210.ダーツ
その後。
「なるほど。とても面白い遊戯ですね」
通常のカーブどころか、マッセ……上から手球をつくことで急激な回転をかけ、とてつもない軌道を描かせるボール……すらも習得したルシュはなんと、ワンミスすらすることなく九つのボールを全て落とすパーフェクトゲームすら披露して見せた。
台のふちに腰を下ろしてキューを構える姿がとても様になっている。
その佇まいはもはやプロのそれだ。
ビリヤードは今日知ったはずなんだが。
「これはとても楽しいです」
笑顔でそう言ってくるルシュ。
まあ、楽しんでもらえたなら何よりだろう。
俺も正直トリックショットを生で見ることが出来てちょっとテンションが上がっているしな。
……これルシュと他のハイコボルトの対戦とかどんな風になるんだろうな。
プロ同士の戦い見たくなるんじゃないか?
ビリヤードのプロの戦いなんて前世で見たことはないが。
まあ、とにかく問題なく遊べたし次も作っていこう。
ビリヤード一式を完成させた俺が次に作ったのは……ダーツボード。
木材をそれっぽく削って、得点を書き込んだシンプルなもの。
そして余った木材を削りダーツの矢も作っていく。
胴体と羽部分になるよう木を削り、先端に鋭く研いだ針を取り付ける。
これで完成。
どちらも簡単な作りですぐに出来上がり、こっちはそう手間はかからなかったな、と俺がそう思っていると……問題発生。
「主様。刺さりません」
テストとしてルシュに投げてもらったら……なんと矢がボードに弾かれた。
矢はカンッ……と軽い音を立て、そのまま地面に落下する。
入射角が悪かったのか? ルシュがそんなミスをするとは思えないが……。
一応その後数回投げてもらったが全て結果は同じ。
弾かれた。
俺も注意深く様子を見守っていたが、ダーツの矢はまっすぐ飛んでいた。
なのに刺さらなかった。
俺は原因を調べ……すぐに分かった。
うん。これ単にボードが硬いんだな。
ボードに矢を手に持ったまま当ててみるが、カツカツと弾かれる感触が俺の手に伝わってくる。
いやまあそりゃそうか。
レースピアの街周辺、果ての森の木材はとんでもなく硬い。
俺は創造神器で簡単に伐採できるが、他の住民だとミスリルアクスを力の限り叩きつけてなんとかって感じだ。
矢の先端にはミスリルじゃなくて魔鉄を使ったし、投げてもらうときも軽く投げてもらった。
この条件なら弾かれても当然か……。
ふむ。
なんとなくダーツ矢の先端と言えば鉄だろ、なんて決めつけで魔鉄を使ったが、ここはミスリルを使わせてもらおう。
ダーツの先端に使う量なんて微々たるものだしな。
そう考え、先端をミスリル製に換装した後、再びルシュに投げてもらう。
と。
カンッ!
「主様。弾かれました」
うん。
見てた。
これで問題なく刺さるだろうと思われたミスリルダーツはそれでもなお弾かれた。
原因はおそらくあれだな、力不足。
ミスリルアクスは果ての森の木を伐採できるとは言っても、それは力いっぱい振り切ることでようやく成せるもの。
手のひらに収まるほどのダーツ矢では流石に刺さるほどの威力は出ないのか。
うーん、どうしたものかな……。
いちおう魔金……魔銀たるミスリルを超えるものはあるが、さすがに遊具にそれを使うのはどうなんだ? ボードを木以外の物にしたら……布とか……いやすぐ破れるか……。
俺がああでもないこうでもないと考えていると。
「ふむ……主様、少しお離れ下さい」
ルシュが俺にそう言ってきた。
俺が素直にボードから離れ、ルシュの後ろに控えると、ルシュはダーツの矢を手に取り力を込め……投擲。
すると。
カッッ!
ダーツは今度は弾かれること無くボードのど真ん中に突き刺さった。
……え?
「やはり……確かに軽く投げれば弾かれますが、それなりに力を籠めれば刺さります。これは……果ての森の木に刺さるだけの力を籠めつつ、狙った場所に当てる……そう言う遊戯なのですね? 力と正確さのバランスをとる素晴らしい鍛錬にもなります」
いや純粋な遊び用に作ったんだが……。
俺はど真ん中に綺麗に真っ直ぐ刺さっているダーツ矢を見ながらそう言った。
そうして。
「ふっ……ぬっ……これ、なかなか難しいですね……球が狙った通りに転がってくれませんっ……」
「ちゃーんと計算して打たないと。跳ね返る確度は予想できるんだしさー」
「……なるほど確かに。これは手先の感覚と力加減を養うのにいいかもしれませんね。どころか……このダーツ矢……でしたか? 暗器としても使えそうですね……」
「確かに。それでは書いてある数字は獲物に与えられる傷を分かりやすくしたものでしょうか……」
「ええ、そうかもしれません」
いや全然そんな意図はない。
普通に得点だ。
完成したビリヤードとダーツを最後に調整していたら、この新しく改装した娯楽室にどんどん住民が集まってきていた。
別に声をかけたわけでもないんだが……何故?
「代表様のお声が聞こえましたので」
「ねー」
……もともとあった方の娯楽室には防音結界張ってあるはずなんだが。
ま、まあいい。
どうせ誰か呼ぼうと思ってたしな。
手間が省けた。
そう思いながら俺は新娯楽室の様子を見まわすが、皆笑顔でビリヤードとダーツに勤しんでいる。
ビリヤードは中々思った通りに転がらない、ダーツは狙ったところに当たらない、と口々にそう言ってはいるが、その顔には笑顔が浮かんでいる。
「狙ったところにはなかなかいきませんが、だからこそ次こそは、とそういう気持ちになるのです。ふふ、とても楽しいですよ。流石代表様」
うん。
結構ハマってくれているようだ。
そしてこっちでも結構無双しているのがハイコボルト。
後ハイエルフ。
両者ともかなり器用な種族なので、すぐにコツをつかみ、今ではもうほぼ百発百中みたいになっている。
この両種族のゲームは、もう一ミスでもした方が負け、みたいなことになっている。
観戦するだけで緊張感凄いなコレ。
でも楽しい。
うーん、そのうち大会でも開こうかな……でもそれならハイコボルト辺りは別階級とかにしとかないとハイコボルトたちの蹂躙で終わるな……。
目の前の光景を見ながら、俺はそんなことを考える。
だけどまあ、大会とかそういうの開くにしても、もっと皆が慣れてからでいいか。
そう結論に至った俺に声がかけられる。
「……主様。良ければ私と共に遊びませんか?」
「あ、ルシュ、ずる……こほんっ! ……代表様。ルシュの言う通り、良ければ私どもと共にやりませんか?」
「きっといい息抜きになると思います」
「いいねーあそぼあそぼー」
と、ルシュ、ハイラ、リネイア、シエルがそう言ってくる。
ふむ。
確かに皆が遊んでいるのを見ているだけでも楽しいが、折角なら一緒にやるのも良いか。
そう考えた俺は、その誘いにありがたく乗ることにする。
皆凄く期待のこもった目で俺を見ていたしな。
そうして俺は皆と和気あいあいとビリヤードとダーツを楽しんだ。
まあ、うん。
結果としては、一位ルシュ、二位ハイラ、三位シエル、四位リネイア、五位俺。
みたいな感じでボロボロだったけど。
皆器用すぎるだろ。
慣れたらもう完全にプロの手並みだったぞ。
ま、まあ……楽しかったから良し、だ。




