38.新たな形態の実験と進化
創造神器の新形態と新能力が解放された朝。
いつも通りまずは試してみようと俺は外に出る。
今日は一緒に寝ていたムイも肩に乗って着いてきていた。
さて、解放されたのは新形態「扇」と新能力「魔力感知」……。
俺としては魔力感知が気になっている。
とても気になっている。
だけど俺は好物は後に残しておくタイプだ。
まずは扇の方から試してみよう。
というわけで早速創造神器に扇になれと念じる。
その結果変化したものは、扇……扇か? これ?
普通扇と言えば手に収まるサイズの大きさに円を切り取ったような形をしている。
だがこれは明らかに大きい。
手に収まるサイズどころか、軽く一メートルぐらいはある。
背中に背負えるサイズだ。
しかも形も、なんといえばいいのか……数字の八の真ん中の穴をふさいだような、円二つが縦に並んでいるような形。
これ、もしかしてアレじゃないのか?
だとしたら……うん、扇いでみるか。
意を決した俺は扇をまずは軽く扇いでみる。
すると。
そよぉ~……と、柔らかな風が吹いた。
俺の背後から。
……いや、偶然かもしれない。
もう一回だ。
再び扇を軽く扇ぐ。
風が吹いた。
再び背後から。
やっぱりか!
この扇、扇ぐと風を起こせるタイプのアレだ!
こういう感じの扇は有名だから俺でも知ってる。
そして思い通りに風を吹かせることが出来ることにテンションが上がった俺は、そのまま実験を続けていく。
その結果分かったことは。
一つ。
この扇は扇いだ方向に風を起こすことが出来る。
一つ。
風の強さは扇いだ強さに依存する。
もしかしたら思い切り扇げば台風みたいな風を起こせるかもしれない。
本当に起きたら大変だからやる気はないが。
この二つだ。
いや、毎度のことながら凄いな創造神器は。
これ、例えば船の上とかで使えば好きな方向に進むことが出来るって事だろ?
残念ながら直近に海に出る機会なんてないが、もしあればとても強力だ。
そうやって創造神器の強さをしみじみと感じていると。
ぽよぽよ、と、頬に柔らかい感触。
見るとムイが何か言いたげに震えている。
えぇと何々……思い切り扇ぐのもやっておくべき? 上に向けて扇げば余り影響も出ないだろうからって?
う~ん……そうは言ってもな……。
俺は渋るが、ムイはかなり熱心に勧めてくる。
かなり激しくぷるぷると身体を震わせている。
……ムイがそこまで言うなら……。
俺は折れた。
確かにどれほどまでの風が起こせるのか、気にならないと言えば嘘になるしな。
というわけで早速、周りに何もない場所に来た。
まだ土地は余ってるからな。
そして細心の注意を払い、上以外に向かないようにしながら……俺は扇を思いきり扇いだ!
ゴウッ!と、そんな轟音が俺の耳に響き、まともに受ければ俺の身体も飛んで行くんじゃないか、と思えるほどの風が空に向かって吹きこんでいく。
ムイと一緒に。
ムっムイ――――――ッ!?!?
俺は慌てふためくも、もうムイは手が届かないところまで吹っ飛んで行ってしまっている。
そのまま見えなく……なる直前で上昇が止まったらしい。
落ちてきた。
まずいまずいまずい!このままじゃ地面に叩きつけられる!
どうすれば……ハッ!この扇でいい感じにクッションになる風を出せれば……そんな調整出来るか!?
俺がそうごちゃごちゃと考えていると。
バッ!と、ムイが大きく広がった。
俺はあっけにとられる。
…………え? ムイお前……そんなことも出来たの?
俺が困惑している間にも、ムイはパラシュートの要領でみるみる落下速度を落とし、ふわり、と地面に着地。
そして俺の方にぴょんぴょんと跳ねて戻ってきた。
はぁ~……焦ったぁ~……っ!
ムイ、怪我はないか? ないよな? ふぅ、良かった……。
ムイを持ち上げ隅から隅まで確認し、俺は心から安堵する。
はぁ……大事無くてほんとに良かった……。
にしても……ムイ、まさかとは思うが最初からこのつもりで俺に扇を扇がせたのか?
そう問うと。
ムイはぷい、とあらぬ方向を向いた。
目を逸らしているのか?
未だにムイの目がどこにあるのかはわからないが。
……そうか。
俺はムイをむにむにと揉みまわす。
心配をかけた罰だ。
それからしばらく後。
俺は思う存分ムイの感触を味わい倒した後、確認の続きに戻ることにした。
ちなみにムイは地面に伸びきってぴくぴくと震えている。
しっかり反省するように。
さて、扇の確認は終わった。
次は本命、魔力感知の確認だ。
ふむ、何が起こるのか全く予想がつかない。
とにかく使ってみよう。
ということで早速俺は創造神器に念じる。
魔力感知、発動!
こんな強く念じる必要はないが……まあ、気分だ。
そして……。
んん? 何か変わった……か?
魔力感知は発動したが、特に何も変化が無いように思える。
俺はそのまま首を傾げながら、周りを見渡してみる。
そうしたら……違和感があった。
違和感の正体は……ムイだ。
魔力感知を発動したままムイを見ると、何故だか背筋がゾクゾクする。
何だこれ? 何かを感じてる……?
