207.トランプ
室内球技が広まり、玄関ホールは冬の間限定で球技用コートに改装された。
屋敷のことを仕切っている家事妖精代表のキールが良い顔しないんじゃないかと思ったけど、そんなことはなく全然普通に許可を出していた。
「皆さんの楽しみに水を差すようなことは致しません。よほどの事でなければ。それになにより……バレー、楽しいです」
ロングスカートをなびかせながら高く跳び、ダイナミックにスパイクを決めるキールがそう言う。
どうやらキールもかなりハマったみたいだ。
ま、まあ楽しんでるなら良い事だな。
そんな感じで玄関ホールはパーティーでもないのにワイワイとした活気に包まれている。
エンジェルたちが気を遣って結界を張ってくれているため、屋敷の方までは音は届いてこない。
まあ身体を動かさずに遊びたい者も居るしな。
「いひひ……私の勝ち……」
と、いうわけで、球技よりも卓上遊戯を選んだ者、球技に疲れて休憩しに来ている者なんかは屋敷の娯楽室でさいころゲームに勤しんでいた。
今、体を動かしたくない種族筆頭マイコニン代表、ニチャがやっていたのはあれだな、卓上に再現された人生をさいころで進んでいくヤツ。
一応ゲーム終了時の総資産で順位が決まる仕様にしているが……ゲームを通して貨幣を身近に感じることが出来るかと思って……、しかしまだゴールしたのはニチャだけだ。
まだここから逆転される可能性は十分ある。勝利宣言は早いんじゃないか?
そう思って卓上人生をよく見てみると……。
ニチャ:総資産・百億
……うん。
そりゃ勝利宣言もするな、これは。
他のプレイヤーの資産額は一番多くて一億程度。
最下位に至っては借金が十五億ある。
そこまで借金が増えたのも驚きだが、ニチャの総資産の方がおかしい。
三十億って。
どう稼いだんだ?
「いひひ……この遊戯、結婚や出産したらお金がもらえるでしょ……?」
ん? ああ、そうだな。
本来この世界ではご祝儀にお金を渡す文化などはなく、あっても使い古しの子供用の服や家具などを送る程度のものだったのだが……この人生遊戯版は、貨幣に慣れ親しんでもらうという目的が作った理由の一つとして存在している事もあって、結婚や出産の際にはお金を渡すことになっている。
だけどまあ……渡すって言っても額はダイスで決まるし、最大値出したとしてもせいぜい一億といったところ。
何だ? 百人作ったのか子供を?
「違うよぉ……いひひ……この遊戯、隠し結婚相手が居てぇ……代表様なんだけどぉ……」
……はい?
……ちょっと理解が追い付かなかった。
隠し結婚相手? 何それ? そんなもの盛り込んだ覚えないぞ?
そう思いながらニチャが指さしたマスを見ると……そこにはこう書いてあった。
【ダイスで十の目を連続三回出した場合、レースピア代表と婚姻できる】
本当に書いてある……誰だこんな仕様入れたの……。
「ふへ……それで代表様と結婚したらぁ……ご祝儀が百倍貰えるの……」
百倍!?
なんだそのバランスブレイカー!
「へひ……代表様だから……とにかくそういうわけで私の勝ちは決まったんだよぉ……」
「うぅっ……いいな代表……代表様と結婚出来て……」
「私たちは搾取される定め……そう……採られて食べられるキノコのごとく……」
「私のお金が……お金がぁ……」
……なるほど。
まあ確かにそんな公式チートがあればこんな大差もつくか。
俺は驚きながらもしおれている他のプレイヤーを見る。
その者たちは流石に軽く百倍あるこの差を覆すことは出来ず、宣言通りニチャが勝利となった。
ま、まあ……十の目を三連続だから大体千分の一か?
その確率を乗り越える必要があるんだから、まあ妥当……妥当か?
……いやでもちょっと恥ずかしいから誰が入れたかは知らんがこのマスは消させてもらうか……。
俺がそう考えて、人生遊戯が終わったテーブルに目を向けたところ。
「勝たせて頂きます」
「いえ、負けません」
「千分の一、千回降れば出ますね」
「リネイア? 大丈夫? 頭?」
ルシュ、ハイラ、リネイア、シエル、さらにはその周囲にフィーネやラウーム、街の女性陣が凄い数集まってきていた。
えぇ……? さっきまで玄関ホールで球技やってなかった皆……?
俺はそう疑問に思うも、熱の入った様子の女性陣たちには届かない。
彼女らはそのまま俺が声を挟む暇もなく人生遊戯を始めてしまう。
なんだか圧が強くて容易には声をかけられない。
それはいつの間にか人生遊戯のテーブルから弾かれていたニチャも同じなようで、ついさっきまで勝ち誇っていたその眼を白黒させていた。
「ひひ……びっくりした……」
俺はそんなニチャに声をかける。
あー……まあ、一度遊んだんだし譲ってあげてくれるか……?
