212.フロストフラワーシャーベット
「どうかっ……どうかっ! 寛大な処置を!」
俺の目の前で地に着かんばかりに頭を下げているフィノウ。
屋敷の中庭で、屋敷の高さを越えんばかりに成長したフロストフラワーをどうしようかと悩んでいたらいきなりそんなことを言ってきた。
いやどうした?
「いや、だって……一番手っ取り早い解決策は代表様が刈り取ることだろう? 果ての森の木を苦も無く伐採できる代表様ならそう出来る」
下げていた頭を元に戻しフィノウがそう言う。
まあ確かにやろうと思えばできるな。
「だろう? だけど……原因の片翼が何を言っているんだと思われるかもしれないけど、ここまで強く美しく咲いたのに伐採は……流石に可哀そうというか……どうか! 伐採以外の解決法でお願いします!」
上げた頭を再びガバァッ! と下げ、そう言ってくるフィノウ。
まあその気持ちは分かるが……うーん、それならどうするか……。
伐採せずにこのフロストフラワーをどうにかする方法を考える。
放置……は当然駄目だな。こんな寒いと生活に支障が出る。
枯らす? それも伐採と同じことだろう。
小さく砕くのも当然駄目だろうし……。
俺はうーんと頭を悩ませる。
しょうがない。
咲き誇った花を小さくする方法なんて今まで考えたこと無いから。
いや本当どうすればいいんだ……?
「僭越ながらよろしいでしょうかご主人様」
と。
俺がうんうん唸っていると、中庭に案内した後は俺の後ろに静かに控え続けていた家事妖精のキールが俺に声をかけてきた。
うん? もちろんいいが、何だ……?
俺はその言葉にそう返す。
すると。
「はい。砕くのは駄目でも削るのはどうでしょう」
削る?
「はい。前冬もフィノウ様に作って頂いた……かき氷です」
……ああ! その手があったか!
ガリガリガリガリ……。
早速フロストフラワーの花を端っこの方から削り、シャーベット状にしていく。
フロストフラワーの花部分は相当に高い所にあるが、フィノウはフロストフラワーを囲むような形で、氷の螺旋階段を即席で作り上げ、その位置まで登って作業している。
落ちるなよー。
「ハハハ夏ならいざ知らず、冬のボクならたとえ落ちても大したことないよ。そもそも落ちないけどね」
俺の声掛けにそう返してくるフィノウ。
確かに見ている感じとても安定している。
氷の階段なんてすぐに滑りそうなのに。
……もしかして魔法で滑らないように出来ているとか?
俺はそう考え氷の螺旋階段の一段目に足をかけてみるが……普通に滑った。
つるんと。
念のためかけた足とは反対の方に重心を乗せていたため転ぶことは無かったが、もしかけた足に重心を乗せていたら頭から転んでいたかもしれない。
「ご安心ください。もしそうなっても私が受け止めましたので」
いつの間にかほぼ密着レベルにまで近づいていたキールがそう言ってくる。
心配してスタンバイしてくれたらしい。
その近さには驚いたが……ありがとう。
「いえ。当然の務めですから」
俺の礼にそう返してくるキール。
少し頬が赤くなっているようにも見えるが……。
「ふぅっ、ただいま代表様。一応削り終わったよ」
と、そこで両手で抱えるサイズの容器に細かく削られた氷をこんもりと積み上げたフィノウが戻ってきた。
ああ、ご苦労……それでどうだった?
「うん。これだ削ってもフロストフラワーには影響が出なかった。末端から削って小さくしていくというこの作戦は有効みたいだ」
俺の問いにそう返してくるフィノウ。
それは良かった。
さて、それじゃあ後は削った氷をどうするかだが……。
別に適当に廃棄するのでもいいが……せっかくなら有効に使いたい。
と、くれば……。
……食べる、か?
「フロストフラワーを食べる、か……正直食べられるかどうかは分からないな。そんなことした人居ないと思うし」
まあ普通の花ならまだしも冬にだけ咲く氷の花だしな……食べようなんて考える者はいないか……。
そう言いながらとりあえず創造神器を向けてみるが、毒的な反応は無い。
普通に食べられるようだ。
ふむ。
なら折角だし食べてみようと去年と同じように、リンゴ、オレンジ、ブドウの果汁を絞って、フロストフラワーのシャーベットにかけ、早速一口。
……美味い!
