39.エルフとドワーフの進化と力試し
慌てて俺の部屋に飛び込んできたハイラをとりあえずなだめて落ち着かせる。
「すぅ……はぁ……す……すみません、取り乱してしまいました……」
いや、気にしないでくれ。
進化がどれだけ信じがたいものかは知っているつもりだ。
いざ自分の身に起こったら動揺してしまうのも当然だろう。
「……ありがとうございます、代表様」
こちらに礼を言ってくるハイラは、見たところ完全に落ち着いたようだな。
俺はハイラを改めて観察する。
体格は……見たところ大きく変わっていない、か?
少なくともコボルトたちの様に急激に体が大きくなったりはしていない。
だけど身体のメリハリがさらにはっきりしたな。
スタイルがさらに良くなったと言えば良いのか。
後は……顔が……キラキラと輝いている、ような?
いや、こっちはさすがに気のせいだな。
あとは魔力感知もしてみよう。
昨日魔力を感じてみた限り、進化した者は魔力も多くなってるはず……。
そう考え俺が魔力感知を使うと。
ボヤァ、と、昨日とは違う感覚が伝わってくる。
あれ? これは他の皆と同じ……。
昨日感じた時点では、ハイラの魔力は他とは違う感覚だったのに、今は他の者と同じ感覚になっている。
一体今日と昨日で何が違うんだ?
俺はそう考えて真っ先に一つ原因を思いつく。
やっぱり……進化か?
昨日と今日で違うことと言えばやはり進化したかしていないかぐらいしかないだろう。
ということは……進化前だったから魔力があんな……縮こまる感じだったのか?
さながら、蝶が羽化する前にさなぎになるみたいに。
ふむ。
昨日縮こまるような魔力を感じたのはハイラだけじゃない、イアンもだ。
エルフとドワーフは同時に移住したから、イアンが進化していてもおかしくはない。
もしイアンが進化していて、その魔力の感じが他と一緒になっているなら、この仮説はかなり信ぴょう性が出てくるな。
それに、今この街にいるエルフとドワーフたちの半数はハイラとイアンと一緒に来た者たちだ。
彼らが進化しているかどうかを確かめる為にも……。
「皆の様子を見に行く……ですか?あっ……確かにそうですね。気が動転していましたが私が進化したのなら他の皆も……。分かりました。お供いたします、代表様」
うん、ハイラも快く了承してくれた。
それじゃあ早速行くか。
と、そう思い、屋敷の玄関まで来たところで。
「代表殿!わしらドワーフが進化いたしましたぞっ!」
今度はイアンが走り込んで来た。
ハイラと同じようにイアンを落ち着かせて話を聞く。
「ふぅ……はぁ……。申し訳ありません代表殿。いてもたってもいられず……」
いや、構わない。
進化に興奮するのは理解できるからな。
それで……報告に来たんだろ? 聞かせてもらって良いか?
「了解ですぞ!……ごほんっ!今朝、わし含めドワーフ十名が進化いたしました」
ふむ。
やはり同時に来ていたからイアンたちも進化していたな。
俺はイアンを観察する。
観察する……が。
見た限りは昨日から変わっていないように見える。
いやどこか変わったか? これ? 激ムズ間違い探し?
ハイラはまだなんとなく変わっているな、と違和感を覚えられるレベルだったのだが……。
こっちは本当に分からない。
なので聞いてみた。
あー、イアン。
その、どうして進化に気付いたのかとか……一応聞いて良いか?
「ああ、申し訳ありませぬ。まだまだ高揚が抜けておりませんでしたな。一見してお分かりかと存じますが、髭ですぞ」
一見してお分かりにならなかったよ。
「わしらドワーフの誇りともいえるこの髭!これが美しく、そしてたくましく成長している……朝起きてすぐにわしらはその事に気付き、そして確信したのですぞ。わしらは進化したのだ……と!」
そ、そうか……。
髭が美しくなって良かったな……?