「それは……まあ、いいけど……うーんそれじゃあ何をしようかな……」
俺の言葉を受け入れてくれたニチャは譲るのはいいが他に何をしようと考え込んでいる。
一応さいころは沢山作ってあるしさいころゲームは出来るが……いや、そうだな。
せっかくだからもっと卓上遊戯も増やすか。
と、いうわけで。
早速作っていくことにする。
作るのはさいころときたらこれも定番だろう……カードだ。
レースピアの街でエンジェルとデモンズが作っている紙。
実はこれ、今年になっていろいろな種類の紙を作り始めていた。
生産量も大分安定して、実験的に紙を作れるようになったからだな。
その実験紙の一つが、今トランプを作るのに使った硬くてつるっとしている紙。
レースピア周辺、果ての森の木材を魔力とともに多く練り込んで作る物らしい。
この紙の感触を味わった時、俺は直感した。
これを使えばカードが作れるのでは? と。
そういうわけでこの紙を冬が来る前にそれなりに作っておいて貰ったというわけだ。
ということで、まずはこの紙を手のひらサイズの長方形になるようにカットする。
もちろんすべて同じ大きさになるようにだ。
そうやって同じ大きさの紙を五十四枚作る。
そうしたら、次はこれに四種類の記号と、エースからキングまでの数字を割り振っていく。
そう。
もう分かると思うが俺が作ろうとしているのはトランプだ。
やはりカードと言えばこれだろう。
記号と数字は前世のを流用して良いだろう。分かりやすさ重視。
だけどそうだな……絵柄はせっかくだからオリジナルにしたいな、手作りなんだし。
俺はそう考えて、レースピアの住人達を描くことに決める。
ふむ……そうだな……レースピアの住民たちを描くなら、スペード、クラブ、ハート、ダイヤをそれぞれ、コボルト、ウンディーネ、エルフ、ドワーフにして……Aにはそれぞれ代表たちの姿を……キングには副代表の姿を描くか。
そう考えてトランプに絵柄を入れていると横から鳴き声。
「ウォウッ」
……何? 街に来た種族順なのは分かるが、それなら自分たちとムイが真っ先に描かれるべきでは、と?
まあ確かにそうなんだが、ムイは言わずもがなシロたちもまだ十三頭は居ないし……というかいつの間にどこから来た。
横を見るとそこにはムイを頭に乗せ、伏せの姿勢で俺の隣に寝っ転がっているシロ。
一応屋敷はシロでも入れるくらいにデカいが、音もたてずするっと入ってこられるのはシロくらい……いやリルも出来るか……というかシロの子供たちも最近はするする屋敷の中を移動して……まあいい。
とにかくそういうわけだから許せとシロの頭を撫でる。
乗っていたムイも擦り寄ってきたので撫でる。
シロはまあ、来年にはさらに増えてるだろうし、作るとしたらそこかな……。
俺がそう言うとシロはウォウッと力強く鳴いた。
自分たちですべてのトランプを埋めることが出来るくらい繁栄する? いやまあそう気合を入れずとも……でもそうなったらとても心強いな……普通に……。
まあ、ほどほどにな。
そう言って制作に戻る。
とはいってもシロと話しながら数字カードは全部書き終えたので、あとはラスト二枚……ジョーカーカードだ。
ここは当然ムイを描く。
ムイは繁殖とか……多分無いだろうし、ここしか描くチャンスが無い。
というわけで描く。
スライムのムイはシンプルなのですぐに描き終わる。
さて、もう一枚のジョーカーにもムイの絵を……。
そう考え、トランプの最後の一枚を手に取ったところでムイに袖を引かれる。
ん、どうしたムイ?
俺がそう聞くとムイは身体をぷるぷると振るわせて俺に何かを伝えてくる。
もう付き合いも長いのでぷるぷる震えられるだけで大体わかる。
えー……もう一枚のジョーカーの絵柄は俺にしろと?
ムイはぼよんぼよん跳ねる。
そうだそうだと言っているなこれは。しかもかなり強めに。
いやでも流石にトランプに自分を描くのは恥ずかし……。
「私も主様が描かれるべきだと思います」
「同じく」
「ムイ様が描かれるということは特別な位置ということなのでしょう。代表様以外ありえないと思われます」
「しかりしかりー」
「いひ……同じ意見……」
いつの間にか卓上遊戯で遊んでいた者たちがこちらに寄ってきて口々にそう言ってくる。
何でそう息を合わせたように集合できるんだ君たち?
いや、でも流石に俺じゃなくても……。
「「「「「代表様が良いと思います」」」」」
……はい。
俺は押し切られた。