口に入れた瞬間俺の口に広がったのは、ふわり、と口の中で溶けるような感触。
そこに果汁の甘みが加わり、口の中でハーモニーを奏でていた。
いや、去年フィノウが作った氷で食べたシャーベットも美味しかったけど……これはさらにその上をいくかもしれない……!
シャクシャクと食べ進めながら俺はそう思う。
しかも結構ガンガン食べてるのに全然頭痛くならないし。
「うん……確かに美味しい!」
「ええ、美味です」
俺と同じように食べているフィノウとキールもそう感想を漏らす。
やっぱり美味しいよな。
ふぅむ……フロストフラワーがそもそも美味しいのか、それとも進化した雪妖精であるフィノウがその力を注いだから美味しくなったのか……。
「うーんどうだろうね……」
「どちらもあるのでは?」
そんな話をしながら食べ進めていると。
「あ~! あるじ~何食べてるの~?」
ウンディーネの代表、フィーネがやってきた。
その声を皮切りにぞろぞろと屋敷の住人たちが集まってくる。
その視線は俺達が食べているシャーベットに注がれていた。
あー……皆で食べるか。
その後。
中庭からほど近い空き部屋。
俺はそこにテーブルやお部屋ぽかぽか君を運び込み、即席の食堂代わりにし、そこで皆でシャーベットを味わっていた。
「ん~! 甘~い!」
「ほんとー……仕事中に欲しくなるー……」
「仕事中に食べたら書類が汚れますよ」
「そんなヘマしないってー」
「去年よりもおいしいです。腕を上げられたのですか?」
「上がったのは腕というより存在かな……進化したから……」
「なんと。それはおめでとうございます」
「ははっ、ありがとう」
冬とは思えぬ暖かな部屋の中で和気あいあいとシャーベットを囲む俺たち。
屋敷の中までとんでもなく寒くなっているとは想像も出来ぬほどだ。
だけど……。
うーん結構削ったんだけど冷気は収まってない……やっぱりデカいからな……手作業で削るのだと数日かかるかもしれない。
その間ずっと寒いままか……。
「別に溶かせばええじゃろ」
シャーベットを食べながら考え込む俺にそう声をかけてきたのは黒龍王リーア。
いやいつ来た?
「甘そうな匂いがしたからの。寒かったから暖かくなるまで寝ていようと思っていたが。そんなことより氷なら溶かせばいいじゃろう」
パクパクと上機嫌にシャーベットを口に運びながらそう言ってくるリーア。
溶かす、か。
確かにそれなら……いやでも氷って火に当ててもそう簡単には溶けないんじゃなかったか?
「それにあのフロストフラワーはボクが力を注いだ奴だから生半可な火じゃ一切溶けないと思うけど……」
フィノウもそう会話に入ってくる。
「生半可じゃなければ溶けるということじゃろ。目の前にいったい何が居ると思うておる」
偉大なる黒龍王。
「ぬぐっ……それはやめよっ……」
そうして。
念には念を入れ、フィーネの監視のもと、ドラゴンブレスでフロストフラワーを溶かしてもらう。
ゴオオッと天を突く炎。
しかしそれは完璧に制御され、屋敷に燃え移ることは無かった。
凄いな……。
「ここに住み始めてから結構練習したからのう。燃え広がらせたらお主、怒るじゃろう?」
ああ、もちろん。
「……練習してよかった……」
そのままリーアは制御をミスすることもなく、巨大な氷の花を溶かしきった。
溶けた跡地には、通常の花と同じサイズまで縮んだフロストフラワーの姿がある。
「おおっ……ありがとう代表様、リーア様! 伐採はしたくないというボクの願いをかなえてくれて!」
「構わぬ。シャーベットとやら美味じゃったからのう」
こっちも構わない。
「本当にありがとう! お礼にシャーベットをもっと御馳走するよ!」
「おお、良い心がけじゃのう。良いぞ。たくさん持ってくるが良い」
あー……気持ちは嬉しいが、俺はいい。
「そうかい? じゃあリーア様に代表様の分も御馳走しようか」
「ふはは! 美味ならいくらでも歓迎じゃ!」
……そんなこと言って大丈夫か?
結論としては大丈夫じゃなかった。
「のじゃぁ……」
お礼のシャーベットを大量に食べたリーアはお腹を壊し、自室で布団にくるまることになったのだ。
龍王の腹をも壊す氷って……それはそれで凄いな。




