾げ何を見せるつもりなのか、と聞こうとしたその瞬間。
ドバッ!!
……と、手をつないだフィーネたちから大量の水が溢れだした。
うぉぉっ!?
鉄砲水の様なその勢いに俺は驚き、とっさに顔を手で覆い身構え……るも。
いつまで経っても予想した衝撃は訪れない。
俺が恐る恐る目を開けると、そこには。
幻想的な光景があった。
フィーネたちから大量に溢れだした水は床をながれること無く、全て球状となり空中に浮遊し。
その間をつなぐようにこれまた空中を水が流れている。
まるで水で出来たネックレス。
まあネックレスというにはひもの部分があちこちにばらまかれているが。
そのネックレスは光を受けてきらきらと輝き、神秘的な印象を与えている。
……かつて水を球状に固めて浮かせる魔法は見せて貰った事があった。
ウンディーネたちの住処を拡張する時だな。
だが確かにこれは……規模があの時とは全然違う。
あの時は一つの球として浮かせるのがせいぜいだったのに、今は軽く十を超える球を浮かべ、さらにその間を水でつないで流れを作っている。
しかもその流れには水で象られた兎や狼が混じり、水の上を走っていた。
……凄いな。
目の前の光景に圧倒され、俺はつい声を漏らした。
「でしょ~?水魔石が無くてもこれくらいのことはお茶の子さいさいになったんだよ~!」
いつの間にか俺の近くに戻ってきていたフィーネが自慢げにそう告げる。
見ればハイウンディーネたちもとっくにばらけて、空中の水の中を泳いでいるな。
いや、心から驚かされた。
本当に見事な魔法だ。
俺はフィーネにそう返す。
「やったやった~あるじに褒めて貰えて嬉しいよ~!みんなもきっと嬉しいと思う~!」
すると、仲間が褒められたことをフィーネは我が事のように喜んだ。
そうやって話していると。
周りからも感嘆の声が聞こえてきた。
どうやら周りも俺と同じでこの光景に圧倒されていたらしい。
その衝撃から立ち返り、口々に興奮を言葉にしている。
凄い、こんなの見たこと無い、キレイ……そんな言葉が俺の耳に届く。
「代表様!」
興奮した様子でリネイアが俺の元へやってくる。
シエルも一緒だ。
「代表様、我らの歓迎の為にとても美味な食事だけではなくこのようなことまで……本当にありがとうございます!」
「いやー度肝抜かれたよー。ありがとねー」
リネイアとシエルが俺に感謝を告げてくる。
その顔はとても嬉しそうで。
いや……なんか成り行きでこうなっただけで別に予定してた訳じゃ……。
とは。
とても言えず。
俺は曖昧な顔で誤魔化した。
……まあいいだろう!
皆喜んだんだからヨシ!
俺はそう自分を納得させてその後の歓迎会を過ごした。
悪魔族も天使族も馴染めそうで良かったな。




