209.ビリヤード
バレー、バスケ、卓球で遊んでいるところに、さらにトランプ。
室内で遊ぶ手段を一気に増やしたことで、屋敷の玄関ホールも娯楽室も住民で溢れかえることになってしまった。
雪は降っているが、アラクネたちに作ってもらった防寒着が優秀な事も有り、皆こぞって屋敷に押しかけてきている。
まあ気持ちは分かる。冬って暇だからな。
一応収穫した小麦を挽いたりとか、念のための見張りとか細々した仕事はあるが、それでも大半は趣味に走れる時期だ。レースピアの冬は。
そこに楽しみを増やしたらまあこうなるだろうな……。
俺は住民でごった返し、冬とは思えぬ暖かさを内包している玄関ホールを見下ろしながらそう思う。
別に「お部屋ぽかぽか君」を使っているわけではないんだが。
……ふむ。こんなに楽しんでくれるなら、それぞれの住居にもネットとかトランプテーブルとか設置するか? 今ならまだ外歩けるしな。
俺は顎をさすりながらそんな考えに至る。
「たとえ各々の住居に設置したとしても、屋敷に来る住民が後を絶つことはないかと」
そんな俺にそう声をかけてきたのはルシュ。
バレーやったり人生遊戯やったりポーカーやったりで楽しそうにしていたが、ちょっと抜けてきたらしい。
「ええ、主様のお姿が見えましたので」
そ……そうか。
真っ直ぐ言い切ってきたルシュに俺はちょっと照れる。
……ところで、今後を絶つことはないって……。
「はい。住民たちは球技やトランプで遊ぶために来ているのでは……いえ遊ぶために来てはいるのですが。正確にはそれだけではなく……主様の屋敷だからこそ来ているのです」
俺の屋敷だから?
「その通りです。普段ならば主様は外に出られている事も多く、屋敷に来たとしても会えるとは限りません。しかし今は冬。主様は基本的に屋敷にいらっしゃいます」
えぇとつまり……俺に会いに来ていると?
「会う、というよりも、一目お見掛けしたいと言った方が近いかもしれませんね。なんなら見かけることが出来ずとも、お近くに居られるだけで良いと考えるものも居ます」
なんか大人気アイドルとかに関わる話に思えてきたな……同じ空間に居られるだけで良いって……。
「あいどる……というのは分かりませんが、つまりそう言うことです。よって、たとえ居住区に同じコートやボール、トランプを支給しても住民たちは来ることが出来るうちは屋敷に来るでしょうね」
はー……そうか……。
そこまで思われているという事実になんだか恥ずかしさと嬉しさが止まらない。
ここまで頑張ってきてよかったなあ、とそんな気持ちも湧いてきている。
そんな俺をルシュはにこやかに見守っていて、恥ずかしさがさらに助長される。
俺はそれを誤魔化すようにこほん、と一度咳ばらいを挟むと、思いついたことを口にする。
ルシュが言ったことが本当なら、住民たちは増えこそすれ減ることはないって事だな?
「そうですね」
ふむ……。
それを見て再び俺は眼下の玄関ホールに視線を落とす。
玄関ホールは全域が室内球技用のコートになっており、住民たちで溢れている。
球技に参加している者たちより観戦者の方がはるかに多い。
娯楽室の方にそれなりの数が行っていてこれだ。
ここから減ることはないとなると、一回球技に参加するだけでもかなり時間を喰うだろう。
遊ぶことだけが目的ではないと言ってもそれじゃあな。
観戦ももちろん楽しいが、やっぱり自分でやるのが一番楽しいと思う。どんな娯楽も。
というわけでここはさらに娯楽室を拡張しよう。
俺の屋敷は広いし、使っていない部屋もまだある。
そこを改装してプレイルームにする!