「はい!」
うぅむ。
俺にはよく分からないがこれもドワーフの文化だろう。
尊重しておくとしよう。
……ああ、そうだ、忘れる所だった。
イアンの魔力を調べておかないと。
髭カルチャーショックを受けながらも調べてみた結果、やはりハイラと同じで皆と同じような感覚になっていた。
この結果から見るに……やはり、昨日感じたあの縮こまるような魔力は進化の前兆だったのだろう。
二人して進化する直前にそうなっていたしな。
とりあえずそう結論付けておいて、本来の目的に戻ろう。
ドワーフの方はイアンが確認してくれたが、エルフたちの方はまだだ。
屋敷を出て、エルフ区画に向かう。
ああ、その前に中庭に寄らないとな。
それとイアンに進化したドワーフを連れてエルフ区画に来てくれ、と言っておく。
そして、エルフ区画に到着し確認した結果。
やはりエルフたちも進化していた。
イアンと違って屋敷に来なかったのは、ハイラが確認に来るだろうと思って待機していたからみたいだな。
上下関係がしっかりしている。
「代表様、確認が終わりました。進化していたのは私と共に来た九人です」
やっぱりか。
これまでの経験通り、およそ一年この街で過ごすことで進化するようだな。
……一年でおとぎ話の中に出てくるような現象を引き起こすって……改めて凄いな、創造神器。
さて、進化を果たしたものの確認は済んだが、まだ他にも確認しなければならないことがある。
まずは――
「ふむふむふぅ~む~……みんなハイエルフになってるね~。ハイラちゃんは~クイーンエルフ~!」
「私が……クイーンエルフ!?」
ふむ。
ルシュがクイーンになっていたからもしやと思ったが、ハイラもクイーンになっていたか。
フィーネが進化したエルフたちを見渡し、それぞれ進化した種族を判別してくれる。
さっき中庭に寄ったのは、フィーネを連れてくるためだな。
自分がクイーンエルフに進化したのだと聞かされたハイラは相当驚いている。
クールなハイラがここまで驚きをあらわにしたのは……ハイラたちを受け入れた時の歓迎会以来か?
あれ以来覚えがない。
それだけ衝撃的だったって事だな。
「あ、いえ……すみません、疑っているわけではないのです!ただ……信じられなかったと言うか……!」
「いいよいいよ~謝らないで~。でもわたしが言ったのは本当の事だからね~」
「本当に……私が……クイーンエルフに……」
ハイラは相当の衝撃を受けているようで、まだ少し呆然としている。
と、このタイミングで。
「代表殿、お待たせいたしました。進化した者たちを皆連れて来ましたぞ」
イアンがやってきた。
後ろにはドワーフを九名、引き連れてきている。
ちょうど良いタイミングだな。
フィーネ!ドワーフたちも頼む。
「りょうかい~。ふむふむふぅむ~。うん~!みんなハイドワーフになってるね~。イアンちゃんはキングドワーフ~!」
「フィーネ殿さすがにちゃん付けは……キングコボルト!?わしが……ですか!?」
「うん~、間違いないよ~」
「そんな……まさか……わしがあの……キングドワーフに……」
イアンも相当衝撃を受けたな。
固まっている。
しばらくして。
「申し訳ありません代表様、フィーネ様。少々事実を受け入れきるのに時間がかかってしまい……」
「こちらもじゃ。代表殿、フィーネ殿、申し訳ない」
構わない。
驚いて当然だろう。
「こっちも気にしてないよ~大丈夫~」
「「ありがとうございます(ぞ)」」
二人とも衝撃から立ち直ったみたいだな。
それじゃあ早速だが。
「進化してどうなったか確かめたい……ですか? それはもちろん構いませんが何を……」
「ふむ? 戦闘を? この森の魔物と? 代表殿、さすがにそれは……」
分かっている。
ここの周囲……果ての森の魔物は強い。
一番弱いと想定される角兎……正式? 名称ホーンラビットだっけ?
あいつを相手するだけでも犠牲を覚悟しなければならないほどだ。
だがそれはあくまで進化前の話。
進化を果たしたハイコボルトたちは角兎を問題なく狩れている。
それに複数でかかれば角兎よりさらに強い二頭鹿もおそらくは狩れるだろう、と申告を受けている。
まあ、幸運にも? 実現したことは無いが。
ともかくだ。
進化したならおそらく角兎も狩れるようになっているはず。
最低限それが出来れば森に入れるようになるし、警備も増やせる。
だから試させて欲しい。
もちろん万一が無いよう、俺とフィーネもこのまま同行する。
「代表様がそこまでおっしゃられるのであれば……分かりました」
「ふむ……こちらも分かりましたぞ」
こちらを信用してくれているのだろう。
ハイラとイアンはすぐに了承してくれた。
ありがたい。
早速出発しよう。
ということで森の中にやってきた。
来たのは進化したエルフとドワーフたち、そこに俺とフィーネ。
それなりの大所帯だな。
さて、戦闘力の確認をする為にはまずは角兎を見つけないと始まらないんだが……。
と、俺がそう考えていると。
「代表様、我らにお任せいただいても?」
ハイラ?
どうしたんだ?
「おそらく、進化したからなのでしょう。分かるのです、獲物がどこにいるのか。痕跡をはっきり感じます」
ふむ? 俺には分からないが……まあエルフは元々森のプロみたいなところあるしな、任せよう。
「ありがとうございます、ではこちらに……」
そう言うと、ハイラはハイエルフたちを指揮し、森の中を進んでいく。
すると……いた。
数分も歩くことなく角兎を見つけた。
合計三体。
こちらには気付いていない。
さすがだな、ハイラ。
ハイエルフたちも。
「ありがとうございます。我らも驚いています。これほど鋭敏に森を感じることが出来るとは……。それで、あのホーンラビットですが……我らが仕留めても? 進化した力をもっと確かめたいのです」
俺は構わないが……イアンたちは?
