208.ポーカー
というわけで……紆余曲折? あったもののトランプは無事完成した。
その五十四枚の中の一枚には、押し切られたので俺の姿がありありと描かれている。
しかもとても凛々しく勇ましい。
普通に描こうとしたらもっと豪華に描きましょうと口々に言われたからだ。
抵抗しようと頑張ったが……うん。結局こうなった。
ま、まあ、絵柄はともかくとしてそれ以外に問題は無い。
全て同一の大きさ、厚さに出来ているし、裏面も黒一色で塗りつぶし、表面が裏から分かることはない。
見事な仕上がりだと言って良いだろう。
「さっきは何も分からずに口出してたけどぉ……これ、何に使うの?」
俺の隣でトランプを覗き込みながらニチャが言う。
シロとムイも俺の頭の上に頭を乗せ、興味深げに覗き込んできている。
俺にジョーカーには俺の姿を描いた方が良い、と押し切ってきた者たちは他にもいるが、人生遊戯をいったん中断してきていたようで、遊戯に戻っている。
……そちらの方から「主様が出て来るマスをもっと増やすべきでは?」とか、「それは名案ですね。すべてのマスに代表様を出しましょう」とか聞こえて来るけど、これ以上改造するのはやめて欲しい。
そう言っても結局押し切られそうだけど。
まあいい。
今はこっちだ。
これはカードゲームに使うんだ。
俺はそうニチャに答える。
「カードゲーム?」
そう。
ポーカー、大富豪、ババ抜き、他にも……。
……いや、説明するよりやってみた方が速いな。
ニチャ、相手になってくれるか?
「え? 代表様の頼みならもちろん構わないけど……二人で? 他のマイコニンも呼ぶ?」
まあ二人で出来なくもないし、数が増える分にも構わないが、今はこのままでいい。
人数はいるしな。
「え?」
と、いうわけで。
まずは一番オーソドックスだと個人的に思っているポーカーから始めていく。
ルールは場の五枚と手札二枚で役を作るテキサスホールデムではなく、五枚の手札をチェンジして役を作るファイブカードドロウだ。
俺はこっちの方が馴染みがある。
というわけでそれぞれのプレイヤーに五枚ずつ手札を配る。
プレイヤーは俺、ニチャ、そして……シロとムイ。
カードを配られたニチャが同じくカードを配られているシロとムイを「えぇ……」みたいな目で見ている。
「いひ……いやそりゃ見るよ……。一方は爪が生えてて、もう一方はもはや手すらない……これでどうやって……?」
ニチャが疑問を口にすると。
スッ……サッ!
シロが爪で器用にカードを挟み、俺やニチャがやっているように広げて持つ。
カードには一切傷がつく様子もない。完璧な力加減。
その光景にニチャが口をあんぐり開ける。
そして。
シュルル……サッ!
そのスライムの身体から、五本の指を持った触手を生やしたムイも同じようにカードを広げ持つ。
ニチャの顎が地面に着かんばかりに下がっている。
さすがはムイだ。
……でもその人間の手みたいな触手何? そんなの生やせたの?
「代表様も知らなかったの!?」
ニチャの口があんぐり開いたまま戻らない。
うん……知らなかった……。
……まあでもムイは何が出来てもおかしくないとこあるからな。
「えぇ……?」
ニチャの口は開いたまま、困惑しきりだったがそのままポーカーは始まった。
ファイブカードドローは最初に手札を五枚配られて、そこから一回だけ好きな枚数をチェンジできる。
役は今教えた通り。
より強い役を作った物の勝ちだ。
「なるほど……分かったよ……」
あんぐり開けた口をある程度戻し、自分の手札に視線を注ぐニチャが俺の説明にそう返す。
それを確認してから俺も手札を見る。
来ているカードは……エースが二枚。それと二、四、五のカード。
ふむ……悩むな……。
セオリーで行くならエース二枚残してチェンジだ。
だが……エースの一枚と二、四、五のカードはなんと全部スートが同じ。
手札五枚中四枚にスペード……コボルトの絵柄が描かれている。
これは悩む。
仮にエースを一枚捨ててスペードの三を引ければストレートフラッシュだ。
他の三のカードが引ければストレート。
スペードのカードが引ければフラッシュ。
仮にエースかジョーカーをもう一枚引いてスリーカードになったとしても、それより強い。
二枚引いてフォーカードになったら流石にそっちの方が強いが。
しかも三かスペードかジョーカー、この三つを引く確率は三十四分の十四。
大体四十一パーセント。
悪くはない数字だ。
もちろん他の者がジョーカーや二のトランプを持っていない前提だが。
……うん。
そうだな。ここは一枚交換で行こう。
俺はペアになっていたエースの一枚を捨て、山札からドローする。
引いたカードは……。
ジョーカー。
よしっ!
