30.シロリルの区画と第三地層
ぽよんっ……ぽよんっ……!
何か柔らかいものが当たっているようなそんな感覚で目を覚ます。
目を開けると見覚えのない天井。
寝ぼけ眼を擦り、どこだここ……などと考えていると、眠気が晴れてきた頭が答えを返してくれた。
ああ、新しい自宅だここ。
完全に目を覚ました俺はそう独りごちる。
身を起こすと俺の胸元で跳ねていたムイがずり落ちた。
咄嗟にキャッチ。
成功。
そのままぷにぷにと撫でまわす。
やっぱりムイは肌触りがいい。
抱いて寝ると疲れなんて吹っ飛んでいくからな。
ムイもぽよぽよ揺れてご機嫌みたいだが、こうしてばかりもいられないので部屋を出る。
ちなみにムイはいつも通り俺の肩にオンだ。
さて、俺の自宅の完成を持って、建築ラッシュは一旦終わりを告げた。
皆に居心地を聞いてみるが、前の方がよかったというものは一人もいなかった。
頑張って作った甲斐がある。
……ああ、もちろん俺もだ。
五十メートルクラスの豪邸を作られたのには少し面食らった物の、住んでみると広いし居心地が良いし最高だ。
だけどこれ、この広さに1人で住んでね、と言われたらさすがにかなり寂しい気持ちに襲われたかもしれない。
最初は少し気恥ずかしかったが、今では同居してくれているルシュたちに素直に感謝だ。
ちなみに皆新しい住居に移った事で不要になった古い住居の方だが、解体などはしていない。
愛着もあるし、それに臨時で想定外の住人を収容することもあるかもしれない。
なので一応残すことにした。
管理はコボルトたちが快く受け持ってくれたしな。
と、いうわけで。
当面の作業を終えた俺はシロとリルの様子を見に来ている。
二頭はフェンリル用に分け区切られた区画で仲睦まじく身を寄せ合っていた。
その内リルの方は、俺が見ても分かるくらいお腹が膨らんでいる。
そう、妊娠しているのだ。
妊娠に最初に気付いたのはルシュだった。
あれは第二次調査団が帰ってきた直後くらいだったはず。
「主様、すみません聞いて頂きたいことが……。リル様なのですが……もしかしたら、妊娠、しているかもしれません」
それを聞いた瞬間、俺は一秒くらい固まったと思う。
妊娠? リルが? なら相手は……シロ?
いやまあ、つがいを見つけたんだから繁殖もするだろうと分かってはいたが。
でもあんなに小さかったシロが子を作るなんて、と、頭が軽くバグってしまった。
俺は頭を振り、正常な思考を取り戻すとルシュに間違いないかどうか聞いた。
「はい、フェンリル様の……その、繁殖の情報はおとぎ話にはなかったので断言は出来ませんが、様子や匂いなどからほぼ間違いないと思われます」
そっか……そうかー……ルシュがわざわざ俺に言ってくるって事はまず間違いないんだろう。
にしても……そうか。
それなら……いろいろ気を遣ってあげないとな。
俺はそう決意した。
そういうわけで今に至る訳だ。
わざわざシロとリル用に区画を分けたのはそういうわけだな。
ここは言うなればフェンリル区画となり、シロの子供たちが健やかに育ってくれる場所に……なってくれると嬉しい。
「ウォッ……ワフゥッ……!」
俺に気付いたシロがこっちに寄ってくる。
それにつられるようにリルも寄ってきた。
二頭一緒に撫でる。
シロもリルも気持ち良さそうだ。
リルなんて最初少し撫でさせるだけでどっか行ってたのにな。
今では信頼してくれているのかがっつり撫でさせてくれる。
二頭とも毛並みがモフモフで撫でていると本当に気持ちいい。
そうやって撫でていると、ムイが自分も撫でろ、と、ぷよぷよの身体でぶつかってきた。
シロを撫でていたら、いつもこうやってせがんでくる。
だが俺の手は二本しかない……順番だ。
そう言うと、ムイは仕方ないなとぷるぷる揺れた。
そのまま三頭? 順番に撫でていった。
撫でさすりを堪能した俺は次に向かうことにする。
撫でながら観察したが、リルに問題は無さそうだったしな。
シロにもし何かあったら俺か、他の住人に伝えるんだぞ、と言ってフェンリル区画を後にする。
そうすると入れ替わりでルシュがやってきた。
ハイコボルトたちが持ち回りで二頭の様子を見に来ているのだ。
一番の理由は何かあった時に備える為だろうが、敬意を払っているフェンリルの子産みが気になる……といった理由もあるだろう。
まあ弁えて遠めに待機しているだけなので特に何も言わない。
シロたちも気にしてないみたいだしな。
ルシュにも何かあったら頼むと頼んでおく。
「もちろんです。フェンリル様の為ですから。お任せください」
……頼もしい。
さて、俺は俺の仕事をしよう。
と、いうわけで。
俺がやってきたのは山だ。
色々なものを採掘し、いつもお世話になっている山。
今回は普段掘っている地層の、更に奥を掘り進めていく。
開拓、建築ラッシュの前。
採掘にノームの協力を得られたことで、硬い第二地層もドワーフたちだけで採掘することが出来るようになった。
だから俺は第二地層の更に先、あるかもしれない第三地層を目指そうと考えていたんだが……。
そのタイミングで調査団の帰還、開拓、収穫、建築と、いろいろ込み合ってしまい。
更に奥への採掘が後回しになってしまった。
なので、もろもろが片付き余裕が出来た今、満を持して採掘を再開しようというのだ。
メンバーは四人。
俺。
ムイ。
ドワーフのイアン。