「かまいませんぞ。急いでいるわけでもありませんしな」
そうか。
じゃあハイラ、頼む。
「かしこまりました……っ!」
そう言うとハイラは他のハイエルフにハンドサインを出し、一糸乱れぬ動きで小型弓を構え……発射。
音もなく射出された矢は吸い込まれるように角兎に殺到し……命中。
その息の根を止めた。
おぉ……凄いな!
俺は感嘆する。
その弓……小さいから相手の虚をつくことくらいにしか使えないって言っていた弓だろう?
見事に角兎を狩れたじゃないか。
「お褒めの言葉、ありがとうございます。代表殿。今ならば……やれる、と。そんな確信があったのですが、その通りでした。これが進化の力なのですね……」
ハイラもだがハイエルフたちもこれが進化した自分の力か、と軽く呆けている。
それとは対照的なのがイアンたちだ。
進化したハイエルフの力を見て、自分達も……と期待に胸を躍らせている。
それじゃあ次はイアンたちに戦ってもらうか。
俺はそう考え、ハイラたちに索敵してもらうよう頼む。
「ハッ!かしこまりました!」
そうして数分。
再び角兎の発見。
今度は二匹だ。
「代表殿……今度はわしが。よろしいですかな?」
イアンがそう言いながら前に出る。
やる気は十分、と言った感じだ。
しかし一人で行く気か? 相手は二体いるんだしこっちも複数で……。
「ご心配は無用。見ていて下され」
そう言うとイアンは両手に斧を構え、角兎の方に走り出す。
俺は念のため、ハイエルフたちにいつでも撃てるよう構えていてくれ、と頼んでおく。
ほどなくして角兎たちもイアンの接近に気付いたようだ。
地を足で蹴り、角で刺し貫こうとイアン目掛けてすっ飛んでくる。
まずい、当たるか!?と、俺がハイエルフたちに発射の合図を出そうとした瞬間。
イアンが体を捩り、角兎の軌道から身をかわし……。
ズパンッ!
と、両手に持った斧を一閃。
角兎の首が落ちた。
はぁ……ちょっとドキッとした。
だけど凄いな、イアンも見事だ。
一撃で綺麗に仕留めるとはな。
「お褒めの言葉感謝いたしますぞ代表殿!これが進化の力……自分の思い通り、いやそれ以上に滑らかに体を動かすことが出来ました。素晴らしいですぞ!」
先程のハイラたちの様にイアンもかなり興奮している。
さて、一応監督はしていたが問題は無さそうだな。
このまま一塊になって動いても効率が悪いし、手分けしていこう。
皆も進化した自分の力を試したいってやる気に満ち溢れているからな。
というわけで、ハイエルフ二人、ハイドワーフ二人を一チームとし、合計五チームに分ける。
そしてあまり奥まで行かない事、何か問題があったら即帰還することを厳命し、皆を送り出した。
そうして送り出してからおよそ一時間ほど。
俺の前には角兎が軽く小山になっていた。
いやぁ……だいぶ……狩ったな……?
「「も……申し訳ありません……」」
どうやら。
自制をしようとは考えたものの、進化した事への高揚感に突き動かされ、ついつい自分の力を思う存分試してみたくなり。
その結果こうなったらしい。
うん、まあ……しょうがないか。
自転車とかだって乗れるようになったらいつまでも乗っていたくなっちゃうもんな。
気持ちはわかる。
それで……どうだった?
進化した自分の力は?
「それはもう、素晴らしかったです!」
「心躍りました!」
「つい我を忘れてしまいました」
「もう魔物ごときに負けません」
「”最強”になりました」
口々にハイエルフとハイドワーフたちがそう言ってくる。
なんか慢心してしまっている者もいるが……まあそのうち元に戻るだろう。
存分に確かめることが出来たみたいで良かった。
これからは巡回にも協力して欲しい。
さすがに数が少なかったからな。
「はい、代表様の命であれば」
「こちらも了解いたしましたぞ。鍛冶と採掘に専念したい気持ちもありますが……」
問題無い。
これからも進化する者はどんどん出てくる。
そうなればイアンたちもそのうち鍛冶と採掘に専念できるようになるだろう。
「それであれば否はありません。謹んでお受けさせていただきますぞ」
ありがとう。
助かる。
よし、話はまとまったな。
それじゃあこれからも俺を、街をその力で助けて欲しい。
よろしく頼む。
「「「「「はい!」」」」」
ちなみに、小山となった角兎はその後臨時の食事会を開き、全部美味しくいただきました。
なくそう!フードロス!




