36.作業の再開と包丁
気合を入れたこともあってか、畑づくりは問題なく終わった。
予想した通り大して時間はかからなかったな。
皆のおかげだ。
そして、作物も植えたので冬が来たからいったん中断していた作業を再開。
そうしたらすぐに完成した。
ドワーフたちに満足してもらえるレベルの炉だ。
「さすがは代表殿……!これほどのものをよく作り上げてくれましたな!要求が厳しいのではないかと思っておりましたが……お見事ですぞ!」
イアンが興奮しながら、そう言ってくる。
いや、実際大変だった。
ドワーフたちの要求はきっちり魔力を高め逃がさない炉だったからな。
魔力なんて全然わからない俺にとってはハードルが高かった。
一応うちで魔法の扱いに長けている精霊種族……ウンディーネのフィーネとノームのラウームにいろいろ聞きながらやったものの、いまいち理解はできず。
魔力というものがこの世界にはある、目の前で魔法を使われながらそう説明されても何も感じられなかったからな。
それでもなんとか形に出来たのはやはり創造神器のおかげだ。
よくわからないまま魔力を逃がさないような炉を作ろう!と、そう思って振るだけでどんどんいい感じの炉が出来ていった。
さすがにそれなりに試行錯誤は必要としたものの、創造神器がなければこのレベルの炉を作るのに一体何年かかったことか……。
本当に感謝だ。
さて、作ったのなら使ってもらいたいというのが、製作者の本音。
早速ミスリルを精錬してもらおう。
「お任せあれ、わしらドワーフも代表殿が炉を作ってくださっている間遊んでいたわけではありません。しっかり腕を磨いておりました。その成果を今みせますぞ!」
そう言うと、イアンはまわりのドワーフたちに声をかけ、炉に銀鉱石を入れる。
最初だからか、全員がかりでやるようだな。
そして銀鉱石を入れると炉の口を閉じ、石炭、火魔石、そして風魔石をくべる。
すると……。
ゴォッ!!!
と、かなりの熱気がそれなりに離れていた俺に届く。
明らかにいつも以上の熱気だ。
離れていたのに一瞬やけどをしたかと勘違いしたほどの熱量。
通常の火が風で大きくなるように。
火の魔力も風の魔力と掛け合わせることでさらに大きくなるらしい。
聞いてはいたが実際に見てみると凄いな。
凄いのはドワーフたちもだ。
これだけの熱気にさらされてちっとも堪えてない。
ひるむどころか、気合を入れて炉に更に燃料をくべている。
そうして数分ほど、真剣な目で炉を見続けていたイアンがカッ!と、目を見開いたかと思うと、炉の中から銀鉱石を取り出す。
銀鉱石は真っ赤に溶けていて……なんだろう、ぼんやり光っているように見える。
それをドワーフたちは金床に置くと、全員がかりで叩き始めた!
凄いな……これ、まるで熟練の餅つきを見ているみたいだ。
全員が力の限りめちゃくちゃに叩いているように見えて、互いに一切ぶつかっていない。
全員が全員、自分が叩くことのできるタイミングを完全に熟知しているんだ。
本当にすごい、これが職人技ってやつか。
そうやって俺が衝撃を受けながら見ていると、どうやら完成したようだ。
ドワーフたちが叩くのをやめ、叩いていたそれを水に突っ込む。
ジュゥゥーーッ!という音とともに水蒸気が上がり、それが治まるとドワーフはそれを水の中から取り出した。
取り出されたそれは見事な銀色だった。
一切の陰りがない滑らかな光沢。
つい目を奪われるほどに綺麗だった。
鍛冶に疎い俺でも見ただけでわかる。
大成功だ。
「……やったな!皆見事だった!つい見入ってしまったよ」
「ありがとうございます、代表殿!」
ドワーフはみな誇らしそうだ。
まあこれだけの物を作れれば当然か。
それに冬の間に積んだ研鑽の結果でもあるんだからな。
よし。
これから今みたいにミスリルのつるはしを作ってもらえれば、採掘作業はもっとはかどる……って、ん?
今ドワーフの皆が作ったこれ……、つるはしにしては薄くないか……?
「ええ、こちらはつるはしではなく包丁ですぞ」
包丁?