これが魔力か……?
よく分からないがそのゾクゾクに集中すると、何となくさらに鋭敏に感じられるようになったような気がする。
ゾクゾクが強くなり身体が震えてきた。
……ふむ。
一旦魔力感知を切る。
身体の震えは収まった。
なるほどな……。
かつてフィーネとラウームに魔力のことについて聞いた時、教えてもらった。
この世界の生き物は皆すべからく魔力を持つのだと。
ならばムイも魔力を持っているはず。
であれば今感じたものがやはり魔力なのだろう。
魔力感知……素晴らしい能力だ。
あれだけフィーネとラウームにいろいろ手ほどきしてもらっても感じることが出来なかった魔力をこんなに簡単に感じることが出来るなんて。
……感じることが出来るようになったと考えたらちょっと楽しくなってきたな。
ムイだけじゃなく、ルシュ、ハイラ、イアン、フィーネにラウーム……他のみんなも魔力を持っているはず。
せっかくだから見回りするって名目で感知しに行ってみるか!
そう考え、俺はまだ伸びていたムイを肩に乗せ歩き出した。
最初に出会ったのはルシュ。
森に狩りに出るハイコボルトたちの見送りをしているようだ。
ついでに俺もあいさつしつつ、魔力を感じてみる。
ふむ。
ボヤァ、と、ふんわりと魔力を感じる。
ムイの時のようなゾクゾクした感じはない。
あれは最初だったからか?
疑問を覚えつつもそのままルシュたちの方に集中する。
この中で魔力を一番強く感じるのはルシュ。
他のハイコボルトたちと比べると倍ぐらい違う……ような気がする。
ルシュはハイコボルトのさらに上位のコボルトクイーンだから、それでか?
そうして感知し終えた俺はハイコボルトたちの見送りを終え次に向かう。
次に出会ったのは、フィーネ、ラウーム、イグニータ、ユウフ。
水、地、火、風の精霊が一堂に会している。
見た感じ和やかにおしゃべりしているようだ。
その少し遠くで、イアンとハイラが様子を窺っているのも目に入った。
俺はまずイアンとハイラにこれはどうしたのか聞く。
「おお、代表殿!おはようございます!これは……イグニータ殿とユウフ殿を迎えに来て鍛冶場に向かっていたところ、フィーネ殿とラウーム殿がやってきましてな」
「そのお二人には畑の世話を手伝ってもらうため、私に同行してもらっていたのです。お二人はせっかくバッタリ会ったんだし挨拶をしたい、とおっしゃいまして。断る理由もなかったので容認し、我らはここで様子を見ています。……もしや、問題がありましたでしょうか?」
そう言いながら不安げにこちらを見てくるハイラに、全然問題ないから大丈夫だ、とそう返す。
ハイラはホッと息をついた。
同じ家に住むようになってからハイラの表情の変化がだいぶ分かるようになってきたな、俺も。
さて、あの四人は楽しそうだし邪魔するのも野暮だろう。
俺はここから魔力感知を使ってみることにする。
あの四人の方に集中し……魔力感知の発動を念じる。
すると。
また来た。
ボヤァ、とした感覚。
ルシュの時と同じだ。
だが、違うこともある。
ルシュの時より明らかに感じが大きい。
感覚に過ぎないが、ルシュの更に数倍はあるんじゃないか?
一番大きいのは……フィーネ。
ダントツで多い。
他の三人と比べて多分三倍くらい違う。
まあこの四人の中でフィーネだけは進化しているしな。
にしてもフィーネのこの魔力は……ルシュと比べたら十倍近くになるか?
これが進化を果たした精霊って事なのか……。
今はフィーネだけだがここで暮らしていけば、他の精霊たちも進化するだろう。
ラウーム含むノームたちなんかそろそろ進化するはずだ。
これまでの経験から言えば、大体一年ほどで進化は起きてきたしな。
……そう考えると、ノームたちより先にエルフとドワーフたちが進化するか。
楽しみ……おっと、そうだ。
イアンとハイラの分も感じてみるか、魔力。
せっかく一緒に居るしな。
そう考えた俺は魔力感知を使ったまま、ハイラとイアンの方に意識を向けたんだが……。
んん? なんだ、これ? これまで感じたどの魔力とも違う……ほんとになんだ?
俺が感じたのは違和感のある魔力。
魔力の大きさ自体はハイコボルトたちよりも下。
だがなんだか内に縮こもると言うか……そんな感じがする。
んん~~?
俺が首をかしげていると。
「あ、あるじ~おはよ~!」
「お疲れさまっす頭ぁ!」
「おお!おはよう代表殿!」
「うるさっ……こほんっ!おはよう代表さん。今日もいい風だね」
「ん……あ、ああ。おはようみんな」
どうやら話は終わったらしく、精霊の皆がこっちに来ていた。
俺は思考を止め、挨拶を返す。
そして精霊たちはそれぞれイアンとハイラに連れられ、それぞれの場所へ。
その場は解散する流れとなった。
イアンとハイラは行ってしまったが、魔力の感じは……まあ嫌な感じではなかったから大丈夫だろう。
俺はそう結論付けてその日を過ごし……そして翌日。
「だ……代表様!朝目覚めたらっ……っ!そのっ……私っ……!」
ハイラが進化した。