そう決めた俺はさっそうと身を翻して使ってない部屋に早速向かう。
ちなみにルシュも当然のように着いてきていた。
別にルシュも楽しんできてもらっていいんだが。
「主様のお傍に居るのが一番楽しいですから」
そ……そうか。
少し足が早まった。
「それで……この部屋をどうなさるのですか? 言って頂ければいくらでも作り替えますが……」
プレイルームに改装しようと思ってやってきた空き部屋。
場所としては娯楽室の下あたりと言ったところ。
娯楽室にもエンジェルが防音用の結界を張ってくれているため、音が聞こえることはないが、それが無ければ娯楽室の音が……。
……いや聞こえないか。上でやってるの卓上遊戯だし。そんな音出ないな。ぶっちゃけ。
……なら防音結界の意味は……?
変なところに思考が飛んだが、とりあえずプレイルームの改装を進めていく。
プレイルームと聞いて真っ先に思いつくのは……ビリヤード、あとはダーツか?
「びりやーど? だーつ? それは一体どういうものなのでしょうか……?」
ルシュも頭にはてなマークを浮かべそう聞いてくる。
聞くより見た方が速い。
というわけで早速作っていく。
まずはビリヤード。
倉庫から取ってきたそれなりに大きな木塊をビリヤード台に加工していく。
長方形になるようにカットし、表面はなめらかになるように削る。
そして四方と、長辺の真ん中に二つ、合計六つの穴をあけ、その穴から落ちたボールが一カ所に転がって集まるように傾斜を付けつつ台の側面を削る。
六つの穴から回収用のくぼみに向けてボール専用の滑り台を作るような感じだ。
夏にウォータースライダーを作りまくったこともあって、一発で上手く作れた。
「流石です主様」
ルシュもぱちぱちと拍手しながらそう言ってくれる。
嬉しくなって穴の所にドラゴンのような細工を彫り込んでしまった。
そしてテーブルを作ったなら次はボールだ。
俺は同じく木材を削っていき、大きさと重さを揃え、転がしたらしっかり真っ直ぐ転がっていくボールを九つ作る。
しれっといったがかなりの難事だ。
創造神器が無ければ。
だが流石は創造神器。
これくらいの大きさのボールを同じ重さで作りたいな……と思うだけで俺の目の前には全く同じボールが十個並んだし、全て偏ることも無く真っ直ぐ転がった。
素晴らしい。
俺は創造神器に感謝を捧げる。
出来上がったそのボールにはそれぞれ一から九の番号を振り、残った一つは真っ白に染め上げておく。
ここまで作ったらあとはキューだけだな。
木材を、指ほどの太さの百五十センチメートル程度の棒状に削る。
後はその棒の先端に革を張りつけたら完成だ。
「ふむ……これをどうするのですか……?」
完成した台、球、棒を見てもなお分からないらしいルシュがそう言ってくる。
……いやまあ分からないか。
俺も初見だとどうするのか分からなかった記憶がある。
ビリヤードはこう遊ぶんだ。
俺はルシュにビリヤードの遊び方を教える。
もちろん実演しながら。
「ふむ……この棒で球を突き、互いに落としていく遊びなのですね……」
そう。
実際にやって見せながら教えたからか、ルシュはすぐに遊び方を飲み込んだ。
というか街の住民は呑み込み速いな基本。今思えば。
さて。
遊び方が分かったのなら実際にやってみよう。
「よろしいのですか? お相手を務めても」
もちろん。
もちろん一人でもできるがビリヤードは対戦ゲームだからな。
一緒にやろう。
俺はそうやってのほほんとルシュを誘ったわけだが……。
「……なるほど。こういう場合はこうすればよいのでしょうか」
普通にボロボロに負けた。
嘘だろ? 今さっきビリヤードを知ったばかりの初心者にぼこぼこにされてるんだが。
もちろん自分でビリヤード上手いなんて言うつもりはないが……一応ちょっとは経験あったんだけど。
そんな俺の目の前でルシュが手球の左下の方を思い切り撞く。
するとボールはカッ! と、一瞬空中に浮いたのち、着台。
そのまま目の前に有ったボールを回り込むように、目的のボールに着弾。
そのボールは大きく弧を描きながら、かなり離れたところにあったポケットに吸い込まれていった。
……。
……何だ今のトリックショット!?
教えてないんだが!




