26.開拓と試食会
さて、歓迎会から少し経ち、俺は改めて現状に思いをはせる。
今現在、うちにいる住人は約八十人。
……増えたな……だいぶ。
まあ先日、四十人ほど一気に増えたからだが……。
一気に住人が増えたが、作物をガンガン増産していたこともあって、食料の供給は十分追い付いている。
強いて言うなら肉の供給が少し不安か?
だがこれは、住人が進化して狩りに出られるものが増えれば解決する問題だ。
ドワーフたちに罠も作ってもらっているしな。
そう悲観する問題でもないだろう。
歓迎会の後も様子を窺っていたが、新しくきた住人がトラブルを起こす様子はなかった。
しっかりルシュたちの下で作業をしてくれているようだ。
これなら安心して次に進める。
そう。
多くの住人を受け入れた後にやるべきこと。
畑の拡張? 住居の増設?
もちろんそれもある。
だが、それ以前にやらなければならないことがある。
それは……。
――開拓だ。
ルシュたちコボルトと出会い、この場所に本格的な街づくりをすることに決めた時。
俺は拠点周囲をかなり広めに開拓した。
住人を増やす気満々だったからな。
今もって拠点の容量に余裕はある、余裕はある……が。
新たに受け入れた四十人近くの住居。
および、次の収穫の後、さらに広げるつもりの畑。
さらには、倉庫や鍛冶場の増設など。
もろもろを考えれば、敷地はもっと欲しい。
と言う訳で収穫前で人手がガツンと増えたこのタイミングでドカンと開拓を進めていく。
そういう訳で俺は今、森の木を伐採している。
まずは木を切らないと何も始まらないからな。
ここ、果ての森の木はかなり硬く、現時点でドワーフが作れる斧でも伐採自体は出来るが時間がかかる。
だが、創造神器を持つ俺であれば数振りするだけで伐採できるし、何より今は人手があるので、一本伐採するのに多少時間がかかっても問題無しだ。
ということでまずは伐採をガンガン進めていく。
ちなみに伐採した木は薪や住居用の木材に使うので、これも増えた人手で運んでもらう。
いや~人手が多いって素晴らしいな!
作業しながら見ている感じでも、新しく来た者たちとルシュたちの間で軋轢は出てない。
これなら何も心配することなく開拓に打ち込めるだろう。
そうやって皆で順調に伐採を進めていたんだが……異変が起きた。
シロとリルがかなりの速度で俺の元に駆け戻ってきたのだ。
戻ってきたシロとリルは二頭とも来た方向の森の中をじっと睨んでいる。
……シロとリルには開拓の間、周囲の警戒を頼んでいた。
普段警戒をやってくれているハイコボルトたちも開拓に動員したからな。
これまでは問題なく警戒ついでに狩りも行って帰って来ていたし、コンビなら二頭鹿でも問題なく狩れる。
その二頭が俺の下まで退いてここまで警戒する相手って……。
俺はシロたちの警戒につられるようにして、創造神器の斧を持ち直す。
すると、森の中からバキバキという音が徐々に近づいてきた。
何だ? この音…二頭鹿か? でもそれならシロたちが戻ってくることなんてないはず……。
そう考えながら警戒を続けていると、ついにそいつが森の中から姿を現した。
大きな体、たくましい角、複数の頭。
最初俺はそいつを二頭鹿だと思った。
だがすぐに間違いに気づく。
なぜならその鹿には……頭が三つあった。
え? 頭が…三つ? ってことは……三頭鹿?
……二頭の時も思ったけど……頭が増えるのは犬だろ!普通!
俺がそう思ってあっけに取られていると、近付いて来ていたルシュが俺に声をかけてくる。
「ま……まずいです……主様っ!あれは……ケルベディア―!おとぎ話に出てくる、天災と呼ばれる魔物です!目にするのは初めてですが、この威圧感……間違いありませんっ!」
ケルベディア―? ……ああ!頭が三つだから……。
「フェンリル様方が主様の所へ戻ってきたことをみるに……彼らでも相当に苦戦、も……もしくは敗北する相手かもしれませんっ!ですから、お逃げ下さい主様!最悪、今の街を捨ててっ!我々が時間を稼ぎます!」
……そう言われても、流石に逃げられない
せっかく大きくなり始めた街を捨てるなんて嫌だし、ルシュたち……仲良くなった住人を見捨てるなんてもってのほかだ。
「ですが……!」
大丈夫だよ、安心してくれ。
俺はそう言って気楽に三頭鹿の方に歩き出す。
自分でも何でこんなに落ち着いていられるのかと俺は自問自答するが。
まあ創造神器のおかげだろうな……間違いなく。
天災と呼ばれる魔物だと、そう聞いても全く動揺はない。
はーそうなんだな、と思うだけだ。
……三頭鹿の目前に辿り着いた。
奴は後ろ足で地面を蹴っている。
どうやら突進で俺を轢きつぶそうとしているようだ。
三頭鹿が走り出そうとする一瞬手前。
俺は導かれるようにして創造神器を振り抜く。
と――
ドォンッ!っと大きな音を立て。
三頭鹿の頭が全て地に落ちた。
いやぁ。
自分でやっといてなんだが。
やっぱりすごいな創造神器!