「はい、はじめに決めておりました。炉を用意してくださった代表殿に報いるため、最初は代表殿のお役に立つものを作ろう……と。これは我らからの感謝の証ですじゃ、受け取ってくだされ」
なんと。
ドワーフたちがこんなサプライズを考えていたとは。
正直……かなり嬉しい。
口の端がニヤついてしまっている。
おっと、礼を言わないとな。
イアン……皆。
ありがとう。
大切に使わせてもらう。
「はははなんのなんの、壊れたら言ってくだされ。また作ればいいだけの話ですからな」
大切に使うってば。
「はははは!」
その後。
ドワーフたちはミスリルのつるはしを作り始め、こちらも見事に成功。
一応様子を見ていたが問題はなかった。
皆イキイキと鍛冶をやっているな。
見ているこっちもやりたくなってくるほどだ。
まあ創造神器には金槌の形態があるから俺もやろうと思えばできるが、余裕が出来てからでいいだろう。
今はドワーフたちに思う存分鍛冶をしてもらおうと考えつつ俺は鍛冶場を離れた。
そうして俺がやってきたのは厨房だ。
山に行って追加でミスリルを採掘して来ようと思ったんだが……というかこのあとやろうと思っているんだが。
その前にせっかくだからドワーフたちに作ってもらったこのミスリル製包丁がどれほどのものか試してみたかった。
というわけで早速クッキングを開始する。
作るのはポトフと塩握り。
どうせなのでドワーフにも差し入れに行こうと思ってのチョイスだ。
まずやることは米を炊くこと。
そして次に野菜を切り煮込むことだ。
ここで早速ミスリル包丁の出番が来る。
綺麗に洗ったじゃがいもを皮付きでまな板に置き、ミスリル包丁を構える。
そして上から包丁を……。
スッ――……。
ん? あれ?
手応えがない。
じゃがいもが転がって刃を入れそこねたか?
俺がそう思うと同時。
ころんっ、とじゃがいもが真っ二つになって転がった。
え? 切れ……たのか?
全然手応えなんかなかったぞ!?
だが実際にじゃがいもはしっかり切れている。
その断面を見てみるがとても滑らかだ。
まさかと思い、断面同士をくっつけてみると……。
くっついた。
軽く振ってみても取れない。
いや凄いな!?
何だこの切れ味!
これがミスリルの力なのか……!
俺は戦々恐々とする。
それほどまでにすさまじい切れ味だったのだ。
それこそ自重だけで野菜ぐらい切れるんじゃないか? と思うほどに。
……ふむ。
本当に切れるんじゃないか?
やってみた。
切れた。
……えぇ……本当にすさまじいな……。
これまかり間違って足とかに落とそうものなら酷いことになるぞ……。
そう考えた俺は、普段から注意はしているが、それ以上の注意力で料理を進めていくことにした。
ふぅ。
ポトフの具材を全部切り終わった。
細心の注意を払ったおかげか、怪我はしてない。
もう包丁は使わないので少しは気が抜ける。
にしても本当にすさまじい切れ味だった。
具材がポンポン切れたもんな。
慣れたらかなり調理が楽になりそうだが、それまではかなり神経使いそうだな。
おっと、料理の方に集中しないと。
俺は切った肉と野菜を鍋に入れ、煮込む。
あとは煮込み終わったら塩で味を調えて完成。
ポトフは手軽にできて良い。
煮込んでいる間に塩握りを作る。
俺は塩を手にまぶし、ふっくらと炊きあがっているごはんを手に取り。
そして転がすような感じで握っていく。
あつっ……!あっつつっ……!
やっぱり炊き立てのご飯はあっついな!
ハンバーグでも作ってるのか? ってくらい手と手の間をぽんぽん飛び交ってる。
なんとか熱さに耐えきり塩握り完成。
握り終わる頃にはポトフもいい感じに煮えていた。
よし……完成だ!早速差し入れに行こう!
「差し入れですか!感謝いたしますぞ代表殿!」
そう言ってイアンたちは差し入れを喜んでくれた。
そうして、鍛冶場にもテーブルくらいは備え付けてあるので、そこにポトフの大鍋と塩握りを並べた大皿を置き、皆でよそって食べる。
「ふおぉっ!これは……美味いですぞ!消耗した体に染み込むようなこの旨味……素晴らしい!」
そう言いながらイアンがガツガツと料理を口に詰め込んでいく。
見回すと他のドワーフたちも同じだな。
ここまで喜んでもらえると作った甲斐がある。
それに美味しい料理が作れたのはイアンたちが作ってくれたミスリル包丁のおかげでもある。
ありがとう。
これからもよろしく頼む。
「代表殿……!もちろんです、見ていてくだされ!これからもわしらドワーフ、代表殿の為に粉骨砕身、働きますぞ!」
ドワーフたちの意欲が高まっているのを感じる。
差し入れは大成功だな。
そうやってその日は俺は採掘に行くまでドワーフたちと和気あいあいと食卓を囲んだ。