俺は内心でガッツポーズする。
ポーカーにおけるジョーカーはどんなカードとしても使える最強カード。
もちろんスペードの三としても使えるのでストレートフラッシュが確定。
これは勝ったんじゃないか?
俺はにやけようとする顔を抑えながら他のプレイヤーの様子をうかがう。
みんな真剣な顔で自らの手札に視線を落としているな。ニチャもシロも。
……みんなって言ったけどムイの表情は分からないな、顔無いし。
これポーカーフェイスって意味じゃムイが最強なんじゃないか?
そう思って俺はムイを注視してみるが……普段なら分かる感情の動きが全く分からない。
ガチだ。
……ま、まあ、ポーカーフェイスが強くても役で普通に負けることがあるのがポーカーだしな……。
俺が内心冷や汗を流していると、手札を覗き込んでいたニチャが三枚チェンジする。
三枚か。ということは俺と同じで何かしらのペアがあったのか?
続いてシロが二枚チェンジ。
その爪で器用にカードを挟み、スッと卓上に投げ捨てたかと思うと、爪でテーブルを軽く叩き、山札を軽く浮かび上がらせる。
その瞬間、白閃が煌めく。
シロの爪が、僅かに浮いた山札の上二枚をかすめ取っていったのだ。
当然カードに傷をつけることなく。
「や……持つのはまだしも……いや全然まだしくないんだけど……それは器用ってレベルじゃなくない……? ヒヒ……」
ニチャが口の端をひくつかせながらそう言う。
とても驚いているようだ。
「驚くってレベルじゃないけどねこれはもう……」
まあ、デカい爪が付いている前足でこんな芸当やられたら驚くのも分かる。
普段はこんなこと出来る様子一切出さないからな。
今は俺と一緒に遊びたいからやってるだけで。
「あぁ……代表様が好きなんだね……私たちと同じで」
ああ、俺も好きだ。
「へぇっ!?」
シロも皆もな。
「……あ、ああ。うん。そうだね……あ……ありがとぉ……」
顔色を読ませない為かトランプで顔を隠し始めたニチャから視線を外し、唯一チェンジをしていないムイを見る。
そのムイは今丁度チェンジをしようとしていたところのようで、その人手型触手を操り二枚捨てる。
そしてその触手をみょーんと伸ばして二枚ドロー。
……言っちゃ悪いがちょっとシュールな光景。
さて、これで全員チェンジが終わった。
一応降りることも出来はするが……別に何か賭けてる訳でもないしな。
全員が勝負を選択。
「何か賭ける事もあるのぉ?」
「ああ、それこそお金とかな」
「ふぅん……」
と、いうことで手札オープン。
俺の役はストレートフラッシュ。
「いひっ……これは……負けかぁ……」
ニチャの役は六と八のツーペア。
多分俺の予想通りペア残しでチェンジしてもうワンペア引いたんだな。
「くぅん……」
耳と尻尾を下げているシロの役はジャックのスリーカード。
スリーカード残してあわよくばフルハウスを狙ったが残念ながら引けなかったってところか。
ふっ……よし、これなら俺の勝──
ぷるぷる……。
ムイ。
役。
ファイブカード。
──ち、だと、思ったんだけどなあ……!
ムイがさらした手札はキングが四枚とジョーカー。
まごうこと無き最強役。
いや初回のゲームでコレそろえるってどんだけだよ!
負けた悔しさより衝撃と感心の方が大きい。
ジョーカー二枚ありとはいえ良く揃えたな。
誇らしげにぷるぷる震えているムイを皆で褒めちぎる。
だが次は負けないぞ。
褒め終わって気合を入れた俺たちは勇んで第二ゲームに入るのだった。
その後。
俺たちがやっている事が気になったのか次々に寄ってきた者たちも皆トランプにハマり、娯楽室にポーカーテーブルが乱立することになった。
やはりトランプの魔力は凄いな……。