一振りしかしていないのに、明らかに刃渡り以上の太さの首を……しかも三本同時に落とすって!
凄すぎて逆に怖い。
武器としては出来る限り……うん、やむを得ない場合以外使わないように心がけよう……。
あっとそうだ。
せっかく狩ったんだから早めに血抜きとか下処理とかしないとな。
そう考えて俺はルシュたちの方を振り向く。
と、彼女らは口を大きく開け唖然としていた。
「あ……主様、まさか倒されたのですか……?天災と語られる魔物、ケルベディア―を……」
「え? あ、ああ……創造神器のおか――」
「す……素晴らしいですっ!!!ケルベディア―すら一撃で仕留める、主様は我らの想像など遥かに超えるような至高のお方でした……っ!そんな主様に逃亡などっ!本当に申し訳ありませんっ!主様を疑うような真似をしてしまい……っ!」
「いやそれは全然構わない。立場が逆だったら俺も同じように言っただろうし。それより――」
「ああ……!何と寛大な!主様、これより我らハイコボルト一同、これまで以上の忠誠を捧げること、ここに誓います」
そういうと、ルシュだけでなく、その場のハイコボルトが皆、跪いて頭を垂れてきた。
え? いや、嬉しいがそこまでする必要は……。
俺がそう言ってもルシュたちは跪いたまま頭を上げず……。
俺は彼女らを落ち着かせるため、その後めちゃくちゃ説得した。
「も、申し訳ありません……。つい感極まってしまい……」
いやいいよ、気にしないでくれ。
そう言ってルシュを慰める。
あの後しばらくしてルシュたちを落ち着かせることが出来た。
今はハイコボルトたちに三頭鹿の解体をやってもらっている。
見るたびに思うが本当に卓越した手際だ。
見る見るうちに解体が進んでいく。
にしても……完全に食べるつもりで持ち帰ろうとしているが、三頭鹿は食べられるのか? 創造神器の力で毒が無いことは分かっているが……。
「……申し訳ありません。おとぎ話でも食べたという記述は見かけたことが無く……。おそらく誰も食べたことは無いのではないかと……。いえでもっ、それだけ主様が誰にも出来ぬ偉業を成し遂げられたということでっ……」
フォローありがとう。
ふむ。
誰も食べた事なくて味を知らないなら、実際に食べて確かめてみるほかないな。
ちょうど日も傾きかけてきている。
今日の作業はここまでにして戻ろう。
そういって俺たちは帰途に就いた。
そして。
「美味しいっ!美味しいですっ!こんなお肉がこの世にあったなんてっ……!」
「なんという……!手が止まりませんっ!」
「美味!美味!素晴らしい美味じゃあっ!」
三頭鹿の肉は、大好評だった。
帰ってきて三頭鹿の肉を味わうことにした俺は、試食会を開き、早速三頭鹿の肉を焼いてみることにした。
味を見るならそれが一番いいと思ったのだ。
そして焼いたんだが……、この時点でもう凄かった。
何が凄いかって、その匂いだ。
三頭鹿の肉は焼くだけで、美味しいと言うことを伝えるがごとくジューシーな香りをまき散らした。
どれだけだったかと言うと、焼いている俺に周りにいたものが寄ってきたほどだ。
中には涎を垂らしている者もいた。
そうしてほどなくして焼き終わり、匂いからほぼ分かってはいたが、それでも確かめる為に三頭鹿の肉を口に運ぶ。
最初に感じたのは爆発だった。
まるで口の中で水風船を噛んだかのように肉汁が起爆した。
とてつもなく強い旨味が口いっぱいに広がる。
そのあまりの旨味に俺はついすぐに飲み込んでしまった。
反射的にそうしてしまう程の旨味の暴力だったのだ。
これは皆にも食べてもらおうと、俺は三頭鹿の肉を大量に焼き、皆に振る舞った。
その結果が……先の大好評だ。
皆口々に美味い!と言いながら肉を口に運ぶ。
もちろん俺もだ。
最初は反射的に飲み込んでしまったので今度はじっくり味わう。
やはり凄い。
一噛み目だけではない何度噛んでも旨味が溢れ出してくる。
どれだけ噛んでも尽きないのではないかと思えるほどだ。
そのままでも美味いが岩塩を付けるとさらに美味い。
しょっぱさとジューシーさが混ざり、食べる手が本格的に止まらなくなる。
三頭鹿の肉は、今まで狩ってきたどの肉よりも美味しかった。
そうして皆で三頭鹿の肉に舌つづみを打つことしばらく。
なんと……一頭丸々食べ尽くしてしまった。
一日で。
いやぁ……人数がいるとはいえ、あのかなりデカかった三頭鹿を食べ尽くすとは。
それだけ美味しかったって事だな。
みんな腹いっぱい食べ尽くして大満足のようだ。
もちろん俺も。
心地良い満腹感が体を満たしている。
はぁ……本当に美味しかったな。
もしも次があったら……三頭鹿を狩る機会がもしもあったのなら、その時も絶対逃さないようにしよう。
大満足の胃袋を擦りながら俺はそう決意し、試食会の夜は過ぎていった。