ノームのラウームだ。
「二人とも、よろしく頼む」
「了解っす!頭の為、粉骨砕身の覚悟で行くっす!」
「こっちもじゃ。代表殿のお役に立ちますぞ」
ありがとう。
さて、何故この四人かと言うともちろん理由がある。
俺とムイは言うまでもない。
掘るのは俺だし、ムイは貴重な光源だ。
そしてイアンとラウームは実験のために連れて行く。
第二地層ではノームが土魔法で土を柔らかくし、その部分を採掘することでドワーフたちの現在の装備でも採掘が可能になった。
そしてもし仮に第二地層の更に先、第三地層があった場合、その手が使えるのかどうか。
それを確かめる為にイアンとラウームを連れて行くことにしたのだ。
そういうわけで四人パーティーになった俺は早速奥へ奥へと掘り進めていく。
一応中断する前に少しは掘っていたのでそこからの続きだ。
この辺りまで掘ってくると外の明かりはほぼ届かない。
ムイがいなければ手元さえ見えないだろう。
本当にムイには足を向けて寝られない。
イアンとラウームには荷物持ちをしてもらう。
この二人の出番は第三地層が来てからだからな。
……こんなこと言っておいてもし第三地層がなかったら肩透かしだな。
その時は何かお詫びに美味しいものでも作ろう……。
そうやってお詫び料理のレシピも考えながら数日程。
その心配がいらなくなった。
第三地層を発見したのだ。
気付いたきっかけは光だった。
俺がいつもどおり創造神器を振ったら、掘った先からコロンっ……と、光る石が転がり落ちてきたのだ。
その石は転がり落ちた後も光り続け、ぼうっとした光を周囲に放っていた。
イアンが興奮した様子でその石を拾い上げ、教えてくれた。
どうやらその石は光石、と言うらしい。
魔力を内包した石であり、その魔力が尽きるまで光り続ける、と。
かなり貴重で今ではもうほぼ見なくなった石であるとか。
そして嘘か真か……かつて城ほどに大きい巨大な光石が、太陽と見まがうほどの輝きで百年以上国を照らし続けた……なんて話もあるらしい。
百年照らしっぱなしとか寝るとき困らないか?
俺はそう思ったが口には出さなかった。
野暮だしな。
ともかく。
新しい鉱石が出てきたと言うことはおそらくここが第三地層なのだろう。
早速周囲を軽く掘ってみる。
その結果……出た鉱石は三つ。
一つ目は光石。
イアンが興奮して拾い集めていた。
二つ目は銅鉱石。
これもイアンが教えてくれた。
加工すれば魔銅……マナブロンズという金属に出来るらしい。
これであれば魔鉄製のものよりいいつるはしも作れるとか。
そして三つ目。
地魔石。
火、水、と出てきたから予想していたが出てきたな、地魔石。
こっちはラウームがとても興奮していた。
ノームにとってはとても相性のいい触媒らしく、ウンディーネ同様近くに置いてあるだけで安らぎを得られるほか、土魔法を強化することも出来るらしい。
出てきたのはこの三つ。
結構掘っても他には出てこなかったし、第三地層はこの三つが採掘できる地層なのだろう。
採掘物も確認できたところで次は実験だ。
連れてきたイアンにまずは普通につるはしを振ってもらう。
と……。
ガツンッ!
「くぅっ……!ダメですぞ……主殿。第二地層より更に硬い魔鉄製のつるはしでは全く歯が立ちませんぞ」
ふむ。
予想はしていたが更に硬くなっているのか……。
それじゃあ次はラウーム!協力してくれ。
「はいっす!第二地層でやったように土魔法でここの土を柔らかくすればいいんっすね!行くっすよ~!」
結果。
「うぅっ……すみません……頭ぁ……!自分は役立たずっす……」
それでも歯が立たなかった。
いや、立ってはいる、立ってはいるのだが……、時間がかかりすぎる。
流石に非効率だ。
「うぅ……ほんとすみませんっすぅ……」
そう落ち込まなくていいラウーム。
まだ考えがある。
「? 考え……っすか?」
そう、タイミングよくちょうどいいものが採掘されただろ?
地魔石を使って土魔法を使ってみてくれ。
「ああっ、その手があったっすね!了解っす!行くっすよぉっ!」
そして結果。
「やったっすぅーっ!掘れたっすよぉーーーっ!」
見事に第三地層を掘ることが出来た。
ラウームは汚名返上できてうれしいのか小躍りしている。
ふむ、手ごたえはどうだ? イアン。
「土魔法をかけられた第二地層とほぼ変わらぬ手応えですじゃ。これならわしらだけでも問題なく採掘できるでしょうぞ。ちょうど光石も出てきましたしな。問題は……」
ああ、問題はこの採掘には地魔石を使う事。
地魔石を掘るのに地魔石を使うとかいう訳の分からない状態だ。
しかも実験してみた感じだと地魔石の収支はトントン……いや下手したら緩やかに減るんじゃないか? これ。
流石にこれではゴーサインは出せない。
だがまだ希望はある。
「イアン、マナブロンズ……だったか? この銅鉱石を加工したら魔鉄製よりいいつるはしが出来るんだよな?」
「はい、その通りですじゃ。マナブロンズ製のつるはしであれば……」
「地魔石無しでも第三地層が掘れるようになるかもしれない……か」
現時点ではこれが最も可能性のある方法だろう。
そうとなれば……やることは決まったな。
光石と地魔石はひとまず後回しだ!
俺が手当たり次第に掘るから、片っ端から銅鉱石を拾ってくれ!
大量の銅を持ち帰るぞ!
「「おぉーっ(っす)!」」
そういうことになった。




